Ⅰ
※この物語はフィクションです。実在の人物、団体、地名等とは一切関係ありません。
2052年10月7日 月曜日
午前7時36分
その日、新東京49エリアでは早朝から秋雨前線の影響で雨が降っていた。
雨といっても、さほど強い雨ではなかったので、主要な交通機関は通常通りに運行していた。夜が明けて間もない空はライトグレイの乱層雲に覆われ、長時間にわたって雨が降り続けることを容易に想像させる。そのせいか、四方八方にあるビル群は、人の気配を映しながらも無機質に立っており、ちらほらと目に入る人々の顔色は、土日の休みを終え、再び五日間の仕事に従事しようとすることに対し、少なからず気落ちしているように見えた。
物事は何事も最初が肝心だという。
その最初の一歩を歩もうとする時に、微量ながらも冷たい雨に降られては、先の物事を億劫に見てしまう。そこから逃げるように上を見上げると、無機質な灰色の空が一面に果てしなく広がっている。それはまるで、自分の心の奥底に潜む暗礁の姿を否応なしに見せられているようで、自ずと目を逸らしてしまう。
雨の日はいつもそんな気分しか感じられなかった。だけど、今日だけは何かが違う。
少年はふと、そう思った。いつもの高校への通学路を、傘を差しながらいつも通りに歩いていた時だ。
何だろう、今日だけは、何かがいつもと違う。どのように違うのか? どうしてそう思えるのだろう?
少年は数秒間立ち止まり、頭の中で静かに思案していた。