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三話『ヘンテコな服装』

 俺の全力で走ること数日。大抵の敵は俺が一睨みすると怯えて動かなくなるので大分楽だった。

 しかし、森の色が鮮やかになってきて、日が差すようになってくると睨んだくらいではひるまない敵が出てくるようになった。

 そこはまだ踏み入っていない『未踏』の地。俺はどんな強い敵なのかとワクワクしていた。

 しかし期待とは裏腹にどいつもこいつも弱い。弱すぎる。

 最初は遅い動きで油断を誘い、急な加速で仕留めるのかと思いきやそのままの速度で攻撃してきた。俺は更に深読みし、これで攻撃を誘っておいて未知の反撃手段で反撃するのかと警戒しながらも攻撃したらあっさり死んだ。

 俺は釈然としないながらも今の今まで走り続けている。

 その間にも数度そんなことがあったが、やはり弱かったので今では全部無視して走り去っている。


「シャアアァァァ…………」


 今もなんか横から飛び掛ってきたが、遅すぎてすぐに通り過ぎた。俺が数十mは進んだところでその敵は俺がいた場所に攻撃する。なにがしたかったんだ?


 そんなこんなで俺はとうとう森を抜けた。


「おぉ……」


 俺は久々の日の光に感動した。

 森でもだんだん日の光も差してくるようになってきていたが、やはり直で浴びるのは違う。

 視線を上げれば直視できないほどの眩い光。それは俺の光に当たってなかったせいで病的に白くなった肌をこんがりと焼いていく。病的に白いくせにガッシリしているんだからアンバランスだったんだよ。まあガチムチではないが。

 俺は自分の身体がボディビルダーのようにガチムチにならなかったことに安堵を覚えながら周りを見渡す。

 森の外は結構広い荒野で、ほとんど草が生えていない。

 しかしその荒野も先ほど言ったとおり結構広い程度であり、視界の奥のほうには緑豊かな土地が見えた。


「う~ん、どうしようかな~。とりあえず向こうに行くのは決定事項として、歩いていくかな? 流石にあの速さで走ってたら怪しまれそうだし……まあこの世界の人が俺の世界の人と同じ身体能力と仮定した場合だけど」


 そう一人ごちながら俺は緑豊かな大地にポツンと見える建築物らしき場所に向けて歩みを進めた。

 この世界に人がいない可能性など微塵も想定せずに。もしくは想定したくなかったのだろうな。

 俺はクスリと僅かに笑った。己の滑稽さに。




















 現在の俺の服装はあの森で狩った動物たちのを加工したものだ。あまり文化的とは言えず、外見としては日本人が想像するマンモスを狩っている頃の人の服装と似ている。

 そして俺の場合はその下に指の先から足のつま先まで覆う、まるで全身タイツのような防具を身に纏っているのだ。ちなみに関節を覆っても平気な理由はこの素材にある。俺は相棒を削ってそれを加工してこれを作ったのだ。相棒は本当に利便性に富んでいて、硬度は恐ろしく高いのに力を込めれば動かせる。しかも金属疲労とかもないっぽい。まああれだ、金属疲労のない滅茶苦茶硬い金属? だ。ザ・ファンタジー。

 そしてそんな容姿をした人間が怪しくない筈がない。


「止まれ!」


 俺は高さ五mはあろうかという巨大な城壁の前で剣を向けられていた。

 相手は五人で奥から増援が来て、どんどん増え続ける。全員同じような服装をしていることから門兵とかそういうやつだと推測できる。

 そして剣を向けられている俺はと言うと、


「へ~、言葉って通じるんだ~。ラッキー」


 などとほざいていた。

 幸いこの言葉は相手に届いていないようで相手が激高するようなことはない。

 俺は言われたとおりに立ち止まりぼ~っとする。

 青白い神々しささえ感じさせる防具を前に相手はたじろいでいるようでなかなか間合いを詰めてこようとはしない。いや、普通に話し合いをするから止まっているのか。

 と、


「貴様は何者だ?!」


 相手から質問がとんできた。

 俺はそれに対して極普通に返した。もうこの世界の人の身体能力が俺と同じなどとは思っていない。対峙して確信したのだ。


「ん~、俺? 俺は…………誰だろね?」


 そう言ってわらう俺。

 前の『俺』は死んだわけで、今の【俺】は『俺』ではない【俺】であり…………うわ~、頭がこんがらがるわ~。

 しかし俺の境遇など知らない相手は馬鹿にされたと受け取ったようで、顔を赤くさせて叫ぶ。


「貴様ぁ! この俺を愚弄するか! もういい! 殺れ!」


 その男の命令で四人の相手が向かってくる。

 しかし…………やっぱり遅いなぁ。遅すぎる。

 俺はその遅さにたまらず欠伸をかく。その様子に相手は激高し、見事な連携で俺に様々な角度から攻撃を繰り出す。それにしても激高するの早くね? 短気はいかんよ~、短気は。

 俺は遅すぎる相手の剣を避けもせず、流石に致命傷を受けそうな頭だけを腕で庇う。本当は全部叩き落としてかつ手加減して気絶、とかも出来たんだけどなんかかったるくてねぇ。

 そしてようやく相手の剣が俺へと当たる。

 四人のそれぞれ脚、腕、胴、頭を狙った斬撃は全て俺の鎧に阻まれ弾かれた。


「「「「なっ!」」」」


 四人は驚き、痺れる腕を思ってか距離をとる。

 相変わらず俺はそれを退屈しているような目で見つめ、口を開く。


「とりあえず俺は町に入れて欲しいんだけど……こう見えて怪しくないよ? 反撃だってしてないじゃん」

「黙れ! その格好を見てどうして怪しくないといえるのだ! しかも名すら名乗らずに!」

「いや、だってさ……俺、名前ないし」

「…………お前はどこから来た」


 俺が名前のことについて口にすると、相手は僅かに態度を直し、そう問うてきた。

 俺はその質問に対して親指で後ろを指差す。


「あっこ」

「……森、ということか?」

「そうそう。でも親が死んだから森を出てきたわけ。ずっと森での生活とか耐えれなかったからさ」


 俺は平然と嘘をついた。小説の主人公たちはよくこうやって誤魔化していたなぁ、などと思いながら。

 ちなみに設定としては『森で育った少年。しかし親が死んだため一念発起し町へ出る。森で人生を歩んできたため常識などしらない』てな感じだ。もうちょっとこだわるべきだったかな?

