十五話『約束』
そして外に出た俺は荷物の置いてある宿の横の裏路地へと行く。
そこには昨日と変わらず大玉サイズのリュックが鎮座していた。置き蓋もちゃんとある。
俺は一応通りとかに人がいないことを確認してから着替えるためにリラを見張りに置いて服を脱ぎだす。なんか俺の中の倫理観というか常識ってのは既に消滅してんだよね。だから裏路地でマッパも平気だ!
と、ちょうど上を脱ぎ終わって上裸になったときリラが小声で言った。
「あの人たちが来てるよ」
「そうか、分かった」
俺は一旦服を全部脱ぎ捨てようか、はたまた一度着て追い返してから着替えるか迷い、着替えることにした。いや、数秒で終わるし。全身タイツといっても一応金属だから変に引っかかったりとかしないし。てか俺普通に相棒(【常闇の森】でのセーフティゾーンにあった神々しい木)のことを金属って言ってるけど厳密には木なんだよな……ま、ファンタジーだしいっか! ……便利な言葉だな。
と、俺がそんなことを考えながら着替えて、一旦全裸になり全身タイツを下半身まで履いたところで王女は来た。
「あなた自分が誰を無視してるのかわか……ヒッ! へ、変態!」
「変態ちゃうわ! ちょっとここで全裸になって着替えてるだけだろうが!」
「立派な変態ですわよ!」
はい、立派なまごうこと無き変態です。
心ではきちんと理解しているものの、俺の反発心というか、茶目っ気というか……テヘッ!
自分で可愛くないと思うことを自分の中でして勝手に落ち込んでいると王女は更なる剣幕で喚き散らす。ちなみにもう俺はしっかり顎下まで全身タイツを着終わった。この全身タイツ首しか穴がないんだよね~。全身タイツってそういうものなのかもしれないけど。
「それよりも! 平民風情のあなたが国王の招集を断ってどうなるか分かっているの? どうせ分からないでしょうね! あんな馬鹿丸出しな返答をするくらいだもの!」
「う~ん、別にそんな問題にならないんじゃないか?」
「なっ!」
王女がなんか返答を求めてるっぽかったので俺基準で問題ないな~と答えてやった。
すると王女は顔を驚愕で歪ませる。こいつ表情豊かでおもしれぇな。
ちなみにリラは俺と王女の中間あたりで両手を広げてとうせんぼしている。可愛い。身長が百四十五くらいしかないため、百七十ほどある俺と百六十ほどある王女の顔を妨げることは出来ない。
と、俺がいつもの執事服を着終わったタイミングで、憤怒に顔を真っ赤に染める王女へ近衛が話しかける。
「ライラ様、この無礼者に自分がしていることの愚かさを教えてあげてもよろしいでしょうか?」
「そうね! そうしなさい! あなた良いこと言うわね!」
「ハハッ!」
なんか許しを得たっぽい近衛はこちらへ向かって歩いてくる。フルプレートっていうのか? よく想像する西洋の鎧を頭以外全部纏ってガチャガチャ鳴らしながら歩いてくる。
当然その進路上には両手を広げてとうせんぼするリラがいるわけだ。
俺は近衛がリラを突き飛ばそうものならいつでも動いて吹き飛ばしてやる、と身構える。
近衛はリラの前まで来ると立ち止まり、俺の方を見て口を開――
「ご主人さまを悪く言うな!」
「ごふっ!」
――くところで目の前のリラに金的を蹴られて変な声を出す。
しかし流石はフルプレートメイル。大したダメージはないようだ。玉って衝撃だけでもかなりの痛みなんだよね……ちなみにリラは足の裏で蹴ったようであまり足を痛そうにはしていない。
俺がリラが俺のために怒ってくれた、と感動していると近衛は激高して手を振りかざしていた。
「この餓鬼……!」
「ヒッ!」
リラが目を瞑ってくるであろう衝撃に耐えるため歯を食いしばったとき。
俺は既に行動を開始していた。
具体的に言うと、超高速で動いて近衛のふりかざした腕の傍に行き、その腕をマッサージの要領でトントンと高速で叩いた。指先から肩までかなりの力を込めて。
結果。
「ッ! ッ?! ガアァァァア! うで、うでがああああああああ!」
「お前本当に近衛かよ。どっかのボンボンなんじゃね?」
腕が粉々になって蹲る近衛。近衛なら腕の一本や二本失っても斬りかかってくるくらいには強いと思ってたのに。俺は両手と片足が千切れかかったときでも足一本で敵を倒したぞ。その後が地獄だったけど。
俺が近衛を冷ややかな目で見ていると後ろから腰に手を回された。
俺はそれが誰か見なくても分かる故、後ろ手に頭を撫でる。ふさふさの耳が気持ち良い。
「心配しなくてもいいぞ~。俺はあのドラゴンを倒した男だ。この程度の男になんか負けてられねぇよ」
