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閑話『リラ』

 私はリラ。歳は十五歳。胸と身長がないのが悩み。

 私は金狐族の子供で、友達たちと仲良く遊んで暮らしていた。

 そう、暮らしていた。


 私が十歳のときだった。

 急に村に大勢の人間という種族が攻め込んできた。

 人間は心が汚れている汚らわしい種族だってみんな言っていた。その人間が攻めてきた。

 私たち金狐族は何もしていない。なのに人間は攻めてきた。

 なんで? なんで私たちを殺すの? なんで縛って連れて行くの?

 私はわけの分からないまま一部の大人と森の中を逃げた。

 しかし逃げた先にも人間はいた。まるで私たちがどこから逃げてくるか分かっているように。

 大人たちは私たちを逃がすために人間と戦った。だけどすぐに殺された。

 私たちは結局逃げることもままならないで捕まった。


 私たちは『奴隷』になった。不思議な首輪をつけられ反抗できないようにされた。

 友達たちとはバラバラにされて一人で冷たい檻の中に閉じ込められた。

 最初はたくさん泣いた。遠くで友達が泣くのが聞こえたからみんな同じなのだろう。

 だけどそれはだんだん減っていった。泣きつかれたのか、はたまた諦めたのか。

 しかしそれは違った。それを知ったのはそれからしばらくしてからだった。


 私は買われた。買ったのはふりふりした服をきたお姉さんだった。

 優しそうな微笑みを浮かべて私に手を差し伸べてくれた。

 私はこの人が助けに来てくれたんだと希望を宿す。

 しかしそれは違った。

 お姉さんは私が笑うと殴った。

 わけがわからない。美味しいご飯を食べさせてくれてありがとうと言って笑っただけなのに。

 お姉さんは相変わらず微笑みを浮かべていた。


 ある日私が笑うのを我慢しだした時お姉さんが言った。


『もう? もうそうなっちゃったの? 仕方ないわね』


 そう言ってお姉さんは誰かを呼んだ。

 現れたのは真っ黒な服を着て、真っ黒な眼鏡をかけて、ツルツルした大きな男の人だった。

 その人にお姉さんは何かを言うと、男の人が近寄ってきた。

 何をするのかとジッとしていると、殴られた。

 私の小さな体はかなりの力で殴られ、簡単に宙に浮いた。

 それを見てお姉さんは微笑みを浮かべる。

 なんでこんなことをするのか。

 そう聞くとお姉さんはこう言った。


『何もないのに私が殴ると私の良心が痛むじゃない』


 わけがわからない。

 私は殴られた。


 ある日私はまた売られた。返却、だそうだ。

 私はまた冷たい一人の檻に入れられた。

 だけどもう泣くことはなかった。


 またある日、私は買われた。

 いろんな種類の獣人たちを連れてその客の前に立たされて、私が選ばれたのだ。

 客は何故か右腕を露出させて私たちの耳を触ってきた。

 くすぐったいような、変な感じだったが嫌ではなかった。

 新しい御主人様は怖い人だった。私のいたお屋敷を出るときにすごい怖い顔をしたのだ。

 だけど、御主人様は優しかった。適当な襤褸を纏っていた私を見て服を買おうと言ってくれたのだ。しかも遠慮する私を的確な言い分で言いくるめて。

 優しい御主人様。だけど私はもう騙されない。きっとこの人も私を嬲って楽しむんだ。

 だけど御主人様は普通に私を服屋に連れて行き、たくさんのお金を払って可愛い服を着せてくれた。

 そう、可愛い服をだ。

 御主人様も私を見て、可愛いね~、と言ってくれた。

 私はあまりの嬉しさに笑おうとして……前のことを思い出した。

 私は微笑みを浮かべる御主人様に見られないように顔を伏せて必死に笑うのを我慢した。


 冒険者ギルドというところに行っていろいろ話した後私は意を決して御主人様に聞いた。


「ご、ご主人様は、な、なぜ私をお買いに?」


 言葉遣いもしっかりと出来ているし、不快にはさせてないはず。

 だけど、どんな言葉が投げかけられるのか私は不安で耳と尻尾を縮込ませた。

 しかし御主人様は一瞬キョトンとしてすぐに答えてくれた。


「気持ちよかったから」

「はい?」

「おいおい、ご主人様に向かってはい? はないだろ。まあ、な。お前の耳と頭の触り心地が一番良かったんだよ。ついでに頭の高さもな。撫でやすくて気に入った。それだけだな」


 私は慌てて自分の失態に気付き、頭を下げようとするが、続く御主人様の言葉に思わず呆然とする。

 それだけの理由で? 奴隷ってかなり高いものじゃなかったっけ?

