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二十二話『恨む者』

 数日後。

 特に何もなくダラダラと過ごしたこの数日。

 毒入りご飯が出たときは、う~ん十点! この程度の毒じゃ指先が痺れる程度だぞ! と言ったくらいで他にこれといった出来事はなかった。一応毒殺しようとしていたので大臣の妻を殺しておいた。ほら、俺ってば有言実行が座右の銘だからさ。ちなみに有言実行って造語らしいね。本来は不言実行って言ってそれを文字ったのが有言実行らしい。どうでもいいね。

 そんなこんなでもう次の目的地に行こうかな~、と考えていた夜のことだ。

 俺は明かりを消した室内を暖炉の火だけで照らしていた。やっぱこういう雰囲気って良いよな~。

 薄暗い部屋の中。ユラユラと揺れる炎にあわせて俺の膝の上に乗るリラも揺れる。もうおねむかな?

 ソファで深く、それは深く腰掛けてそんなことを思っていたとき。


コンコン


 静かな、しかし聞き逃さない程度の絶妙な力加減のノックが部屋に響いた。

 なんのこっちゃ、と思いながら俺は声を出す。


「どうぞ~」

「失礼します」


 扉から入ってきたのは美しい女性だった。

 やや黒がかった緑の髪を一つに纏め、右肩から前に流している。垂れ目がちな目は右目下のほくろもあいまって母性を感じさせた。

 艶やかな唇は妖艶さを醸し出し、生地の薄いネグリジェに身を包んだ体はプロポーションを浮かび上がらせていた。

 女性は綺麗な、しかしどこか妖しい雰囲気を纏いながらこちらへ歩み寄ってくる。

 扉に背を向けていた俺は膝にリラを乗せて撫でながら肩越しにそれを見ていた。

 女性は俺の数m手前で立ち止まるとネグリジェの腰の部分を僅かにつまむと片足を引き、優雅な礼を見せた。


「初めまして、私はマリアと申します。以後お見知りおきを」

「へ~、『勇者ナギの冒険』に出てくる王女様と同じ名前じゃん」

「あら、知っておいででしたの。親が王女様のように心の優しい方になれということでつけたそうですわ」


 女性はそう言って上品に笑う。

 俺は前を向き女性に背を見せると口を開く。


「んで、何しに来たの~?」

「まあ、この時間に女性がこんな姿で来てすることなんて一つじゃありません?」


 俺の問いに女性は僅かに拗ねたような声音でそう言った。


「やることは一つ、ねぇ。なんだろうな~。例えば行為の最中に暗殺、とか?」

「半分正解ですわね。もう、暗殺だなんて物騒なこと言わないでくださいまし」


 声音、鼓動、息遣い全て正常。

 俺は続ける。


「やだなぁ、俺ってば災害扱いなんだぜ? そう簡単にあの場にいた人以外の人が来るわけねぇじゃねぇか」

「私はあそこにいた貴族の娘ですわ。なんの問題もございません」

「いや、それだと今度は違う問題が俺にくるんだが……」


 なんだなんだ? あれらの貴族は俺にコネでも作ろうってのか?

 俺の呟きに女性はまた上品に笑う。


「つれないお方。お父様達は皆あなたに壊されたくないので一つでもしがらみが出来るよう頑張っているのですわ」

「で、その一つが女、と」


 声音、息遣い、所作、瞬き、動き、目立った異常なし。

 俺の言葉に女性はコクリと頷くと、俺に近づくため足を踏み出そうとして、


「こっちに来るな! オバサン!」

「オバッ?!」


 リラの威嚇も込めた声に歩みを止めた。

 声音、息遣い、所作、瞬き、動き、異常なし。

 俺は俺の膝の上から飛び出し、ソファに座っている俺の隣に立つとソファに爪を立てて威嚇する。尻尾がすごいことになってる。ツンツンだ。

 女性は女性にとって言われたくないことベストスリーに入りそうな言葉を言われて硬直する。

 が、すぐに我を取り戻すと行動を再開する。この間も完璧だな。


「お譲ちゃん? オバサンはいけないわよ。まだ私は二十台――――」

「それ以上近づいたら殺すよ?」


 そう言って俺は女性が踏み出そうとした場所へ避けられるような速度で装飾品を投げる。ちょうどいい感じの丸さで大きさだったんだよ。

 装飾品は瞬く間に砕け散り、火の光を反射して美しく散る。

 俺が振り向くと女性はびっくりしたような顔で足元と俺を見ていた。

 ああ、本当に完璧だ。


「何を――」

「それはこっちの台詞だけどな。暗殺にきたんだろ? ならさっさと帰れ。ちょっと今度は大臣の子供殺してくるから」


 俺はそう言ってソファから立ち上がる。俺今全身タイツ着ているから無茶苦茶重いんだよね。そのせいかソファがものすごい凹んでる。だが、その角度がちょうどいい。

 と、振り向くとリラに向かって女性は何か投げていた。俺の化け物動体視力が捉えた情報では、自転車のスポークのような形状のものが超高速でリラの眉間に向かっていた。しかもそれの先には液体が塗られている。毒だな。

