二十六話『勇者との邂逅』
昨日上げるの忘れてそのまま寝ちゃったw
それから数時間後。リラが負荷で死なない程度の速さで走り続けると海が見えた。大分前から海の匂いがしていたので予想はしていたがなんとなく感慨にふける。
俺は切り立った崖に立ち、下を見下ろす。どうやら海で遊ぶなんてのは出来そうになさそうだ。二十mくらい崖が続いてる。しかも下のほうは波に抉られ若干俺の立っている位置が海へ飛び出しているように見える。
左右に視線を送れば何もない海が広がっている。まさに地平線の果て、だな。
しかし真っ直ぐ海の向こう側を見てみればずっと遠くの空が紫のような黒のような不安にさせる色の雲で覆われているのが見えた。多分魔大陸だろう。そんな雰囲気でてるし。
ともあれ、俺はSランク迷宮を探すため少し思案した後、とりあえず海に行ってみようと思い、飛び込んだ。リュックは置いて、リラを入れた頑丈な皮で出来た中がふわふわの毛の袋を担いで。
「キャァァァアアアア!」
「リラ! 今から海に飛び込むからな! 迷宮はすぐそこだ! イヤッォホォォオオオ!」
俺はリラの悲鳴を余所に楽しそうな声を上げて海へと飛び込んだ。
「ゲホッ、ッゴホ! グッ、ハッ!」
「だ、大丈夫?」
結論から言うとおぼれかけた俺はリュックの傍で両手両膝を地面につけてむせていた。
いや、まさか海があんなに深いとは……それにゴーグルとかないから滅茶苦茶目が染みた。鼻にも海水が入って痛いわ、耳は水圧かなんかで痛いわ、なにかに食われそうになったり、もう散々だ。
海を舐めていた俺は見事に海の洗礼を受けていた。もうこれ以上ないほどに。
リラを入れていた毛皮を加工した袋は防水なのか、リラはほとんど濡れていなかった。そのリラは、海の恐ろしさを身を持って体感した俺をオロオロしながら背を擦ってくれていた。いきなり海に飛び込んだ俺を心配してくれるとか……天使か?!
とまあ、それはおいといて。俺は海に飛び込んだおかげで一つだけ分かったことがあった。それは……
「崖の下のほうになんか洞窟あったからそこ行くぞ。多分あそこが迷宮の入り口だろう。そんな雰囲気出てたし」
「うん!」
そういうわけで今度は海に飛び込まず、崖をロッククライミング(この場合登らないから違うのか?)の要領で崖を下っていった。まあリュックを背負った俺の体重を支えれるでっぱりとかあるわけないから腕を壁に突き刺していくんだけどな。
ズボズボと崖の側面に穴を開けて下ってきた俺は現在洞窟の入り口に突っ立っていた。リラはあの袋をちょっと改造して赤ちゃんを抱っこするような感じにして前にぶら下がっている。外に出ているのは首から上だけだけど。ジーっと俺を見つめてくる視線がちょっと恥ずかしかったのは内緒だ。
そして俺が洞窟の入り口で突っ立っている理由。それは……
「お~、来たはいいけど明かりがねぇ……」
幅十m、高さ五mはあろうかという洞窟内部は入り口付近だけ光が届いており、数m進めばすぐに真っ暗闇に覆われることだろう。そして俺はあくまで人間なので夜目が利くわけでもない。つまるところ火を焚くなどするしかないわけだ。
しかし洞窟内部で火を焚くのはあまりよろしくない。それこそ奥へ行けば行くほど危険になる。酸素的な問題で。
故に俺は入り口で突っ立ったままどうするか思案していた。
とそのときだ。
「――――――ったな」
「――――――だね」
洞窟の奥のほうでポツンと光が見えた。そして俺の鋭敏な聴覚は人間と思われる声を聞き取った。内容までは分からなかったが。
俺はその光が、ここを探索している冒険者の持っている光源だろうと思って声をかけてみることにした。もしかしたら勇者一行かもしれないしね。
「おぉぉぉおおおい! 誰かいるのかぁぁぁああああ!?」
足音や声の大きさなどから百m近く離れているので俺は思いっきり声を出す。近寄ってから声を出したら攻撃されるかもしれないし。
俺の声に反応してか洞窟のずっと奥にある光源がピタッと動きを止めた。俺はリラに袋の中に戻ってろ、と指示を出して相手の行動を見守る。
光源はやがて動き出し、こちらへと向かっているようだった。
しばらく待っていると光源があたりを照らし、相手の顔が識別できるほどになった。彼我の距離はおよそ二十m。
相手らは四人組で、男一人に女三人。チッ、ハーレム野郎かよ。
男は黒髪を男にしてはやや長めにしている優男風のイケメン。生徒会の副会長とかやってそう。あくまでサポート。服装は肘や膝など関節と胸部を覆った防具のみでその下には肌着っぽいのを着ていた。
次にその男の腕に絡み付きながらやたらと喋る黒髪ショートの女の子。髪は内側に少しだけカールしている。活発そうな運動部系の女の子でしなやかな脚が情欲をそそる。胸は残念。ずっと優男に媚びている。服装は腹部を晒したTシャツのようなものと、ぴっちりとしたショートパンツを履いている。あとは各関節にプロテクター。
そして反対側に軽く抱きつきながら顔を背けているのが黒髪ロングの大和撫子風の美人だ。その見た目どおり積極的なのは性に合わないのか恥ずかしがって優男に目を向けていない。顔も若干赤い気がする。体つきがむちむちしており、男好きな体だ。ボンキュッボンだ。服装は何故か和服で刀を帯刀している。
