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十話『遊ぼうぜ!』

 翌朝、途中で気絶していたらしいリラの下着やらなんやらを水で洗い(川まで走ってきた。速過ぎて危うく服が細切れになるとこだった)、乾かし、着させ、火の番をしながら朝を待った。ちなみに俺の身体は相棒のフシギバワーで勝手に綺麗にしてくれる。多分汗とか吸って栄養にしてんじゃないかな? なんか育ってるし。ぶっちゃけ糞尿も出た瞬間に吸収するため気持ち悪くなったりはしない。気持ち的になんか嫌だったけどなんかなれた。むしろ排便中という油断がなくなったことに歓喜していた。

そんな感じで過ごした夜。暇だったので全身タイツの手首から先だけ切って置いた。全身タイツの中からだともふもふが堪能出来ないんだよね。

 と、

 

「ん、んふ~」


 空が白み始めた頃リラが目を覚ましたようだった。

 俺は既に火に薪をくべるのはやめていて、今は既に火種だけとなった赤い点を見つめていた。

 リラが寝ぼけ眼を擦りながら起きるのを気配で確認すると声をかけた。


「お~、起きたか。ほれ、朝食はあるぞ」


 そう言って俺は寝起きのリラに肉を差し出す。皿は葉っぱだ。殺菌済み。

 リラはまだ覚醒していない頭で、コクリ、と頷くと両手で抱えるくらいの葉っぱの皿を受け取った。

 そして豪快に肉に齧り付く! こらこら髪が汚れるでしょ。

 そんなことを思いながら俺はリラが食べ終わるのを待つ。

 しばらくするとリラは覚醒したのか齧り付いていたことに気付き、頬をほんのり赤くした。まあ食器がないから結局齧り付くんだが。

 リラが食べ終わった頃を見計らって俺はリラを手招きする。


「?」


 リラは何のことか分かっていないながらもトテトテと俺のほうへ来る。

 俺は目の前まで来たリラに俺の胡坐をかいた膝に来るようタンタンとタップする。


「?」


 しかし伝わらなかったようで首を傾げてしまった。やべぇ、狐耳まで不思議そうに傾いたぞ。


「俺の上に座れ」


 リラはそう言われてどういうわけか理解し、しかし主人の上に乗ってもいいのかと困惑する。

 俺はいいからいいからと言って早く来るように催促する。

 リラは諦めたように俺の胡坐をかいた足の交差してる部分にちょこんと座った。何をされるのか、と怖がっているのか身体をプルプル震わせている。

 俺は両腕を全身タイツから出し、手をワキワキさせながらリラへと迫る。

 そして……


「ふひゃ?!」

「うわぁ~、気持ちえぇ~」


 ……モフモフした。

 両手で頭の上にある狐耳を両手でモフモフした。それはもうモフモフした。だってリラを買ったのってこれが目的だったじゃん?

 案外リラも気持ちがいいのかだんだんと身体を弛緩させていく。

 俺は耳を十分に楽しんだ後、片手を外し尻尾へと伸ばす。手を離したほうの耳が一瞬シュンと残念がったのが滅茶苦茶可愛かった。

 俺の腹の辺りをフラフラと揺れる尻尾に離した片手を添える。


「ふみゃ?!」

「こっちはもっとすげぇ~」


 ふっわふっわの触感が掌に返って来る。真ん中は筋肉なのか硬いが、そこからボフッと生えている毛は豚のところの絨毯なんかより全然気持ちが良かった。


「ふみゃ~…………」


 リラももう緊張などはなく俺に身を委ねているようだった。

 俺は時が経つのも忘れてリラをモフモフし続けた。











 太陽が中天へと昇ろうとしている時。

 俺たちはようやく今日の行動を開始した。

 ん? 時間かかりすぎ? いやぁ、リラの反応が楽しくてついつい時間が経ってしまったよ。リラはもう骨抜きだ。ふみゃふみゃ言ってるよ。ちなみに一線は越えていない。あくまでモフってただけだ。リラの顔を見るとやばいことになってたが。雌だよ。おれはもう女じゃなくて雌だよ。

 なんてことは置いといて、門兵にギルドカードを見せて町へと入る。まさか宿が全部二階にしかないとは……ギルドや豚のところは地面より高いところに床があったが、空間がなかったから俺でも歩けた。

 俺は真っ直ぐにギルドへと向かい…………なぜかあちらこちらで不穏な空気が出ていることに疑問を持つ。何かあったんかな?

