第114話「Auto Termites」
「もう放ったのか!?」クライブはホテルの玄関に向かって走った。
「ウィル!!」サラはドレスの裾をまくりあげ、ホテルのロビーでそう叫んだ。先ほどの銃撃音は誰かがそこにうごめくオートターマイトに向けて撃ったものだった。手に銃を持った男が廊下で倒れているのが見えた。サラは太ももから銃を取り出した。
「サラ!銃を持つな!オートターマイトはアームドキルモードだ!銃を持つ者を追撃し、射撃してくる!」クライブはそう叫ぶと、サラは振り向いた。
「クライブ…やはりあなたたちの・・・・」ホテルの玄関から光り輝く光線がほとばしり、銃を構えた警備兵の腹を貫通していった。銃を撃つ時に発するあのとどろくような音は全く聞こえない。まぶしい光が、一瞬目の前にほとばしったような感覚だ。
アンドレはエリーのいるレストランに入り、挨拶しようと彼女に近づいていった。後ろにいたベンがドアを閉めようとしたとき、再び勢いよく開き、オートターマイトがゾロゾロと乱入してきた。
「これは!?」パブロが瞬時にアンドレに飛びかかり、隣の部屋へ飛び込んだ。しかしベンは、足の悪いエリーがいたためすぐには動けず、近くのテーブルをなぎ倒しその後ろに隠れた。そしてホルスターから銃を取ろうとした時、エリーは言った。
「待って・・・・。」車いすに座ったままのエリーは、そこにいる奇妙な機械は攻撃を仕掛けてこないことに気付いたのだ。次の瞬間、フォイオン軍の味方が一斉に部屋に飛び込み、銃を撃ち数匹のターマイトを破壊したが、数の多いターマイトはまるで蟻のように動き回り、銃を持つ兵士を狙撃した。緑色の光線が放たれたのを見て、驚いたベンだった。
「全員に告げる、このクモのような機械は銃を持っているものにしか攻撃をしてこない。銃を持つな。」ベンは無線機にそう語った。
「よく気が付いたな。さすがだ。しかしお前は銃以外の武器は持ってないんだろ???」そう言って現れたのはディアゴだった。
「ディアゴ・シャシム・・・」
「冥途の土産に一つだけいいことを教えてやろう。このオートターマイトはアンドレを探すようにインプットしている。一匹でもアンドレを見つけたら、1万匹のターマイトが一斉にやつを襲うことになるだろう。アンドレはどこだ?」そう言って背中に背負っていたサーベルを抜いた。そして隣の部屋に続くドアが開いたままになっているのに気づいた。まさしくそこはさっきパブロが国王を連れて脱出した場所だ。
「ふざけるな。誰が話すか!!」そう言った瞬間、ベンはそこにあったナイフとフォークをつかみ、ディアゴに向けて投げた。ディアゴは向かってきたベンに向けて振りかぶった。
「パブロ!国王を連れて逃げろ!」ベンはそう叫ぶと、ディアゴの振り回すサーベルをよけながら、そこにあった肉を切るための少々長めのナイフを手にし、必死にディアゴの攻撃をかわした。ここで国王が逃げ切れるだけの時間を稼ぐ必要があるからだ。エリーは倒れたテーブルの後ろで、震えながらその様子を見ていた。
間一髪、隣の部屋へ逃げたパブロとアンドレは、そこから急いでキッチンへと抜け、隣接する食糧倉庫へ逃げ込んだ。
「絶対に顔を見られないようにしてください。さっきディアゴが言っていたことが本当なら、あの機械は国王の顔を認識し、放たれたすべてのターマイトが一斉に国王に向かってくるはずです。」
「サラは・・・・」そう言いかけた国王だったが、口をつぐんだ。なぜならサラのもとへ行けば、自分のせいで彼女が危険な目にあってしまうかもしれないと思ったからだ。
「彼女は大丈夫です。」心配そうなアンドレに向かってパブロは自信ありげにそう言った。
「プレミエールホテル内で戦闘!無数の小さな機械が光線を発して攻撃してきている模様!」宮殿に響き渡った放送がベッドで寝ていたホウィを起こし、ICCトラックで作業をしていたオスカーを驚かせた。3X研究施設へと続く2つの通路は、一瞬にして防御扉が降り封鎖された。中で働いている従業員はさぞかしパニックになっているかと思いきや、日本人である彼らは自分の持ち場所で自分のするべきことを冷静にしているようだった。
「車に乗れ・・・。俺と一緒に来い・・・。」クライブは静かにサラにそう言った。
「どういう意味だ?クライブ??いやロイ。なぜアーネストの味方をする?」ロビー内をうろつくオートターマイトを気にしながら、サラはクライブにそう言った。
「確かに俺はロイ・スタインベックだ。そしてフォイオンの正式な国王継承者だ。俺と一緒になればお前は間違いなく王妃になれる。さあ、宮殿へ帰ろう。」そのセリフにサラは首をかしげた。
「ウィルを殺しに来たのは間違いないんでしょう??」
「この作戦を実行しているのはディアゴだ。俺は関係ない…。ただ、お前を巻き添えにしたくなかっただけだ。」
「宮殿に帰るって…心変わりしたとでもいうのか?」その質問にクライブは答えなかった。
「誓えるのか?宮殿に戻ってくると…。」
「誓おう。」クライブは少しずつサラに近づいていった。武器を持たないクライブだったが、何をしでかすかわからない。サラも少しずつ後ろに下がった。
クライブはサラの左手薬指に光る指輪を見つめた。その途端、やはり王族の血筋なのか、まことしやかに美しくその場に片膝をつき、右手を自分の胸に押し当ててこう言った。
「ロイ???」
「正規に婚約されたのですね。おめでとうございます。」その瞬間だった。フォイオン軍の兵士の一人が叫んだ。
「サラ様!!こちらへ!!」サラはまだクライブの言うことが信用できず、味方のいる兵士のところへ移動しようとした。
「ち!・・・」クライブはそう言って舌打ちし、サラの左腕を取り引き寄せると、その胸にスタンガンを当てた。電気ショックがサラを貫いた。
「く・・・・」サラはどうっと倒れた。
「新しい指輪を買って差し上げましょう。サラは私と結婚するのですから。」
そのとたん、奥の部屋で激しい爆発音がした。ベンが義足から取り出した手りゅう弾を投げたのだった。テーブルをひっくり返したその後ろから、車いすのエリーとベンが顔を出した。ベンはエリーの車いすに片足だけ乗っかると、その部屋から出てロビーに出た。そこにはクライブがサラを担ぎ上げ立っていた。エリーは叫んだ。
「サラ!!!私の娘に何をするの!!!」しかしクライブはサラにナイフを突きつけ、そしてエンジンをかけたままの車に乗り込み、ディアゴを残しそこから脱出した。