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四話『金銭感覚の消失』

「ここは餓鬼の来る場所じゃねぇぜ?」

「「「ギャハハハハハ!」」」


 一人の男の言葉に冒険者ギルド内の荒くれ者たちが下品に笑う。

 やっぱあるんだねぇ、こういうの。日本人って童顔っていうしね。俺はそれが更に顕著なだけで。ちなみに【常闇の森】で三年過ごしたとして今の俺の年齢は二十歳だ。

 俺はなんだかテンプレというものに感動して立ち尽くしていると何を勘違いしたか近くにいた男が立ち上がり俺に歩み寄ってきて肩に手を置く。


「ほらほら、ここはお前みたいな餓鬼じゃなくて俺らのような戦士が来る様なところだぜ? ……だから有り金置いて出ていきギャアァァァアア!」

「何気安く触ってんだよ。殺すぞ?」


 俺は気安く触ってきたゴミの手をとりあえず握りつぶした。

 腕の関節を避けて握りつぶしたからちゃんと治せばまだ動けるよ! 俺ってばやっさしい!


「ッ! て、てめぇ!」

「おい! 武器を出せ!」


 な~んて考えていると他の男たちが各々の得物を抜いて立ち上がる。

 なんだよ、仲間が一人やられたからって全員で成敗しますぅってか? ホントゴミだな。

 俺はとりあえず確認を取るために大きな声を出す。


「受付のおにいさ~ん! これって殺しちゃダメですか?」

「殺すのは勘弁してください。しかし冒険者というのは自己責任です。こちらは一切関与しないのでお好きにどうぞ。こちらの願いとしては殺さないで欲しいですが」

「はいは~い」

「おいテメェ! 俺らを無視してんじゃねぇぞ!」


 受付にいたお兄さんに確認を取ってみたがどうやら殺しては欲しくない様子。関与しないとか言ってるけど絶対なにかしてくるだろ。

 ということでひとまずここにいる武器を抜いた男たち十人を無力化しようかね~。

 俺はギシギシと床を鳴らしながら歩き始める。彼我の距離は十mほど。ここってなかなか広いんだよね。外から見ても大分大きかったし。それでもこういうやつらがいるってんだから不思議だねぇ。

 無防備に歩いてくる俺に敵は小馬鹿にしたような笑みを浮かべる。

 多分こう思ってるのだろう。


「おい、こいつ大したことねぇぞ。こいつは――」

「――ただの力が強いだけの餓鬼、かな?」


 そう言った瞬間に俺の姿は連中の視界から掻き消える。

 証拠に敵は誰一人前を向いたまま動かない。

 俺は天井の壁を蹴り砕きながら降下する。

 一応弁償とかあるかもしれないから最小限の被害で抑える。

 敵が俺が急にいなくなりアタフタしている間に後ろのやつから無効化していく。

 その方法は…………全員の脚を蹴り砕く、だ。

 それも超高速移動で瞬時にやる。


「ギャアアアァッァアア!」

「イテェ! イテェよ!」

「クソが! 何が起こった!」


 一呼吸遅れて悲鳴が上がる。

 俺はその様子に満足げに頷くと受付へと進む。

 受付は入り口とは反対側の壁にカウンターがあり、そこに受付がいる。

 そこで俺は先ほど声をかけたお兄さんのところへと行く。


「それじゃ冒険者の登録お願いしま~す」

「あ、あの、あれは……」

「あぁ、あれ? ごめんね、うるさくしちゃって」


 俺が登録の旨を伝えるとお兄さんは頬を引きつらせてゴミを指差す。

 俺はそれになんでもないように答えるととうとう受付のお兄さんは笑顔が固まった。


「それより登録おね~」

「は、はいっ! 登録には銀貨が五枚必要になりっ! こ、これは規則ですから! ダメなものはだめなんです!」

「うん、知ってる。はい、これ」


 なんか目がかゆくなって掻いただけなのに受付のお兄さんは急に怯えて規則だ~って叫びだした。んなもんしってるよ。

 俺がそう言って銀貨を五枚出すと心底ホッとしたように息を吐くお兄さん。どうしたんだよ、もう。

 と、今度は机の下から何か水晶らしきものを取り出した。これはまさか…………


「ではこれに魔力を注いでください。それで本人専用のギルドカードを作りますので」

「は~い……って俺魔力の注ぎ方わかんねぇわ」


 ウォオオ! 出たギルドカード作るときにある魔力を注ぐやつ!

 だが、すぐに俺は魔力がなんなのか知らないことに気付いた。

 するとお兄さんはそういうこともあるのか冷静に次の言葉を発する。


「ならば水晶に血を垂らしてください。ナイフがここにあります」

「え? マジで? めんどくせぇなぁ」


 そういえば静かになったな、と思ったらゴミは片付けられていた。あ、振り返ったりはしてないよ。気配察知でいないことに気付いた。ついでに周りの受付や、冒険者のみなさんも俺に注目しているようだ。おお! これが物語の主人公たちが味わっている感覚か! 優越感というか、たまんねぇ!