 そして俺はギルドへ着いた。

 ギルド内も外と同じく不穏な空気に包まれている。みんな表情が険しい。俺が入ってくるとなぜかもっと険しくさせたが。解せぬ。

 とりあえず俺はいつものお兄さんのところへと行く。ちなみに俺はいつものスタイルだ。真っ黒な執事服に大玉サイズのリュック。数歩後ろに白いワンピースを纏った金髪狐の獣人。


「ち~っす。みんななんか暗いね~。何かあった?」

「……こんにちわ、急にギルドで大金を動かしたと思ったらギルドを散々引っ掻き回してくれた死神さん」

「いやぁ、そんなに褒められても……」

「それが褒め言葉と聞こえるならあなたは一度神殿にでも行ったほうがいいですよ」


 神殿に行けってのは地球で言う病院行けと同じ意味かな?

 それはともかく。


「んでこれはどうしたん?」

「それがですね、昨日ある商人の屋敷が襲撃を受けまして、天井を吹き飛ばされたそうです」

「へ、へぇ~。タイヘンデスネ」

「しかもそれが奴隷の売買も行っているサーフォルン商会の長、ピッグルー・サーフォルンの屋敷なんですよ。あの大商人として有名な」

「タ、タイヘンダナー」

「…………何か知っていませんか?」

「イエ、シラナイデス」


 は~い、ぼくちんです! テヘッ!

 なんて言えるか! 馬鹿やろう! 噂ってのは広がるのが早いなぁ。

 ま、いざとなったらWAIROで片付けよう。それが無理だったら…………消すか。

 そうならないように頑張るけどね~。


「それはいいとして~、お金ちょ~だい!」

「……はぁ、あなたはこの短時間でどれだけ使えば気が済むんですか……というかどうやって使ってるんですか。全く……」


 お兄さんはそう言いながらも書類に何かを書いて小袋をカウンターの下から取り出した。

 チャリ、と金属の打ち合う音を出しながらカウンターの上に置かれる。


「はい、金貨二十枚です。これかなりの大金ですからね? 本当に金銭感覚を大事にしてくださいね?」

「あいよ~。あんがとね~」


 俺は金を受け取りそのままギルドを後にした。

 ん? 金を取りにきた理由? 今から露店を冷やかしに行くから掘り出し物をすぐに買うためだよ!

 リラが後ろで金額を聞いて、ヒッ! と怯えていたがまあ大丈夫だろう。……何がかは知らんが。












 ということで露店通りへときました~。ここは昨日も通ったところだ。あの猫耳を売ってたおっさんがいるところだ。

 他にもいろんなところに風呂敷を広げて商品を並べては客引きをしている。活気がいいなぁ。

 俺はいろんな店を見て周り、一つ綺麗な星型の髪留めがあったのでそれを買ってリラに付けてあげた。モジモジしているリラが愛らしかった。

 後は冷やかしながら歩いているとまたあの猫耳のおっさんを見つけた。

 今は誰かと商談をしているようで、一人の若い男と話し合っていた。

 やがて男はいくらか金貨を投げ渡し、何かを買って行った様だった。うわぁ、金貨数枚もすんのかよ。

 俺は男が去ってからおっさんの下へと歩いていく。


「よお! おっさん!」

「んあ? ああ! 昨日の小僧じゃねぇか! 今日はどうした? そんな可愛い子連れ……ああ、奴隷か」


 おっさんはおっさんらしく豪快な笑い声を上げて俺を思い出す。そして俺の後ろの存在に気がつき、聞いてくるが、すぐに首についた首輪を見て奴隷だと理解した。にしてもこの温度差はすごいな。

