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仮面協奏曲  作者:
5/7

5 ロッチェの女神

 軽口を叩き合いながら鋼も叩く様子を、ルーヴェンス様は実に熱心に眺めていた。

 ちょ、え? なんでこんな貴族様が?

 がたがたいう古椅子に優雅に腰掛けたルーヴェンス様を二度見、三度見するお客たちがおもしろすぎた。それに加えて、あれは置物みたいなもんだから気にするなとか、適当なことを言っちゃうランスロットさんのおかげで作業場はいつになく戸惑い、緊張、好奇心が入り混じった空気である。

 そんな鍛冶屋に、眉間にしわを寄せたレスター様が現れたのは昼に差しかかったころだ。渋々と腰を上げたルーヴェンス様に、また来ると朗らかに挨拶までされてしまった。


「王様相手になにをしゃべりまくってんですか」


 馬車がすっかり消えてから、ここぞとばかりに詰め寄ると男はしらっとした顔で次の依頼の剣に取りかかる。

 カンカンカンと一定のリズムで鋼が伸され、炎にあぶられればきれいな赤色に燃えた。


「国民の注目してる話題なんだから、避けるほうがおかしーだろ。なんせ、花祭りの剣を依頼してくる王様だぜ? そりゃあ、カーミャリーコの話になるさ」

「わざと話を広げたくせによく言いますよ」


 ちゃぽんと桶の水に包丁を入れて眉を寄せれば、窯の前でまた鋼が打たれる音が奏でられた。


「……ずいぶんとまあ、気に入られたもんだ」


 ぽつり、とこぼすのに思わず振り返る。タオルで顔の汗を拭ったランスロットさんは、手にした剣をじっと眺めていた。

 たしかに、王様直々に城を抜け出してまで足を運ぶだなんて。よっぽどランスロットさんに剣を打ってもらいたいんだろうなあ。意外と行動力のある方である。あんなほわほわした優男なのに。ここにきて、人は見かけではないなと心底思ってしまった。

 あれはまた来るだろうなあ。レスター様にひっ捕らえられた王様を思い浮かべて、自然とため息がこぼれる。また男ふたりで下ネタ大会を始めたときには、問答無用で水でもぶっかけてやろう。


 王様の三度目の訪問は、一週間ほどあとに現実となった。

 今度はレスター様も一緒で、ふたりして質素を装った高級な服に身を包んでいて、やっぱりあまり町には溶け込んではいなかった。

 申し訳ないが、しばし邪魔をすることになる。恐縮だと眉を寄せたレスター様がそう頭を下げ、まあ気にするなとランスロットさんが手を振った。相変わらずレスター様はいい声だった。


「ランスロット。花祭りの件なのだが」


 椅子に腰かけたルーヴェンス様に、銀細工へ刻印をつけていたランスロットさんは手をとめる。

 わたしの作ったシルバーアクセサリーは、どこかに必ずランスロットさんが難しい印を刻みいれてくれた。盗作防止の意味らしいが、そんな心配するほどのできじゃないと思うんだけどなあ。


