二十九話『戦闘開始』
「はぁ……あのなぁ――」
俺はもうこいつの妄言に付き合ってられないとばかりにやれやれと首を振り、語りだす。
『間違い』を正して『あげないと』、だぁ? 何上から目線で物事語ってんだよ。そもそもこの世界が間違ってるって誰が言ったんだよ。神か? この世界の人か? 結局それはお前の価値観の押し売りなんだよ。頭お花畑か?
このようなことを大分相手が頭に来るように喋ると、
「うるさいっ! そんなことを僕は言っているんじゃない! もういい! ここで僕たちはお前を倒す!」
そうやって頭を振り、ギラついた目で俺を見てどこから取り出したのかその手に持った刀で斬りかかってきた。アイテムボックスまで持ってるのかよ、卑怯じゃね?
俺は話の最中にさりげなく袋に入れておいたリラに、ちょっと激しく動くぞ~、と間延びした声で忠告しながらその攻撃を回避する。ついでに背負っていた大玉リュックも適当に投げておく。斬られたくないから斬撃の直線上には置かないけど。
横に逸れて回避した斬撃はその直線上の地面を切り裂きながら進んでいく。飛ぶ斬撃とかお前……人のこと言えないな。
俺はすぐさま刀を振り下ろして無防備になった優斗に攻撃しようと拳を振りかぶり――――俺の第六感に従い後ろへ跳ねた。
俺の脅威の動体視力は元俺がいた場所を空気の塊が超高速で通り過ぎるのを目視する。
と、後ろへ跳んでまだ空中にいる中、またも俺の第六感は何かしらの危機を訴える。
俺は右側の空気を殴り、方向をやや斜めにずらす。
景色が前方へ流れていく中、右側に刀を振り下ろす和服美人がいた。
ここまで優斗、多分理沙、和服美人と連携してきた。となると残りの一人も――――
そこまで考えて俺は上空へ向けてアッパーをかました。
凄まじい轟音と共に俺の体は地面へと叩きつけられる。しかしこれは俺が力で押し負けた結果ではない。力が拮抗したために両方に同じだけの力で反発された故だ。その理論どおり上空では派手に打ち上げられた活発系女子がおそらく理沙に魔法で運ばれていた。
俺はクレーターの中心からのっそりと起き上がり、クレーターの外で俺を見下ろす四人を見上げた。
「おうおう、急にやってくれるねぇ。しかも四人全員で」
「黙れ。これで僕らの実力が分かっただろ。確か僕ら一人一人だとお前には勝てない。しかし四人で力を合わせれば今のように――――」
「今のように圧倒できます、てか? あららぁ、彼我の実力も分からないんじゃ魔王討伐とか夢のまた夢なんじゃない?」
俺が優斗の言葉に被せるようにそう言えば、優斗とその側近二人が眉をピクリと動かす。可愛らしく言えばカチンと来たんだろう。しかしその中で一歩後ろにいる魔法使い少女だけが困惑気味に眉尻を下げている。本当にこれでいいのか迷っている感じだな。てかいけないって分かってるだろ。まあ、実際は何かを言おうとしていたのだが、側近二人に邪魔をされていたため何も出来なかったんだがな。
俺は首をコキリと鳴らしながら立ち上がる。地面に衝突した衝撃がリラにいっていないか心配しながら。
と、そこで俺はあいつらが俺を見下ろしていることに気づいた。いや、ぶっちゃけ気付いてはいたが、認識しようとしていなかった。だって今の俺の出せるスピードだとあいつらの目を超えれないし。
俺はあくまでこれは演出だ、とわけのわからないことを言い訳にしながら口を開く。
「まあそれはともかく、これで俺の最大の目的は達成できそうだ」
「最大の目的、だと?」
俺の言葉に反応した優斗は気になった部分を復唱する。
俺は仰々しく両腕を広げながら語る。
「そうだ、俺の最大の目的。それはお前らと戦うことだよ」
「…………何故だ。まさかお前は魔王の……」
「あ~、ちげぇちげぇ。そんなんじゃねぇよ。なんなら魔王くらいサクッと殺してこようか?」
俺が、ついでにジュースを買ってこようか? とでも言うように軽く言うと優斗はしばし瞑目し、その目に明らかな敵意を見せて俺を睨む。今まではどちらかというと正義感みたいなのが瞳に宿っていたのだが……なんかスイッチ押しちゃった感じかな? ま、都合いいからいいけど。
優斗はその瞳のまま俺に最後の問いとばかりに口を開く。
