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サプライズ! &燐佳と世話係

NO side


「皆、遠慮なく入って大丈夫だからね」


「ええ、お邪魔しますわ……」


 家の主である陽多と香奈に薦められ、家の中に入る燐佳。だが、入ると中は暗くてよく見えなかった


「うわ、真っ暗だね」


「日も暮れてきたからなぁ。電気付けてくるぜ」


「私も一緒に行くよ。ごめんね皆、ちょっと待ってて」


 そう言うと、陽多と香奈は家の中に入っていった


「とりあえず、私達は玄関で待ってましょうか」


「そうですわね。すぐに戻ってくるでしょうし」


 優里に言われて、陽多達が戻るのを待つ五人。

 しかし、数分経っても電気がつく気配もなく、二人が戻ってくる事もない


「……どうしたのかしら? 全然戻ってきませんけど……」


「何かあったのかな? 私、見てくるよ。何回か遊びに来たことあるから家の構造も少しは分かるしね」


「俺も行くよ。皆はここで待ってて」


 そう言うと今度は紗季と空が中に入っていった。

 ……しかし


「……おかしいですわね。誰も戻ってきませんわ。おまけに電気も付かないままだし……」


「ちょっと不自然ね。家主がいるのに電気の付ける場所が分からないっていうのは考えられないでしょうし」


「何かあったのかもな」


 燐佳は戻ってこない四人が心配になってしまった。ここで待っているのもそろそろ限界だった


「ねぇ、優里ちゃん、賢也さん」


「ええ。分かってるわ」


「戻ってくる気配もないしな。俺達も入ろうか」


 燐佳の考えを察した二人は、一緒に中に入る事にした


「確か、こっちが居間だったと思うぞ」


 一度来たことがある賢也が先導して、暗い廊下を進み、居間へ続くドアの前に向かう


「……人の気配がするな」


「陽多さん達かしら……?」


「分からない。俺が先に中に入るから、二人は少し待ってろ」


 賢也がそう言って、ドアを開けて中に入っていった


「……あの、賢也さん?」


 賢也が入ってから少しして、我慢できずに燐佳が声をかけた。

 すると


『大丈夫だ。二人とも、入ってきてくれ!』


 中から賢也の声が聞こえた。それを聞き、燐佳と優里は頷きあうと中に入る


「賢也さっ……」


 燐佳がそう言った瞬間




 パンパンッ!! と大きな音が鳴り、部屋の電気が付いた


「きゃっ!? な、何ですの!?」


 燐佳が驚きながら前を見ると、そこには……







『誕生日おめでとう!!』








「え……み、皆さん……?」


 賢也だけでなく、陽多達も含めた五人がクラッカーを自分に向けた状態で笑顔を向けていた


「ふふ、サプライズ成功ね。皆、タイミングもバッチリだったわよ」


 一緒に居間に入った優里も、楽しそうな笑顔を燐佳に向けていた。状況を理解できていないのは燐佳だけである


「ゆ、優里ちゃん……どういうことなの? サプライズって……?」


 燐佳の疑問に、陽多と香奈が答える


「驚かせちゃってごめんね、燐佳ちゃん。これは燐佳ちゃんの誕生日を祝う為に準備したサプライズ企画だったんだよ」


「家の中のカーテンを全部閉めて電気も消して真っ暗にしたんだ。結構大変だったぜ~」


「あ、ありがたいですけど……私の誕生日はもう過ぎてますわよ?」


 すると、今度は紗季と空が言った


「知ってるよ。でも、前の誕生日パーティーは祝ってくれる人がほとんどいなかったって聞いたからさ」


「だから、俺達で燐佳の誕生日をお祝いしようと思ってね!」


「えっ……?」


 おそらく、優里からこの間の誕生日パーティーの話を聞いたのだろう。だけど、今日出会ったばかりの自分の誕生日を祝ってくれるなんて信じられなかった。


 少なくとも、燐佳が今まで出会ってきた人間の中にはそんな人間はいなかった


「お人好しだろ? だがここにいるのはそういうお人好しばっかりなんだよ」


「貴方もね、賢也君」


「お前もだけどな」


 お人好し、本当にそうだ。今日一日一緒に過ごした事で、自分に取り入ろうとする欲を持った人間がこの中に一人もいないことは分かっている。

 つまり、このサプライズも、下心があっての物ではない。純粋に、自分の誕生日を祝おうとして準備してくれたのだ。


 それを理解した瞬間――


「お、おい燐佳? どうした?」


「え……何が、ですか?」


「燐佳ちゃん……泣いてる……?」


「……っ……!」


 気づいたら、燐佳の頬を涙が伝って流れていた


「も、もしかして迷惑だったか!?」


「違うっ……違いますわっ……!」


 必死に涙を拭う燐佳。しかし、涙は収まってくれない


「私……私、こんな風に……っ、心から誕生日を祝ってもらえると思わなくて……。だって……皆して栗水企業との関係ばっかり気にして……私個人を見てくれる事なんてないから……!」