「ああ、ようやく依頼を諦めてくれんのか」

「違う」


 ルーヴェンス様、わざとですよわざと。おちゃらけてそういう話にしようとしてるんですよこの人は。

 すかさず首を振った相手に、ランスロットさんは片眉を上げて銀の指輪を置いた。


「次の花祭りまで、まだ半年以上ある。俺にこだわらねーで、他の鍛冶師を探す方が有意義にすごせると思うけど」

「何度も言うが、私はお前にこだわっているのだ。しかし、ランスロット。いくら言ってもお前の答えも変わらぬのだろう」

「そーっすねー」

「だからな、考えたのだ。次の花祭りでは女神にささげる剣を国民に選んでもらうことにする」


 驚いてランスロットさんもわたしも、丸くした目をルーヴェンス様に向けた。古びた椅子に優雅に座った彼は、楽しそうな笑みを浮かべてうなずく。


「あと二週間もすれば、花祭りまで半年になる。そこで、女神の剣を鍛冶師から募るふれを出そうと思っている」

「剣を、募る」

「募って、鍛冶師の名は伏せたまま、国民がふさわしいと思った剣に投票する。選ばれたもので王が舞う。どうだ?」


 いろいろ考えたのだ。これならよかろう。

 にっこり笑ったルーヴェンス様に、ランスロットさんは言葉を詰まらせる。今まで断る口実にあげていたのは、若手に希望を持たせること。一度自分の剣で剣舞が披露されているのだから、独占するわけにはいかないという理由だった。

 ロッチェの剣をコンテストして選ぶ、ということなら門戸が広がり、ランスロットさんのいうところの若手ももちろん参加するだろう。競うことで技術も向上するし、なにより国民が選んだ剣で王が舞うってところが、非常によくできている。そりゃあ、文句もつけようがないんじゃないか。

 髪をかき混ぜたランスロットさんは、観念したとばかりに息を吐く。


「俺が口を挟めるもんじゃないですね」

「そうか。ならばよい」


 満足げに笑ったルーヴェンス様と、ほっと安堵したレスター様。一介の鍛冶師相手にずいぶんと考慮してくれたものだ。

 でも、これはおもしろいことになってきた。にやりと笑うと、目ざとく気づいた師匠がしかめた顔をこちらに向けた。てめー、他人事だと思いやがって。えーなんのことー知らない知らない。


「ところで、リン」


 声に出さずに視線で会話していたわたしに、ルーヴェンス様が振り返ったので、さっとおちょくり顔をひっこめる。いじっていた粘土をおいて姿勢を正すと、ヘーゼルの瞳を覗き込むように向けられた。


「身分も関係なくひとり一票を投じてもらうことにするのだが、あなたの目から見て、気をつける点はあるか?」


 いきなりの問いに、わたしはきょとんとしてしまう。

 なんでわたし? 庶民の考えも聞きたいのか? またたいてから、それでも一応考えてみる。選挙とはまた違うが、とりあえず重要なことは。

 じっと向けられる瞳に、ぴんと背が伸びた。


「そうですね、とにかく不正がないようにすることですかねえ。鍛冶師の剣もそうですが、国民の一票も、その集計においても」


 ランスロットさんが難しい顔をしたので心配になってきたが、ルーヴェンス様はやさしく先をうながす。


「なるほど。体制をもう少し検討する必要があるか。――あとは?」

「あとは、うーん、鍛冶師の名前を伏せることは賛成ですが、簡単な説明文を添えてくれるほうが、選びやすいんじゃないかと。その意図にそった剣になっているかも、鍛冶師の腕だろうし」


 ふむ、と思案を巡らせ始めたルーヴェンス様に、こんなのでよかったのかと頬を掻く。わたしが思いつくことくらい、城の宰相とか重役たちが言っているだろうし、今さらな気がするんだけど。


「――リン、時間過ぎたぞ。先に上がれ」


 そんなわたしをさえぎるように、ランスロットさんががらりとその場の空気を入れかえた。はっとして席を立つ。時計を見上げると、すでに買い物をすませているはずの時刻になっていた。

