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十八話『豹変』

 豪華絢爛。

 そんな言葉が似合う王城内の謁見の間。

 そこは今にも弾けんばかりの爆弾のごとくピリピリした空気に包まれていた。


「して、貴様は何故(こうべ)を垂れぬ」


 数段高い位置にいる王様の右後ろに控えた、大臣のような年老いた男が苛立ちを隠しきれずにそう言った。

 それに対して俺の前にいるリラは微動だにせず、彼らに相対する。


「私達は貴方方に頭を下げる意思はありません。むしろ貴方方が下げる方ではないのですか?」


 リラは先ほどのようなビクビクとした雰囲気は消え失せ、むしろ相手を嘲笑するまでに至る。

 この挑発に大臣と思わしき人物は簡単に怒頂点を通り越し顔を赤く染める。多分いつもの彼はもっと冷静で頭の回る人物なのだろう。しかし奴隷に嘲笑されるという最大限の侮辱に我を忘れているだけで。なんとなく擁護してみた。


「奴隷風情が……」

「その奴隷にいいように言われる貴方も貴方ですけどね」


 ああ言えばこう言う。それを体現しているリラはただの餓鬼に見えるかもしれない。しかし俺には何故かすごく頼もしく見えた。それは俺も餓鬼だからかもしれない。

 大臣がその言葉に更に激昂しようかと言う時、厳かな声が広い謁見の間に響き渡る。


「コーラント、やめんか。…………してお主らは何故頭を垂れぬ。我はこう見えてこの国の王なのだがな」

「はい、王よ。お答えしましょう」


 リラはそう言ってその小さな口を開く。

 このリラの豹変。それは今から数分前に巻き戻る。











 王城内へと足を踏み入れた俺たちは控え室のような場所で王たちが準備を整えるのを待っていた。


「さて、リラ」


 俺は部屋に入り、監視などが密かに俺たちを見張っている中リラを呼び寄せる。俺にバレてる時点で密かなのかどうかは疑問だが。

 リラは未だに借りてきた猫のように縮こまっているが、俺の命令にはキチンと従う。

 革張りのソファに腰を沈める俺の上にリラはすっぽりと収まった。

 そして俺は白い手袋の上からもふもふを堪能する。

 徐々に強張りが抜けて骨抜きになっていくリラ。俺は程々にもふると声を鎮めて喋り始めた。


「リラ、返事はしないでいい、頷きもしないでいい。俺の話を聞け」

「ふぁ、ふぁい……」

「真面目な話だ」

「ッ!」


 リラはいつになく真面目な雰囲気の俺にびっくりし、また体を強張らせる。

 それを俺はもふもふでまたほぐしてやる。

 リラから困惑の感情が伝わる中俺はリラの頭に顔を埋めて、あたかも匂いをかいでいるような体制で囁く。


「これから王とのお話(・・)があるな?………………王と話をするのはお前だ、リラ」

「ッ!?」


 結論をいきなり言ったのだが、やはりリラは困惑と驚愕をないまぜにしたような感情を俺に伝える。器用なやつめ。

 俺はリラの尻尾を手櫛で丁寧にときながら言葉を続ける。


「約束したよな? 俺はお前に降りかかる火の粉を振り払い、お前を絶対に守ると。その代わりお前は戦闘以外の全てを担うと。今がその時だ。今からの王とのお話はお前がする。そしてお前は俺にとって都合の良い話を取り付ける。俺はこういうの苦手だからな。それと王相手でも下手に出ることは許さない。もちろんお前や俺が頭を下げるなんて論外だ」

「………………」


 リラはだんだん困惑を強めていく。

 そんなリラに俺はトドメの一言を囁く。


「俺が満足しなかったらリラ、お前をあの豚に売り払う」

「ッ!」


 俺の言葉にリラは細かく体を震わせる。鋭敏な知覚能力を使わなくてもリラが泣きそうなことが分かる。

 俺はそんなリラを優しく、包み込むように抱き寄せる。腹に手を回し、肩に顎を乗せ、耳元で囁く。


「俺はリラを信じてる」

「…………」

「だからリラも俺を信じろ。なぁに、そんなに難しい話じゃないさ。例えば王に俺が従う意思がないことを示すだけでも良い。簡単なことだ。そのためならどんなことをしても良い。俺たちの持ち札は『死神』と『豚』と『国庫が傾くほどの素材の山』だ。三番目の素材はあまり使いたくないがどうしても必要だったら言っていいぞ?」