 俺はとりあえず会話の糸口として先ほどの男の話を聞く。


「おっさん、さっきの男何買ったんだ? なんか商談してるっぽかったから話しかけれなかったから遠くで見てたわ」

「お? さっきのあんちゃんのことか? あいつは不思議な……って俺の売ってるもんは全部不思議なものなんだが、楽器を買って行ったよ。俺が吹いても全然綺麗な音がならなくて、不思議だったんだがあのあんちゃんが吹くと滅茶苦茶綺麗な音が鳴ったんだよ! やっぱ不思議ってのはたまらないねぇ!」


 俺にはよくわかんないけどな。

 おっさんの話を右から左へ受け流しながら俺は品定めをする。

 う~む、今回はあんまり面白そうなのはないなぁ。

 俺が諦めておっさんに今度はいいの仕入れとけよ! と言おうとしたそのときだ。


『~♪』


 思わず聞く者の歩みを止めるほど綺麗で澄んだ音色が当たり一帯に響き渡った。

 露店通りの人々は全員足を止め、この音色の出所はどこかと視線を宙に向ける。

 かく言う俺も視線は空へと固定されている。しかし俺の場合は意味が違う。何か、空から巨大な力の奔流が…………

 と、


「な、なんだありゃあ!」


 空が、割れた。

 横一文字に亀裂が入ったかと思うとそれが縦に開き、目のような形になる。

 遠近感が確かでないためあれがどれほどの大きさかは分からない。しかし少なくとも家一件分よりはでかいだろう。

 人々が困惑、恐怖、好奇心といった様々な感情を見せているさなか、そこから声は響いた。


「ギャォォォオオオオオ!」


 重く、身体の芯まで震わせる重低音の鳴き声。

 自然と鼓膜が破られることはないが、この鳴き声によって大地が揺れた。

 なんだ? なんだのだ? こんなすごい咆哮をする生物とは……!

 俺は呆然としながらも、口元には笑みを浮かべていた。

 最近はめっきり俺の人生のスパイスといえる恐怖、痛み、死というものがなかった。あの森でも味わえなかったのだ。

 それを味わわせてくれそうな相手。心が、魂が高揚しないわけがないだろう。

 やがてそいつは姿を現した。

 真紅に輝くいくつもの鱗。

 太く、見るからに強靭といえる四本足。

 太く長くしなやかな尻尾。

 そして口から吐息のように漏れ出る火の粉。

 これはまさに――――――――『ドラゴン』!


「ギャォォォォオオオオオ!!!」


 ドラゴンは外へ出るともう一度咆哮した。今度はあの穴の向こうからじゃない。直接の咆哮だ。

 建物は揺れ、もろい壁などは軒並み大破していった。

 人々はもう混乱の渦に呑まれている。

 俺はおっさんに説明を求めることにした。


「おい! おっさん! あんた何か知ってんだ――」

「さぁて! あんなのが出たら商売どころじゃねぇな! 小僧もさっさと帰るんだな。出来ればこの町を出て違う町に」


 そう言っておっさんは纏めた荷物を持って裏路地へと消えていった。クソ、逃げられたか。

 俺はしょうがなく目の前の玩具を楽しむことにした。


「リラ! お前絶対そのリュックの陰に隠れとけよ! 後ついでに火事場泥棒がいないか見張っとけ! いたら顔を覚えろ! 守らなくていい!」

「は、はいぃ!」


 耳も尻尾も最大限ちぢ込ませて怯えるリラにそう命令すると大地を蹴った。


「さぁ! 遊びの始まりだ! 俺がかけるのは俺の命! さぁお前は俺の遊び相手になってくれ!」










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