 仮にもお忍である国王陛下の御前でもあるが、一切気をつかってくれるなとの釘も刺されてしまっているため、ランスロットさんもあえて口を挟んだのだろう。


「師匠、お先に失礼します。じゃ、買い物に行きますね。――ルーヴェンス様、レスター様、今日はここで失礼いたします」

「ああ、すまなかったなリン。ありがとう」


 微笑んだルーヴェンス様と、礼儀正しく頭を下げてくださったレスター様に見送られてわたしは夕暮れの町へと駆けだしたのだった。




***




 軽やかな足音が遠ざかるのを見送ると、鍛冶屋にはどこか静かな空気がただよう。ぱちりぱちりと炎のはぜる音がやけに大きく響いた。


「ランスロット、わざとだな」


 道具を桶で洗い始めた男に、ルーヴェンスは口の端をあげる。それにランスロットははてと首をかしげた。


「なんのことやら」

「……なぜ、リンをここに置いた?」


 唐突な質問に、ランスロットは静かに金槌を定位置に戻す。ことりと重たげな音が響いて、窯の炎が揺らいだ。


「あいつは、すごい、強い目をしてた」


 言って、ようやく顔をあげる。ひたり、と灰色の瞳が国王を見すえた。


「絶対自分の力で生きてやるって目で、文句あんのか! て顔して歯ぁ食いしばってた。だから、拾った」


 ふっと笑ったランスロットに、ルーヴェンスは目を伏せる。そうかと自嘲をにじませた笑みをこぼすと、宵の口に染まり始めた町を振り返る。

 また来よう。そう言って席を立った相手に、ランスロットは膝をついたまま深く頭を下げた。




***




 ロッチェの剣コンテストのおふれが回ると、町は一気に活気づいた。花祭りにはあと半年の期間があるのに、もう祭りも間近と言わんばかりの盛り上がりである。

 肉屋の女将さんはもちろん、定食屋の主人も、依頼に来る冒険者たちも、こぞってランスロットさんの剣に期待を寄せているようだ。ランス、頑張れよ! なんてかけられる声に本人は、ああとか、まあとか、気のない返事でのらりくらりとしていたけれど。

 花祭りは、毎年最終日を夏至にあわせているそうだ。三日間お祭り騒ぎが続いて、国王の剣舞が披露される式典は夏至日。

 今年は初めの二日間で剣の投票をし、最終日に結果発表も含めた式典になる予定だとか。

 剣を納める申請も、ふれが回ったその日からすでにたくさんの応募があったと聞いている。なんでわたしがこんなに詳しくなったのかというと、たまに作業場に来てはのんびり過ごしていくルーヴェンス様が話すからほかならない。


 月に二度あるかどうかの頻度で、国王陛下はレスター様だけをつれてランスロットさんのもとを訪れる。誰かに見られたら癒着を疑われそうなので、勝手ながらわたしが渋い顔をしていると、今度は週に一度の手紙をやりとりするようになった。

 ランスロットさんは、初めから乗り気じゃなさそうなことに変わりなかったけれど、それでも国王陛下との約束でもあるため、きちんと参加を表明していた。さっき、炭買うついでに出してきた、とかものすごくやる気のないこと言ってたけど、申請書を出したなら心配はいらないと思う。

 やると決めたのなら、ランスロットさんは自分の納得するものを打つ。それは当然なことで、これっぽっちも疑うつもりはなかった。


 包丁を砥げるようになってきたわたしを、じっと灰色の瞳が見つめているときがある。

 窯の炎にあぶられて額に浮かぶ汗を拭うとき。爪が折れたのを嘆いているとき。刃の返りに指を這わせているとき。

 視線を感じて顔をあげると、決まって男は手元の鋼に瞳を向けた。ロッチェの女神にささげる、剣。

 どんな剣を打っているのか、ランスロットさんはわたしに見せる気がないようで、町の人を相手にするのと同じくのらりくらりとかわしてしまう。

 基本的に、わたしが夕飯の支度に引っ込んだあとで仕上げているらしく、四六時中一緒にいるわたしでさえ、ランスロットさんがどんな剣を女神に捧げるつもりなのか、さっぱりわからなかった。




