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十一話『……終わり?』

 近くの屋根へと飛び移った俺は上空で滞空している真紅のドラゴンを見る。

 翼を使って細かく上下している。多分魔法も使ってるな。あんな巨体があれで浮くはずがねぇ。

 俺はどうしようか少し迷い、結論を出した。

 俺は大きく息を吸い込んだっ!


「おい! 聞け、テメェラ! 死にたくなかったらさっさとこの通りから出て行け! あと十秒だ!」


 右往左往していた人々は俺の言葉を聞いて我先にと左右の裏路地へと消えていく。

 今から俺は本気を出す。だから人がいたら俺の攻撃の余波で死ぬだろう。

 ぶっちゃけどうでもいいが、ほんの少し残った俺の良心が十秒なら待ってやろうと言ったのだ。ちなみにリラは平気だ。あのリュックはあの森で一番頑丈なやつの毛皮を使って作ったものだ。直撃さえしなければ壊れない。

 と、そうしている間に十秒経った。ドラゴンは俺のことなんぞ眼中にもないのか平然と地上を睥睨している。その余裕も今のうちよ! ……あれ? 今のかませっぽい発言じゃね?


「…………ハっ!」

 

 悪い予感がしたので俺は攻撃に転じることにした。

 敵は遥か上空。俺は魔法なんぞ使えない。多分空気を蹴るとかで空中移動は出来るかもしれないがそれはまだ練習中だ。

 だからまずは敵を打ち落とす!

 俺は手刀を全力でドラゴンに向けて放った。

 手刀は空気を切り裂き、よく分からん現象が起こって衝撃波となってドラゴンへと襲い掛かる。

 ドラゴンもこの攻撃には危機を感じたのか急旋回で回避する。が、避け切れなかったようで片方の翼が一部切り裂かれた。

 ドラゴンは安定感をなくし不安定な足取りで地上へと着陸しようとする。落下地点はおよそ一km先。

 が…………


「んなことさせっかよ!」


 俺は屋根を蹴る。

 屋根は爆散し、大穴が空くがこれくらいいいだろ。

 しかししっかりと最後まで蹴り切れなかったからか、ドラゴンの落下地点まで一足でいけなかった。

 もう一度屋根を犠牲にして再加速する。

 今度こそドラゴンの元までついた。


「ギャォォオオオ!」


 ドラゴンは咆哮をあげながら俺へと向けて大口を開く。目は血のように赤黒く染まっており、激高しているのが分かる。

 そしてドラゴンの口から炎の塊が吹き出される。

 その距離およそ百m。この程度の距離なら自由落下運動で速度の乗ったドラゴンはすぐに地上に落ちるだろう。それよりも速くくる炎の塊はもっと速いが。

 俺は炎の塊を避けずに迎撃するのを選ぶ。何故か分からないが避けたら負けな気がするのだ!

 だから俺は炎の玉を粉砕する!

 拳を握り、腰溜めに構える。

 足を適度に開き、腰の捻りを加える。

 そして俺は足をドンッ! と踏み鳴らす!

 それと同時に突き上げ!

