にほんむかしばなし外伝 ~小説家にな郎~
むかしむかし、あるところに、おじいさんとおばあさんがなかよく暮らしておりました。
おじいさんは山に薪を集めに、おばあさんは川に洗濯に、それ以外の時間は執筆活動を日課としていました。
そう、二人の趣味は小説を書くこと。
出会いは、小説投稿サイトのオフ回でした。
「会うまでは本当の女性とは信じてなかったんじゃが、まさかこんなべっぴんさんが来るとはのう」
「いやですよおじいさん、恥ずかしい」
おばあさんがいつものように川で洗濯をしながら、今後の展開について頭を悩ませていると、川上から、どんぶらこ、どんぶらこと、大きな白桃が流れてきました。
「おやまぁ! なんて大きな白桃だこと! これも環境汚染の影響かねぇ……怖い怖い」
最近、有名な怪獣映画の再放送を見たおばあさんは、すっかり頭がやられてしまっていました。
「おじいさんに見せて、移住も検討しないといけないかもねぇ」
おばあさんはずっしりと重い白桃を川から引き上げると、苦虫を噛み潰したような顔で家へ持ち帰りました。
「大丈夫じゃ、この桃は汚染されとらん。ほれ、数値もゼロじゃろ?」
山から戻ったおじいさんが放射線探知機で白桃を検査して安全を確認すると、狂ったようにこの土地の危険性をまくし立てていたおばあさんも一安心。
先ほどまでは「私が死ねばいいと思ってるんでしょ! 嫌っ! もう嫌っ!」と叫んでいたと思ったら、今度は「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」と泣き出してしまいました。
そう、おばあさんは情緒不安定なのです。
「よしよし、おばあさんは悪くない。おばあさんを不安にさせたこの桃が悪いんじゃ」
さすが長年の付き合いのおじいさん。おばあさんの扱いも慣れたものです。
「じゃが、ドタバタしてたら遅くなってしまったのぅ。晩御飯はどうしたもんかのぅ」
ふたりは大きな白桃を見つめると、これ、食べる? どうする? とアイコンタクト。
「巨大カボチャなんかは大きくするのが目的のせいで、水気もなく味は悪いと聞くが……」
「この白桃はどうなんでしょうかねぇ? 『しろもも』で検索したら何かわかるかもしれませんねぇ」
おばあさんがスマホを取り出して検索しようとしましたが、おじいさんが
「何でも検索して済ますのは良くない。『リアリティのためには知っておかなくてはならないのだよ……味もみておこう』と露伴先生も言っておったじゃろ。『しろもも』の小説を書くときの参考になるかもしれん」
「そうですねぇ。せっかくですし食べてみましょうかねえ。これが食べれない人は『しろもも』を検索してみてもいいかもしれませんけどねぇ」
「そうじゃのう、きっとそれが良いのう」
しろももは小説家になろうで、検索検索ぅ♪
おばあさんは医師から刃物の扱いを禁止されているため、おじいさんが包丁で桃を切ろうとすると
「おぎゃああ! おぎゃああ!」
なんと桃が勝手に割れると、その中から、元気な赤ちゃん(♂)が出てきました。
『切ってみた』動画を投稿しようとカメラを構えていたおばあさんでしたが、まさかリハーサルでこのようなことになるとは思わず、絶好のチャンスを逃してしまいました。
「やり直し! 戻って! もう一回やり直し!」
赤ちゃんを乱暴に桃の中に押し込めようとするおばあさんを必死に止めるおじいさんを見て、何も知らない赤ちゃんは無邪気にキャッキャと笑っていました。
一悶着あったものの、子どものいないおじいさんとおばあさんは大喜び。
それもこれも結婚したばかりの頃、〇クターンノベルにのめり込んだおじいさんが、おばあさんに過激なプレイを強要。
怒ったおばあさんは家を飛び出し、出産適齢期は別居状態のまま過ぎ去ってしまったのでした。
「おじいさんのせいで、赤ちゃんはもう諦めてたんですけどねぇ」
「おばあさんが後ろのほうが好きになってしまったのも原因じゃとおもっぐげぼはあああ!!」
おじいさんの爆弾発言に、おばあさんの鉤突きが腹筋にのめり込みました。
肘打ち、両手突き、手刀、貫手、肘振り上げ、手刀、鉄槌、中段膝蹴り、背側蹴り上げ。
おじいさんの顔に、首に、下腹部に、〇〇に、おばあさんの鬼のような連撃が叩き込まれます。
裏拳、裏打ち、鉄槌、肘打ち、手刀、鈎突き、肘打ち、両手突き、手刀、貫手。
おばあさんの無呼吸打撃は止まることなくおじいさんを捉え続けました。
半分意識を失っているおじいさんですが、倒れそうになると下からすくい上げるように肘や膝が叩き込まれ、倒れることすら許されません。
その光景はまさに地獄……いや、この場合は煉獄でしょうか。
容赦なくおじいさんを痛めつけるおばあさんを見て、何も知らない赤ちゃんは無邪気にキャッキャと笑っていました。
二悶着あったものの、おじいさんとおばあさんは、赤ちゃんの名前を考えました。
これについては二人の意見はぴったり一致。
それは二人の出会いの場所。
それは二人の青春時代そのもの。
それは二人の夢。
「この子の名前は『小説家にな郎』『小説家にな郎』じゃ!」
言うまでもなく、小説家にな郎(以下な郎)は非行に走ってしまいました。
「やっぱ尾崎だよな!」と不良のカリスマに憧れてCDショップにも行きましたが、な郎はひとつも見つけることができませんでした。
(……尾崎隠蔽作戦成功じゃな!)
