喧嘩なんてするもんじゃない
「んじゃ行くか」
「うん」
俺と香奈はいつも通りに家を出た。
さて学校に行くか…行きたくないけど
「おーい!陽多君!香奈ちゃん!」
「あ!紗季ちゃんだ!」
「そういえば同じ登校ルートだったな」
駆け寄ってきた紗季を見て昨日の出来事を思い出す。そもそも同じ登校ルートじゃなかったら紗季がいじめられていた現場を見つけられなかったんだよな
「どう?紗季ちゃん。その髪型にしてみたらなにか変わった?」
「う~ん、今までよりも男子の視線が増えたかな?」
「おいおい、じゃあ二人と一緒に登校って死ぬほど妬みの視線を受けるのかよ…勘弁してくれ」
いつまで俺は妬みの攻撃を喰らうんだ…
「まあまあ陽多君。せっかくだし一緒に行こうよ。ね?」
「陽多君。私と一緒に行くの嫌?」
くっ!ダブル上目遣いなんて反則だ!
「よう、おはよう三人共……って陽多どうした?生気がないぜ?」
「ああ…登校中ずっと妬みの視線を浴びてたからな…」
「…大変だったな」
俺はヘロヘロになりながら席に着いた
「本当にうっとうしいよね。私達はただ仲良く登校してるだけなのにさ」
「私もああいう視線は良くないと思うよ」
「教室でも結構いるからな。そういう視線送るやつ。器が知れてんな」
「お前この間からクラスの男子に喧嘩売りすぎじゃね?」
そしてついに賢也の挑発に耐え兼ねたのか、数名の男子がこっちに来た。言うまでもないが全員俺に妬みの視線を送ってたやつだ
「おい、木崎!てめぇ俺達に喧嘩売ってんのか?」
「可愛い娘を二人も連れてて羨ましいと思うのは当たり前だろうが!」
妬ましいの間違いじゃね?
「はっ、そんなんだからお前らは器が小さいんだよ。まだ付き合ってるかどうかもわからない二人がただ一緒にいるだけで嫌な視線送るようでどうすんだよ?じゃあお前らは子供が可愛い娘と一緒に歩いてて子供を羨んだり妬んだりすんのか?それじゃただの馬鹿だぜ」
賢也にしては珍しくきついな。やっぱり自分も可愛い幼馴染みと一緒に過ごしてた時に同じ目にあったんだろうか?
「んだとてめぇ!!」
ついにキレた男子生徒が賢也につかみ掛かるが…
「け…喧嘩は駄目!」
紗季が慌てて止めに入る。昨日までだったらおどおどしたままだっただろうが…これは大きな進歩だな。
紗季に止められた男子生徒は
「……わかったよ…」
そう言って賢也から手を離す。
それを見て賢也はニヤリと笑った
「なんだ、全然クズじゃないじゃねえか」
「え?」
さらに男子生徒に言う
「今お前は急に俺に喧嘩を売る気なくなったよな?どうしてだ?」
「いや……止めろって言われたのにさらに喧嘩するのは気が引けるしな…」
「ならお前は全然マシだ。本物のクズなら今の状況でも平気で手を出してるからな。そんなお前なら妬みの視線を止めて彼女作ったりするのもわけないぜ」
「………」
男子生徒は賢也の言葉に俯き…顔を上げた
「そうだな。組谷、悪かった。嫌な視線向けちまって」
「いや良いぜ」
「木崎も悪かった。俺完全に頭に血が上ってた。お前の言葉で冷静になったよ」
「いや、たいしたことはしてないさ」
これでこの場は収まった。賢也、なかなかやるな
あれから俺に向けられていた嫉妬の視線は完全に消えた。どうやら他の男子達も賢也の言葉で考えを変えたようだ
で、今は学校が終わり帰り道
「にしても良かった…賢也のおかげで少なくとも教室では過ごしやすくなった」
「単純にあいつらがまだマシだっただけさ。ああ言っても聞かないやつもいるしな」
「でもホッとしたよ。喧嘩になりそうだったもん」
「そういえば紗季は真っ先に止めてたな」
結果的にそのおかげで賢也の説得もうまくいったわけだが
「喧嘩なんてするもんじゃないよ。お互い痛いだけだし…」
「そりゃそうだけどな。でも友情の向上に繋がる喧嘩もあるぜ」
「少なくともさっきのは違ったでしょ」
俺は今まで平気で不良に喧嘩売ってたからあんまり止めたりとかしないんだよなぁ
「なんにせよ陽多君と教室で過ごしやすくなったのは嬉しいよ」
「そうだな」
クラスのやつらにもちゃんと幼馴染みって説明したしな。説明してる時香奈が凄く悲しい顔をしてたが…なぜ?
だがそれはあくまで教室の中の連中だけ。他のやつらは今までと変わらない。
なにが言いたいって?つまりだ
「おいおい可愛い娘連れてんじゃねえか」
「羨ましいねぇ。俺達とも遊んでくれよ」
こういうわけだ。こいつらは香奈と紗季を狙って出てきたみたいだな
「悪いけど貴方達と遊ぶ気は無いわ。消えてくれる」
敵意バリバリの香奈が威嚇した
「おっと怖いねぇ。ちょっとだけで良いんだけどなー」
「一緒に行こうぜ?な?」
ついに男の一人が紗季に手を伸ばした。
いい加減やめさせるか…
「いやっ!触らないでっ!」
「ぐはあっ!?」
……必要なし?あれ?紗季ってこんなに強かったっけ?
「あ…あれ…?」
本人も驚いてるみたいだな。
そこに香奈が耳打ちしてくる
「昨日わかったんだけどね。紗季ちゃん、結構力強いみたいなんだよね。でも弱気な性格のせいでいじめられても手を出せなかったんだよ」
「なるほどな。少し性格を変えたから初めて反撃して力の強さに驚いてんのか」
「紗季ちゃん本人は無自覚だったみたいだしね」
すると呆然としていたもう片方の男が我に変える
「て、てめぇっ!」
紗季に殴り掛かるがかわされる
「わっ!?け、喧嘩は駄目だって!」
「うるせえっ!」
はいクズ野郎認定
「認定記念だ受け取りなっ!」
「うがっ!?なんの…認定だ…!」
弱っ、こいつら見かけ倒しだな
「にしても紗季強いな。今回も俺の出る幕はなかったぜ」
「うん…自分でも驚いてる。あと賢也君、もしかして出番なくて拗ねてる?」
「いやいや俺はそんなことで拗ねないぜ?ああ拗ねないさ」
「絶対拗ねてんだろお前。昼に活躍したじゃねえか」
「物足りないな」
「わがまま言うな!目立ちたがり屋かお前は!」
「そうだよそうだよ。私だって今回は解説しかしてないんだし」
香奈まで参戦!?
「解説役があるだけマシだろうが、俺なんか今の戦い出番ゼロだぞゼロ」
「昼間にあったじゃない!私あの時もほとんど出番なかったんだよ!?」
「いや俺のほうが不憫だ!」
「いーや私のほうが…」
もういいかこいつら、放っておこう
「……紗季、行くぞ」
「……うん」
さーて帰ってゲームでもやりますか
「……あれ?陽多君達は?」
「いねえ!あいつら勝手に帰りやがったな!?」
「酷い!今回の私の扱いホントに酷いよ!」
「俺の扱いの方が酷いっつーの!」
「いや私……ってもう良いよ…疲れたよ」
「……そうだな、おとなしく帰るか」
「うん…」
後から聞いた話によると二人はこんな感じで帰ったそうだ。……ってか二人ともそれなりに出番あるだろうに…