九話『仕返しはキッチリと』
夜闇に紛れて屋根の上とか走ること数十分。壊さないように気をつけてたら案外時間がかかった。ちなみにどうやってこの重さで壊さないようにしたかは気合だ。足を高速で動かして推進力を一箇所でつけないようにしたのだ。あと出来るだけ屋根の淵とかを使うのを意識したな。真横に蹴ればあまり破損はしないじゃん?
そして俺は音もなく豚の屋敷の庭に着地…………は出来ずにズボッ! と足が拗ね辺りまで埋まってしまった。うぅむ、響くような音じゃないからいいものの、俺ってば明らかにシルエットもでかいし(ほぼリュック)早く動かないと見つかっちまうな。
そんなことを考えている矢先に、
「誰だ?!」
うお! やっべ!
庭を徘徊していた警備員っぽいやつに見つかりそうになる。
やつはライトを片手に近寄ってくる。俺はすぐさま足を引き抜き近くの茂みに隠れる。案外本気で動いたから視認できなかっただろう。つまり、ん? 気のせいか、で終わってくれるはず!
そして予想とは当たるもので、
「ん? 気のせいか」
一言一句同じで俺は戦慄したね。
まあそれはおいといて、俺はガクブルと震えるリラをちょっと気の毒に思いながら庭の短い草を踏みしめて屋敷へと急いだ。
適当な壁を音が出ないように結構本気の手刀で切り裂いて中へ侵入。ちなみに本気を出すと衝撃波っぽいのが出て屋敷が吹き飛ぶからダメだ。
屋敷内のあのエントランス? ロビー? の玄関すぐの場所へ向かう。何をするか? それはお楽しみ。
やがて俺は見たことのある広間へと出た。玄関入り口じゃあ!
俺はリラをこの広い広間の隅っこに丁寧に降ろしその前にリュックを置く。多分これで破片とかからは守られるだろう。ついでに破れるであろう執事服の上は先に脱いでおく。
そして俺は広間中央へ。二階までぶち抜かれている高い天井を見てニヤリと嗤う。
「さてと、俺言ったよな? 騙してくるやつは大っ嫌いだって」
俺は足を肩幅よりも広く開き、膝をたわめて力を溜める。
右拳は脇に左拳は天井へ向けて構える。
俺はグググッと力を溜め…………一気に解放した!
俺の右拳が天井へ向けて放たれる! それと同時に左拳は左脇に!
今度は逆に左拳を突き出し右拳を右脇に!
それを俺の出来る限りの最高速で繰り出す!
スローモーションで見たら大分滑稽に見えるかもしれないが、これが音速を(多分)超えて放たれるとすごいことになる。てかなってる。
一瞬で百発の連打を終えると俺は地面をしっかりと足の指で捕まえて次の災害に耐える。格好はそのまま左拳を突き上げた状態のまま。いやまだ悔いはあります。
そして本当に一瞬後。
天井が吹き飛んだ。
暴風が吹き荒れる。
ロビーは風という暴力に蹂躙されてボロボロになっていく。
しばらく経つと風はやみ、よく夜空が見える景色のいい物件に様代わり! う~ん、俺だったら住みたくないね!