(バイク盗んだりされたら困りますしねぇ)
ですが次の日、おじいさんが窓ガラスを壊して回って警察に捕まっていました。
久しぶりに聴いても、やっぱり良いものは良いですね。
そんなな郎も元服を迎える頃になるとすっかり落ち着き、義理の両親と、自分のDQNネームと、上手く折り合いを付けて生きる術を身に着けていました。
その頃、鬼ヶ島から鬼が現れ、宝物や食べ物を奪っていくという事件が頻発していました。
他にも、家畜が内臓を抜き取られて死んでいたり、人が誘拐されてチップを埋め込まれるなどの事件も世界中で報告されており、お茶の間を騒がせていました。
「ばぁちゃんから教わった俺の技、自由に使える相手が見つかったみたいだ」
法治国家のこの国では、暗殺拳など無用の長物。
な郎は、今まで持て余していたその力が身体の中で歓喜に震えるのを感じていました。
「良い氣だね。あのハネっかえりが立派になったもんだねぇ。ほら、これを持っておいき」
そう言っておばあさんがな郎に手渡したのは
「これは……団子?」
「そう、氣備団子。読んで字の如く、氣を備えてる団子だよ。
全快とはいかないが、消耗したお前の氣を回復してくれるだろうよ」
「ワシらはもう歳じゃ。昔のようには戦えん。
じゃから、ワシらの氣だけでも持っていって、鬼にぶつけてきてくれ」
な郎は二人に見送られながら、鬼ヶ島へと旅立ったのでした。
「おばあさんから話は聞いてたけど……これは酷いな」
な郎が住んでいた地域から離れるにつれて、空は濁り、空気は淀み、草すら生えない不毛の大地が広がっていました。
この環境で生存出来るのは、な郎のように身体を氣で包んで毒素から身を守れるニンゲンか、汚染の影響で生まれたと言われる鬼か、あるいは……
「わんわん、どこにいくんですか? わんわん!」
「鬼を退治しに、修羅の国へ」
「おともしますから、私の小説にブクマをひとつください、わんわん」
イヌかと思ったら、犬畜生にも劣るブクマ乞食でした。
まだ読んですらいない相手にブクマを求めるとは、小説家としてあるまじき行為です。
な郎は、おばあさんからは『武』を学びましたが、おじいさんからは『文』を学びました。
そう、な郎は『文武両道』の体現者だったのです。
一度はその名前から小説を恨んだ時期もありましたが、今では立派な小説家の卵。
まだ芽は出ていないヒヨッコ作家ですが、それ故に、このイヌの行為がな郎には許せませんでした。
「わんわん、確かに私もそう思います。ですが、どれだけ優れた作品も、誰の目にも止まらなければ評価されません。あと2Pでジャンル別日間ランキングに載りそうなんです。お願いします」
イヌの必死のお願いに、な郎はブクマを付けてあげることにしました。
「わかったよ、ブクマ付けてやるからタイトルを言え。 面白かったら評価もしてやる」
「ありがとうございます! 評価が頂ければ総合日間ランキング入りの希望も見えてきます!」
『わんわんピース ~異世界に転生したら海賊王で、俺は成り上がる~』
作者:織田Aイチロー
あらすじ
神がむかついたのでワンパンしてチートな力を奪ってやった。俺は天性したら海賊王なので、俺は腕を伸ばしたするチートなスキルを使ったりして俺は男はぶったおすと女は俺に惚れるので気付くと俺はハーレムになってて俺は困ってしまうが、しょうがないので女はみんな俺のものにしてやる。伝説の秘宝があるみたいだから全部奪うことにした。異世界の大悲報を巡る海洋冒険ロマン!!