 っと、危ない危ない。ちょっとトリップしてた。

 俺はお兄さんに出されたナイフを受け取る前にいそいそと全身タイツもとい全身鎧から右腕だけを出すために動かす。長袖で服を脱ぐために腕を引っこ抜くじゃん。そんな感じ。

 そして腕を首のところから無理矢理出すとナイフを左手で持って右手の人差し指を切る。

 血が滲んできたのでそれをポタッと水晶に落とす。それと同時に俺も腕を中へとしまう。

 なんかお兄さんがポケ~っとしてるが気にしない。むしろ早く仕事してくれ。

 水晶は俺の血を受けると発光していたのだが、それもすぐに収まった。


「お兄さん、なんか終わったみたいだよ。早くしてくんね?」

「へ? は、はいっ! ただいま!」


 そう言って大急ぎでガサゴソとし始めるお兄さん。

 しばらくすると、電車の定期くらいの大きさのカードを渡された。


「はい、これが冒険者のギルドカードです。中にはランクとどこのギルド所属かが表示されます。そして名前も一緒に表示されるはずですが……」

「そうだな~、表示されてないな~。ま、俺って名前がないから仕方なんだけどな」


 あちゃ~、そういう弊害があったか~。

 俺が一人で名前がないことの失敗を嘆いているとお兄さんが、え? と言った風に呆然としている。

 すかさず俺はここで予め決めていた設定を出す。

 するとお兄さんは納得したのかうんうん頷いて、ちょっと気まずそうな顔をした。


「あのぉ、その、すいません」

「あ、別にいいぜ~。そんでさぁ、名前って必要かな?」


 お兄さんの謝罪を適当に流し、そう質問するとお兄さんは、そりゃそうでしょ、と言った顔をした。


「そりゃあもちろんないといろいろ不便だと思いますよ?」

「う~ん、そっか、そんじゃ俺の名前は『死神』で」

「なっ!」


 お~、なんかかっこいいわ。中二臭いけどまあいいでしょ。

 ちなみに『死んで神に生き返らせてくれた』から『死神』だ。なんか意味が変わったけどカッコイイから許す!

 お兄さんは唖然としているけど俺のギルドカードがかき変わったのを見ると本気だと知って口をあんぐりと空けた。ちなみに一瞬見たことない字がギルドカードに浮かび、すぐに日本語に書き変わった。多分その人の知ってる言語に勝手に翻訳するんだな。もしくは俺がその文字を見て無意識に日本語に翻訳しているか。ファンタジーにはつき物だね。

 俺はまだ驚いて戻らないお兄さんに説明を求める。


「お兄さん、ギルドで守らないといけないルールとかある? 簡潔によろ~」

「ふぁ?! は、はい! まずギルドランクはFから始まり実力が認められれば上のランクに上がれます。認められるにはランクアップに必要な純粋な戦力、そして生き残れるサバイバル力が必要となります。それはギルドの指定した依頼を受けてもらえればその実力があるとしてランクアップできます!」

「ちょっとお兄さんテンパってない? 支離滅裂だぜ? つまりランクはFから。上がるには戦力とサバイバル力が必要。それを認めてもらうにはギルドの指定した依頼を受けて達成すること。これだけじゃん」

「ははははい! その通りです! 次にルールとしては自分より二つ以上上のランクは受けれません。FならEは受けれてもDは受けれません。逆に二つ以上下のランクも受けれません。CならBとDは受けれてもそれ以外は受けれないといった風です!」

「ふんふん、依頼は上下二つのランクまでね」

「次は依頼で狩った魔物の素材はギルドで売ることです。勝手に商人などに売ると罰せられますので注意してください!」

「さて、それくらいかな。それじゃ狩って来たものがあるから買ってちょ~だい」

「は、はひぃ!」


 もう怒涛の展開過ぎてお兄さんがショート寸前だ。やべぇ、この人おもしれぇ。

 そして俺は背中に背負っているリュックサックを降ろし、中から一本の真っ黒な牙を出す。腕の関節から先くらいの長さと太さがある。そういえばどうにも注目されてんな、と思ったらこのリュックか。確かにでかいからな。運動会の大玉転がしの大玉くらいはあるからな。

 今更そんなことに気がついているとお兄さんが驚愕してもう失神しそうになってた。もう一年分は驚いたんじゃない?


「こ、これはわわわわわ!」

「ん? これなんかすごいやつなの?」


 自分で言っといてこれはないわ、と思う。

 これは【常闇の森】のあの黒い虎の牙だ。隊長の話によれば【常闇の森】は最高級の冒険者でも生還率十%を切るらしいしな。それをポンッと出されたら驚くわな。

 そしてお兄さんはとうとう耐えれずに白目を剥いて倒れてしまった。おっと危ない。牙が落ちて傷でもついたら価値が下がるだろ? まあその程度じゃ傷つかないくらいは頑丈だけど。

 すると右奥にある階段から大分歳のいった爺さんがやってきた。おぉ! ギルド長イベントきたか?!


