反論開始
私は陽多君の隣に座る。なんだか今度は弁護士になった気分ね
「では反論を聞かせてもらおうか?」
相変わらず偉そうな態度の田島君の父親が聞いてきた
「はい、まずはさっきの話の反論から始めます。田島君が陽多君の彼女を殴っていないと言いましたね?」
「それの何が間違ってるって言うの?」
母親が口を挟んでくる
「うちの子は話しかけただけよ。殴ったりしてないわ!」
「それは違います」
私はさらに続ける
「彼は間違いなく殴りました。それも顔をです」
「何故言い切れる?」
「何人かが目撃しています。まぁ校門で起こった騒ぎですからね。目撃者がいるのは不思議じゃないでしょう」
「ではそれを証明できるのか?」
私は自信満々に言う
「今からお呼びしても構いませんが?」
「……では呼んでみろ」
というわけで岩田先生に頼んで、今日話を聞いた男子生徒を呼ぶことになった
「………」
向こうの三人がこっちを睨んでくる。私はそれを気にせず見つめ返す。
それが気に入らなかった父親が舌打ちする。睨み返さないだけありがたいと思ってほしいわね
「悪い優里…巻き込んじまって…」
陽多君が小声で謝ってきた。
私は彼を安心させるように笑顔を見せた
「お待たせしました」
岩田先生が例の男子生徒を連れてきた
「俺に聞きたいことって何でしょうか?」
「昨日の校門での争いを見ていたと聞いたが?」
「ああはい。目撃しましたよ」
父親の偉そうな態度にも普通に返す
「一つ聞きたいんだが…うちの息子が先に女の子を殴ったと聞いた。それは本当なのか?」
すると彼は田島君を見て
「そうですよ。そこの田島君が先に殴ったんです」
「っ!嘘よ!嘘に決まってる!!」
母親が再び興奮し始める
「どうせそこの女が吹き込んだのよ!信用できないわ!」
「いや別に吹き込まれてないけど…」
「いいえそうに決まってるのよ!うちの子が手を出すなんてあり得ないもの!」
私は母親の文句を大人しく聞く。ボロを出すのを期待して
「だいたい殴られたっていう娘もいないのに!信用できるわけないじゃない!」
来た!
「では一つ田島君に聞いていいですか?」
「………」
相変わらず田島君は黙ったままね
「その話しかけたっていう娘の特徴を教えてもらえないですか?それが分かればその娘を見つけ出せますし、この問題もはっきりするでしょう?」
「そ、それは……」
初めて喋ったものの、また黙ってしまう田島君。男の癖に諦めが悪いわねぇ
「どうなの?言えないのかしら?」
これなら追求していけば諦めて…
「黙れ!!」
「?」
今度は母親でなく父親が怒りだした
「黙って聞いていれば偉そうに…!」
偉そうな態度をとった覚えはないのだけど
「そもそも初めから貴様の言うことなど信用できないんだ」
「何故ですか?」
「決まっている!私程の身分になれば誰が嘘を言うのか見極めることなど簡単なんだ!」
……最早反論ですらないわね
「つまりお前のようなただの小娘の言うことが信じられるわけない!」
「流石に言い過ぎですよ!」
「ええい黙れ!」
ついに岩田先生まで止めに入る始末である。
はぁ…そろそろ例の切り札を使おうかしらね。すぐにボロを出しそうだし
「こうなったら貴様ごと退学にしてやる!言っておくが拒否権はないぞ。私の勤務している会社の権力を使ってでも退学にしてやるからな!」
「貴方にそんな権利があるんですか?」
「なんなら社長に立ち会ってもらう。私は社長にそれなりに顔が通っているからな」
「……悪い意味で、ね」
「なんだと?」
めちゃくちゃな事を言い続ける父親に私は聞く
「ちなみに貴方が勤務している会社ってどこなんですか?」
「お前も名前くらいは聞いたことがあるだろう、紅真企業だ」
「え?」
どや顔で語る父親。
それを聞いて陽多君が驚く
「へぇ紅真企業ですか」
「ふん、驚いたか?」