 すると門兵は警戒しながらも俺を中へ入れる方向に話をし始めた。


「分かった。ならついてきてもらおうか。お前が犯罪を犯していないかを調べる」

「りょうか~い」


 俺はそれにお気楽な返事をしてついていった。









 なんか綺麗な水晶のようなもので俺の犯罪履歴を調べたらしい門兵は最初と打って変わって歓迎するような態度になった。なんかイラつくけど我慢だな。


「ハハハ! すまんな、俺も昨日妻と喧嘩して気が立っていたようだ。本当にすまん」


 そう言って隊長(最初に激高した人)は頭を下げる。

 なんだ、ちゃんと謝れる人か。少しだけ溜飲は下がった。

 俺たちは城門のすぐ外側に作られた頑丈そうな小屋から出て歩きながら話をする。


「まあ、俺も怪しい格好だってのは分かってたからいいぜ~」

「おう! そう言ってもらえると助かる! だが、本当にお前は怪しいというか奇異だからまずは金を作って服を買ったほうがいいぞ。あと、森で生活してきたってことはあまり普通の仕事は出来そうにないから『冒険者』になった方がいいぞ。あそこは誰でも受け付けてくれる」


 やっぱりあるのか冒険者……くぅ~! 楽しみだぜ!

 と俺が密かに思いをめぐらしていると隊長は、あ! と言って続けた。


「そういえば冒険者になるには初期投資が必要だったな。銀貨……貨幣も知らなさそうだな。よし説明するぞ。貨幣は…………」


 要約するとこうだ。

 この世界の金は、銅貨、銀貨、金貨とあり、二十枚で上の貨幣に上がるらしい。

 そしてその上にミスリル、ヒヒイロカネ、オリハルコン、アダマンタイトってのがあるそうだ。だがこっちは少し上に上がる枚数が変わっていて、金貨百枚でミスリル一枚。その後は二十枚ずつらしい。多分金とミスリルだと大分価値が変わるからだろう。

 単位は一応聞いといたが、隊長が言うには大抵銅貨何枚、というらしいので忘れといた。

 アダマンタイト一枚で三億二千万枚の銅貨か…………果てしないな。価値が釣り合ってるのか想像もつかん。


「まあ、余計なことも口走ったが、ように同じ貨幣二十枚で価値が上がることを覚えていれば問題はないぞ」

「りょうか~い」

「んで、冒険者になるためには銀貨五枚の手数料が必要なんだ。大体一週間分くらいの金だ。ああ、一週間は七日だ。ついでに一月が四週間。一年が十三ヶ月だ」

「ふんふん、おけおけ」

「それでだ。お前金あるのか?」

「ない」


 なんかいろいろ情報をくれた隊長に感謝しながら聞いていると金について聞かれた。

 もちろん俺は森に引きこもってたわけだし、無一文!

 即答した俺に隊長は、はぁ、とため息をついてゴソゴソと懐に手を入れた。


「ほら、イライラしたからって殺しにかかった謝礼だ。まあお前が怪しいのが悪いんだが……俺の気分だ、受け取っとけ」


 そう言って隊長は銀色の硬貨を五枚俺に差し出した。

 隊長……あんた以外に良いやつなんだな。殺しにきたけど。

 俺はそれを素直に受け取っておく。俺を殺しに来たもんな。これで貸し借りなしだ。……結構俺の服装が悪い気がするが、まあ気にしない。


「そんじゃ、いろいろありがとな~!」

「おう! ギルドで登録して金作ったらまず服を買えよな~」


 俺はそれに苦笑しながらも隊長に手を振りながら城門をくぐって町へと入る。ちなみに隊長はまた外にある頑丈そうな石の小屋に戻っていった。なんでもあそこで見張るそうだ。見渡す限りの草原だしな。不意打ちとかもないだろう。

 俺はある程度隊長に手を振ってから町の中へと顔を向ける。

 そして俺の視界に入ってきた光景とは…………


「うわぁ、典型的なファンタジーですなぁ」


 よくある西洋の町並みが広がっていた。

 ここは奥に行けば行くほど土地が高くなっているようで、家々がだんだんと高くなっていく様が見える。

 そしてずぅっと奥まで続く一本道。城門から向こう側が見えなくなるまで一本の道があった。

 なんでもここは連なる山の谷の部分に出来ているそうだ。そして俺の出てきた森の素材を得るため日々様々な商人などが訪れているらしい。ちなみにこの町は森の魔物が溢れてきた場合の防衛地点で、過去にそういうことがあったそうだ。全部隊長と暇なときに話して得た情報だ。

 ついでに言えば俺の拠点にしていたあそこは【常闇の森】って呼ばれてて最高級の冒険者でさえ生還率十%をきるようだ。俺そこから来ちゃいました~。テヘッ!

 とまあ、情報の整理はそこそこにしといてっと。考えてばっかはつまらん!

 俺は早速冒険者ギルドに行くことにした。定番の新人イビリくるかなぁ。









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