主人公はログアウト不可能のゲームの生き残りだから最強で。※途中まで言ってなかったけど敵の能力全部奪う能力も神から奪ってたから使えてもおかしくない。
「……」
「どうですか!? 面白いでしょう! ブクマください。評価十点ください! わん!」
「…………」
「なんかパクリだとかヘタクソとか言いがかりつけてくるむかつくヤツいるけど、自分が面白い小説書けないからって嫉妬してるんだぜアイツら。わん」
「………………」
「他に似てるのがあるとしたらソイツがパクったってことだし、俺は何も悪くねぇし。チッ」
~しばらくおまちください~
「ウキキッ! どこにいくんですか? ウキキッ!」
「……鬼を退治しに、修羅の国へ」
「おともしますから、私の小説に」とサルはそこまで言ったところで、な郎が手に持つソレに気付きました。気付いてしまいました。
人体錬成に失敗した肉の塊のようなソレを見たサルは、本能が必死で『逃げないと死ぬぞ!』と叫んでいましたが『動いたら死ぬぞ!』とも叫んでおり、もうどうしていいかわからなくなりました。
「ん? どうした? おともしてくれるのか? 何が欲しいんだ? 言ってみろ」
な郎はそう言いながら指の骨をパキパキ鳴らします。サルには、それが自分の骨が砕かれる音に聞こえて仕方ありません。
サルは必死で考えますが、何を言っても肉塊がもう一つ生まれる未来しか想像できませんでした。
アトラクタフィールドの収束によって、結末は変えられないのです。
この世界線では自分を救えない。そう気付いたサルは
「おともさせていただきますが、何か必要な物はございますでしょうか?」
過去を改変することにより、ついに生存の可能性を掴みとったのでした。
な郎が、サルと『かつてイヌだったもの』に牽かせた台車の上でゲームをしていると、どこからか「ケーン! ケーン!」と鳴き声が聞こえてきました。
「……リンが、呼んでいる」
「な郎さん違います、キジです。おともさせてください。ケーン!」
そう、キジはケーンと鳴くのです。
決して『胸に七つの傷を持つ男』に助けを求めてるわけではありません。
「別についてくるのは構わんが……何故だ? 何故自ら危険に飛び込むような真似をする?」
「面白そうだから、ですかね。キジだけに、良い『記事』が書けるかな、なんて。ケーン!」
「バット……男の顔になったな」
「な郎さん違います。キジです。何度言ったらわかるんですか。ケーン!」
キジはそう言ってな郎の顔を見て、その表情に驚いてしまいました。
そう、な郎は本当にパニックに陥っていたのです。
キジから二度も間違いを指摘され、もう何を言っても怒られると思ってしまった子どものように、黙ってうつむいてしまいました。
な郎は一人っ子ですし甘やかされて育ったため、こう見えて意外と打たれ弱かったのです。
そのあまりに痛々しい姿にキジは覚悟を決めると「ケン!会いたかった! ケーン!」と歩み寄ったのです。
キジは、キジであることを捨て、な郎が望む人物になると心に決めたのです。
まさにおとものなかのおとも。
その慈母の心はまさしく、南斗六星最後の将のものでした。
「ぢがう! ゆりあは鳥ぢゃない!」
キジは、泣きぐずったな郎に叩き落されてしまいました。
リンもバットも、鳥じゃないと思いますけどね。
そしてついに、な郎たちは鬼ヶ島にたどり着きました。
たくさんの出会いと別れを経験し、な郎たちは立派な戦士へと成長を遂げていました。
ですが、そんなな郎たちの力を持ってしても
「……くっ! 強いっ!?」
な郎は相手の攻撃を必死で防ぎますが、流れるような波状攻撃の前に為す術がありません。
赤鬼、青鬼、黒鬼だけでなく、まさか山吹鬼までいるとは。
「無理だ! 勝てっこねぇよ! クソッ! こんなところで死んでたまグチャ!」
その伝説の金棒で、せっかく元に戻っていたイヌが再び肉塊に戻されてしまいました。
その一撃はまさにゴーケツ界のレジェンド。完全無敵の大集結です。
そしてサルが捕まり
「ウキキッ! 逃げてくださいな郎さん。 逃げて私のHDDを処分してくださギャアアア!」
キジも捕まり
