第24話「フォイオン王室の傷-3」
この様子をICCトラックから見ていたベンは、思わす叫んだ。
「スナイパー!?」その声を拾ったサラはそれを詳しくレポートした。
「今の私から見て、3時の方向。・・・射撃は1発のみ、腕に注射筒がささったわ・・・意識が朦朧としてきた・・・ウィルを・・安全な場所へ・・・」
ICCトラック内に彼女の声が響き渡る。
「麻酔銃!?まさか人間に使うとは・・・オスカー!射撃地点を特定できるか?パブロ!アンドレ王を保護しろ!」彼のそばでキーボードをたたくオスカーは、即座にその地点を割り出した。そして叫んだ。
「OK OK!・・・座標G6!射撃角度からいってここに間違いない!」点滅する座標G6
「アパッチ!そこへ撃ちこむぞ!」
「了解!」
アンドレのそばに駆けつけたパブロが叫んだ。
「王!!急いでこちらへ!!!」
「・・・・しかし・・・」木の後ろに隠れながら、困惑した表情のアンドレに、サラは最後の力を振り絞って叫んだ。
「ウィル!・・行け!!・・う・」体中の組織が、ばらばらになるような感覚がサラを襲った・・・。彼女の瞳には、遠くにかすむアンドレの姿が映し出されていた。彼は敵からの射撃を受けながらも、自分のことを心配して戻ろうとしている・・・。これでは私が彼を守っている意味がない・・・。彼女の体は、ゆっくりと地面に崩れていった・・・。
「サラ!!」その瞬間、アンドレは射撃を恐れず、サラの元へ駆けつけてしまう。パブロは慌てて彼を連れ戻そうとするが、時はすでに遅かった。
一方ICCトラック内では、彼らを襲う新たな脅威を発見していた。恐ろしく速くキーボードをたたくオスカーが操作したのは、別働テレビモニターの映像だ。
「テレビモニター画像拡大・・ベン!座標Y7!おそらくFIM-92 スティンガーです!」
彼が言ったとおり、画面には茂みの中から何かを肩に担いだ、2人の兵士の姿が映っていた。そこに見える兵器は、確かに対ヘリコプター専用の地対空ミサイルだ。
ベンの額に汗が流れた。『まずい・・・いったん発射したら、アパッチは自動追尾ミサイルから逃げることはできない・・・。』
「いかん!アパッチ下がれ!!パブロ!二人の救助を急げ!!」
ヘリコプターが急遽、大空へ舞い上がり現場上空から離れていった。しかし次の瞬間、ベンの耳もとに聞こえてきたのは、あの男たちの声だった・・・。
「遅すぎましたな・・・ベンジャミン教官」
ベンはその声に驚いた。そして彼らがこの無線に入ってきているということは・・・。一瞬にして、その状況を理解したベンは、唇をかんで見せた。
「サラが残してくれた、懐かしい形の無線機からですよ・・・よくこれであなたにいじめられましたね・・・」
『間違いない・・・。アンドレとサラの元にジョルジュとマシューがいる!』
「ベン・・・この映像を・・・」オスカーがスティンガーを映し出していたモニターをチェンジし、サラとアンドレの方向に戻していた。その映像には、ジュルジュがサラの体を踏みつけ、その横にはマシューによって銃を突きつけられた、アンドレの姿があった。
「全攻撃スタンバイ・・・」彼は静かにそう言った。
「賢明な指示ですよ。教官・・・本来ならアンドレだけ攫うように依頼されたんですが・・・ちと、昔を思い出しましてね・・・」
「マシュー、貴様・・・まだあのときのことを!!」
「まさか、ここであの時の復讐ができるとは、思ってなかったですぜ」そう言いながら、サラの体をつっつくジョルジュだった。
外人部隊に在籍していたとき、この二人は麻薬の密売、武器の転売をしていた。各国から集まった男たちを時として騙し操りながら、金儲けをしていた過去がある。それをサラが知り暴いたのがきっかけで、彼らはクビになったのだ。
今もそれを恨み、不幸にもここで、こんな形で復讐できようとは、彼らも思ってはいなかっただろう。
マシューは気を失ったサラの体を担ぎ上げると、アンドレも両手を挙げながら、その場に立たされた。マシューの台詞はまだ続いていた。