「違うの。リラ、いつも守られてばかりで、何も返せてないって……」
突然のリラの告白に俺は面食らう。なんかこういう展開見たぞ。主人公がなんでも出来ちゃう感じのやつでその仲間が何もしてあげられなくて困ってる展開。
こういうとき主人公は様々な行動をとる。例えば、そんなこと気にしなくてもいいよ、と一見良い感じの返事に見えるが、その実相手の『一方的に養われてる感』が払拭できていないパターン。他のことで代用してもらおうと、家事やらなんやらを頼むパターン。武器を持たせ、戦い方を教え、強くさせるパターン。
さて、俺は今回どのようなパターンをとればいいのだろうか。もしくは今までにないようなパターンを出せばいいのか。
俺は数瞬思考を巡らせ…………思いついた。
リラの頭を撫でている手をどかし、俺は後ろへと振り返った。近衛はまだ蹲っているし、王女は大口開けて固まっている。ぷぷっ、アホみたい。
俺はリラの両肩に手を置き、顔をしっかりと見据え、口を開いた。
「リラ、俺は言うことを聞かない子は嫌いだと前言ったな?」
「…………はい」
「その考えは今でも変わっていない。俺は今リラのことを好意的に思っている」
「え……? それってつまり好きって……」
「だがそれでも言うことを聞かないやつは嫌いだ。理路整然と確実といえる証拠とかがある意見の場合は考えたり出来る。しかし、こう思うからこうしてよ! みたいなやつは一番大っ嫌いだ。全く、餓鬼ももうちょいマシな思考回路してるよな」
「…………」
俺はハハ、と乾いた笑いを出す。
実際そうだ。これはつまり、確実といえる意見以外は全部無視する、と言ってるのと動議なのだ。例えばそういうやつが多数決の場にいたらたとえ一人になっても主張し続けるなんとも協調性のない迷惑なやつになるだろう。前の俺は弁えていたのだが……こっちに来て圧倒的な力を手に入れて変わったと思う。
そして俯いて黙りこくってしまったリラに俺は提案を出す。
「でも、だ。お前は助けてもらったりばかりじゃ申し訳ない。そういうことだろ?」
リラは黙ってコクリと頷く。狐耳も一緒により深く折れた。
「ならリラにはこれから戦闘以外のことをしてもらう。家事全般はもちろん。買い物や交渉、道案内など全てをやってもらう。その代わりに俺は全ての荒事からお前を守る。いつどこで何があろうとも、だ。どうだ? これなら釣り合わないか?」
まず前提として奴隷と主人という関係に釣り合うという言葉がおかしいのだが、あえてそれは言わない。今のリラは何故か幼児退行してしかも俺に依存しているような状態なのだ。下手に前の関係を思い出させて前の人格? みたいのが出てきてもらっても困る。まあ今のリラが本当のリラで、前のリラはこれを隠すためのものだと思ってるが。
そして肝心のリラはというと、
「……はい! 分かりました! リラ、これからいっぱいいっぱいご主人さまの役にたつね!」
「うん、よしよし」
しばし考えた後、いつもの元気一杯な笑顔で献身的な言葉を言う。耳も尻尾もどことなく嬉しそうに動いている。
俺はそれを見て多分邪悪にわらっていたのだと思った。
さて、この一部始終を見せられていた王女様。近衛は途中でうるさかったので気絶させた。ピクリとも動かないけど、多分死んでない。死んでたら…………ごめんね?
王女様は、俺が立ち上がって王女様を見ると、ヒャッ! と怯えたような声を出した。足はガクブル、顔は蒼白、口は意味もなく開閉を繰り返す。まさに今怯えてますよ、と体全体で訴えているようだ。
そんな王女様に俺はニタリと嗤いかける。王女様はもう失神寸前だ。
「よし、王女様。王様に会いに行こうじゃないの」
「こわいなにあれにんげんなの……? ってあれ? 今何か聞こえたような?」
「だ~か~ら~、王様に会いに行ってあげるって言ってんの。聞こえる?」
なんか俺を馬鹿にしてるような感じがしたので最後に若干威圧を込めて言うと王女様はコクコクと頷いた。ぶっちゃけると完全な八つ当たりなんだけどね。
それにしても目的地が出来たな~。王都か~。ここよりでかいんだろうな~。
と俺が暢気な思考を展開していると、
「じゃ、じゃあ私はこれで帰りますわね。だ、だってもう何も用はないんですもの。それでは、ご機嫌よう」
王女様はそれだけ言って走り去る。ていうかこれ忘れてんじゃん。
俺はそれを掴むとポイッと裏路地から通りへと放り投げた。向こうで、ヒィッ! と悲鳴が聞こえたが気のせいだろう。気にしたら負け。
かくして俺の次なる目的地は王都へと決まった。やっべ、適当に流しすぎたかな?