 私はまたわけがわからなくなりながら歩みを止めない御主人様の後ろをついて行った。

 しばらくすると御主人様は立ち止まり、目の前の宿屋を見上げた。

 そしてうんと一つ頷くと宿へと一歩踏み出し…………扉を見て、うわぁ、といった顔をしました。

 確かに御主人様の背負っているものはとても大きいです。それは正面から入れないでしょう。

 私は少しばかり迷って、助言をすることにしました。

 

「あの、ご主人様。大きな荷物はそれ用の入り口があるのでそこから入ればよろしいかと」

「おお! そうなのか! んじゃお前中に入って店員にでも言ってくれや」


 すると御主人様は私にそう命令をしながら私の頭を撫でてくださいました。

 私はそれを嬉しく思いながらも顔には出さずに宿へと向かいました。

 宿の人に荷物のことなど言うと快く案内してくれるといってくれました。宿の人はあのふりふりした不思議な服を着ていて少し嫌な気持ちになりましたが、御主人様に褒めてもらいたくてすぐに御主人様の元へと行きました。


「ご主人様! 私ちゃんとお願いすることが出来ましたよ! 宿に泊まることと、荷物のこと!」

「おお、偉いぞ~、よしよし~」


 私が報告すると御主人様はまた私の頭を撫でてくださいます。

 だけどまだ笑うのが怖い私は必死に笑顔を抑えます。

 少しすると案内の人が来て御主人様とお話します。

 と、そのとき奥から真っ黒な服を着て真っ黒な眼鏡をした、ツルツルの大きな男の人が……


「ッ!」


 私は悲鳴が出るのを必死に抑えました。

 こんな街中で騒いだら御主人様に迷惑がかかってしまう。

 その男の人たちは御主人様の荷物を持とうとしましたが持てずに呆然としていました。

 私はそれを見て御主人様がすごいと思うと同時に、少しだけ恐怖が薄れました。


 御主人様と過ごして数日。平和な町に突如ドラゴンが現れました。

 ドラゴン。それは古の魔物であり、今ではフォレス山脈の高地にしか生息していないと言われている幻の魔物です。

 御主人様はそれを見て………………笑っていました。

 何故? あんなに怖い生物を前に何故笑っていられるのですか?

 しかし私はそれを口にすることは出来ませんでした。ドラゴンの威圧に体が動かないのです。

 このときあまりの恐怖に私の中の何かが音を立てて割れたのを感じました。


「リラ! お前絶対そのリュックの陰に隠れとけよ! 後ついでに火事場泥棒がいないか見張っとけ! いたら顔を覚えろ! 守らなくていい!」

「は、はいぃ!」


 しかしそのことを考える前にご主人さまはどこかに行っちゃった。

 すっごい高く跳んで。


 しばらくつよ~い風とかを必死に耐えていると誰かが近づいてくるのが見えた。

 それはあの黒い人たちだ。


「ヒッ!」


 リラは慌てて黒い人たちに見えないようにリュックの陰に隠れた。

 黒い人たちはリラを殴った人のように口元に嫌な笑みを浮かべてリュックを触っていた。


「なぁ、これが本当にすんごい金になる素材が入っているリュックか?」

「あぁ、そうらしいぜ。まあとりあえずあいつがいないうちに中身を持っていこうぜ。リュック丸ごとは持っていけねぇから中身を少しな」

「ああ、そうだな。しかしなんでこんなに重いのかねぇ。しかもあいつはそれを平然と背負ってやがったしよぉ」

「多分魔法で軽量化でも使ってたんじゃないか? もしくはかなり高位の魔術師で浮遊を使っていたりしてな」

「そんぐらいないと説明はつかねぇわな」


 黒い人たちはそんな風に喋りながらリュックの中に手を入れて何かの大きな牙を取り出してた。

 だけどリラは怖くて怖くて動けない。体がブルブルと震えて今にも気絶しちゃいそう。

 必死に耐えていると、ようやく黒い人たちは帰って行った。

 リラはすっごく安心して、ふぃ~、と息を吐いた。


「ご主人さま……」


 すると途端にご主人さまが恋しくなった。

 あの優しく包んでくれるような大きな手で撫でられたい。

 ふつふつとそんな欲望を抱いていると…………ご主人さまが帰ってきた。


「リラ~。死神さんが帰ってきましたよ~」

「ご、御主人様ぁ!」


 私はすぐにピシッとして御主人様を呼ぶ。

 しかし、


「ご主人さまぁ、ごしゅじんさまぁ、ごしゅじんさまぁぁぁ……」


 すぐにリラは元に戻る。

 リラは思いっきりご主人さまに甘えた。

 それと同時にリラは安心したのかポロポロと涙が出てきちゃった。

 いろいろ聞かれた後、リラは頭を撫でてくれるご主人さまに屈託のない笑みを浮かべて微笑んだ。




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