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二十四話『防御力』

 ガラガラと街道を進む馬車。後ろからはザザザザッと大玉サイズのリュックが引きずられる音が聞こえる。ちなみに引きずるために引っ掛けている縄もミスリル製だ。てかこの馬車全部ミスリル製で本当に頑丈なのだ。それこそ俺が乗ってても平気なくらい。まあ最高級で最強の馬が何頭も必要になるが。

 俺はいつものようにリラを膝の上に乗せ黄金色に輝く狐耳やボフッとした尻尾をもふもふして楽しんでいた。

 獣人は耳や尻尾をマッサージ(もふもふ)されるのが結構気持ち良いようで、リラはいつも目を気持ちよさそうに細めて成すがままにされている。

 アレクサンドラ王国を出てからしばらくは無言の時間が続いていたが、唐突に俺は声を発した。


「なぁ、リラ。俺が新しい奴隷を買うって言ったらどうする?」

「ッ?!」


 俺の言葉にリラは弾かれたように目を見開き、こちらを振り返る。見えたリラの表情は悲しみで満ちており、捨てられる子犬のような瞳をしていた。


「いやいや、別にリラを売るわけじゃねぇよ。俺の金持ちっぷりは知ってるだろ? 奴隷くらい百人単位で変えるわ」


 慌てて弁明した俺の言葉にリラは幾分か悲しさを紛れさせるが、やはりどこか顔に影がある。

 異世界ものの小説では大抵ハーレムとか作ってたし、俺もどうかな、と一瞬思ってつい出た言葉。本当になんとなしに出た言葉だったのだ。

 まさかリラがそんな顔をするなんて思わなかった。

 俺は一層優しく慈しむようにリラの頭を撫でた。


「まあ、例えばの話だ。実際問題買うつもりはない。これ以上増えても若干コミュ症の俺には辛いだろうしな」


 そう言えばリラはホッとするように息を吐き、また前を向いて俺に体重を預ける。

 コミュ症は嘘だとして…………うん、嘘だとして、実際そんなに増えても困ると思うんだ。下手に増やして情でも移れば人質に捕られたときに見捨てることが出来なくなる。今のリラは…………多分見捨てられないと思う。だからいつも小脇に抱えるか手をつないで移動しているのだが。

 ふと思った異世界ハーレムについて自己完結したところでまた俺は言葉を発す。


「ところでリラはまだ料理とかしてないな」

「ふみゅ? そーだね。前は豚ちゃんがお料理してたもんね」


 そうなのだ。リラは料理など家事全般出来ると言っていたが、今までやっていないのだ。最初の町から王都まで行く間はあの豚が料理をしていたし。そういややたらと手際がよかったな。ついでに味も良かった。たまに毒が入ってたけど。

 あ、毒といえばあの大臣、今頃どうしてるかな~? 最愛の妻と息子を失ってどうなってるんだろうね? まさか自殺かな? まあ、自分が忠告を聞かずに暗殺しようとしたからとかよくわからん理論で自分を追い詰めてたら自殺するかもね。普通に見れば俺が悪いし、俺を殺そうと躍起になってることだろう。俺だって罪のない人を殺すのは心が痛いよ? でも約束したもんね。しょうがないよ。約束は守らないと。

 っと、話がそれた。

 俺はリラのお腹に手を回し、少しばかりキュッと抱きしめると耳元で囁いた。


「リラの料理、楽しみにしてるからな~」

「ふぁ~い……!」


 リラは俺の言葉にやる気を見せて、しかし蕩けるような顔で返事をする。チョロい。

 と、会話が一段落ついたときだ。


ガタン!