「・・・決して俺たちを探そうなんてことしないでくださいね。こちらからアポイント取らせていただきますから・・・・」そこへ白いバンが近づくと、サラとアンドレを収容しマシューとジョルジュも急いで乗り込み、走り去ってしまった。
「くそ!!!」ベンは無線機を床に叩きつけた・・・。
その日の宮殿内では、政治家の大物たちがベンにコンタクトを取りたがっていたが、それを一切シャットアウトして、自分の部屋に閉じこもっていた。もちろん、そこにはオスカー、ホウィ、パブロも一緒だった。
「なんてこった・・・」ホウィは持っていた潜水用ゴーグルをソファに投げ捨て、大きくため息をついた。そのソファにはパブロがうなだれながら座り、そしてボソッと口を開いた。
「すみません。私が王だけでも確保しておけばこんなことには・・」
「いや、それは仕方のないことだ・・・。お前のせいではない。」ひとり机に向かっていたベンが、椅子を回しながらパブロにそう言った。
オスカーはここでもパソコンをたたきながら、冷静に解決策を模索していた。
「どこかにやつらのアジトがあるに違いない。それを割り出せればいいのだが・・・今から、島全体の調査をしたとしても、およそ3日はかかるだろう。」
また大きなため息が彼らを包んでいった。パブロは反省しながらも、ホウィの持っていた潜水道具が気になって仕方がなかった。『こんなときにバカンスの話か??』
思い切ってホウィに聞いてみることにした。
「で、お前はなんでそんな潜水道具一式持ってるんだ? 」
「ああ、これ?そうそう・・・実は、怪しい船舶の噂を聞いたんだ。表立っては普通の漁船なんだが、行きも帰りも荷物の量が0!」
「釣りに行ってみたが、釣れなかった・・・てことか?」パブロはきょとんとしてそう言った。
「まあ、素人さんは単純にそう思うだろな?ところがこのホウィ様は、そんな風にはおもわねえ・・・。知ってるかい?麻薬や銃などの危ない荷物は、陸に上がったとたん、検疫検査でひっかかる。だから・・・」
「だから?」この話にベンも興味ありげに、会話に入ってきた。
「陸に上がる前に海中投棄。あとでダイバーが拾いに行くってのが、密輸業者の常識でね。よって、行きも帰りも空っぽなわけ。」
「なるほど・・・それがやつらの武器調達ルートってわけか。」ベンは納得した。
「例の爆破物もそこから入ってきていると考えても良いだろう。」
ホウィは急に、テーブルの上に地図を広げた。
「これが、フォイオン近海の海面図だ。この青い帯状のルートが、おおよその大型船舶が通行している場所だ。で、ここをみてくれ。」そう言って、ある地点を指差した。
「この場所は半島によって、港や民家から死角になっていて、しかも、大型船舶が航行ルートに程よく近い。半島からこのポイントまでの間、満潮時には水深10メートルという浅瀬が続き・・・・そして急激に深くなっている。よくある島独特のリーフってやつだ。」
頭脳明晰のオスカーがピンときた。
「ここで、大型船舶から荷物を投棄し、半島からダイバーが駆けつけるって訳か。」
「正解!ってなわけで・・・ベン。ちょっと海軍の力を借りたい。」
「わかった。すぐ防衛省に電話しよう。」
「Thank you!で、民間人の俺が言うのもなんだが・・・サラは入国早々、愛しのアンドレ王になにかプレゼントしてなかった?」
「・・・・そうだ!」ベンは立ち上がった。オスカーとパブロは途中から参加しているので、この話の意味が理解できないでいた。
サラがフォイオンに入国早々、ベンの裁量でアンドレ国王にGPS探知のできる腕時計をプレゼントしたのだ。
ベンは、急に軍へ電話をしだした。その横でにんまり笑ったホウィは一言告げた。
「あ、海軍に電話も忘れないでね。」
『ヘラヘラした男だが、憎めない奴だ・・・。』ベンはアンドレとサラの救出作戦を思案しながら、そんな事も考えていた。