「ほっほっほ、これまた随分に暴れたようじゃのう、小僧」

「ギルド長?!」

「うわぁ、マジできちゃったよこれ」


 予感は当たるというか、周りの受付の反応で分かっちゃった。

 ギルド長は俺の持つ牙に目をやるとスッと目を細めた。ほぉ、やっぱただの爺さんにはギルド長は務まらないってか。

 ギルド長はすぐに目を朗らかなものに戻すと質問を飛ばしてきた。


「それはお前さんがとってきたのかい?」

「おう! 真っ黒な虎をボコボコにしてやったぜ!」


 それに対して俺は清清しいほどの笑顔でキッパリ言ってやった。大抵の主人公はここで、拾った、や、もらった、などと苦しい言い訳をするのだろうが俺は違う。もう既に俺はこの世で最強かもしれない、いや多分最強の力を手に入れているのだ。最低でも目立って誰かちょっかいかけてきても跳ね返せるほどの力は持っている。

 だから俺はわざわざ隠す必要はないと判断したのだ。

 するとギルド長は苦笑して老いて枯れた声を発した。


「ほっほっほ、そうかいそうかい、あの【常闇の森】にいる『ブラックタイガー』をボコボコに、のぅ。しかもこれはかなり強く、でかい……どれだけ奥に……」

「んで、どれくらいで買ってくれんの? 最低でもヒヒイロカネ硬貨くらいはくれるだろ?」

「ヒヒイロカネどころかオリハルコンをやるわい。じゃが、そうなると金が足りん。ここも世界で四番目くらいにはでかいギルドなんじゃがのぅ」


 おいおいマジか。

 いやでもオリハルコンは金貨の百倍の二十倍の二十倍…………金貨一枚で一月だから…………うげぇ! 四万ヶ月?! つまり…………約六千年…………え? この牙にこんな価値があんの? 俺まだこれ十本は持ってるよ? てかこれなんかより価値ありそうなの全然あるよ? そんだけあったら俺世界買えるんじゃね?

 なんか俺の半端なさに戦慄しているとギルド長が気軽に俺に問うてくる。


「して、何をそんなに焦ってるのかね?」

「いやぁ、それよりも価値あるもの持ってるとか言えないな~っと…………あ」

「なんじゃと!」


 ギルド長の問いに思わず答えてしまうとギルド長がもう死ぬんじゃねえか? ってくらい驚いた。本当にショック死しないか心配になってきた。これは俺が【常闇の森】で生活してたとか言ったら死ぬな。うん、黙っとこう。反応が面白いからって思わずを装って零すのはもうやめよう。

 そんな決意をしているとギルド長はなんとか平静を取り戻したようだ。


「そ、それは本当かのぅ?」

「まっさか~。俺でもあれより強いやつとやりたいとは思いませんよ~。ま、一応牙はもう一本ありますが…………財政が傾きません?」


 俺の問いにギルド長は、ふむ……となにやら考え込む。

 ここで俺の問いに、そうだ、と答えてしまうと、じゃあ他のところで売っていいですよね? と言われてしまうからだろう。規則でもギルドが買わないと言った物位は他で売っても問題はない。

 やがてギルド長は重々しく口を開いた。


「……分かった。ギルドで買おう。ブラックタイガーの牙は相応の鍛冶師に頼めば伝説級の武具が作れるしのぅ。ギルドの戦力拡大には必要と割り切るしかないわい」

「え? マジで? 買っちゃうの? 俺としてもそんな金持ち歩いてられないんだけど」

「大丈夫じゃわい。必要な分だけ持ち歩いて普段はギルドに預けなさい。小僧のことはしっかりと全てのギルドに伝達しておいくわい」

「しっかりと、ねぇ……」


 やべぇ! 厄介事の臭いしかしねぇ!

 思わず本音を言ってしまった俺はまさかのその切り替えしでたじろいだ。

 いや、普通に何も言わなくてもそんな感じになると思ってましたけどね? でもこう、正面きって言われると…………

 腹の探りあいとか性に合わない俺は先に釘をさしておくことにする。


「あ、そうそう。俺ってば降りかかる火の粉は徹底的に振り払う主義なんっすよ。……火種も含めて、ね」

「そうかそうか、怖いやつじゃのぅ」


 ハハハ。

 ほっほっほ。

 二人して笑っているのに笑っていない。

 俺が作った空気なんだけど嫌だなぁ。

 ということで、っと。


「んじゃ、俺行くね~」

「む? どこにじゃ?」

「決めてな~い。適当にぶらぶらして適当な宿で…………あ!」


 そのまま背を向けて帰ろうとした俺だが、一つ懸念事項を思い出してギルド長のところへ戻る。


「俺無一文なんだよ。売った金の一部、今頂戴!」

「ほっほっほ、一部ならいいじゃろ。していくらほどかな? ミスリルか? ヒヒイロカネか?」


 俺が馬鹿正直に悩みを打ち明けたというのにこの爺さんは……

 俺は普通に、金貨数十枚でいいから! と言って笑った。

 何故か爺さんの笑みは引きつっていた。








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