 突如馬車が音を立てて止まった。


「ん?」


 俺はリラを撫でる手を止め、訝しげに御者の気配を探る。

 と、そのとき御者の気配と、一緒に周りを囲んでいる数十の気配を感じた。

 しばしどういうことか首をかしげ…………簡単なことに気付かなかった自分が恥ずかしくなった。


「……すいません死神さん。どうやら僕達は盗賊に囲まれたようです」


 目の前の御者台にいるであろうキルが声を潜めて俺にそう言った。声にも悲壮感が漂っており本当に俺に申し訳ないという気持ちがこもっていた。

 歯をギリッと噛み締める音が聞こえる。キルのものだ。おそらく護衛をつけなかったあの豚を思ってのことだろう。

 しかし、だ。キルは聞かされてないのか? ていうかあのドラゴンを倒した死神の名前は広まっていないのか? ………………別に名乗ったりしてないしそんな広まらないものなのか? でもあんなたくさんの冒険者に挨拶したしなぁ。

 と思考が逸れ始めた時、


「下手な真似はせずに全員馬車から降りろ! こっちは三十人もいるんだ! 殺されたくなかったらすぐに降りろ!」


 外から野太く、そして下品さを醸し出す声が聞こえた。

 俺はそれを聞いて不快気に顔をしかめながらも、よっこいせ、と腰を上げた。リラは両脇に手を入れて持ち上げる。猫みたいにダラ~ンとしているのがまた可愛い。

 そのリラをそのまま降ろしてあげ、頭を撫でながら俺は言う。


「それじゃ、俺はちょっとうるさい人たちを黙らせてくるから」

「うにゅぅ……すぐに帰ってくる?」


 俺の言葉に不満気だがイヤイヤはしなくなったリラ。うん、素直な子は好きだぞ~。

 俺は心配そうなリラに笑顔でしっかりと頷き俺は手を離す。なごし惜しげに手を見ていたリラだが、俺が背を向けると手を振った。


「いってらっしゃ~い!」

「……おう!」


 元気な見送りに胸に来るものがあり、俺は馬車の扉を開けた。

 さて、盗賊か。旅の移動にはつき物だが、こんな街道に出没してると狩られるんじゃないのか?

 そんな思いと共に外へ出ると扉を閉める。

 さぁ、今日はどうやって蹂躙しようかな~。

 俺はニタリと嗤った。








 気配を探り、馬車の周りには誰もいないことを確認し、俺は視線を動かす。

 数は……本当に三十くらいはいそうだな。

 目の前の敵と後ろの気配を探り数を確認する。

 すると俺の隣に近づいてくる者がいた。キルだ。


「すいません、こんなことになってしまって。何故かサーフォルン様が護衛をつけなくても良いと豪語していたので……いや、ここはそれを聞いて慢心した僕の責任です。すいません」

「はあ? 僕の責任です、だぁ? お前何か勘違いしてね? この場で責任がどうのこうの言っても意味ないやん。あっちでもそうだったけどどうしてその後がないような場面で、責任が誰々~、とか言うんだ? そんなこというくらいならさっさと問題を解決しろよって話だよ」


 なんか知らんが謝ってくるキルにそう言い返し俺は腕を組む。執事服のピシッとした者が不遜な態度をとる。いわゆるミスマッチってやつか?

 キルは俺の言葉に愕然とし、すぐさま表情を取り戻す。


「そうですよね……そんな不毛なことを言うくらいなら助かる道を少しでも探すほうが有意義ですよね……でも、ないんだからしょうがないじゃないですかっ……」


 俯き、そういうキルの言葉はヤケクソ気味だった。

 キルは俯いたままある一点を指差す。


「あれを見てください。あそこの棍のような杖を持った人物です。あれは元冒険者でランクAの『焼失の業火』と呼ばれる男です。文字通りあの男の放つ炎は全てを焼き尽くしこの世から消滅させます」