「……燐佳ちゃん」


 必死に言葉を紡ぐ燐佳を、優里が優しく抱き締める


「優里、ちゃん」


「……ふふ、あの時とは逆になったわね。良いのよ燐佳ちゃん、ここでは令嬢としての振る舞いを気にする必要なんかないわ。だから……」


 一度言葉を切ると、優里は優しく微笑んだ


「――好きなだけ、泣いて良いんだよ。燐佳ちゃん」


「う……ううあああぁ……!!」


 ――そうして、親友の胸に顔を埋めて涙を流す彼女は、この日、この瞬間は恐ろしい令嬢などではなく、寂しがり屋のただの一人の女の子であった。















 しばらくして、彼女は車の前にやって来た。それに気づいた運転手は、車を降りる


「お帰りですか? 燐佳様」


「ええ、今日は楽しかったわ」


「それは良かった。では、どうぞ」


「ありがとう」


 栗水 燐佳は運転手に微笑むと、彼が開けてくれた車のドアから中に乗り込む


「お、戻ってきましたね燐佳様」


「あら、ボディガードが車でくつろいでて良いのかしら? 槇田まきたさん」


 車内には燐佳のボディガード……槇田が既に乗っていた


「何かサプライズがあるから中に入るのは遠慮してくれって紅真企業のお嬢様に言われたんで、ここから燐佳様達が入っていった家を見張ってたんですよ」


「私もその計画は知らされていましたので、ここまで車を移動させました」


 槇田と運転手が燐佳に言う


「貴方達には伝わってたのね……全く、私の知らない所でどうやって連絡してたのかしら?」


「燐佳様の世話係を経由して伝わってきました」


理桜りおも共犯なのね……」


 どうやら、あのサプライズは自分が知らなかっただけで、身近な人間も協力していたようだ


「それで、燐佳様? 誕生日パーティーはどうでしたか?」


「ふふっ、凄く良かったわ。私の為にケーキも作ってくれてたみたいで、皆で頂きましたわ。料理が出来る人ってやっぱり凄いわね」


「はは、以前の燐佳様だったら絶対に言わない台詞ですね」


「昔は怖かったですもんね~、燐佳様」


「む、昔の話じゃない!」


 昔の自分と比べられると少し恥ずかしい。少し顔を赤くしながら、燐佳は微笑む


「全くもう。……でも、本当に楽しかったわ。二人もありがとね」


「いえいえ、僕達はなにもしてませんよ」


「燐佳様が楽しめたなら、何よりです」


「燐佳様も素直にお礼を言えるようになりましたよね。昔はもっと……」


「もう昔の話はしなくて良いですわ!」


 そして、賑やかな雰囲気のまま車は栗水家のお屋敷に到着した











「お帰りなさいませ、お嬢様」


 燐佳がお屋敷に入ると、一人の女性が迎えてくれた。彼女が、燐佳の従者にして世話係でもある理桜りお


「ただいま、理桜。遅くなってごめんなさいね」


「いえ、お気になさらず」


「……そう? じゃあ私の部屋に行きましょうか」


 燐佳に言われて、従者らしい上品な笑顔を浮かべる理桜


「はい、お嬢様」


 その笑顔を見て、燐佳は何故か苦笑する。

 そして、燐佳の部屋に二人で入ると……


「お嬢様」


「ちょっと待って頂戴。……大丈夫、誰もいませんわ」


 理桜の言葉を聞き、燐佳は自分の部屋のドアをゆっくり開けて、誰もいないことを確認する


「ではよろしいでしょうか?」


「ええ、楽にして良いわよ」


 燐佳が言うと、理桜はにっこりと微笑み……


「では失礼して………………疲れたぁーっ!!」


