二十一話『次なる目的』
王室に入った俺は、用がありましたらそこの鈴を鳴らしてください、と言って部屋を出た貴族に微笑んでから室内を物色し始めた。今から暗殺者が来るまでまだ時間がかかりそうだからな~。それまで暇なんだよ。
俺は今回の事柄を通して暗殺者の力量を見極めようと思っている。ぶっちゃけ王に会いに来たのはこっちが本命。王をボコボコにしてお前は下僕宣言でもすれば最高位の暗殺者を派遣してくると思ったのだ。
それは多分上手くいっているだろう、と俺は思っている。最後の一言であいつらは失敗できないから、と最高位の暗殺者を送るだろう。逆に怖気づいて送ってこなかったら困るけど。
そんな感じでまだこないであろう暗殺者を楽しみにし、部屋を見渡す。
流石は王室とだけあってどこぞのスイートルームのような広さだ。ベッドルームは奥の扉の先らしい。
リラはつないでいた手を離し、キラキラした目で部屋を走り回る。どうでもいいが床の絨毯の毛が結構深いからこけないか心配だ。
一通り走り回って満足したのか白い革張りのソファに座った俺のところに戻ってきた。
「すっごいね! この部屋キラキラいっぱい!」
「おお、そうだな~。どれ、こっちゃこい」
「うん!」
俺が手招きをするとリラはも迷いもせずに俺の膝の上に乗ってくる。
俺は自然にリラの頭を撫でながら白い手袋越しの感触を楽しんだ。
「さて、リラ。王とのお話ご苦労様」
「うん! あのね、きんちょーしたけど上手くできたよ!」
「そうだな~。本当に良く出来てたよ」
「えへへ~」
俺が褒めながら頭を撫でるとリラはこちらを見上げて屈託のない笑みを浮かべる。
それに俺は和みながら言葉を発する。
「これからしばらくはここで過ごすことになるな~」
「そうなの? どこかに行かないの?」
「う~ん……特に気になるところがないからなぁ。ま、それもおいおい考えていくさ。なんなら俺が育った場所でも見に行くか?」
「え?! いいの?! 行きた~い!」
俺の育った場所とはもちろん現代ではなくて【常闇の森】だ。あそこに行けば今の台詞も『行きた~い』ではなく『生きた~い!』に変わるだろうな。
なんて考えながら部屋を見渡していると本棚を見つけた。ちょうどいい、知識とかあれで蓄えておこう。どうせ暇だしな。
俺はリラに適当な本を取ってきてもらうよう言う。
「リラ、ちょっと適当な本を持ってきておくれ」
「は~い!」
リラは元気よく返事をするとピョンと俺の上を飛び降りてトテテ~と本棚に向かう。腰まである金髪が揺れる揺れる。尻尾もユラユラと揺れる。あんまりぶんぶん振り回さないんだな。確か狐ってイヌ科の動物だった気がするんだが、どうなんだろう?
と、ふと思っているとリラが一つの本を持ってきた。少し分厚いな。一cmくらいか。
「はい! どーぞ!」
「ありがとな~」
リラが両手で差し出してくる本を俺は受け取り、表紙を見てみる。
表紙にはよくわからん文字が書いてあったが、やはりすぐに翻訳され、『勇者ナギの冒険』というタイトルが読めた。ふ~ん、勇者か。まさか日本人だったりしてな。
なんて思っているとリラがまた俺の膝の上に乗り、尻尾をふわふわと揺らしていた。なんだ? と思っていると、
「ご本まだ~?」
なるほど、リラは本を持って来いという命令を、本を読んでくれると勘違いしたわけか。
俺は僅かに苦笑しながら本を持った両手を大きく回し、リラの前に移す。するとリラは間にあった本がなくなったことで出来たその隙間をつめて、体を密着させると体重を預けてきた。
俺はリラの少し茶色がかった金色の耳で前が見えないためリラの頭の横に顔を出すようにして本を読む。
「『勇者ナギの冒険』」
表紙を開いたところにあったタイトルを読み、ペラッとめくる。紙は分厚く、ごわごわしているためそこまでページはないようだった。
「『ある日、ある国の王さまはこまっていました。となりの大陸にある魔王が海をわたってせめてきたのです。魔王のなかまたちはとてもつよく、国のへいしたちではとてもかないません。
そこで王さまは言いました。
【勇者さまをしょうかんしよう】』って、え?」
俺は思わず声に出してしまった。
え? これって明らかにテンプレすぎるでしょ。
俺が戸惑っていると、リラがこちらを見上げているのが目に入る。
「どうしたの?」
「いや、なんでもない。じゃあ読むぞ~。
『しかし勇者さまをしょうかんするにはとても大きなぎせいがひつようになります。
そこで手をあげたのが王さまのむすめであるマリア王女です。
マリア王女は大きなちからをもっていました。それこそ大きなぎせいをひとりですませれるくらいには。
そしてみごと勇者さまのしょうかんはせいこうしました。
勇者さまはふしぎな格好をしており、それは見るものに神聖さをおぼえさせるほどきれいなものでした。
勇者さまはふしぎなちしきをもってどんどん国の生活をゆたかにしていきました。
そしてたくさん修行をしてつよくなった勇者さまはおたがいに信じあえるなかまとともに魔王をたおしたのです。
こうしてよのなかにはへいわが訪れました。めでたしめでたし』」
ほんの数ページの本を読み終えるとリラがパチパチと手を叩く。うん可愛い。
じゃなくて、この勇者って嫌な予感しかしない。
俺は何か手がかりがないか本の裏や、背表紙、裏表紙など見てみる。
しかし手がかりらしきものは何も見つからない。
どうしようかと思っているとベルが視界に入った。
これだ! と思った俺はすぐにそれを手に取り、鳴らす。
チリ――
「はい! なんでしょうか?」
速い。ものすごく速い。まだチリンって鳴ってなかったぞ。
俺は少し面食らいながらも案内してくれた貴族に聞いてみる。貴族って傲慢なイメージしかなかったんだけど、あれだけすごいの見せたら仕方ないのか?
