表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/31

二十五話『怪しい男』

 あれから特に何もなく順調に旅は続いた。

 あの盗賊の件以来俺に怯えるようになったキル君以外は非常にいい雰囲気だった。

 そしてとうとう今目的地である大陸北東にある【カリバン帝国】の首都、『カリバーン』に着いた。…………名前については言及しないでおこう。

 一応ここに来るまでに国家間の関所みたいなのがあったが、キルが何かの紙を見せるとすんなりと通れた。本当に豚って大商会の長なんだな。

 ともあれここは帝都だ! ゲルマン王国の王都と比べるとやはり違う感じがする。当たり前か。

 ここカリバーンは十mほどもあろうかという城壁を持っており、色も無骨でなにより実用性を重視しているのが伺える。


「ここカリバーンでは魔大陸が近いからなのか魔物の出現数が桁違いに多いんです。ですのでこういった城壁も戦争ではなく、対魔物用として造られています」


 俺が興味深そうに見上げていたからかキルが説明をしてくれる。ほほぉ、だから国境を越えてからだんだん魔物が増えてきていたのか。

 なんて納得しているととうとう俺らのところまで検問が回ってきた。そう、今は王都に入ったときのように検問待ちで並んでいたのだ。


「どこから何の用でここに――」


 そしてなんやかんやで検問は何の問題もなく通れた俺たち。やり取りはまあ普通だったから割愛。

 あの大きくて分厚い城門を通ると目に入るのは相変わらずの中世ファンタジー。

 しかしここカリバン帝国の帝都カリバーンは少しばかりアレクサンドラ王国とは違っていた。

 幾度も勇者を召喚しているためかその勇者の世界の文化が混じっているのだ。具体的に言うと和風。

 引き戸だったり、(すだれ)があったり、鎧戸だったり、エトセトラ……極め付けは浴衣だ。現在帝都の中心部にあるこれまた豚の別邸に向かっているんだが、ポチポチと浴衣姿の人が見えるのだ。これはもう日本人で間違いないでしょ。あ、ちなみに男は甚平みたいなのがあった。種類は一つだけだったけど。あとは色違いのみ。この差はやっぱすごいね。


「ご主人さま! ふしぎな服を着てるんだね~」

「あぁそうだな。ちなみにあれは浴衣というんだ」


 リラが窓から外を指差しては俺に心底楽しそうな表情を見せてくる。尻尾はもう止まる気配がない。

 それを微笑ましく思いながら俺はリラの上から町並みを見ていく。

 此度の勇者がどんなやつか思い浮かべながら。


 結構な時間が経ち、まだか? と思っているとようやく馬車は止まった。どんだけ奥にきてんだよ、とぼやきながら馬車を降りると目の前に城が見えた。


「すっごいおっき~ね! 豚ちゃんすごい!」

「…………そうだな」


 なんともいえない気持ちを内に秘めながら俺はリラに相槌をうった。本当にあの豚すごいのかよ……商売してる姿なんて全然想像できねぇよ。

 と、俺が釈然とせずにいると御者のキルがおずおずビクビクと俺を伺いながら声をかけてきた。どんだけビビッてんだよ。


「ぁ、あのぅ、これからどうしますか?」

「おう、とりあえず今日は休んじゃおうかな。出かけるには中途半端な時間だし」


 そう言って空を見れば太陽があと一、二時間で落ちるくらいの位置にあった。一時間もすれば綺麗な夕焼けでも見れるだろう。

 俺の返答にキルはホッとしたような、でもどこか恐怖を感じている様子で頷いた。














 翌日。

 豚の屋敷というだけあってやはりどこも高級感溢れたつくりをしていてすっかり疲れも吹き飛んだ。ベッドはやっぱり壊れてしまったが。

 俺の隣では全身タイツを脱いだ俺の体に抱きつきながら寝ているリラがいる。リラはいつも、寝るときは俺に抱きついてくるため、最近は寝るときに全身タイツを脱ぐことにしている。だってぶっちゃけ金属に抱きついているようなものだし。あ、ちゃんと寝巻きとして執事服は着てるぞ。流石に全裸で抱きつかれるとかまずい、絵的に。

 コアラのように俺の腕に抱きついているリラを俺は優しく離してやり、ベッド(だったもの)から立ち上がる。

 ベッドの脇には昨日脱いだ全身タイツが二周りほど小さくなって鎮座していた。しかも別に整えたわけでもないのに形は綺麗な直立不動を保っている。この全身タイツは形状記憶の能力でもあるのか勝手にこのような形に戻る。まあそのおかげで俺は派手に動いても全身タイツのようにずっとピチピチなんだがな。

 俺はスタスタと歩いて窓にかかっているカーテンのようなものを取り払うと朝日を浴びる。


「さぁて、勇者様にでも会いに行きますか」


 俺はいそいそと全身タイツを着始めた。

 






「というわけで通して~」

「承知致しかねます」


 時は過ぎ、俺は城への門で衛兵たちに止められていた。

 衛兵は五人ほど待機しており、奥の休憩所には更に十人ほど待機しているようだった。ちなみに気配察知で感知した。

 衛兵はみなフルプレートのような防具で全身を覆っており、手には二m半もある槍を持っている。本題に入る前の素朴な疑問として聞いたところこれも訓練らしい。確かにこんなのは着て立ってるだけでも大変そうだもんな。

 そんな感じで話をしていたわけだが、今さっき勇者に会いたいから通してと言ったらあれだ。即答だった。しかも警戒心まで露にしているようだった。さっきまで困惑していたのに。あ、それは俺の格好と喋りのミスマッチのせいか。

