十七話『全身タイツの性能』
二人して興奮気味に王都を見ていると馬車が止まった。
何度か曲がっていたのでおそらく豚の王都にある家に着いたのだろう。外を見ればやはりでかい屋敷がドーンと鎮座していた。…………壊し甲斐があるな。
「お願いだから止めてください!」
「む? 口に出ていたか。それはどうでもいいとして、ここがお前の屋敷か」
「どうでもいい?! 私の本邸をよりにもよってどうでもいいですと?!」
「壊していいの?」
「すいません! で、あなたはどうするのですか」
ちょっとした漫才みたいなのをやっていると豚が普通の問いをしてきやがった。いや、いいんだけども。
俺は少しだけ考えて、口を開く。
「う~ん、ちょっと王城に行って王様とO☆HA☆NA☆SIしてくるわ」
「は? それは、つまり……謁見ということですか?」
「ん~や、それって俺が下みたいじゃん。そんなんやだわ。だからお話~」
俺がニコッと笑ってそういうと豚は絶句する。しかも顔色まで悪くなっている模様。そんなんだと品質が悪くて食べられる前に捨てられるぞ。むしろ店頭に並ぶことも出来ない。
閑散とした良い雰囲気の屋敷の前で豚は喚く。
「どういうことだ! それだと私まで被害が及ぶかもしれないではないか!」
「かも、じゃなくて及ぼすんだよ。え? わかんなかった? 最初に約束したよね? お前は俺の下僕だって」
俺はニタリと嗤って豚に言ってやる。すると豚は顔を青ざめさせ何も言えなくなった。タイトルをつけるとしたらまさに『絶望』が似合いすぎているな。
そんな豚を置いて俺は荷車に乗せていたリュックを背負い、リラを小脇に抱えて適当な家の屋根へと跳びあが…………ろうとして今の自分の体重を思い出し止めた。たまに忘れることがあるんだよね~。気をつけないと。
「?」
「いや、なんでもない。行こうか」
俺はリラをそっと降ろすと歩き出す。あのリラの不思議そうな目がかえって俺を羞恥に貶める。
いまだどこかへトリップしている豚をよそに俺は屋敷を後にする。目指すは王城! 目的はお話! さて、どんな世間話を持っていけばいいかな?
そんな馬鹿な考えが俺の頭の中を占めていた。
「ち~っす。王様に呼ばれたんで来ちゃいました~。南の都市から来ました~。死神さんで~っす」
俺は現在王城前の城門で衛兵に話しかけている。どうやらこの王都は三枚の壁があり、それぞれ役割があるそうだ。一番外の壁は軍事的な意味合いで。真ん中の壁は貴族や大きな商人なんかと、外からの来訪者や市民を分けるために。王城を囲む壁はそのまんま王を守るために。
そして現在俺は最奥の壁へと来ていた。ちなみに豚はやはりというべきか内壁の内側に本邸があった。そういえば町並みを見ていたらまた身分証の提示を求められたな。
衛兵はピシッとした執事服なのに品性の欠片もない喋り方をする俺に訝しげな視線を投げかけていたが、俺の名前を聞くとハッとして居住まいを正した
「では確認のため身分を証明するものの提出を……」
「はいよ~。これでおっけー?」
俺はやっぱ来た身分証明書の提出にギルドカードを投げながら答えた。
衛兵はそれを見て満足したのか俺に返す。と同時にリラへと視線を投げかける。
リラは王城というおよそ奴隷では一生縁のない場所に来たためか、ポケ~っとしている。こら女の子が口を半開きにするんじゃありません。
「この子は俺の奴隷だ。奴隷なら所有物だし別に証明書は必要ないだろ?」
「はい、その通りです。では次に身体検査をさせてもらいます。これは王の身を守るための処置です。ご容赦を。もちろん武器などはこちらで責任を持ってお預かりいたします。それと、奴隷も身体検査は受けてもらいます」
「はいよ~」
「それでは失礼いたします」
そう言って衛兵は俺の体に触る。リラはちゃんと女性の方がやるそうで、リラも俺と同じように両手を広げて成すがままになっていた。
俺の方の衛兵はまず脇を触り、むっ? と疑問符を浮かべ、徐々に下に下がるにつれて疑問符をより強めた。
衛兵は一通り俺の体を調べると、意を決して俺に話しかける。
「すいませんが……体には何を仕込まれているので?」
「ああ、この下? この下には……ほら」
俺は衛兵が何に疑問符を浮かべていたのか納得し、上を脱ぐ。
黒のコートのようなものを脱ぎ、白のしっかりとデザインの施されたシャツを脱げばそこには神々しさをうかがわせる青白い全身タイツがあった。
しかし俺の答えに衛兵は更に困惑を強めた。
「まあ困惑するのもわかるわ。とりあえず触ってみなって」
「あ、はい。…………こ、これは!」
俺が困惑している衛兵にとりあえず触らせてみると、衛兵は驚愕の表情を隠しもせずにさらけ出す。この優越感というか、俺tueeee感というか……気持ち良い!