 朝、作業場に行くとランスロットさんの背中があった。

 入ってきたわたしに気づくと、おうとひと言こぼし、ちょいちょいと手招く。首をかしげてその横に立つと、朝日に、さっと銀色の光が走った。

 ちょっと持ってみろ。

 丁寧に丁寧に磨かれた鋼。すらりとした刀身にはなんの装飾も施されていない、質素な、けれどもうつくしい剣であった。

 切れ味は、おそろしくよいだろう。指を這わせたら、簡単に切れてしまいそうなほど鋭く、そして均一に砥がれている。

 腕を組んでじっと見つめてくるランスロットさんに従って、わたしはそっと、作業台へ横たわるその柄に手を伸ばした。

 ずっしりと、重い。

 片手で持てないこともないが、不安で両手を添える。ゆっくりと持ち上げると、たしかな重みと存在感がそこにあった。

 重い。

 思わずこぼしたわたしに、灰色の瞳を細めてランスロットさんはそうかと笑った。

 花祭りを、十日後に控えた朝だった。




 初めて見る花祭りは、想像をはるかにこえるほど盛大だった。華やいだ町の雰囲気にのまれてしまいそうだ。

 店の前の通りはもちろん、その賑わいは広場に行くにつれてどんどん大きくなる。どの家も表にロッチェの枝を飾って、物を売る店は特売のカゴなんかをところ狭しと並べたり、露店を出したりしていた。

 中央広場は、期間内に申請した鍛冶師たちが腕を振るった剣の展示場となっている。特設された展示台に、均等に並べられた剣には受付番号と鍛冶師の言葉も添えられた。

 城の兵士たちが死角のないように配置され、警備ができているのかは置いておいても、威圧感をあたえるには十分である。広場から各通りに続く門のところにある投票箱に、恐々紙を入れる町人の姿に苦笑が浮かんだ。

 投票結果も気になるが、こぞって鍛冶師たちの作品が並んでいるこの状況である。他の鍛冶師の技術をひと目見ようと、出品したであろう厳つい男たちも熱心に剣を眺めていた。


 わたしは、初日にランスロットさんとぐるりと広場を回った。

 かなりの数が並べられた広場は、子供の遊び場である普段の面影はない。特設された展示台が端から端まで立っていて美術館みたいだ。

 目についたのは、ロッチェの花が飾りにつけられた剣たちだ。女性が持つことを考えて造られた細身で繊細な刀身に、華やかなロッチェが鮮やかな彩りとなる。銀や金などの金属でできたロッチェは、作り手の技量によってそのできはばらけた。

 応募の条件として、すべて鍛冶師ひとりの手によって造られた剣であること、とあるため装飾品までに及ぶ力が抜き出でていないと票を集めることは難しいだろう。

 鍛冶師のコメントには、ロッチェの女神に似合う剣を、というものが目立つ。なかにはロッチェの花をそのまま銀にしたかのような、風が吹けば今にも花弁がふわりと舞いそうなものまであってため息を誘う。宝石があしらわれたものまであった。そんななかひときわ異彩を放っていたのは、やはりランスロットさんの剣だと、わたしは素直に感じた。

 ここにある剣の多くは、刃をつぶしてあると解説してあった。戦いを好まぬロッチェの女神。だから、切れ味など求めないのだと。


 そんな華やぎのなかに、堂々とたたずむひと振りの剣。

 触れぬよう展示台にはガラスがはられているが、見ているだけで背筋に緊張が走るほど、その切っ先は鋭く、受ける陽の光で筋をつくる。

 はっと、息をのむ音が聞こえた。周りにいた誰もが、その剣を眺めていた。

 ランスロットさんはそんな己の剣に見向きもせず、他の作品に足を進める。すげーな、ロッチェが本物みてえ。感心して唸っている姿は、その場に似つかわしくないくらい緊張感に欠けていた。その背中を、わたしはまじまじと見てしまう。

 ランスロットさんなら、周りがどういう剣を造るのか想像できたんじゃないだろうか。誰しもが、平和の象徴ともいえる女神の剣として、切れない、けれども可憐で繊細な女性的なものを思い描くことを。