「……一応聞こうか。理由は?」
「スリル」
「…………」
「あれ? 聞き間違えた? スリムじゃなくてスリルだよ?」
「………………」
「ちぇ、つまんね。まああれだ。俺って今すごい強い感じじゃん? だから最近スリルが足りなかったんだよ。まあ一言で言えばバトルジャンキー? ってやつだよ」
「……もういい」
俺の渾身のギャグも駄々滑りして投げやりに説明してやると優斗はそう言って俺に掌を向けた。
「お? 戦闘開始か? その動作ってことは多分魔法か? どんな魔法が――――」
「黙れ。消えうせろ。【氷河断絶】」
俺がおちょくっているとぶつぶつと多分詠唱をしていた優斗は罵倒を放った後、技名を俺に聞こえるように言った。
直後、俺の背筋に薄ら寒いものが這い回った。これは分かる。あの【常闇の森】でも味わった感覚。これを受けたら致命的だと本能的に察知している感覚。
俺はすぐさま今の俺が出せる最高速でその場を離脱する。次の瞬間、俺のいた場所が凍る。何もかもが、それこそ空気でさえも凍る。
過程を吹き飛ばして【凍る】という現象を実現させる魔法、かな? もしくは超高速で空気を冷やしたか。でもそれだと俺の動体視力でさえ追えない速度ということだから前者の認識でいいな。
優斗たち四人は俺がこれを避けるのは想定していたのかそれぞれ見事な連携で俺を攻め立てる。
俺が逃げればその進行上に和服美人がおり、それを避ければ活発形女子が上下左右前後どこからでも跳んで来る。それを避けたり打ち返しても次の瞬間には優斗や和服美人が刀で追い立てる。
そして俺がそれらの隙を突こうとするといつも決まって理沙の魔法が妨害してくる。しかし当の理沙は未だにこれが正しいのか困惑しているようだった。
なんにしても見事な連携だ。流石に手数が多いし、ハンデを負っている俺では厳しい戦いになっている。そのハンデはというと俺の首下の袋の中で、きゃは~グルグル~、などとはしゃいでいるが。
俺は所々攻撃を当て始めてきた相手に僅かばかりの危機感を覚え、場所を移動することにした。平地では俺の戦闘スタイルを行うにはハンデが重い。
俺は少しばかり傷を負う覚悟で近くにある森へと強行突破した。
「チッ! お前逃げる気か!」
「そうだと思うなら速くしとめないとね~」
腕が半ばまで斬られたのを俺は無視して後ろの優斗たちを煽る。流石にハンデを負っていてもただのスピードでは負けない。多分魔法で体重を重くさせられているけど手加減している俺からしたらもう少し力を出せばいいだけなので問題ない。
俺は森へ向かいながら俺の戦闘スタイルを思い出していた。最近は軽いものばかりで本来のスタイルで戦うまでもなかったからな。
俺は元々武術なんて欠片も心得がなかった。学校の剣道とかやるきなかったし。
故に俺は【常闇の森】で困っていた。俺も何か武器を持って戦った方がいいのか。しかし俺には武器の心得など皆無だし、教えてくれる人材もいない。俺の乏しい知識を総動員して考えた末、結論が出た。
あの森を利用した野性らしい戦い方を学んだらいいのではないか、と。
よく小説で獣のような戦い方をする主人公がいたのを思い出したのだ。
それからというもの、俺はただ単に力に任せて戦うのではなく、どうすれば効率的に動かせるようになるのか、どう動けば相手を撹乱できるのか、どう動いて相手は俺をしとめようとしているのか。
そして俺は身に着けた。周囲の木々を使って立体的な動きをしてその力を使った超高速立体攻撃を。いや、名前は今考えた。ぶっちゃけださい。
「っと、もう森か」
そんなことを考えていたら森についた。しかし俺はまだ走る。ここの森は多分脆い。俺が踏み台にしただけで爆散するかもしれん。だからどれだけ削ってもいいように奥まで行くのだ。
そろそろか、と立ち止まるとそれに続いて息を切らした優斗と活発系女子が立ち止まった。残りの二人はスタミナがないのか俺の気配察知ではかなり後方にいる。魔法使いなんて俺の察知できる範囲ギリギリだ。距離にすると一kmくらい。
俺は振り返り息を切らしながら構えを取る二人に向かって嗤いかけた。
「さぁ、第二ラウンドといこうか」




