予想外
――これは、辰也が四天王の噂を清治から聞き、陽多と香奈が須海から噂を知ることになる日の朝の出来事である
蜜柑side
いつも通りに歩夢君と合流した私は、二人で皆との集合場所に向かっていました。
今日は土曜日ですから、授業も午前中で終わります。いつもなら、私の気分も軽いのですが……
「……あの、蜜柑ちゃん?」
「は、はいっ!? 何ですか!?」
「昨日の話なんだけどさ……本当に良いのかな?」
今の私は凄くおかしいです。原因は歩夢君の言った昨日の出来事です。お兄ちゃんの提案のせいで、歩夢君と……その、デート……を
「き、昨日の話って何ですか? 私には全く心当たりが……」
「あー、いや……ほら、ぼくとデートするって話……」
「はうぅ……」
な、何なんですかこの感じ!? で、で、デートと言ってもそんなの二人で出掛けるだけじゃないですか!
恋人同士じゃあるまいし、手を繋いだり、抱きついたり、キスしたりする必要は……
「……はぅ……」
「蜜柑ちゃん!? 顔が真っ赤だよ!? 熱でもあるの!?」
歩夢君が心配してくれましたが、私はそれ所ではありませんでした。
デートって……こんなに緊張するものなんですね……
瑠美side
今日は何だかオレンジの様子がおかしい。私は、朝の集合場所でオレンジとクロの二人と合流してすぐにそう思った
何がおかしいって?これを見てもそう言えるかしらね……
「蜜柑ちゃん? 何かあったの? 顔が赤いけど……」
「な、何でもありませんっ! 気にしないでください!」
「……明らかにいつもと違う……よ?」
「何でもないですって! 何なの二人してー!?」
……と、まぁさっきからこんな感じなのよね。これは、やっぱり一番事情を知ってる人に聞くしかないわね。となると……
「クロ。オレンジと何かあったんでしょ?」
そう、クロに聞くしかない
「はは、まぁね。そんなに大したことじゃないんだけど」
「ふーん……」
オレンジのあの様子を見るに、大したことじゃない筈はないんだけどね~
「で? 何があったのよ?」
「うん、明日の日曜日にぼくと蜜柑ちゃんがデートに行くってだけだよ」
なるほど、デートね。それは確かに大したことじゃ……
「大したことあるわぁ!! デートですって!?」
「ええ!? デート!?」
私の言葉に恋バナ大好きななゆが反応した
「そ、それってどっちから誘ったの!? 蜜柑ちゃん!? それとも黒川君から!?」
「お、落ち着いて西原さん。どっちから誘ったって訳じゃないよ」
「え? どういうこと?」
「全部お兄ちゃんのせいなんですよ!」
クロに聞く私となゆに、真っ赤な顔をしたオレンジが叫ぶ。
その後、クロとオレンジの説明により、二人のデートは辰也さんが提案したのだと判明した
「なるほどね~。まぁ楽しんできなさい、デートはデートなんだし」
「デート……はうぅ……」
「……大丈夫? 蜜柑ちゃん……」
顔を真っ赤にして固まるオレンジの肩を姫が揺らす。
おっと、この二人の関係もちょっと気になるけど、今は姫に大事な事を言わないとね
「ねぇ姫? 今日朝礼があるのは知ってるわね?」
「……うん、一時間目の授業が丸々朝礼になるって……会長が言ってた」
今日のような長い朝礼では、いつもなら色々な連絡事項だけで終わるものなのだが、今日は生徒会の役員募集のお知らせも内容に入っている。で、姫を何とか舞台に上げないといけないわけだけど……まずは
「ちゃんと朝礼に参加するのよ? サボったりしちゃ駄目だからね?」
「……? うん……用事が終わったら……すぐに参加するよ」
良かった良かった。優等生の姫なら不良連中みたいに朝礼をサボるような事はしないと思ってたけど一安心ね
「ところで姫、用事って何? 朝礼の前に何かあるの?」
「購買に行くの」
「購買? 何でまたこんな朝っぱらから?」
何かすぐに必要な物があるとか? それとも、超人気商品を手に入れる為?