俺は良い感じに壊れてくれたロビーを一望してリラの下へ向かう。
と、そのとき俺の鋭敏な嗅覚がツンッとしたアンモニア臭を拾う。
「あちゃ~……」
うん、言わなくても分かる。リラが世界地図を描いたんだ。
俺は出来るだけリラを見ないように執事服を着てリュックだけ持って離れておく。ちなみにリュックには描かれていない。ぶっちゃけよかったと思った。
しばらくすると屋敷内がドタバタと騒がしくなってきた。間違えた俺が騒がしくしたんだ。
やがてあの豚の大声が聞こえてきた。
「おい! 警備員は何をやっている!」
「お~、豚ちゃんお久~」
しかも二階の手すりから身を乗り出すように階下を見ていたので手を振ってあげた。すると豚は分かりやすいほどに驚き、次に憤怒に顔を真っ赤に染める。
「き、貴様! 馬車だけじゃ飽きたらずわしの家までも――――」
「あのさぁ? 俺のこと騙したよね?」
俺は豚の言葉を遮って喋る。
その言葉に豚は一瞬面食らったが、すぐに反論する。
「ふん! 騙される方が悪い!」
「ああ、そうだ。騙し騙され、それが普通。じゃあさ、強いものが弱いものを嬲るのも、普通じゃね?」
暴論。
俺は自分の強さを盾に暴論を押し通す。
豚はなんことか理解できずにボケっとしている。
俺は更に畳み掛ける。
「俺ってさぁ、この通り馬鹿じゃんね? だからさぁ、騙してくるやつには力で反発するしかないわけよ」
豚はかろうじて声を出す。
「…………き、貴様! 国に、そう国に言うぞ! 私は大商会の長だ! 国も私を見捨てるはずがない!」
「え? それってつまりその国を潰していいってこと?」
国だ、なんだと喚く豚に俺はそう嗤って言ってやる。
さすがに国を相手だと梃子摺るかもしれんが、やれないことはない……と思う。全身タイツは相棒で作ったんだ。もちろん回復効果まである。滅茶苦茶硬いし。範囲魔法とかが怖いが、一応強くなった俺は物理的に身体が頑丈になってるからな。顔と頭を庇えばなんとかなる。
流石に調子に乗りすぎかと思っていると、豚が更に声を大にして喚き散らした。
「な、な、な、何を言っている! 国を潰すなど! お前はどこかの組織にでも入っているのか?!」
ほほう、この豚この状況でも俺から情報を引き出そうとしてやがる。伊達に大商会の長やってねぇな。
俺はそれに中指を立ててやることで返事してやる。
「バーカ。こんな状況でも情報を得ようとする心意気には天晴れだが簡単に教えてたまるか」
「くっ……!」
己の思考を読まれたためか豚が唸る。
俺はここまで来て本来の目的を全く果たしてないことに気付き、ため息をつく。
「はぁ、てかさ、俺こんなことしに来たわけじゃないんだわ。お前に話があんだよ」
「な、なんだ?」
「お前さぁ、あの奴隷金貨十枚程度だろ? 本当の価格は」
「ッ?!」
天下の大商人様が動揺を露にする。ちょっとびびらせ過ぎたか?
「あれれ? おかしいな。ミスリルって金貨百枚と同じじゃなかったっけ? …………まあ言いたいことはわかるだろ?」
「わ、分かった! 金は返す! だから助けて――――」
「いーや、金はいいや」
俺のわざとらしいとぼけに豚は金を返すという。
しかし俺はそれを断る。金ならいくらでも作れるしな。有限と言っても実際無限のようなもんだし。国を大人買いとかしなければ。出来るか知らんが。
どういうことか困惑する豚に俺の目的を言ってやる。目的と言ってもしょうもないんだけどね。
「まずひとーつ! 世界地図ちょーだい。この大陸だけでもいいや。とにかく正確な地図をくれ」
「わ、分かった」
「はいふたーつ! お前はこれから俺の下僕ね~」
「なっ!?」
「俺の欲しいと言ったら最優先に用意する。あ、もちろん金はちゃんと払うよ~? しかも色もつけちゃおう! 最優先だもんね~。それくらいはしてやるよ」
「……分かった」
「最後にみ~っつ! …………ってなんもおもいつかんわ。とりあえず三つにしてみたけど……ま、以上の二つをよろしく頼むわ~」
「…………それだけか?」
俺が俺の目的を言ってやると豚は何故か拍子抜けのように表情を崩し、すぐさま引き締めてそう聞いてきた。
俺は手をヒラヒラ振って、そんだけだって~疑り深いな~、と言ってリラの元へと行く。
リラはもうなんか茫然自失と言った風に空を見上げていた。……ちょっと刺激が強すぎたかな?
とりあえずリラを小脇に抱えた俺はチョキを閉じて目の上辺りに当てる。
「アディオス!」
そして俺は、訳がわからなくて混沌とした屋敷を後にした。やっべ本当におもしれぇ。
なんかだんだん評価とかブクマが入ってきてる。
俺、嬉しい