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二十八話『スイッチ』

 現在、俺は聞きたいことを聞けて、逆に相手は何かを言いずらそうにしているため変な沈黙が降りていた。


「ん?」


 もう話すこともないし適当なこと言って帰ろうかな、と思い始めたとき、俺の首にかけていたリラ入り袋がわっさわっさと揺れた。

 俺は、あ、と気付いてかなり大き目の袋の紐を緩めて中を覗きこむ。

 中にはそのふさふさ尻尾を体に巻きつけ、まだぁ? とでもいいたげな瞳で俺を見上げるリラがいた。器用なことにその大きな狐耳までクタッとして疲れを表していた。やっぱ白いワンピースに金色は映えるな。

 俺はチラッと優斗たちのほうを伺うと優斗と理沙が俺の首にかかったリラ入り袋を興味深そうに見ていた。もう生き物が入っているってのはバレてるな。

 俺はリラを出すことによって起こるデメリットを想像し、内心でニヤリと嗤った。

 早速リラを出すため首にかけている紐を外して地面に降ろす。俺が立ち止まって何かをし始めると優斗らも歩みを止めてこちらを見る。

 その注目の中、まず袋から艶のある黄色い大きな耳がピョコンと出てきた。それはそのまま止まらず持ち上がっていき、今度は黄金色に輝く長髪が出てくる。袋の中にいたためか所々はねていたりするがそれでもその艶は失われない。

 リラはそうやって一気に飛び出ると、プハッ! と可愛らしく息を吐いて吸う。両手を前に突き出し、腰を引いて猫や犬のよう伸びをする。ん~、という声がこれまた可愛い。


「ふゅ? この人たちだれ~?」

「はぅ! か、可愛い……」


 リラがふと周りを見渡すと知らない人がいたのでそちらを指差しながら俺を見上げる。その顔はやはり長時間袋に入れられていたためか不機嫌だ。

 俺は、指を差したらあかんぞ、と父親みたいなことを言いながら説明をする。


「あの城でご本を読んだろ? あれに出てくる勇者だ」

「ほんとっ!? すご~い!」

「はぅぅ!」


 俺の答えにリラはすぐさま目をキラキラさせ勇者達を見る。若干勘違いをしている気もするがまあいいだろう。機嫌も直ったし。そして若干一名胸を押さえて奇声を発する人がいるが無視だ。あえて言うなら俺を浮かそうとして失敗した貧相な体つきの魔法使い。


「……」


 何故だ。何故睨まれる。ラブコメでよくあるが何故女はこうも男が変なことを考えていると感づくのか。

 と、それは置いといて、俺はあまり良い顔をしない優斗へと微笑みかける。


「ん? どうした優斗。リラを見て発情でもしたか?」

「ばっ! 馬鹿か死神は! 僕はロリコンじゃない! それに僕はどちらかというとむっちりしている方が……はっ!」


 俺のからかいに優斗は顔を僅かに赤くして、鈴がついた右手を勢いよく振りながら否定し、更に自分の好みまでぶっちゃける。その左右では、ショートの活発系女子が自分の胸を見てやや落ち込み、長髪和服美人は小さくガッツポーズをとる。活発系女子も脚がむっちりしてるから大丈夫だと思うんだがなぁ、とは俺の個人意見。どうでもいい。

 自分が変なことを口走っていたと気付いた優斗は何故か俺を睨み、口を開く。


「その子はもしかして奴隷なのか?」

「おいおい初対面のやつに対して、奴隷ですか? とか頭正気か?」


 優斗は俺のちゃかしに反応せず俺を真っ直ぐ見る。

 俺はすぐに茶化せる感じではないと悟りため息をつきながら言う。


「はぁ……そうだけど? 何? 解放しろとでもいう気?」

「そうだ」


 優斗は何かのスイッチが入ったかのようにその目に闘志を燃やし、即答する。うわぁ、主人公スイッチでも入ったのか? いや、どっちかって言うとご都合主義スイッチかな? 目出度い頭だ。

 俺は、突然人が変わった優斗にややビビッているリラの頭を撫でながら言ってやる。


「何故? 別にお前には関係なくね?」

「いや、関係ある。僕は勇者だ。弱き者を守るのが勇者の役目だ」


 いや、勇者って『勇』気ある『者』って意味じゃなかったっけ? 物語では大抵その勇気で弱者を守るけど。

 俺は内心で、かかった、と嘲笑いながら、しかし表情には困惑を貼り付けて返す。

 

