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十六話『王都』

「というわけで、王都までの道案内と世界地図ちょーだい!」


 俺は王都へ行くということでいつもの執事服に大玉サイズのリュックを背負って豚のところを訪れていた。

 豚は俺が来たことに隠しもせずに舌打ちやら顔をしかめるやらと不快感を露わにしている。


「何が、というわけ、だ。いい加減に……」

「あー、なんか俺の右腕が疼くわー。これはちょっとここで発散しないといけないかもなー」

「わかった! 俺が悪かった! 用意する! 全部用意するから! これ以上屋敷は壊さないでくれ!」


 俺が根気良く説得おどしたおかげで豚はそうそうに折れて俺の要求を飲んでくれた。当然だよね~、だって約束したから。

 相変わらず豚は不服そうな表情を隠しもせずに口を開いた。


「しかし世界地図はないぞ?」

「ちょうど新しい技を試そうと思ってたんだよ」

「待ってくれ! これは本当なんだ!」

「冗談じょうだん」


 俺がジョークだというと豚はあからさまにホッとした。いくらなんでも無いものに怒って八つ当たりはしねぇよ。

 てかやっぱ世界地図とかはないのな。多分戦争がどーたらこーたらなんかあんだろ。知らんけど。にわか知識だけど。

 ともかく、世界地図がないなら聞くしかないわな。


「んじゃ、ちょっとこの大陸の形とか国とか力関係とか軽くでいいから教えてくれよ」

「……チッ、分かった。まず……」


 まとめるとこの大陸は一応横長の長方形のような形をしていることになっている。一応、の意味は後でだ。そしてこの大陸には大きな国が四つと小さな国が一つあるらしい。

 大きな国はそれぞれ大陸の四隅に位置しており、大陸中央の小さな国を介して貿易など行っているらしい。

 そんで俺のいるここは、大陸中央下部に位置するフォレス山脈の谷にある都市だ。ここはフォレス山脈に囲われている【常闇の森】から出てくる魔物を大陸内に入れないための防衛も兼ねているらしい。まあそんなに頻繁に来るわけじゃないが、昔いろいろあったらしい。ちなみにフォレス山脈は半円の形に連なっており、谷はちょうど大陸中央の国に一番近いところにある。そこ以外は標高が高くてまともに超えれないらしい。

 そんで最初の大陸の形の話だが、その【常闇の森】の向こう側はわかっていないようだ。右下と左下の国の間に上向きの弧を描くフォレス山脈。ちょうどそれの延長線上を走るように海には荒波が発生しており近寄れない。しかも遠目から確認しようにも荒波の向こうは不自然に闇に覆われていて確認しようがないようだ。


「…………こんなところです」

「はぁ、そうか。とりあえず分かった。にしても【常闇の森】ねぇ。もしかしたら向こう側に暗黒大陸でもあるのかもな」

「ッ!」


 俺が冗談混じりにそういうと豚はハッとしたような顔で固まる。え? まさか、それだ! なんて思ってないよね? え? 馬鹿なの? 死ぬの?

 こんなのが会長でよく大きな商会が成り立ってるな、なんて思いながら俺は話を戻す。


「さて、それは置いといて。旅の準備とかよろしくね~。馬車とかはもちろん、食料とかそういうのも全部」

「え?」

「あ、先に言っとくけど俺に毒とか効かないと思うから。もう克服した~」

「え?」

「それじゃ、ばいば~い」

「え?」


 俺は思考の渦から上がってきた豚に畳み掛けるように要件を伝えると白い手袋をはめた手を振り、そそくさとその場を後にした。











 そして着きました王都。ちなみにあの都市は中央の小さな国、ゲルマン王国の都市だ。

 道中はずっと馬車の中で小石を投げる作業だったので割愛だ。外の魔物は本当に弱すぎて笑える。俺、結構蹂躙系の小説とか好きだったから楽しかった。

 夜営は俺のあの森の生活を思い出して感覚を研ぎ澄まして寝た。俺は万が一首に噛みつかれたりしても首の強化された筋肉で受け止めることが出来ると思うがリラは違うからな。しっかりと抱き締めて狐耳や狐尻尾をモフモフしながら寝た。気持ちよかった。そして恥ずかしかったのか、あうあう言うリラは物凄く可愛かった。

 とまあこんな感じでほのぼのと過ごした旅の時間。なんか豚はついでとばかりに商品とか乗せてたので少し遅かったが別に急いでないのでいい時間が過ごせたと思う。ちなみに護衛はいない。俺一人で十分らしい。俺でも一人しかいないんだからブラックタイガー五体とか出てきたら同時撃破出来ないぞ? 四体までならまだしも……ちなみにそんなに出てきたら普通の都市だったら、壊滅するかもしれないとのこと。テヘッ。