「な郎さん、身代金を払ってください! 見捨てるつもりですか!? この人でなゴフッ」
な郎は、あっという間にひとりになってしまいました。
おともにはもともと期待はしていませんでしたので、それほどショックはありません。
身体の氣はほとんど無くなってしまいましたが、おばあさんからもらった氣備団子はとっくの昔に賞味期限が切れて捨ててしまいました。
地下ダンジョンで手に入れたソーマやエリクサーがあるため何とかまだ凌げてはいますが、状況を打開する手段がなければじり貧です。
「……これだ、これが俺が求めていた戦場だ」
な郎は笑っていました。
この絶望的な状況下で、笑っていたのです。
な郎はいつだって孤独でした。
人の形はしていますが、自分は桃から生まれたという事実が他人を遠ざけてしまいます。
「ボクはみんなとは違うんだ」
一緒に遊べば、全てが壊れてしまいました。
友達の大事にしていたオモチャが。
友達の大事なペットが。
大事な友達が。
「でもコイツらは違う」
な郎の本気の一撃を涼しい顔をして受け止め、強烈な一撃を返してきます。
「もっとだ」
躱せたはずの一撃も、な郎は気合いを入れて受け止めると、血反吐を吐きながら反撃します。
「もっとボクと遊んでよ!」
キツイのを食らう。痛い。でも楽しい。 今のは効いた? 嬉しい! すぐに仕返しが。苦しい。吐きそう。つらい。でも楽しい! 思わず笑ってしまう。
十回に一回躱せた。今度は十回に二回。やった、今度は四回だ! 楽しい! 楽しい!!
躱す。躱す。躱す。躱す。躱す。躱す。躱す。躱す。躱す。躱す。躱す。躱す。躱す。躱す。躱す。躱す。躱す。躱す。躱す。躱す。躱す。躱す。躱す。躱す。躱す。躱す。躱す。躱す。躱す。躱す。躱す。躱す。躱す。躱す。躱す。躱す。躱す。躱す。躱す。躱す。躱す。躱す。躱す。躱す。躱す。躱す。躱す。躱す。躱す。躱す。躱す。躱す。躱す。躱す。躱す。躱す。躱す。躱す。躱す。躱す。躱す。躱す。躱す。躱す。躱す。躱す。躱す。躱す。躱す。躱す。躱す。躱す。躱す。躱す。躱す。躱す。躱す。躱す。躱す。躱す。躱す。躱す。躱す。躱す。躱す。躱す。躱す。躱す。躱す。躱す。掴む。折る。折る。折る。
初めて鬼の悲鳴を聞いた。気持ちいい。
鬼の目にも涙、の本物を見た。得した気分だった。
鬼たちの猛攻が止まり、悲鳴を上げる鬼たちがタンカで連れていかれると、静寂が訪れました。
もう目の前の男は自分たちの手におえる相手ではない。
狩る側と狩られる側の立場が入れ替わったのだと、鬼たちは感じていました。
「エフッ! エフッ!」
その静寂を破ったのは、一匹の鬼。
ライオンの鬣のような髪をオールバックにしたその鬼は、その場にいるだけで周囲の空間が歪んで見えるほどの存在感を放っていました。
「エフッ! ……アハッ! アハハハハハハハハハハハハハハハッ!」
その鬼が現れると他の鬼は一斉にな郎から離れ、な郎と鬼を囲むように並びます。
「よくぞそこまで鍛え上げた。……息子よ」
ここにきて、衝撃の事実が発覚です。
パロディ元ですら謎のままだったな郎の出生の秘密が、ついに明らかになったのです。
退治しにきた鬼こそが自分の親だった。なんとドラマチックな展開。
やはりラストバトルはこうでなくちゃいけませんね。
「なんとなく、そんな気がしてた」
な郎は、まるで散歩にいくような軽い足取りで鬼のもとへ向かいます。
「父さん、って呼んでいいのかな?」
「好きにしな」
二人の距離は縮まり、お互いの制空圏は触れ合い、周囲の空間の歪みは最高潮に達しています。
「じゃあ父さん、始めようか」
「……喰らうぜ」
二人の背中の打撃用筋肉が、まるで鬼の貌のように浮かび上がると
――史上最強の親子喧嘩が始まりました。
その闘いは三日三晩続き……
世界に三日ぶりの静寂が訪れると、大地に倒れる二人の漢。
闘いの衝撃は、汚染された空気や雲をも吹き飛ばし、数年ぶりに大地へと光が射し込み
そして、一人の漢が、澄んだ青空へと拳を突き上げました。
「よし、小説家になろう」
~完~
【教訓】
子どもの名前は、その子の一生を左右するので考えて付けましょう。