エスコート
教室で、後ろの席に座る友人と話をしている。
その場限りで盛り上がることのできる中身の無い適当な話だ。
教室のドアが開かれ、室内へ呼びかけるような声がした。
どこか異国の言葉だったため、意味は理解することのできなかった。
言葉の感じからして、たぶんだがポルトガル語だ。
そちらへ視線を向けるが、言い終えてすぐに扉は閉められていたため誰だったのかは確認できなかった。
ふたたび話の続きをしていると、
「行かなくていいの?」
隣の席から声をかけられた。
席に座った女の子がこちらを見ている。
何のことかわからない、ボクはそんな顔をしていたと思う。
見かねた彼女が続けて口を開く。
「さっきの。言ってたじゃない、『二番中講堂に来い』って」
確認のために、話していた友人を見る。
ボクの視線に気づくと、無言でうなづいた。
ふたたび彼女を見ると飽きれたように鼻で笑われてしまった。
ボクは、ゆっくりと立ち上がりながら考えていた。
『二番中講堂』という場所は、一度もいったことの無い場所だ。校内にあるということ以外なにもわからない。
あきれられついでに聞いてみる。
彼女のほうへ向き直り、やわらかく開いた右手を差し出した。
「エスコートしていただけますか?」
一瞬の驚き。そして、諦め半分、あきれ半分のため息をもらし、彼女は手を重ねてきた。
「よろこんで」
投げやりな語調だが、ボクの手に自分の手を重ねた。
ボクは予想外の返事に対応することができなかった。
かたまったままのボクの手を支えにして立ち上がる。
立ち上がった勢いでそのまま手を離して彼女は歩き出した。
室外へ向けて先に進んでいってしまった。
ボクは、急いで追いつき、追い抜き、先に教室を出た。
途端に、襟首を強くつかまれ教室へ引き戻される。
「武器も持たずに行くつもりなの」
ドアの近くにあった掃除用具の入ったロッカーを彼女が開く。
中からとりだしたのは、
『ひのきのぼう』とかかれた野球のバット。
『毒針』と書かれた千枚通し。
「気を付けてね、武器は装備しないと効果がないわ」
バットのグリップを握り、触感を確認してみる。
ヘッドが平たい木製のバットだ。
「装備できたわね」
「じゃあ、ちょっと、この『プリン』をぶん殴ってみて」
そう言う彼女の指差す先は、全体が明るい茶色で頭頂部だけが黒い髪の――
「早く」
『プリン』はこちらに背を向けて談笑している。
――本気か?
そんな目を向けてみるが、彼女は『はやくやれ』と言わんばかりにアゴで指図する。
ボクは覚悟を決めた。
椅子に座っている『プリン』の頭の位置は高い。
バットを大きく振りかぶり、アッパースイングで打ち抜いた。
ボクンっ、
という生々しい音、そして、固いものに当たったという一瞬の感触だけを残し、『ひのきのぼう』は一気に振りぬけてしまった。
『プリン』は財布だけを残して消えていた。
「モンスターを倒すとお金を落とし、たまにアイテムも落とすわ」
さきほどの『プリン』と談笑していたもう一体を見ながら話す。
もう一体は、格好もメイクも髪型も『プリン』と同じだが、髪の色が暗めの黄色で頭頂部がやはり黒い。
『プリンの色違い』というところだろうか。
先制攻撃を撃たれ『プリンの色違い』は驚き戸惑っている。
そんな『プリンの色違い』の後ろに立った彼女は、黒いつむじに『毒針』を突き立てた。
根元まで『毒針』が突き刺さった瞬間、『プリンの色違い』は音を立てて霧散した。
そして、財布と『薬草』と書かれたほうれん草の缶詰を落とした。
「『薬草』が手に入ったわ、体力が減ったら食べてみましょう」
ボクへ向けて『薬草』を投げ渡した。
「さあ、チュートリアルはここでおしまい。早く中講堂へ行きましょう」