驚いている衛兵に俺は得意になりこの全身タイツの機能をほんの少し喋った。
「この防具はこう見えてかなり頑丈でな。俺がドラゴンを殺したのは知ってるだろ? あれの攻撃を受けても変形すらしなかったほどだ。難点といえば俺が動かそうとしなければ動かないことかな。力を抜いて腕をプラーンとかは出来ないわけだ」
「ほう、それはすごい。材料などは……」
「あぁ、【常闇の森】の奥深くにある木から作ったものだ」
俺の言葉に衛兵は先ほどよりも更に驚愕する。
やはり【常闇の森】というのはそれほどヤバイところなのだろう。俺的にはこの名前を使いすぎて若干マンネリし始めたが。使い方考えとこっと。
衛兵はしばし呆然としていたが、すぐに気を取り直し身体検査に戻っていった。流石だな。セバスチャンまでとはいかないまでも弟子にはなれそうだ。衛兵だけど。
そして衛兵はもう一度俺の全身をくまなく調べ、最後に口の中などを見られて身体検査は終わった。口の中とか徹底してるなぁ。普通だったら口の中を晒すとか怖くてできんだろ。俺はいつでも離脱できるようにひっそりと力を込めていたが。
「はい、検査は以上です。背中のお荷物を別の場所に保管するのでここに置いて行って下さい」
「あ~、それなんだけどな、俺が運ぶからいいよ」
「いえ、客人にそのようなことは……」
「じゃあこれ持ってみ」
俺は荷物を引き取るという衛兵にどうせもてないだろうから、と俺が運ぶことを提案した。
やはり衛兵はそれを断るので、リュックを持たせる。
流石に大きさから一人でもてないと判断したのか近くの衛兵も呼んで三人で持ち上げようとする。
「せーのっ!」
しかしリュックには相棒の切れ端や、重量のある素材なども入っているため持ち上がらない。数トンはあるしな。
それを傍目に、俺は久々の開放感に伸びをする。某亀の甲羅を背負って修行していた戦闘民族とハゲが強くなるのも納得だ。今ならなんにでも勝てる気がする。
しかしその開放感はそう長くは続かなかった。息を切らした衛兵が俺に運ぶのを頼んだためだ。
「はぁ……はぁ……すいません、運んで、いただけ、ますか?」
「おう、りょーかいりょーかい」
そしてまた俺はリュックを、よいしょっ! と背負う。あぁ、この体全体にくるずっしり感。俺は今自分に枷をつけた。
なんて中二なことを考えていると衛兵は荷物を置く場所へと案内し始めた。どうやら荷物は王城内に置いておくようで、俺たちは王城内へと通された。
荘厳な、しかし頑丈そうな実用性も兼ね備えた大きな門が僅かに開く。僅かと言ってもリュックを入れないといけないのでかなりの広さになるが。
そして俺たちは中へと足を踏み入れた。王城の敷地内へと。
門と王城への入り口にはしばし石畳の道が続き、左右は見事に施された草木のアートが垣間見得た。
王城への道のり二十mほどを歩き、門と同じくらい大きな、しかし今度は実用性よりも装飾に気を使ったような門が開く。
そしてとうとう王城内へと入る。
「ふわぁ……」
耳と尻尾を萎縮させ、ビクビクしながら着いて来たリラが背後で感嘆の息を吐いた。その後ろでは俺たちの監視か何かの衛兵が誇らしげにしている。
この国は衛兵が真面目だったり、王城を誇らしげに思ったりと結構王様は慕われているのか? ここはテンプレの屑みたいな王かと思ったんだが。
まあ俺にはそんなの関係ないけどね。
俺は未だにビクビクと緊張に顔を強張らせるリラを見て邪悪にわらうのだった。