 わたしは、見上げる。

 ただ磨かれたことで凍るほどうつくしく輝く、その剣を。そして、そこにあった言葉に、敬意を表して目を伏せた。




 三日目を数える花祭り本番まで、賑わいは治まるどころか徐々に活気を深めていく。

 式典は昼からだ。ロッチェの剣を決める投票は昨日の晩に締め切られ、その式典で国王陛下の口から最優秀賞が発表されるそうだ。露店でいくつか軽食をつまんだわたしたちは、人と熱気に満ちた広場へと足を運んだ。

 広場の中央には舞台が組まれていた。それを囲むように、大勢の人たちが集まってロッチェの花の準備をしている。警備についた兵たちの姿ももちろんあるが、城の関係者と思われる女性たちや、祭りに駆り出された兵がカゴにつめたロッチェの花を配り歩いていた。

 王様の剣舞が終わったそのときに、花の雨を降らせるのが習わし。家から用意している人も少なくないが、わたしもランスロットさんもそんな持ち合わせはなかったので、ちゃっかりとその白い花を受け取った。

 あれから、一年か。

 ロッチェを見つめてそう思ったとき、高々にトランペットの音が鳴り響いてわっと歓声があがる。

 ルーヴェンス国王陛下の騎乗する馬と、その脇を固める近衛兵が列をなして現れると、大きな拍手が広場を包んだ。


 その熱気が嘘みたいに静まったのは、陛下が壇上で広場を見渡したときだ。

 花祭りの開催を祝う言葉を簡潔に述べた陛下は、待ちきれないと言わんばかりの人々の顔を見ると大きく笑んだ。

 ――気になる者も多いようだ。それでは、女神にささげる剣がどれになったか、皆に報せるとしよう。

 穏やかな、けれどもよく響く声に広場にいた人々が沸いた。

 陛下は、見ただろうか。町の人々は趣向を凝らした数々の作品で、どれがロッチェの女神の手にふさわしいと思ったのだろう。

 わたしは、思う。あのうつくしい剣を思う。


 刃をつぶした剣を戦に使わないのは当然のこと。ロッチェの女神は、戦うための剣を使わないことで愛した。だから、彼女の持つ剣は――

 集計をまとめた羊皮紙が、王様の手にうやうやしく渡された。はらり、と広げられると広場は水を打ったように静まり返る。

 国王陛下は、あのヘーゼルの瞳をやわらかに細めた。


「――結局、王様の望みどおりになっちゃいますね」


 ちらりと見上げてぽつりとこぼすと、かたわらの名匠はぽりぽりと頭を掻いて目をそらす。


「そりゃあ、女神のご加護があるからな。しょうがねーだろ」

「は?」

「……うるせーな。いいから、お前は黙ってここにいりゃあいんだよ」


 ぶっきらぼうに言って、灰色の目がひたりとわたしをとらえた。セクハラ発言をするときとは似ても似つかないその強さに、はっと息をのんでしまう。


「俺の剣で舞うあいつに惚れたら承知しねえぞ」



 ――ランスロット・ラーヴィン!



 わっと広場が沸き返った。ランス! やったな! 見知った顔たちが振り返って歓声をあげる。ゆったりとした歩調で中央に進むランスロットさんを急かすように、たくさんの手が伸びてその背を押した。

 頭を垂れて跪いたランスロットさんと、それをねぎらうルーヴェンス様の姿はひどくきれいで。絵本の挿絵のようなそこで、銀色にかがやく剣がランスロットさんの手から陛下にささげられる。俺の女神のために、ちゃんと舞えよ。誰にも聞こえるはずのない、歓声に紛れた声が聞こえたような気がして。

 ふっと笑みを浮かべたふたりに、わたしは困ったものだとロッチェの花に同意を求める。ふわりと舞う花弁が、人々の歓声が、白銀の煌めきが、ただただ今はまぶしくて。

 戻ってきたその武骨な手に、ひと足はやく白い花を差し出して、わたしはそっと祝福を落とした。


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