二十三話『出発』
リラを小脇に抱え、またも大臣の身内を殺した俺はその脚で荷物を取りに行った。
リュックの置いてある場所は分かっているので一直線にそこへと向かう。
誰もが活動を停止する深夜の王城内は不気味なほどに静かだった。
音を立てず、しかし風を切る音やリラの寝息などは抑えきれずに俺は走る。
と、そのとき。
「なにやぶはっ!」
なんか目の前に黒装束のような衣装で身を包んだやつが現れたので殴って気絶させた。え? 殺さないのかって? ただ何をしてるのか聞いてきたくらいで殺しなんかしないよ。快楽殺人者じゃあるまいし。
そんな感じで度々変な人が目の前に立ちはだかっていたが、俺は全員気絶して前へと進んでいった。
リュックは良かったことに俺の降ろした場所と同じ場所に置いてあった。
中身も取られている気配はない。リュックは盗難の可能性を考えてちゃんと細工をしておいたのだ。
細工と言ってもマジックテープを蓋のふちに作っただけだけどね。まあ超強力なやつだけど。
俺は俺の脇でスピーと寝息を立てるリラに苦笑しながらリュックを片肩にかけ、城を出る。
しばらくしたら人類が敵、なんてことになったりしないか心配だ。
今回の城で起こした騒ぎを思い出しそんなことを思う俺。王様をボコボコとか凶悪犯罪者として指名手配されてもおかしくない。一応人殺してるし。
「ん? 今何か通らなかったか?」
「は? お前酔ってんのか? 何も見えなかったぞ?」
「う~ん……そうならいいが……」
城壁の上で見回りをしている兵士の後ろを通り俺は王城の敷地内を飛び出した。ずっと遠くまで広がる町並み。第二、第一の城壁も見える。むしろ草原が見えないほど遠い。
満点の星空を眺め……俺は重力に引っ張られて落下を開始した。
重力によって加速する俺の体。物体の落下する速度は重さや質量によって変化することはないという。羽と鉄球でさえ真空状態で抵抗が極力ない状態でやればほぼ同時に着くという。
とまあそれはおいといて、俺の今の体重は数トンだ。全身タイツが半端じゃない重さを誇っている。それに加えてリュックもかなり重い。
そんな俺が重力によって加速して地面に激突すればどうなるか。
「やっべ……」
そう考えた瞬間、激しい轟音が閑散とした町並みのその雰囲気ををぶち壊した。
城壁の上では今の轟音ににわかに騒がしくなり、音の発生源であるここ付近に集まってきた。内壁の内側にある家々はどれもこれも貴族やらが住んでいるため、その家を守る警備員がぞろぞろと出てくる。
俺は着地の瞬間落下速度と同じ速度になるように上に向かって投げておいたリラを優しくキャッチし、小脇に抱えながらこの状況をどうするか悩んでいた。
地面にはクレーターのように一部が陥没し、地割れのごとく周りまで皹が広がっている。
その中心に立っている俺。
「…………逃げよっと」
俺は膝ほどまで埋まった脚を引っこ抜くと闇夜に紛れて裏路地を滑走した。
逃げて逃げて着いた場所は豚さんのおうち。
「こ~んば~んわ~」
そう言いながら俺は扉を破壊して入っていく。ちなみにリラはまだ寝ている。あの轟音の中寝ているとか大分図太いやつだな。
俺の派手な登場に屋敷の中は大混乱。怒号が飛び交うとても素敵な光景が見えた。
しばらく蹴り壊した扉を細切れにする作業を楽しんでいると豚が出てきた。
「あぁぁぁぁあああ! 私の家が! 本邸がぁ!」
「おっす! 久しぶりかな? もう俺王都出るから馬車の用意よろしく!」
「何を言ってるんだ貴様ぁぁぁあああ!」
「あ、そういえば俺、王ボコボコにしてきたぜ! 好戦的な王だなぁ」
「…………え? …………え? …………え?」
豚は疑問の呟きを三回に渡って呟いた。そんなことしても誰も突っ込んではくれんぞ?
そんな豚ちゃんを俺は放っておいて俺は屋敷内へと入る。
ここは本邸というだけあってオルスタ(フォレス山脈の谷にある城砦都市)の屋敷より豪華だ。それもロビーの真ん中にある細切れの扉で台無しだが。
そして俺は適当な部屋に入り、リラを寝かせると俺も仮眠に入った。肉体的に睡眠がいらなくても精神的には睡眠をしていた方が安心なんだよね。
俺は未だに騒がしい本邸を鬱陶しく思いながら意識を手放した。
翌日。寝不足と思われる豚が不承不承といった風体で俺の前に現れた。ストレスはハゲの元だぞ?
豚は欠伸を隠しもせずに大きくすると喋りだす。なんかだんだんこいつふてぶてしさを隠さなくなってきたな。ちょっとお灸を据える必要があるかな? 例えば……この屋敷壊すとか。
「すいません調子に乗りましたもうしません」
と思ってたら口に出ていたようで豚が謝る。ま、今はいいか。
俺が豚に続きを促すと豚は少し戸惑うような素振りを見せてから喋りだす。
「あの、流石に私も大商会の長でありまして、常に足にされるわけにもいかないのです。ですから、その、代わりの足を用意したのでそちらでお願いしたいのですが……」
「別にいいよ」
「はい、そうですよね、分かっていましたよ……て、えぇ?!」
なにやら勝手に自己完結していた豚は俺の即答に激しく動揺した。どうしてそこまで驚く。
俺は屋敷の前の通りにある馬車を見て別に問題ないと判断すると豚に言う。
「てかなんでお前じゃないといけないと思ってたの? 逆に俺が知りたいわ」
「いや、普通自分より上の者を馬車に乗せるなら信頼の出来て技術も申し分ない者を選ぶのでありまして、不幸なことに私はかなり御者が達者な者でして……」
「なら別にそれを隠してやればよかったんじゃ?」
「とんでもない! そんなことバレたらどうなるか……考えるだけで鳥肌が立ちますよ」
そう言って豚は寒さで腕をさするような動きをする。てか本当に鳥肌立ってんじゃん。どんだけ怖がってんだよ……
ともあれ豚の御者はもう終わりだそうだ。俺はそのことをリラに言うとリラはニッコリ笑って豚に手を振る。
「豚ちゃんばいば~い!」
「豚……! おい奴隷風情が私に向かって――」
「これって誰の奴隷だったっけ?」
「私などただの豚でございますよチクショウ!」
もうヤケクソ、といった豚を置いといて俺はかなり頑丈な造りの馬車に乗り込む。車輪など希少な金属で作られているようで壊れる心配はない。引く馬が心配だが……それは前みたいに相棒を加えさせればなんとかなるだろう。
「初めまして。これから貴方方の御者を勤めさせていただきます、キルと申します」
「殺し屋みたいな名前だな」
馬車に乗り込み、前後にある腰掛のうち、後ろのほうに座ると、前に空いている窓から御者の者が挨拶をしてくる。
その名前に思わず突っ込むと御者は大慌てでそれを否定する。だってキルだぜ? 初対面の相手に対して殺す宣言するんだぜ? 酷い言い草だ。
まあ、何はともあれこれから一緒に旅する間柄。仲良くしなきゃな。
「冗談だ。俺は死神。こいつはリラ。よろしくな」
「はい! よろしくお願いします!」
そう言って十代と思われる少年、キルは笑みを浮かべた。
そろそろストックがキツイ