「この『勇者ナギの冒険』って実際あった話なのか?」
「はい、それは実際にあった話です。というよりも今も続いている話ですね」
「え?」
「流石に初代勇者はお亡くなりになりましたが、あれから百年に一度くらいの頻度で召喚は行っております。魔王の活動時期もそれくらいの周期なので」
俺はこの言葉に声が出ない。
唾を飲み込み、乾いた唇を舐めてから俺は声を絞り出す。
「今はどうなんだ?」
「はい? 召喚のことでしたらつい最近ありましたよ? 確か三年前ほどですね。あと二年ほどで魔王が活発に動き出すので勇者は現在修行中です」
「…………そいつらは強いのか?」
「はい、歴代勇者はいつも何かしら不思議な力を持っており多彩な技術を持っています。私の聞いた話では、勇者方には『すてーたす』なるものが見えていたり、見たものを『鑑定』することが出来るそうです。商人には涎ものの能力ですな」
そう言って貴族は朗らかに笑う。
この貴族の仕草や表情、声音からおそらくこの情報は出回ってないものと思われる。まるで秘密の情報をこっそり教える子供と同じものだったからだ。ちなみに何故そんなことわかるかというと、あの森で俺はそういう人間の鼓動など知るために、架空の友達を作りいろんなパターンを検証していたのだ。あれは難しかった。本気で演技する自分とそれを冷静に見る自分に分かれないといけないからな。あの本気で虚空に向かって話している様を見るのがどれだけ辛いことか……
ともあれ、俺と同時期に勇者とやらは召喚されているようだな。しかも結構強いとのこと。
一応強さの目安を聞いておくか。
「勇者の強さを大体で表すとどんなもんなんだ? あ、冒険者のランクで頼む」
「冒険者ですか。確か…………戦闘能力だけで言えばSと同等はあるとか……」
と、俺はここでいつも小説を読んで思っていたことを聞いてみた。
「ん? なら普通にSランク冒険者に頼めばいいんじゃないの?」
「それなんですが……私の推測ではお金の問題だと思います。勇者は召喚されて魔王のことを話すとやたらと積極的に手伝ってくれると聞きました。故にSランク冒険者に多額の依頼料を払うよりも勇者を召喚して訓練など時間はかかるが安上がりな方を選んでいるのでは、と。二代目からは犠牲なしで召喚する術も手に入れたそうですし。それと必ずしもSランク冒険者が手伝ってくれるとは限りませんしね。人数も少ないですし」
なるほどなるほど。なんか一杯情報がきたけど、要するに『金』ね。うわっ、現実的っ。
ともあれなんかその勇者キナ臭いなぁ。日本人だろ絶対。てか思うんだけどなんで召喚先は地球でしかも日本人なんだろう? 日本人くらいだからか? 助けてください、はいいいですよ、なんてお人よしがいるのは。
とりあえず次の目的は決まったな。
「そんでその国ってどこ?」
「大陸北東にあるカリバン帝国です」
「サンキュ~。んじゃもういいよ~」
「はい、では失礼します」
必要な情報が手に入った俺は貴族を帰す。
それにしても勇者かぁ。どっちだろうな? よくあるイケメンリア充でハーレム作ってラブコメしてるようなやつかな? それとも質実剛健で寡黙な男、いや漢かな?
そんなことを想像しながら俺は次なる目的を定めたのだった。
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