「森姫ちゃん、学校に着いたらすぐに例のシュークリームを買うの?」
「……うん。早くしないと売り切れちゃう」
……シュークリーム? 何だか嫌な予感が
「森姫ちゃんったらね。今日発売の限定品のシュークリームを食べるまでシュークリームを食べないようにしてるんだって」
しゅ、シュークリームを食べないようにしてるですって!?
「楽しみ……早く食べたい」
「あはは、森姫ちゃんったら気合い入ってるな~。ね、瑠美ちゃん」
「あ、あはは~……本当ね~」
――ヤバイぃぃ!! シュークリーム大作戦が崩壊したぁ!! これじゃあ姫を舞台に上げられないわ!
「……早く学校に行かなきゃ。売り切れちゃう」
「じゃ、じゃあちょっと急ぎましょうか!」
姫に笑顔で答えながら、私は冷や汗を掻いていた。
ああ……どうしよう……
Noside
学校に到着して、皆と別れた森姫は一目散に購買に向かう。
早く、あの極上のシュークリームを食べたい。その思いで森姫の頭は一杯だった。
……そう、購買に着くまでは
「完……売……?」
「ああ、ごめんな。さっき最後の一個を買われちまってね……」
申し訳なさそうに頭を掻く購買のおじさんの前で、森姫は崩れ落ちた
「お、おいおい! 大丈夫かい!?」
「そんな……完売なんて……」
限定品のシュークリームの人気は、当然森姫もよく知っていた。だからこそ、こんなに早く買いにきたのだ。
まさか既に売り切れているとは、流石の森姫も予想外だった
「………」
「お、お嬢ちゃん……」
ゆっくりと立ち上がり、フラフラと購買を立ち去ろうとする森姫。その瞳は真っ暗だった。購買のおじさんは見ていられずに、こんな事を言った
「そ、そうだ! さっき買いにきた兄ちゃんはあっちの方に歩いていったぜ? 譲ってもらえないか交渉してみたらどうだい?」
瞬間、森姫の瞳に再び光が戻る
「……交渉……する……!」
今度はしっかりとした足取りで、森姫は歩いていった。それを見て、購買のおじさんはため息を一つ吐いた
廊下を歩きながら、森姫はキョロキョロと周りを見ていた。
そして、ついにその瞳に小さな袋を持った同級生らしい男子生徒の姿をとらえた
「……あれだ……間違いない」
目標の物を見つけた森姫は、男子生徒に近づいた。
しかし
(……どうやって交渉すれば……良いかな)
例のシュークリームが入ってるであろう袋をジッと見つめながら、森姫は考える。元々口下手な彼女は相手に話しかける事さえ出来ずにいた。
あれこれと考えていた時だった
「……おい」
「………」
袋を持っている男子生徒が振り返った。見ると、蒼い髪の男子生徒の容姿は非常に整っており、女子が見たら一目惚れしそうな程の美男子だった。
もっとも、シュークリームを求める森姫にはそんなことはどうでも良いことであったが
「さっきから人の後を付け回してどういうつもりだ?」
「……えっと……」
男子生徒の言葉に、森姫は何とか返そうとするが言葉が出てこない。しかし、彼女の視線は彼の持つ袋にばかり向けられていた
「……何だよ、これが欲しいのか?」
男子生徒はシュークリームの袋を森姫に見せる
「う、うん……!」
森姫はこくこく、と頷いた。男子生徒はそんな森姫をジッと見つめた
「……ちっ」
舌打ちすると、男子生徒は森姫にシュークリームの袋を握らせた
「えっ……? い、良い……の?」
「そんなにジロジロと見られたら食う気も失せる」
男子生徒はそう言うと、立ち去ろうとする
「あっ、あの……お金は……」
「いらねえ」
それだけ言うと、男子生徒は行ってしまった。その場には、森姫だけが残される
「……体育館に行かなきゃ……そろそろ朝礼が始まっちゃう」
今日の一時間目は朝礼だと言うことを思い出し、森姫は教室ではなく、体育館に向かうために男子生徒が歩いていった方とは逆の方向に行こうと……
「……っ! ……あの人、朝礼をサボる気だ……」
向こうには、屋上に続く階段があるだけだ。森姫は男子生徒が体育館に向かう気がないことに気付いた。
その行動は、生徒会役員として見過ごすことは出来ない。森姫は、先程の男子生徒が歩いていった方に急いで向かうことにした。
彼女自信も朝礼に遅れる危険性があることも忘れて