「……」

「俺はお話で何があってもお前は守る。たとえあの場で魔法が飛んで来ようと矢が飛んで来ようと騎士が飛んでこようとお前を守ろう。……だから俺を信じてお前は王を崩せ」

「!」


 腕の中のリラが覚悟を決めたのが分かった。

 どうやら極限状態のリラはよほど余裕がなかったらしい。あんな俺の言葉をいとも簡単に呑みこんでくれた。普通、出来なかったら売り飛ばす、とか言ってるやつの言うことなんざ信用できるかっての。

 俺は覚悟を決め凛とした気配を発すリラの頭を、良い子良い子、と撫でる。


「死神様。王様の用意が整いました」


 しばらくすると、メイドが俺たちを呼びに来た。ちなみにこの世界のメイドは質素な方だ。キラキラキャハハのようなものではない。淑女だ。

 メイドの言葉にリラは俺の膝の上からすっくと立ち上がる。

 なにやらいつにない雰囲気を纏いながらリラは前を向いたまま、


「行きましょう」


 やはりいつにないキビキビした口調で俺に起立を促した。











 そして話は今に戻る。

 俺は入ってきた大きな扉の脇で壁に背をもたれかからせ、目を閉じてリラの立ち振る舞いを見守って……聞き守って? いたが、少々戸惑っていた。


「王よ。私達が貴方方に頭を下げない理由。それは……御主人様がそれを望まれていないからです」


 リラの言葉にまだ若いであろう王はピクリとも顔を動かさない。逆に大臣が顔を憤怒に染める。

 俺が何に戸惑っているかって? そんなのリラの豹変振りに決まっているだろう。

 なにがあってリラに変化をもたらしたか知らんがあれはおかしい。喋り方もキビキビしているし。

 もしかして俺の売り飛ばす宣言で前のリラが戻ってきたのか? うわぁ、それならやっちまったなぁ。せっかく幼児退行して可愛かったのに……

 俺が密かにため息をついていても話は進む。


「ふむ、お主の御主人様とやらは死神のことか?」

「はい、その通りです」

「では何故死神は我に頭を垂れぬ」

「嫌だからです」


 リラの返答に場が静まる。全員、は? って感じだ。

 そりゃそうだ。一国の王の前で大した理由もなく頭を下げることを拒否したのだ。

 場の静けさはシャリンッと剣を抜く音で切り裂かれた。


「王様、この無礼者は今ここで斬ります」

「待て。……我はお主らが頭を垂れぬ事を許そう」

「「「ッ?!」」」


 大臣の反対側、王の左後ろにいた白銀の鎧を纏った騎士が剣を抜くが、王はそれを止める。それどころか俺達の無礼を許すとまで公言した。

 その言葉に俺とリラ以外の者たちは驚愕に息を呑む。

 リラはそんなのお構いなしに話を続ける。


「さて、王よ。無駄な時間はこれくらいにしてお話に移りましょうか」

「ああ、そうだな。我としてもそれを望む」


 燃えるような赤髪を短く切りそろえた王は厳かに、焦りなど微塵も感じさせない声音でそう言う。

 しかし、俺の知覚能力の前には誤魔化しなど効かない。王の心拍数や息が僅かに上がっていることまでも手に取るように分かっている。リラの挑発で部下がいつ暴走するか分からず焦っているのだろう。王は良くても配下が屑か。大方外に漏れなければ良いと考えているのだろう。一応ここには一部の上流貴族と思わしき人物達と王とその側近と、精鋭の騎士しかいないようだからな。王の子供もいないようだし。

 いつ爆発するか分からないこの空気に俺もより一層目を閉じて空気の流れを読むのだった。


「ではまずはオルスタでのドラゴン討伐ご苦労だった。礼を言う」

「礼の言葉などいりません。それに心のこもってない礼ほど無礼なものはありません」

「貴様――――」

「よい! 控えよ。……………………その通りだな。ならば礼を贈ろう」


 王の傍の騎士が先ほどしまった剣をまた抜こうと手をかける。が、またも端麗な顔を僅かに歪めた王に止められる。

 王はもう既に傍目からでもわかるくらい焦っていた。そりゃそうだな。今のリラは何かが違う。多分これも狙ってやっていることなのだろう。この相手を怒らせるような空気も。王を焦らせることも。

 そして王はその思惑に乗らないために配下を抑圧するが、今度はそのせいで王としての威厳が失われつつある。その板挟みで王は冷や汗まで流している。

 俺は王の右後ろの騎士――騎士団長とかそういうのだろう――が後ろ手で何か合図を送るのを察知しながらまだ続く王とのお話を聞き入った。










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