対決
香奈side
陽多君達が入るのを見送った私達は外で待っていた
「皆、大丈夫かな?」
「こういう時に手伝えないのが悔しいね…」
紗季ちゃんの言う通り、私達はこういう時は手伝えないんだよね…
「あら、なら手伝える時に全力で手伝えば良いじゃない。今は手伝えなくてもね」
「優里ちゃん……そっか、そうだよね」
「それに待つことだって立派な手伝いよ。中の三人も誰かが待っていた方が力が出るだろうしね」
「どうして?」
「中から敵を一人でも外に出したら私達が危ないでしょ?だから三人とも敵を倒すのに本気を出さないといけないわけよ」
私達を守るっていう課題も増えるわけか
「ということで、三人を信じて待ちましょ」
「そうだね、皆なら私達を危険な目にあわせたりしないよね」
「うん。出てくるまでずっと待とう!」
今、私達にできる手伝いはそれだけなんだから
陽多side
「よっと!」
「ぐばっ!」
「ふぅ…これで最後か?」
「そうみたいだな」
とりあえず最初の場所にいた不良連中は全員片付け終わったな
「んじゃ、辰也と空の様子を見に行くか」
俺と賢也は奥に進むことにした
「お、あれは…」
少し進むとそこには疲れきった様子の空が座っていた
「空、大丈夫か?」
「あ…二人とも…俺は大丈夫…」
周りには五人の不良が転がっていた。こいつらを一人で相手したのか
「立てるか?」
「う、うん。よいしょっと」
それでもまだ元気が残ってるようだな。流石空
「よし、奥に進むぞ」
俺は二人と一緒に、更に先へと向かう。
まぁ当然、疲れてる空のためにもゆっくり進むけどな
辰也side
「ここか…」
俺は廃墟の奥に到達した。
そして今、目の前にはボロボロのドアがある
「………よし」
俺は覚悟を決め、ドアを開ける。
鈍い音がして開かれるドア。その先には一人の男が立っていた
「へっ…やっぱりここまで来たか、市川」
「よう、来てやったぜ、田島」
笑みを浮かべながら俺の方を見る田島
「その様子だと…ここまでの道のりは仲間に手伝ってもらったのか?」
「ああ。だが不良だった頃の仲間じゃないぜ」
「そうかよ。まぁいいや、今はどうでもいい」
俺は田島に確認する
「で?俺の妹が捕まってるってのは本当なのか?」
「あそこにいるだろ?」
田島の指差した方を見ると、そこには横になって眠っている蜜柑の姿があった
「……よく眠ってんな。睡眠薬でも使ったか?」
「まぁな。身体に害のあるものは飲ませてないから安心しろ」
「何で眠らせたんだ?」
「妹の見てる前じゃお前も本気を出せねえだろ?」
「ま、確かにな」
田島は拳を構える
「本気のお前を倒さないと意味がねえんだよ。この町のリーダーの称号を手に入れるためにはな」
「そうかよ」
俺も答えながら拳を構える
「こんな称号、欲しいならくれてやるけどな…妹だけは返してもらうぜ」
「上等だ…やってみやがれぇ!」
「うおらぁっ!」
俺と田島は同時に踏み出し、拳と拳をぶつけ合う
「うらっ!」
「ぐっ!田島!何でそこまでしてリーダーになりてえんだよ!」
「一人で生きていくためだ!」
「一人で?ぐおっ!」
俺は田島の攻撃をガードしながら話を聞く
「俺には頼れるものなんかねえんだよ。だから一人で生きてやるんだ」
「ここに来るまでにいた仲間とか、家族とかは頼りにならないのかよ?」
「あいつらは俺がグループのリーダーだと思ってる。弱味を見せるわけにはいかねえよ。家族は…」
そこで苦い顔になる田島
「家族は…頼りにならねえさ」
「嫌いなのか?」
「そういうことじゃねえよ。俺の親は大きな会社に勤めてるんだがな。それを理由にして俺をほったらかしにしやがったんだ!」
「家にほとんどいなかったわけか」
「ああ。だが最近急に不良をやめろとか言い出しやがった。長年ほったらかしにしてたのによ」
それは……
「何を急に真面目ぶってんだかな?ふざけんじゃねえよっ!!」
「っ!」
その瞬間、田島は突然殴りかかってきた
「調子良いことばっかり言いやがって!あんなの親じゃねえ!家族じゃねえ!!」
「………なあ」
俺は攻撃を避けながら言う
「それってようやくまともな親に戻ったってことじゃねえのか?」
「ああ!?」