「ほぉ、結構でかいな」


 今までの道中のことを振り返っていると王都の城壁が大分近くまで迫って来ていた。高さ十mとかありそうだ。

 目に見える範囲では上の方で工事しているところがあった。建築なのか修理なのかは分からないがやはりこんなでかい城壁を作るにはかなりの時間がかかるのだろう。

 平原にドーンと構える巨大な城壁は圧倒的な存在感を醸し出していた。


「それでは検問に行きます。身分を証明するものなどは持っていますよね?」

「おう、これでいいか?」


 俺は豚の問いにギルドカードを掲げながら返事をする。豚はチラリと馬車の御者台からこちらを覗き穴から見てまた前を向いた。良いってことだろう。まあ最悪王に呼ばれてるって言えばどうとでもなる気がするが。いや、逆か? 王に呼ばれてるから身分のはっきりしていないものは拒まれるか? …………どうでもいっか。

 と思っていると城壁に備えられている門へと着いた。少々他の馬車やら人やらが検問を受けるために並んでいる。俺たちもその列に並ぶ。

 しばらくすると俺たちの番が来た。馬車から見ていたけど本当に簡単な検査しかしないんだな。馬車や荷車の場合は中の荷物をササッと調べて、身分証明書を見る。それだけだ。ちなみに荷物を調べるとき壷などがあった場合は全部中も調べていた。案外身分証明書とかがかなりの信用を持っているのかもな。荷物は徹底的に調べていたようだし。


「では馬車の中身と荷車の荷物を確認させてもらう」

「はい、お願いします」


 門兵は豚に一言入れるとこちらへとやってきた。ちなみに俺は外を見ていない。これくらいなら気配察知で余裕だ。


「ふにゃぁ~」

「おい、リラ。もう門兵がくるからシャキッとしろ」

「ふぁ、ふぁい!」


 ずっと撫で回していたリラは陶酔しきった顔で俺のあぐらの上で俺にもたれていたが、門兵が来ると言うと途端に俺の隣に座ってシャキッとしだした。返事はまだ呂律が回っていなかったが。

 門兵の足音が近づいてきて馬車の扉が開いた。言うまでもないが俺の乗ってきた馬車は最高級のもので中も広いし、左右に立派な扉がついている。そこから門兵は乗ってくる…………かと思いきや座席の顔の位置にある窓から覗いてきた。

 しばし俺と門兵の視線がぶつかる。門兵の顔は、なんだこいつ? と如実に語っていた。

 俺は門兵の目を見たまま口を三日月形に裂く。笑顔のつもりが狂笑みたいになった。


「ども~、王様に呼ばれたらしいんで来ちゃいました~」

「は? 何を言っている。我々はそんなことは聞いていない」

「全くも~、冗談に決まってんじゃん。そんなに険しい顔しないでちょ~」


 俺の安い挑発に門兵は眉をピクッと動かすが何も言ったりはしない。

 一、二秒間が空き、門兵が口を開く。


「……身分を証明するものは……」

「ほ~い、これでおけ?」

「……うむ、本物だ。確かに確認した。では」


 俺が門兵の問いにギルドカードを出すことで答えると、それを確認した門兵は満足げに頷き、次の検査に移る。真面目でいい人だったな~。ああいう人が世の中たくさんいればいいのに。……それはそれで問題が起きそうだけどね。リラは俺の奴隷ということで何もなかった。奴隷は主人の持ち物と同義だそうだ。

 俺はチェックされた後、リラを対面の座席に移してからゴロンと寝転んだ。ちなみにこの馬車はさすが最高級とでもいおうか、全てかなり希少な鉱石で出来ていた。軽くて丈夫。しかも見栄えが良い。まるでミスリルだな……ってかミスリルなんだが。そのおかげで俺は全身タイツを着たままでも馬車に乗ることが出来ている。その代わり馬が死にそうだったけど。持ってきた相棒の切れ端を加えさせたら死ぬほど元気になった。回復効果パネェ。


「よし、通っていいぞ」


 どうやら確認が終わったらしく門兵の声が聞こえたかと思うと馬車がガタンと音を立てて動き出す。音は鳴るのにそんなに馬車内は揺れないんだよね。流石最高級。

 門をくぐってしばししたところで俺は窓から外を眺める。流石に身を乗り出すようなことはしない。


「うわぁ、すげぇな」


 俺は思わずそう口にしていた。チラッとリラを見てみれば反対側の窓から身を乗り出してキラキラした目で町を眺めていた。和む。

 俺ももう一度視線を戻し、町並みを見てみる。

 町はまさに俺の想像していた通りの中世ファンタジーの町並みだった。

 レンガ造りの家々に、石畳。道行く人々は現代とはまた一風違った服装をしていた。

 少し顔を出し外を覗いてみれば町が滅茶苦茶広いことを実感させられた。

 まずこの大通りは真っ直ぐ奥まで続いており、本当に遠くにまた城壁があった。多分内壁とかだろう。というかそれを考えるとこの国はものすごい広いことになる。人口数十万、いや百数十万くらいはいきそうだ。

 しばらく進めば様々な看板が家々の目立つところに立てかけれらたりしており、どこがどの店か分かるようになっていた。もう少し先には屋台を家と家の間の道に入るように構えているところもあった。肉や甘いものの臭いが俺の胃を刺激する。くぅ~! たべてぇな!

 チラッとリラを見れば尻尾をユラユラと、しかしいつもより激しく振り回していた。嬉しいのが丸分かりだ。

 さて、これから王都を満喫しないとな!

 俺はそう心の中で叫びながらこのファンタジーな光景を目に焼き付けた。 






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