 俺の身体全体を使った正真正銘の全力攻撃。

 それは衝撃波となって巨大な火の玉とぶつかり………………相殺した。


「よっしゃ!」


 俺は子供のようにガッツポーズをして喜ぶ。

 と同時に地響きがドラゴンが地に落ちたことを知らせる。

 俺は屋根から飛び降りて四足で立ち上がろうと力を込めるドラゴンと対峙する。


「お~い! あ~そ~……ぼっ!」


 俺はまるで友達を誘うように声をかけ嗤いかけると、地を蹴った。

 この通りはまだ避難が終わってないっぽいが、まあ運が悪かったんだと諦めろ。

 俺は今まさにたち上がったという風体のドラゴンの横っ面に蹴りをぶちかます。

 ドラゴンの首は勢いよくグリンッ! と周り、血を垂らした。

 しかしドラゴンも負けていない。ドラゴンはその長く太くしなやかな尻尾を俺に向かって横殴りしてきた。

 胴にまともに受けた俺は家を三軒くらい貫通してようやく止まる。


「イツツッ。やるなぁ、あいつ!」


 だが実質俺にダメージはない。腕で後頭部は守ったし、胴はぶっちゃけ全身タイツの防御力を突破できていなかった。

 しかし危ない攻撃もあるにはある。あの牙とか炎はぶっちゃけやばいかもしれない。

 と、瓦礫の山に埋まっていると、


「おいおい、全然休ませてくんねぇな!」


 前方から巨大な火の玉が迫ってくる!

 俺はそれを蹴りの衝撃波で真っ二つに割るとその間に身体を滑り込ませ避ける。

 しかしその間はものすごい熱を持っているわけで……


「あっつ! 熱い熱い熱い!」


 思わず俺は頭を全身タイツの中にもぐりこませた。小さい頃よくやったなぁ、などと思いながら。

 しかし全身タイツの中でもかなり熱い。やっぱあれ直撃しちゃいけねぇわ。

 火の玉が過ぎ去ってすぐさま顔を出すと、ドラゴンはこちらへ向かって走ってきていた。家の残骸など欠片も気にせず全く速度も落とさず。

 

「へっ! 今度は押し相撲か!」


 俺はドラゴンの期待に応えて腰を落として構える。

 そしてドラゴンがその大きな口を開けて俺を噛み砕こうとしてきた。

 俺は口が閉じるタイミングで後ろへ引き、口が閉じた段階で口を両手で挟んだ。ワニの対処法と同じだ。ただでかすぎて抱え込めないのだが。

 俺はドラゴンの突進を胸で受けてズザザザーっと地面を削りながらも受け止めた。


「フハハハ! この勝負は俺の勝ちだな!」


 俺は至近距離でドラゴンの赤黒い目を見て言ってやる。

 ドラゴンは更に激高し、口の端から火の粉を漏らす。

 そしてドラゴンはまたも尻尾で俺を打ちつけようと払ってきた!


「これを待ってたぁ!」


 俺はそう叫びながら尻尾をあえてわき腹で受けて、吹き飛ぶ前に尻尾を掴む。

 吹き飛ばなかった俺は地に足を着け、ドラゴンの尻尾を軽く引っ張る。


「さて、今から何が起こるでしょう?」


 俺はドラゴンに嗤いかけた。

 次の瞬間、ドラゴンはまた火の玉を出そうとしてきた。

 が、


「遅い!」


 俺はドラゴンの尻尾をしっかりと持って振り回す。

 ピンッと張っていた尻尾はそのまま胴体を引っ張り、ドラゴンの体の向きを変える。ちょうど俺と反対方向を向いた。

 そこで俺はすかさず脇から尻尾を肩へと担ぎなおした。

 そして…………回す。

 ぶっちゃけ上手くいくか心配だったが少し横に滑ったら上手いこと速度に乗ってきて上手くいった。

 俺はいわゆるジャイアントスイングをする。

 それはどんどん速度を増していき、速くなっていく。

 速く、速く、速く、速く、速く…………

 そして残像が見え始めた頃俺は軌道を変えた。

 真横だった軌道を下方四十五度くらいに一気に下げたのだ。これには流石に俺も堪えたのか腕が痺れた。

 ドラゴンはその速度のまま地面へと叩きつけられた。

 今までの地響きとは比べ物にならないくらいの振動が地を伝わる。

 ドラゴンは体の半ばまで地面に埋もれ、ピクリとも動かなくなる。

 もはや辺り一帯瓦礫の山となった場所にパラパラと石屑が転がる音が響く。


「…………ん? 死んだ?」


 俺は思わずそう呟いた。

 俺の鋭敏な知覚能力がドラゴンの息遣い、脈動を感知しないのだ。

 つまりそれは死んだということで…………


「もう遊びは終わりか」


 俺は心底残念そうにそう呟いた。










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