「ええ、こんな人を雇ったお父さんに」
「そうか……は?お父さん?」
「あ、そういえば自己紹介をしてませんでしたね」
私はここで名前を明かす
「私の名前は紅真優里。紅真企業の社長の娘ですわ」
「……なにを…言っている?はったりか?」
「残念ながら真実よ」
父親が震えだす
「う、嘘だ!!なら社長に確認をしてみろ!」
「良いわよ」
私は携帯でお父さんに電話する
「もしもし?」
『優里かい?何かあったのか?』
「ええ、ちょっと替わるわね」
私は父親に電話を渡す
「どうぞ」
「……もしもし」
『ん?その声は田島君だね。今優里と一緒なのかな?』
「!!しゃ、社長…ですか…?」
『そうだが…?』
父親は驚愕に染まった顔で震える。
私はそんな父親から携帯を取り返す
「ごめんなさいお父さん。今の人がお父さんの娘だっていうことを信じてくれなかったから電話したの」
『ああそういうことか。いや、良いんだよこれくらい。それより田島君となにかあったのかい?』
私は三人の方を見る。既に父親は負けを認めているみたいね
「いえ、偶然会っただけよ。それで私がお父さんの娘だって言ったら怪しまれちゃったの」
『そうかい。まぁ彼には優里のことを伝えていなかったからね』
「今回の用件はそれだけよ。ありがとねお父さん」
『うん、それじゃ』
私は電話を切った
「これで証明されたわね。私が紅真社長の娘だってことが」
「………」
向こうの父親は項垂れたまま返事をしなくなった
「それで?そちら側の反論はまだあるのかしら?」
「……いや、もうない。息子が先に手をだしたことを認めよう」
「お、お父さん!」
母親が慌てて口を開くが
「もう駄目だ、これ以上はどうしようもない」
「う………」
それを最後に母親は黙った
「……後、これは忠告ですけど。田島さん、貴方事あるごとに紅真企業の名を出してますよね?お父さん…社長がそういうクレームが増えたって言ってましたよ」
「………」
「私は今回の件はお父さんに伝えません。これからどうするかは自分で決めてください」
「……わかった……いや、わかりました」
父親は私達に頭を下げた
「迷惑をおかけしました」
少し驚いたわね。数分前まではプライドだけしか能がない人に見えたのに
「ではこれで…」
そして父親と母親が立ち上がり…
「……くそがぁっ!邪魔しやがって!!」
次の瞬間、田島君が私に殴りかかっていた。
その場にいた誰もが止められなかった…。
と、思ったら
「(ガシッ)おい、これ以上騒ぎを起こすなって」
「くっ!?」
いつの間にか登場した賢也君によって手を押さえられていた
「くそっ!離せよ!!」
なおも暴れる田島君。
すると
「いい加減にしろ!!」
「!?親父…」
父親の怒声で、彼の手から力が抜けた
「……すみません、この馬鹿息子は私達が」
そして再び頭を下げて、三人は去っていった
「陽多君っ!」
「香奈…心配かけたな…」
「うう……良かった…良かったよぉ…」
職員室を出た瞬間、香奈ちゃんが陽多君に泣きながら抱きついた
「ふぅ、なんとかなったわね」
「お疲れさん、優里」
「賢也君も。最後に守ってくれて嬉しかったわよ」
紗季ちゃんと空君も安心した表情になっていた
「でも優里凄かったよ!いろいろ調査してたんだね!」
「そっか、休み時間の時いなかったのってこのためだったんだね」
「まぁね、でもどっと疲れちゃった」
そこに陽多君と落ち着いた香奈ちゃんがやってくる
「優里、本当にありがとな。助かったよ」
「優里ちゃん、ありがとね、陽多君を助けてくれて」
「ふふ、良いのよ、大事な親友のためだもの」
私は一つ欠伸をする
「ふあ…そろそろ帰りましょう、眠くなってきたわ」
「さっきまでとは別人だな」
こうして私達は皆で学校から出た。
今回の一件はこれで終わりとなった




