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六話『一括即払い』

前話で執事服なのに白の手袋の描写を忘れていました。

一応付け足したのでこれからは白の手袋があると思ってください。

「でけぇ……」


 俺は奴隷商が言った店へと赴いていた。

 この建物は大分中央、つまり土地の高い場所に建っていた。

 どこかの屋敷を思わせる堂々っぷりに思わずそんな言葉が出るのも仕方ない。

 これはヒヒイロカネでも降ろしてくるんだったかな? と軽くボケてみるがあまり効果はなかった。ちなみにヒヒイロカネでも持ってきていたら屋敷買えそうだ。

 俺が屋敷の前につくと立派な門があり、傍に控えていた兵士が槍を手に動き出す。


「貴様何者だ」

「あ、俺? ここの豚に用があるんだけど? さっき馬車を壊した『死神』って言えば伝わるんじゃない?」

「ッ! 失礼いたしました! どうぞお通りください!」


 兵士は油断なく槍を構え(俺からしたら隙だらけだけど)俺に問うてきた。

 それに俺はお気楽とも言える声音で言うと兵士たちは慌てて門を開けた。おいおい、どんな紹介を受けたんだ? 俺は。こんなに怖がられるなんてな。

 俺は門を開けてくれた兵士たちに、どうも~、とわらいながら言う。が、兵士たちはヒッ! と怯えた声を出すだけで返事はなかった。

 門の中に入るとやはりその敷地の広さに驚いた。

 門と本館というのか? そこの間は二十mほどあり、恐ろしく綺麗に整備されている。

 左右に目を走らせれば芸術など分からない俺でも、綺麗だな~、と少し感動するくらいには凝ったつくりをしている。自慢じゃないが俺が感動するってすごいことなんだぞ?

 誰に言うでもなくそんなことを考えながら歩いていると、不意に本館の大きな扉が開いた。ちなみに俺はまだ半分ほどしか進んでいない。

 扉を開けたのは俺と同じような執事服に身を包んだ本物の執事だった。すげぇ、セバスチャンだ。


「主様がお待ちです」


 セバスチャンは厳かに、しかしはっきりと俺の元まで届くような声で言うと扉の脇へと控えた。通ってくれということだろう。

 俺はこの鉄火面をつけたようなセバスチャンの表情を崩してみたいと思いちょっと本気を出してみた。

 膝を少し曲げ、足をたわめると一気に開放した!

 景色を置き去りに、俺は屋敷の中へと入った。

 チラッと後ろを見ると俺の蹴った石畳が少し陥没し、そこからここまですごい突風が吹き草木を揺らしていた。肝心のセバスチャンはというと…………なぁんだ、表情変わってねぇや。

 しかし、俺の知覚能力ではかなり心拍数が上がっており、冷や汗も出ていることが分かった。うん、今はそれだけで満足だ。流石は本物の執事だ。

 俺はくるぶしまで埋まりそうな毛の長いふわふわな絨毯を踏みしめながら中へと入る。見渡せば上にはシャンデリアっぽいのが釣り下がっており、さながらここは高級ホテルのロビーって感じだな。二階まで天井ぶち抜けっぽいし。

 と、そのときだった。


「お待ちしておりました! 死神様!」

「お~、さっきぶり~。俺面倒な前置きとか嫌いだからちゃっちゃと奴隷紹介して~」


 入って右手の扉から豚が出てきた。

 それに俺はにこやかな顔で応じると用件だけパパッと話す。

 豚もそれが望ましいのかすぐさま俺を豚が出てきた部屋へと案内する。


「ささ、どうぞそこへお腰になってください」


 そういわれて俺は入って右手のソファへと座った。

 部屋はまあまあ広く、手前側に机を挟んで左右に二人がけくらいのソファがある。奥側には大きな執務机のようなものがあり、かなり立派なつくりをしていると一目で分かる。

 これまたふんわりと低反発でなかなか座り心地のよいソファに感嘆の息を吐きながら相手が喋りだすのを待つ。

 豚は対面のソファに座ると口を開いた。


「では、死神様はどのような奴隷を御所望ですか?」

「獣人で年頃の娘がいいな。具体的には十五から二十」


 俺は豚の質問に、キタァ! と歓喜しながら俺の要望を即答する。一応顔には出してないけどこんな即答だと待ってましたと伝えるようなものか。

 豚は苦笑しながら傍に控えていたセバスチャンにその奴隷を連れてくるように命令する。

 奴隷が来る間俺と豚は会話をすることになる。あぁ、帰りてぇ。


「死神様、今回の資金はどの程度でございましょうか?」

「まあミスリル硬貨一枚だが?」

「ミスリル?!」


 豚の言葉に本当に馬鹿正直に答えると豚は驚きながらも口元をニヤリと動かした。すぐにそれは元に戻るがバレバレだぞ?