最後にその三人の後ろで無表情ながらも、どこかムスッとしている黒髪セミロングの美少女。背が低く、服装も魔法使い然としていることからロリっ子魔法使いといったところだろう。ぶっちゃけ好み。いや、俺はロリコンではない。
そいつらは俺の顔が認識できる位置で立ち止まるとビックリしたような顔をする。
ともあれ会話の主導権を握るべく俺から話しかける。
「よう、まさかお前らが勇者か?」
「……あ、ああ。俺らはここに近い国、カリバン帝国に召喚された勇者だ。そ、それで、君は……」
「あぁ、お前の思っている通り日本人だよ。多分三年前くらいにこの世界に呼ばれた」
俺の言葉に優男が更にビックリしたように目を丸くする。
俺は優男の後ろでジッと俺を見つめていた魔法使い然とした美少女が僅かに眉をピクリと動かしたのを見逃さずに声をかけた。べ、別に好みだから観察してたわけじゃない。
「お? どうした後ろの魔法使い然としたお譲ちゃん? 俺の顔になんかついてるかい?」
「………………なんでもない」
そういいながらも美少女はバレないように優男のすぐ後ろに行き、あいつのステータスが見れない、と囁いた。うん、丸聞こえ。
にしてもなんでステータスが見れないんだ? ぶっちゃけ俺のSTRとかVITがどんだけなのか知りたかったのに。
まあいいや。それはついでだったしね。
俺は懐かしの同郷の者と語らうべく言葉を紡ぐ。
「それにしてもすげぇな。ここってSランク迷宮だろ? 魔物も罠も一級品じゃねぇのか?」
「あぁ、確かにここは辛いよ。でも魔王を倒すにはこれくらい楽にクリアできるようにならないと」
「大丈夫だって! 優斗なら魔王なんてへっちゃらだよ!」
「私もそう思うぞ。優斗はや、優しい、から、な……」
優男、改め優斗がそういうと左右の女共が元気付けるようにそう言った。
「ペッ!」
「急に唾を吐いてどうしたの?!」
「なんでもない。それより俺はちょっとあんたらと話がしたくてここに来たんだ。だけどここじゃいつ魔物に襲われるかわかんねぇし一旦外に出よう」
「ああ、そうだね。それじゃみんな行こうか」
「はーい!」
「うむ」
「了解」
相手方が全員了承したということで俺はまた洞窟の外へ乗り出そうとして……
「あ! ちょっと待ってそのまま登るつもりなら理沙の魔法で一緒に連れて行くよ」
優斗に呼び止められて動きを止めた。
そしてその意味を理解すると同時に、無理だよ、と言おうとしたが俺を喉の奥に押し込めて、じゃあよろしく、と言った。
理沙と呼ばれた魔法使い然とした美少女は、了解、と短く答えると詠唱らしきものを唱え、浮かび上がった。
そして次々と浮かんでいく勇者たち。どうやらこの魔法は術者が任意で浮かばせるようなものらしい。
全員浮かび上がらせた理沙が俺の方を向き、ふっ、と小さく目に力を込めたかと思いきや、俺の体が少し軽くなった。
そう、軽くなった。それもぶっちゃけるとほんの数百キロだけ。ん? なんか感覚がおかしい気がする。
理沙は俺が浮かび上がらないことに驚愕し、僅かに目を見開いた。しかしその驚きは俺の思っていたものより小さくで若干残念だ。
すると理沙は両手を俺に向かって突き出し、更に力を込めた。俺の体は多分一tくらい軽くなったのだろう。大分速く動ける気がした。
そして今度こそ理沙は驚愕に目を見開き、口も半開きになる。これだよこれ。これを見たかったんだ。
そう、俺が素直に魔法を受けた理由はあの無表情美少女が驚愕で無表情を崩すところが見たかったからである。一応他にも魔法を受けるとどんな風になるのかとか、敵対するような魔法を使ってこないのかとかいろいろ考えはあったが。
俺は俺がいつまでたっても浮かび上がらないことに、ははは、と小さく笑ってこう言った。
「こんなもんか」
この俺の言葉に理沙がピクリと反応し、何か言おうと口を開くも、俺はそれより速く洞窟を出た。
降りてくるときに空けた穴に指や足を引っ掛けながら登り、勇者たちを待とうと俺は振り返る。
すると、勇者達は俺が登り終えると同じくらいに地上へと降り立った。相変わらず四人の配置は変わらずに。
その中で理沙が視線を鋭く俺を睨みつけていた。あらら~、敵対心もたれちゃった?
しかし俺はそんなことに気がついていないように歩を進め、行こうぜ~、と声をかけた。
が、勇者達は動かずに口を開いた。
「あ~、理沙が転移魔法を使えるんだが、話はカリバン帝国の帝都でしないかい?」
「やだな~、そう簡単に信じられるもんですか~。これで、はいそうですか、って言って連れて行かれたのが牢屋とか洒落にならないっすよ~」
「ッ?! 君、俺らがそんなことをするとでも……!」
「いやいやしょうがないじゃん。この世界だもの」
「…………分かった。歩きながら喋ろう」
優斗とやらは少しばかり思案すると思い至ることがあるのか素直に頷いた。
ふーん、俺はてっきり小説に出てくるご都合主義な頭をしてるやつかと思ったんだが、なかなか話がわかりそうなやつじゃないか。
そのことに少し残念に思いながらも俺たちは歩き出した。