 でもまああんま迷惑かけたら失礼だよな。うんそうだ。

 そう言う結論に達した俺は衛兵に一つだけ質問をして帰ることにした。


「そんじゃ一つだけ聞きたいんだけど勇者どこ?」

「勇者様なら現在Sランク迷宮に篭っていらっしゃいます。場所は帝都の北東、魔大陸に一番近い岬にある迷宮です。流石は勇者様ですよね、Sランク迷宮に何週間も篭っていられるなんて」

「おう、そうなのか。さんきゅ~」


 場所を聞いただけなのに勇者自慢みたいなのが始まりそうだったので俺は早々に話を打ち切って踵を帰した。

 衛兵は不満そうにしながらもムッと押し黙り、俺を見送った。

 それにしてもSランク迷宮ねぇ。冒険者と同じなら最高難易度の迷宮ってことかな? そこにいるとか……なかなかやるんじゃないの?

 俺は周りに人がいるにも関わらず口を三日月形に裂いた。





 俺は衛兵に聞いた勇者のところへ向かうため北の門へと歩いていた。

 日本人はよく童顔といわれるが、やはり俺もそうらしくこのピシッとした執事服とダラッとした姿勢は周りの視線を集めていた。

 俺はそれらを無視して、門へと歩いていた。

 しかしちょうどそのとき。


「お~い、あんちゃんあんちゃん!」

「んあ? っておい! 猫耳のおっちゃんじゃねぇか!」


 なにやら聞いたことがあるような声だと思って見渡すと、細く薄暗い道の入り口に陣取り、怪しげな物品を置いているこれまた目深なローブを被った怪しげな男が座って俺を手招きしていた。姿容姿は何故かこれっぽっちも思い出せないがこの声とあの物品から俺はあの竜が出現したときにいた男だとすぐに気付いた。

 俺はずんずんと男へ向かっていき、あまり大きすぎない程度の声で怒鳴った。


「てめぇ、あんときはよくも逃げてくれたな!」

「まあまあ、危険を感じたら逃げるなんて常識だろうが。それよかよくあのドラゴンから逃げ出せたな。あのドラゴンならあそこら一帯火の海どころか溶岩の海になっててもおかしくないと思ってたんだが」

「…………まあな、おっちゃんの助言のおかげですぐに外に逃げることが出来たからな」


 俺はおっちゃんの言葉に乗って返事をする。

 しかしあの時俺は大分大きな騒ぎを起こしていたはずだ。なのにおっちゃんは俺に逃げたのかを聞いてきた。これは少し俺の頭に引っかかった。まあただ見てなかったっていう可能性もあるかもしれんが。

 ともあれ、何故か姿が上手く認識できなかったり、ヘラヘラとした態度をとるおっちゃんを俺は警戒していた。

 おっちゃんはそれに気づいているのか気付いていないのか、こちらに悟らせないようにヘラヘラと笑って話しかけてくる。


「そりゃあよかった。まあまた会ったのも何かの縁だ。なんか買ってかねぇか? 少しくらいならサービスするぜ」

「おう、そうだなぁ……そういえばおっちゃんはなんでこんなもんばっか売ってるんだ? もっと稼げるもんなんてたくさんあるだろ?」


 とりあえず喋らなきゃ何も始まらないので俺はおっちゃんの言うとおり品物を見ながら会話を試みる。

 おっちゃんはなんの警戒もしていないように軽快に話し出す。


「まあな。普通の商売やって普通に稼いで普通の暮らしをすることもできらぁな。だが俺はそんなもんクソ食らえと思ってる。俺の売ってるもんはただの品物なんかじゃあない。そう、俺はただの珍しいものを売ってるんじゃない。夢を売っているんだ。これはもしかしたら不思議な力を持っているかもしれない。これはもしかしたら大金で売れるかもしれない。そんな夢を俺は売っているんだ。誰しも夢は見る。俺はその夢をもっと身近で見させてやりたいんだ。ただの空想でも現実にあるものが一つあるだけでその空想は何倍にも膨れあがる。わかるか? この気持ちが」

「へぇ~、よくわかんねぇけどこの鈴いくら?」

「金貨五十枚」

「このぼったくりが!」


 警戒は間違っていなかった。こいつは悪徳商人だ。詐欺だ。


「ぼ、ぼったくりなんて人聞きの悪い! 俺は全うに商売してらぁ! 俺の血と涙を垂れ流しながら必死こいて集めたこの不思議な力を持つ品物はそれくらいの価値があるわ! それに一年前勇者様だってお前が持ってるもんと同じものを俺から買っていったんだぞ!」

「ちげぇよ! それ絶対お前が可哀想に思って恵んでやっただけだよ! もしくは頭が弱いか!てか同じものがあるっておかしくね?」

「うるせぇ! 何も買う気がないんならさっさとけぇれ(帰れ)!」

「言われなくてももう行くわ!」


 派手に言い争っていたせいで遠巻きにこっちを見るやつらがちょこちょこと出てきた。ただでさえ俺の格好は目立つので足早にその場を後にする。

 俺の後をトテトテと慌てて着いてくるリラを抱っこしてからは更に足を速めて門を出るため歩いていった。

 そのときにはもう俺の頭の中には怪しげな男は消えていた。


















とうとうこの時がやってきました

……………………不定期更新です。出来る限り頑張りますが学業で開いてしまうかもしれません。

3日……いや、週に一度は更新しようと思います。3日はキツイ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