「へぇ~」

「他にもBランクの『豪腕』、『俊足』、『落雷』など実力者ぞろいです。何故こんなところにやつらが……」


 キルはそれぞれ指していた腕を下げると、そう言って諦めたかのように体の力を抜く。

 俺はそれには目もくれず周りで絶句する盗賊共を見渡す。

 そういえば何故盗賊共がこんなに静かだったか。それにはちゃんと理由がある。

 それは……


「て、てめぇ! 何しやがった!」


 盗賊の頭っぽいやつ――確か『焼失の業火』とかいうイタイ名前――が叫ぶ。魔術師のくせに厳つい体してんなぁ、おい。

 ともあれ、何が起きたのか理解できずに混乱しているようだから心の優しい俺は丁寧に教えてやる。

 俺は手の中でもてあそんでいた物をピンッと上に弾く。もちろん超軽くだ。手加減はお手の物。

 そして一瞬空中で止まり、落ちてきた小石をパシッとキャッチする。

 ニタリと嗤った俺はそいつに小石を弾くように手をむけ、言った。


「こいつで頭を消し飛ばしただけだが?」

「何をい――」

「はいボーン」


 俺の軽い言葉と共に(かしら)(あたま)は消し飛んだ。

 遅れて頭のなくなった胴体が地面へと沈む。すげぇ、漫画みたいな倒れ方だな。

 俺は眺めるのもほどほどに他の盗賊たちへと視線を投げかける。

 ヒッ! と短い悲鳴を上げて怯む盗賊たち。なんともいえない爽快感が俺の中を駆け巡る。

 俺はニタニタと嗤いながら声を出す。


「ほらほらぁ、何してんの? 数の有利を活かさなきゃ。そのまま立ち止まってたらいい的だよ?」

「ぅ、うわぁぁああああ!」


 俺の言葉に反応してか一人の魔術師が火の玉を放ってきた。

 俺はそれをなんなく打ち払おうとして……俺の素の防御力を知りたくなり掌で受けることにした。

 一瞬で白手袋を脱いで、眼前まで迫っていた火の玉を掌で受け止める。火の玉は俺の掌に当たると爆発して髪を揺らした。

 そして肝心の俺の手はというと……


「ッ!」


 俺は痛みに顔を歪める。手を見てみると手の皮が焼けただ、肉が見えていた。所詮は人間、火には弱いのか、と思っているとふと気付いた。

 俺の皮膚はダメージを負っているが、内の肉の部分に関しては一切の傷がなかったのだ。

 これから推測できることは、俺の体は頑丈になっている。しかしそれは体の外側にいくほどもろくなっている、みたいな感じか。

 俺がふむふむと痛みをやせ我慢しながら掌を観察していると、魔術師の攻撃に盗賊共は全員ハッとなり一瞬戸惑いながらも俺に向かって突っ込んできた。俺もちゃんと考察しながら小石は撃っていたが。

 俺は焼けただれた掌を治癒すべく首を覆っている全身タイツに掌を押し当てた。非常に痛いが四肢欠損よりはマシ、と思って我慢する。

 そして俺が手の中の小石を撃ち尽くしたとき、ちょうど盗賊共も俺に殺到し始めた。


「死ねぇぇええええ!」

「え? やだよ」


 大上段で斬りかかってきた盗賊に俺はそう返しながら頭を裏拳で吹き飛ばす。あ、白手袋が汚れちまった。

 俺の一撃を見たためかまた怯んで突っ込んでこない盗賊共。はぁ、しょうがない。俺から行くか。

 そう思い俺は地面を蹴る。ちょうど皮膚も治ったようだし。


「ハロ~、元気?」

「ぇぅ? あ、あ、あぁぁぁあああああ!」

「うるさい」


 一瞬で一人の盗賊の後ろに立ち止まった俺は声をかけるのだが、喚かれた。うるさいのでそのうるさい喉を削り取っといた。

 盗賊は呆然とし、口を数回パクパクと動かしたかと思うと白目をむいて倒れてしまった。何今の、おもしれっ!

 俺はもう泣き出し始めている者がいる中でニタリと嗤う。


「さぁ、俺の玩具となって壊れてくれ」




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