 まあ最大限搾り取ろうってのが見え透いてるな。知ってて言ったのだが。

 豚は興奮気味に俺に詰め寄ってくる。うわ、来んなよ、気持ち悪い。


「それは! それはどのようにして得たのですかな?!」

「見ての通り冒険者なんだよ。魔物の素材とか依頼とかで稼いだ」


 見ての通りといいながら自分の服装は完全な執事服なんだけどね。しかも大玉のようなリュックを背負った。ちなみにこの世界の扉はやたらとでかく、この大きさのリュックでもギリギリだが入った。たまに扉を壊しかけたが。

 豚は欲にギラついた目で俺のリュックを見る。流石豚。嗅覚はすごいな。


「では! その背負子の中には何が入っているのでしょうか?!」

「あぁ、これ? …………国の財政が傾くほどの金になる素材」


 俺は豚の欲に濡れた目を真正面から見て、そう言ってやった。ニヤリと悪い顔もおまけで付ける。

 豚はその言葉にゴクリと唾を飲み込む。目は完全に俺のリュックから離れない。

 しかし流石にそのような話を信じてはいないのか、はたまたそんなものを取れる冒険者を敵に回すことがどれだけ危険なのか知っているのか、ふっ、と目を切らした。それくらいの知性は持ってたか。

 と、ちょうどそのとき。


「お連れしました」


 セバスチャンが扉をコンコンとノックしてそう扉の向こうから言った。

 豚は、入って来い! とまだ興奮気味に言うとムフーと鼻息荒く息をついた。

 そして入ってくるのはセバスチャンに様々な獣人。虎、犬、猫、パンダ、馬。

 他にもいろいろいたがとりあえず俺は豚に視線を移す。


「そんじゃ俺はこんな中から一人選ぶわ」

「いやいや、一人と言わずに複数人でもいいんですよ?」


 俺は豚の言葉に内心、うわ~、と幻滅していた。

 あまりにも金をチラつかせたおかげで見境なくなってきている。

 俺はあまり相手にしない方がいいだろうと考え、奴隷の品定めに入る。

 連れてきたのは確かに年齢十五から二十に見える者たちだ。基本的に耳と尻尾がついているだけのあまり人間とは変わらない様に見える。

 俺は時折ピコピコと揺れる耳たちを見ながら右手が疼くのを感じた。いかん! 俺の右手よ静まれ!

 しかし俺の右手は我慢できなかったようだ。右手が全身タイツの中から飛び出し、耳たちへと伸びていく。

 しかし一応礼として言葉を発する。


「奴隷商~、触ってもいいよな?」

「はいもちろんです!」


 俺は返事を聞くと同時に兎耳を持つ獣人の頭を撫でた。

 奴隷と言っても売るためか、かなり清潔にされており触り心地はかなりよかった。

 肝心の耳はと言うと……最高だった。

 さわさわとした触感に指を沈めればプニプニと返る弾力。

 ふわふわプニプニと俺はすぐに獣人の耳に虜になった。


「これは…………いいな」

「そうでしょう! そうでしょう!」


 俺の呟きにすかさず反応する豚。いやお前黙ってて欲しいんだけど。

 俺はその後も全員の耳と頭を撫でて堪能した。

 やがて俺はまたソファに座り、豚と対面していた。


「どいつもいいものだな。管理が良い」

「はい! ありがとうございます! して、どれをお買いに?」


 俺の言葉に礼を言うと豚はとうとう欲にギラつかせた目を見せた。

 俺はすかさず一番良いと思った者を選ぶ。


「あの狐の獣人だ」

「いやぁ! 流石死神様! お目が高い! あれは内でもトップクラスの目玉商品なんですよ!」


 うわ来た。

 そう思いながらも俺は顔に出さず次の言葉を待つ。


「しかしですねぇ、あれは我が紹介でもトップクラスの目玉商品。結構な値段がするんですよ」

「ここにミスリル硬貨があるが?」


 そう言って俺は懐から白銀に輝く硬貨を取り出す。

 豚はもう隠しもせずにそれを欲のギラついた目で見つめ口を開く。


「はい! ちょうどミスリル一枚なのですよ! いやぁ、死神様は運も良い!」

「ほらよ。そんじゃすぐに手続きしてくれ。俺はすぐに帰る」


 豚がミスリル一枚というので俺はすぐに手に持っていたミスリル硬貨を投げ渡す。

 豚は一瞬ポカンとするが、すぐに喜色満面で頷く。

 執事にあれこれと指示を出し、俺はあっという間に狐の獣人の奴隷を持つ主人となった。

 ゴタゴタを全部執事がそつなくこなし、俺はすぐに帰れることになった。

 本館の扉を出ると、俺は俺を見送る言葉を言う豚に振り返る。

 そして顔を凶悪に歪めると、後ろを着いてきていた狐の獣人まで怯えるような顔と声で言った。


「俺ってさあ、騙されるのが嫌いなんだよねぇ。うん、騙されると思わず殺しちゃうくらい。だからさぁ、今夜は気をつけなよ?」

「ッ! お、お気遣いどうもありがとう、ござい、ます」


 俺の狂気に当てられたのか豚は急に脂汗を尋常じゃないほど垂れ流し、そう言った。

 俺はそれに満足すると門を通り、奴隷商を後にした。










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