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Mission!!  作者: UR
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第22話「フォイオン王室の傷-1」


宮殿の玄関前には、いつものように3台の高級車が、国王の乗車を待っていた。西から差し掛かる太陽が、そこにある黒い車を赤く染めていた。ドライバーは眩しそうにサングラスを着用し、運転席のサンバイザーを広げてみたが、小高い山の中腹に位置する宮殿の場所柄、太陽の光を遮断することはできなかった。


アンドレより一足早く、男物のスーツを来たサラがそこへ現れた。いつもながら、ファッション性より機能性重視の彼女の服装は、色気がなく地味でなによりボーイッシュといった感じだ。彼女の長い髪も、緑色のゴムで簡単にひとつに束ねているだけで、おしゃれとかセンスとかいったものなど、微塵も感じられない。


「サラ、俺とオスカー、パブロで前もって墓地に行っている。なにかあったらこいつで連絡を。」

やはり黒系のスーツを着たベンが、サラに近づきイヤフォン付の無線機を手渡した。

「了解」サラはそれをスーツの内ポケットにしまおうとしたとき、右わき腹に拳銃ホルスターが吊ってあるのが見えた。

サラは両利きだ。これは市街戦では非常に有効だ。建物の陰から射撃をする場合、体を建物に隠蔽し、右にも左にも銃を構えることができる。特にボディガードや、誰かを守りながらの戦闘状態では、右手で要人をコントロールし、左手で銃を構えることができる。

公式行事では、基本的に男性の左側に女性が立つ。その点からも彼女の利点は大きい。


この日、アンドレはフォイオン国立墓地へ行き、両親にサラを婚約者として紹介したかったのだが、サラはそれを拒んでいるようだった。『自分はボディガードだ。』と口癖のように言うようになり、かたくなにアンドレを無視していた。そんな彼女の行動は、まるで必死に自分にそう言い聞かせているようにも見えた。その理由は何だろう・・・・・そんな事を考えながら、アンドレは玄関に近づいてきた。

「お待たせしました。ではよろしくお願いします。」

静かにそういうと、ドアが開かれた後部座席に乗り込んだ。サラはその反対側の席に、自らドアを開け無言のまま乗車したが、彼と眼を合わせることはなかった・・・。

警察車両を先頭にゆっくりと、車列が動き出した。


「このところずっと会議があり、ゆっくりお話しすることができなくて申し訳ない。」

アンドレが先に話し出した。

「いえ、私も久しぶりに・・・警備チェックや爆破物などの処置を・・・」

「そうですか・・・サラ、今度一緒に海にでも行きましょう。王室専属の美しいビーチがあるのです。是非あなたにお見せしたい。」その言葉にサラは黙った・・・。

「・・・・・ウィル・・いえアンドレ王。どうかお構いなく・・・私は自分でも不思議なくらい、ここに来てから私が私ではありませんでした。」

彼女の台詞に戸惑うアンドレだった。

「もっと真剣にあなたをお守りしなければ、多額の報酬をいただいている意味がありません。それに、あなた様はフォイオン国スタインベック王家の最後の末裔。そのボディガードが、浮かれているわけにはいきません。」

次々と明らかになるエネルギー鉱石の科学的データー、ベッドに仕組まれた爆弾、そして宮殿ゲートでの爆破、そんな状況を考えると、とてもふわふわした気持ちでこのMissionに従事できない、そういっているようだった。

きっぱりと言ってのけたサラの横顔に、アンドレは何の返答もできなかった。


国立墓地のある場所は、宮殿からさほど離れてはいなかった。そこに近づくにつれ、車の両サイドの窓から見える白い墓標が、目的地まですぐであることを教えてくれた。

王室専用のエリアは国立墓地の中でも、特別な場所に位置していた。

周りは森林に囲まれ、きれいに芝生を刈られたその一体は、スタインベック王家の先祖代々からのお墓がある、歴史的にも由緒ある場所だ。

アンドレ達の車列が墓地に付く頃には、大勢の警護員があたりを取り巻いていた。

静かに、車列はある大きな墓前で停まった。ドアが開きアンドレが車から降りてくる。サラも車から降りると、墓がある方角ではなく森林に眼をやった。何かを警戒しているようだった。アンドレは、自分の側に寄って来ないサラに、いたく傷心していた・・・。


彼らの目の前にある大きな墓石には、アンドレ・チャールズ・スタインベック4世と彫られていた。その隣には、少し小さめのアンドレの母の墓があり、二つ寄り添うようにして立っている。

「父上・・」墓石に彫られた名前を指でなぞりながら、そうっと父の名前を呼んだ。サラはそんなアンドレの様子を気にしながらも、眼を合わせないように遠くの森を見ていたが、彼の名前のことが気になって仕方がなかった。

『なぜ、父親もアンドレなのか?』そんなサラの心を知ってか知らずか、その答えはすぐに返ってきた。 

「・・・この国の王となったものだけが、アンドレという名前を継承できるのです。それまでは私は、ウィルヘルム・スタインベックとだけ、名乗っていました。もう、この国にはアンドレは必要ないのかもしれませんね・・・」

「・・・・・・・」サラは、悲しそうな表情をしたアンドレを見つめた。そして彼の言った言葉の意味を考えていた。一体、この言葉にどういう意味があるのだろうか・・・。もしかして、王を辞める??

ふとサラは、そんな元国王と王妃の墓の後ろにある、比較的新しい墓を見つけた。

「・・・・・・このお墓は?・・・」

「死んだ私の兄の墓です。残念ながらここには眠っていません・・・悲しい話ですが、兄は犯罪をおこしたため父に王家を破門され、異国の地で死にました。」

「・・・・・」サラは初めて彼に兄がいたことを知った。そんな話ベンからも聞いていはいない。

「父はこの王室専用のこの墓地に、お墓を作ってあげることも許さなかったので、父が他界し私が即位した後に、私の権限で・・・兄の墓石だけ建立したのです。」

「そんなことが・・・」

「気にしないでください。あなたには・・・・関係のない、私の家族のことですから・・・」

彼にとっては精一杯の表現だった。

『自分の気持ちを知っていて、あえてボディガードだというサラの答えは、きっとそういうことに違いないのだろう・・・。』やるせない気持ちが、こんな言葉になってしまった自分自身にもふがいなさを感じていた。

伏し目がちに墓石に左手を当てる・・・。右手を胸前におき、静かに祈りをささげた。


しばしの静寂が二人を包んだ。


黒く影を落とした夕暮れの森の影から、なにかが反射して光るのを目撃したサラは、突然叫んだ。

「Everybody! Down!!!」


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