「どういうことだよ。この世界では合法だぞ? それにこれは俺がちゃんと金を貯めて正式に買ったものだ。お前に奪われる筋合いはない」

「違う、奪うんじゃない。解放するんだ。金は払う」

「はぁ……? それで満足すると思うの?」

「そんなの関係ない。僕は虐げられている者がいるのが許せないんだ。なんなら金は倍払ってもいい」


 俺は内心哄笑していた。こいつ自分が何を言っているのか分かっているのか、と。

 相手の言い分を関係ないと言い張り、金なら倍払うと言って買収しようとする。クズじゃん。

 ともあれ虐げられている者がいるのが許せないっていう心がけは良いものだ。実に日本人だ。人間を尊ぶ良い例だ。

 しかし……


「別にリラは虐げられてなんかいないぞ? 飯だって一緒に食ってるし、風呂だって入れてる。服だって今のように上等なものを着せてる。何か問題あるか?」

「ある。奴隷という身分がいけないんだ。いくら豪華な暮らしが出来ても所詮身分は奴隷。最下層に位置するんだ。その事実がいけない」

「奴隷がそれを望んでいないとしたら?」

「ありえない。自分から虐げられたいと思う者なんて存在しない。この場合趣味は除く」


 優斗の最後の一言に思わず噴出しそうになった俺だが、なんとか耐える。なんだよ趣味って。誰もそんなこと気にしねぇよ。

 それにしてもこいつは折れないな。やっぱ自分が主人公だと思ってるんだろうなぁ。もしくは世界の中心だとか。

 俺はリラの頭を撫でながらリラに問う。


「リラは俺の奴隷は嫌か?」

「ううん、嫌じゃないよ! ご主人さま優しいもん!」


 俺の問いにリラは眩しいくらいの笑顔でそう答えた。あれ? なんでだろう、目頭が熱い。まあ、嘘だが。

 俺がこの答えに、どうよ? 的な視線で優斗を見てみると何故か今度は怒りの感情を発露していた。


「お前……この子に何をした。調教か? 洗脳か? なんにしてもお前最低だな」

「おい! 何勝手に洗脳とかなんとか言ってんだよ! そんなことしてねぇよ!」


 やばい、優斗はもう頭がお花畑だ。

 優斗は俺をギッともう一度睨んだ後、ふっと表情を優しいものに変え、リラに話しかける。


「ねぇ君。君は奴隷から解放されたいだろ?」

「……(ふるふる)」


 リラはさっきまでとの変化に怖がり、俺の後ろに隠れながら首を横に振る。

 優斗は小声で、やはり調教……などと呟きながらもう一度話しかける。


「奴隷って言うのは酷いものなんだ。みんな嫌なもの。君も嫌なことは嫌だろう?」

「……(コク)」

「なら奴隷から解放――」

「…………(ふるふるふるふる)」


 優斗はおそらく、リラが調教によって奴隷というものを忘れさせられている、と思ったようで奴隷がなんたるかを語っていたが、結局はリラに拒否られる。無様。嘲笑。

 リラはより一層俺の腰に腕を回し、離れない、とでも言うように俺に抱きつく。

 優斗はそれを呆然と見て、ぶつぶつと呟き始める。


「おかしい……これはおかしい……そうだよ、奴隷が良いなんておかしいんだ……これは洗脳だ……あいつもきっと僕たちと同じように何かしらの力を持っているんだ……それで洗脳して……」

「優斗? どうしたの? 何かあった?」

「うむ、優斗よ、何かあったなら私たちに話すといい。きっと楽になれるぞ」


 とうとう壊れ始めた優斗は左右の優斗ハーレム一号と二号に心配される。俺久しぶりにこいつらの声聞いた気がする。

 優斗はそれに気がつくと、ははは、と笑みを浮かべて気を取り直す。

 そして俺に向き直るともう一度闘志の篭った眼差しで俺を睨みつけながら口を開いた。


「僕はその子を助け出す。もうお前はこの世界に染まってしまったんだ。僕たちがこの世界の『間違い』を正して『あげないと』いけないのにお前は染まった。だから僕たちはお前を倒す」







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