「今までほったらかしだった息子のことがようやく気になり始めたんだろ?本来なら不良になった時点でやめさせようとするんだよ。家族ならな」
俺は言いながら思い出す。自分が不良だった頃を。
親は毎日のように俺を説得してくれた。蜜柑は泣きそうな顔で俺を見てたっけな。
つまり…
「不良になったお前を止めなかった時点でお前の親は異常だったんだよ。そして、今止めようとしてるってことは…お前の親はまともになりつつあるってことだよ」
「何を…!」
「それなのにお前がまともにならないでどうすんだよ?こんなことをしてても意味ないだろうが」
「っ!!黙れ!てめぇも不良だったくせに偉そうなことをぬかすな!」
「ま、そうだよな。説得でどうにかなるとは思ってなかったぜ」
俺が元不良であることを言われたら説得力が無くなるからな
「じゃあどうする?」
「やっぱ最後はこうなるわけだな」
俺は拳を握りしめる
「うおおおおおっ!!」
「おらああああっ!!」
ガッ!と鈍い音が響き、互いの拳が相手の顔面に叩き込まれた。
俺はふらつきそうになりながらもなんとか耐え……
「………ぐっ……!」
崩れ落ちるように、田島が倒れた
「畜生……俺の負けか……!」
「妹は返してもらう」
俺はその横を通りすぎる
「おい……市川……。何でお前は不良をやめたんだ……?」
俺は振り返り、答える
「家族の為だよ」
「……そうかよ……」
そこで田島は意識を失った
「……さて、んじゃ蜜柑を起こすか」
俺は呑気な顔をして眠っている蜜柑に近づく
「おーい蜜柑?起きろ~」
そうして揺さぶると
「ん……?あれ…?お兄ちゃん…?」
「やっとお目覚めかよ」
蜜柑は目を擦りながら起き上がる
「……そうだ。私、いきなり捕まったんだ。それでここに連れてこられて…眠らされたんだ」
「怖くなかったか?」
「うん、お兄ちゃんが来てくれると思ったから、それに…」
「それに?」
「連れてこられた時こそ無理矢理だったけど、その後は眠らされること以外は何もされなかったし」
「……そうか」
その時
「お、もう終わったみたいだな」
「心配なかったね」
「ああ、無事に妹は救出できたみたいだな」
陽多達が入ってきた。無事にここまで来たようだな
「あ、お久し振りです。この間はどうもありがとうございました」
「あ、ああ。久し振り」
陽多を見つけた蜜柑がこの間の礼を言う
「あれ?そういえば皆さんはどうしてここに?」
「お前を助けるために手伝ってくれたんだよ」
「え!?そうだったんですか!?」
「まぁ先に行かせただけなんだがな」
それだけでも充分助かったけどな
「ありがとうございます!また助けていただいて…」
「いやいや、礼を言われるほどの事はしてないよ」
「とにかく外に出ようぜ。香奈達をいつまでも待たせるわけにはいかないしな」
というわけで、俺達は外へ向かった
陽多side
「あ!出てきたよ!」
俺達が外に出ると香奈達が出迎えてくれた
「皆お疲れ様。賢也君も少しは活躍した?」
「俺がいつも地味みたいな言い方はやめろ!」
「空君大丈夫?凄く疲れてるみたいだけど…」
「うん、まぁ大変だったからね」
本当に待っててくれたんだな。勿論こいつも…
「陽多君、疲れてない?」
「疲れてないぜ?」
「流石だね…」
「皆、今回は本当にありがとな。蜜柑を助ける為に手伝ってくれて」
「本当に…本当にありがとうございました!」
辰也と蜜柑が礼を言う。ふぅ、学校をサボった甲斐があったぜ
「それでサボった事を正当化できるわけじゃないけどね」
「うぐっ」
そうだ、それよりも…
「いい加減、自己紹介しないか?空達以外はまだ名前も知らないんだろ」
「そうですね。お願いしても良いですか?」
「ああ、俺は組谷陽多だ。で、こっちが……」
空と紗季を除いた四人で名前を名乗った
「では改めまして。私は市川蜜柑と言います。これからよろしくお願いします」
うん、やっと自己紹介できたな
「んじゃ、俺達は行くぜ」
「皆さん、今日は本当にありがとうございました」
そう言って二人は歩いていった
「んじゃ帰るか」
というわけで、俺達は家に向かっ…
「学校行くよ!まだ間に合うから!」
「……マジかよ」
家に行くことは叶わず、香奈に連行されて学校に行くことになってしまった。
真面目すぎるぞ…こいつは…




