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八話『物理があれば大丈夫』

 日が暮れ、世界が闇に包まれるころ。

 俺たちは結局野宿をすることになった。まあその前に一仕事あるけどね。

 城門から少し離れた場所で俺は火を起こし暖をとる。薪は地面が爆散しない程度の速さで走って森の木を折って持ってきた。

 焚き火を挟んで向かい合う俺と狐の獣人。狐の獣人の金髪が揺れる炎で色を変える。

 まずは俺から口火を切った。


「さてまずは自己紹介といこうか。俺は『死神』だ。今日つけた名前だ。ちなみにFランク冒険者だ」

「? …………私はリラアイアともうしま、す。歳は十七、です。しょ、処女です……」


 俺の自己紹介に狐の獣人、改めリラは首をかしげた。それは冒険者というものを知らないがために首を傾げたのか、あんな化け物な身体能力でどこがFランクだ、という疑問なのか。まあ考えないでおこう。

 そしてリラの自己紹介は簡潔だった。そして消え入るような声で自身が乙女であることを告げた。お、おう。

 しばし嫌な沈黙が訪れる。俺ってば嫌な沈黙と出会う回数が多いな。コミュ症だからか? そうなのか?!

 俺は馬鹿な考えを捨てて次の質問をする。


「それで、リラは何が出来る?」

「リ、ラ?」

「ん? 愛称だが? いやか?」


 俺の質問に聞きなれない言葉を聞いてリラは聞き返してきた。俺はそれになんでもないように愛称だと言い、いやなら止めるというとリラは首をぶんぶん横に振った。肩甲骨辺りまである金髪がバッサバッサ荒ぶる。

 俺はそれに満足げに頷くと質問の答えを促した。


「え~っと、炊事洗濯掃除など家事が一通り出来ます。しかし戦闘は…………」

「ふ~ん、じゃリラはメイドって感じかな? ああ、戦闘とかは気にしなくていいよ。俺こう見えてつえぇんだぜ? 間違ってもお前を肉の盾にしようとかおもわねぇよ」


 そう言って俺はハハハと笑う。しかしリラは何故か顔を青ざめさせていた。

 俺が不思議そうにしているとリラはまたぶんぶんと顔を振りなんでもないアピールをする。ま、いいか。

 あとは…………と思って必要な情報を聞いてなかったと思い出した。


「なあリラ。魔法って使えるか?」


 一応魔法があることは調べ済みだ。

 リラは一瞬『?』を浮かべたがすぐに答えた。


「多少なら使えます。生活魔法だけですが……」

「おお! マジか! ちょっと見せてくれよ!」


 俺は思わず興奮気味に生活魔法とやらを使って見てくれと言うとリラは、は、はい! とビクビクしながら指を出した。

 なにやら集中しているのか目を閉じている。

 そしてリラは息を吸った。


「【点火イグニッション】」


 なんか中二臭い言葉を紡ぐと出した指先にライターほどの火が灯る。


「おぉ!」

 

 俺は感動して驚きと喜色の混ざった声を上げる。

 リラはどこか誇らしげな顔をして火を灯し続ける。

 やがてリラの呼吸が僅かに乱れてきた頃にリラは火を消した。

 俺はすぐさま質問する。


「今のどうやってやったんだ?」

「え? ご主人様は使えないのですか?」


 しかし俺の質問に返って来たのは馬鹿にするような返事。本人はそんなつもりはないのだろうが。

 俺はムッとして、使えなくて悪うござんした~、と言い分かりやすいほどに拗ねる。

 途端にリラはオロオロし始めて立ち上がろうとしては座ってを繰り返す。可愛いな。

 俺は十分に楽しんだ後コロッと表情を変えてもう一度同じ問いを言う。


「んで、俺が使うにはどうしたらいい?」

「え~っとですね、言いにくいことなんですが…………」


 言葉通りいいずらそうに言葉を濁らせる。


「いや、いい。ズバッと言ってくれ」

「……あのぅ、ご主人様は魔法の才能が恐ろしいほど皆無なのです」

「何?!」


 俺に魔法の才能が皆無…………だと?

 俺は何故そうなのか聞いた。

 なんでも魔力というのは普通は身体から滲み出るものなんだとか。そしてそれは自身の魔力の量と質を表しているそうだ。魔力が多ければ滲み出る量も多い。静かな魔力の流れだとコントロールするタイプの魔法が得意、など。

 しかし俺はその滲み出る魔力が全くないとのこと。一応稀にはいるらしい。俺みたいなのが。

 そう言う人はどれだけ努力しても魔法を操ることは出来ない、と。


「…………ということですので、ご主人様は……」

「マジか~、魔法使えないのか~。ま、しょうがないかな」


 俺があまりにもあっさり諦めたことにリラは面食らって固まった。やっぱこういうのって楽しいな。

 そもそも俺は異世界人なんだし魔法なんてわからんし、俺にはそれを補って余りある力があるからな。物理的な。

 少しするとリラも膠着から戻ってきたので俺は次の質問をする。


「この大陸の全容とかわかるか?」

「すいません、分かりません」

「そっか~。しかたねぇな」


 俺は僅かな落胆を見せて空を見上げる。

 空には月の様な星が地上を照らしていた。地球に比べて大分大きいけど。

 俺は視線をリラに戻すと、そろそろ頃合かな、と呟いて喋りだす。


「さて、リラ。今日最後の仕事に行くぞ~」

「え? 今からですか? いくらなんでも夜にそんな無茶は……」

「大丈夫だ。場所は町だから」

「え?」

「それも中央付近」

「え、えぇ?!」


 めっちゃ驚いているリラをおかしく思いながら俺はリュックを背負う。

 リラが慌てて俺に問うてくる。


「ど、どこに行くのですか?!」

「ん? 奴隷商のとこ。今日リラを買った場所」


 リラはその言葉を聞いて絶望に染まった顔をする。あ、そういうことか。

 俺はリラが絶望した理由に思い当たり付け加える。


「あぁ、リラがいらなくなったから返却しに行くなんて事はないから。今日リラを買ったときおかしいと思わなかったか? あんな値段はボッタクリだ。まあ知ってて払ったのだが」

「え、あ、う?」

「さぁて! チンピラのごとく恐喝してきますか! どんな面白い厄介事が来るかな?」

「ひゃあ!」


 あれ? 厄介事は避けてなかったっけ? と自分に疑問を思いながら俺はリラを小脇に抱えて城壁へと走っていった。え? 何するか? もちろんこんな夜に門が開いてる訳がないから不法侵入だよ!

 俺は大きな大きな月を背に夜空へと舞い上がった。












 感想こないかな……(チラッ

 なんでもいいからこないかな……(チラチラッ

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