 俺はそれをとりあえず空中で掴んで相手の足の甲に投げた。避けられない程度の速さでかつ貫通しきらないように。

 結果は手加減のし過ぎで避けられたが。ん~、上手くいかんなぁ。

 女性は先ほどと打って変わって無表情で構える。


「…………何故分かった」

「え~、ネタバレすんの~? いいよ!」

「…………」


 なんも反応してくれない女性、否暗殺者は無言で俺を睨む。

 俺はそれにちょっぴり悲しくなりながらも答えてやる。


「鼓動だよ。心臓の鼓動。お前さぁ、驚くほど心臓の鼓動が変わんなかったんだよね」

「…………」

「声音とか表情とか仕草とか全部普通の女性となんら変わんなかった。ぶっちゃけ俺でも気付けないくらいにはすごい。俺がどこまで知覚出来るのかはわかんないけどね」


 実際達人にありがちな足音を無意識に消すとか無駄な動きをしないとかそういうのもしっかりと再現できていた。

 そして今は全てを無意識に行っている。


「その中で心臓の鼓動だけ全く変わらなかったんだよ。リラにオバサンと言われたときも表面上は驚いていたけども内心では(さざなみ)の一つも立たなかったでしょ」

「…………なるほど。そこを知覚されるとは思わなかった。参考にする」

「いや、別に参考にしなくてもいいよ~。だってここで死ぬんだもん」


 そういうや否や俺は手刀を作り衝撃波が出るくらいの強さで振るう。ドラゴンを倒したからか、また力が上がっている。

 暗殺者は顔色一つ変えずにその場を飛び去る。が、俺の初動が見えなかった暗殺者は回避が遅れ、腕を一本もって行かれた。二の腕の中間辺りから鮮血が迸る。

 今の衝撃波で室内もすごいことになったが、今はどうでもいい。暗殺者も来てくれたことだし用はないからね。

 俺はすぐさま返す手刀で衝撃波を放つ。

 が、考え事をしていたのが悪かったのか放つのが若干遅れ、相手は体勢を立て直し今度は回避した。


「シュッ!」


 短い呼気の音が聞こえたかと思えば俺の両目にかなりの速さで針が飛んで来ていた。吹き矢か?

 俺はそれを片手を横にして目を庇うことで防ぐ。が、この視界が潰れた隙を相手が放っておくはずがない。暗殺者は俺の足を狙って小刀を振るい……


「あ、ごめん。俺視界以外もかなり鋭敏なんだ」


 手ごと俺の足に踏み潰された。

 数トンの体重が乗った踏み潰しは暗殺者の腕を巻き込み、数十cmはめり込んだ。

 暗殺者は痛みなど感じないのかすぐさま千切れかかった腕を引きちぎり、距離をとる。

 息が乱れて、脂汗も滲んでいることから流石に痛みを感じないわけではないだろう。

 俺は最後の優しさをもって話しかける。


「痛いでしょ? もう諦めなよ。そしたら苦しまずに殺してあげるから」

「…………暗殺者はたくさんの命を奪う。故に碌な死に方はしない」


 暗殺者の決意のような言葉を聞いて俺は一言。


「あっそ」


 暗殺者の脚を斬る。


「ッ!」


 そしてバランスの崩れた暗殺者が倒れこむ前にもう一つの脚も斬る。

 これで四肢を失った暗殺者は地面へとボトンと落ちた。

 また意識はあるのか暗殺者の女は苦痛に顔をしかめて俺を見上げる。


「…………暗殺、失敗、か」

「そうだね~、見事なくらい完敗したね~」

「…………今回の敗因、慢心。……情報を、調べることを、しなかった、私の慢心」

「ん? それだと調べれば俺に勝てるような言い方だけど?」


 なんか引っかかる言い方だったので聞き返す。

 暗殺者はその美麗な顔を苦痛に歪ませて語る。


「……ちが、う。こんなんだと、分かれば、暗殺しな、かった」

「ふ~ん。んで、依頼主は誰?」

「…………暗殺者の、誇りに、かけて、言えない」

「人殺しに誇り、ねぇ」


 俺は誇り、と聞いて嘲笑する。

 人殺しに誇りねぇ。そんなもんあるのだろうか。誇りとは名誉に感じること、だ。人殺しを名誉に感じ、それのルールを絶対遵守する。ふぅん。

 俺はとりあえず聞きたいことを聞けたので脚を振り上げる。


「それじゃ、最後に言いたいことある?」

「……………………世界が、憎い」


 最後を悟った暗殺者の言葉は本当に本心からの言葉だと理解できた。

 こんなことを言う暗殺者はどんな境遇で育ち、どんな世界を見てきたのか。どれほどの絶望や失望を味わえば死の間際にそんなことを言えるのか。

 少しばかり気になったが俺はすぐに思考を元に戻す。


「そっか。そんじゃね~」


 グギャ!

 そのような音を立てて暗殺者の頭は砕け散った。

 俺は床に埋まった脚を引き抜き、血で汚れたこの部屋を見てため息をつく。


「世界が、ねぇ」


 俺は服についた染みをどうやって取ろうか思案しながら口を三日月形に裂いた。








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