 それまでの上品な姿勢を崩壊させて、燐佳のベッドに倒れこむ理桜。それを見て、燐佳はまた苦笑した


「お疲れ様。苦労したのね?」


「苦労しましたよ! お嬢様、槇田君まで連れていくんですもの! いや、ボディガードだから連れていくのは当たり前かもしれないですけどぉ! あいつ、『今日はお嬢様と出掛けるから僕がいつもやってるトイレ掃除と風呂掃除と……その他諸々の仕事は君に任せるね♪』とか言っていきやがったんですよ!? お陰で私は仕事が倍になってクタクタですよ! もう!」


「それはまた……沢山仕事を押し付けられたものね」


「本当あり得ないですよ~!」


 従者の愚痴を聞くお嬢様。このような光景は今に始まった事ではない。


 始まりは優里と出会い、態度が柔らかくなってきていた燐佳が、お屋敷で共に過ごす時間が最も長い理桜に


『貴女も仕事が多くて大変よね。私の前でくらい楽にしてて良いですわよ』


 こう言った事がきっかけだった。勿論、いきなり楽にしろと言われても出来るはずがなかった。

 しかし、時間をかけて燐佳の態度がさらに柔らかくなるにつれて、理桜もゆっくりと堅苦しい姿勢を止めていった。


 そして


「ああもう疲れたぁ~っ!!」


「はいはい、お疲れ様」


 今のような関係が出来上がっていた。そんな主従関係で良いのか? と問われれば首を傾げてしまうが、この関係が嫌かと言われればそれはない、と即答できる自信があった。

 二人で過ごすこの時間は、この屋敷で最も肩の力を抜ける時間でもあるのだから


「それはそうと理桜? 貴女、優里ちゃん達のサプライズ企画を知ってたのね。貴女を経由して槇田さん達にも情報を伝えていたのでしょう?」


「うげ、誰から聞いたんですかその情報?」


「槇田さんから聞いたわ」


「燐佳様には黙っててくれって言ったのに~! あのアホボディガードめ、仕事を押し付けた件も含めて今度会ったらボコボコにしてやる~!」


「ふふっ、でもまぁ楽しめたから良いですわ。サプライズも、何だかんだ言って面白かったしね」


 燐佳が微笑むと、理桜も笑顔を返してきた


「それなら良かったです。燐佳様、最近は学校から帰ってきても暗い顔ばっかりしてたから心配してたんですよ?」


「ありがとう理桜。私はもう大丈夫よ」


「ふふ~、良かった~」


 優しく微笑む理桜。容姿の良い彼女の笑顔はなかなか絵になる。これがベッドで横たわりながらの笑顔でなかったらもっと良かったのだが


「燐佳様、紅真さん達と仲良くなったばかりなのにこんなことは言いたくないんですけど……」


「あら、どうしたの?」


 少し困ったような表情で理桜は言った


「今日、燐佳様が出掛けたのって星雲学園の近くですよね? あそこ、結構治安悪いんですよねぇ」


「そうなの? 特に危ない目に合うことはなかったけど」


「いやいや、運が良かっただけですよ。不良とか多いみたいだし、ナンパとかカツアゲも多いみたいですよ」


「へぇ……ちなみにその情報はどこで聞いたの?」


「ちょっと小耳に挟んだんですよ~、噂話とかは昔から大好きなので」


「いや、だからその情報源はどこなのよ……」


 燐佳の疑問に曖昧な笑みを浮かべる理桜。どうやら答える気はないらしい


「まぁ良いですわ……それにしても、そんなに治安が悪いとは思わなかったですわ」


「最近は不良達が何やら盛り上がってるみたいですよ。『四天王』を倒してやるって熱くなってるみたいで」


「何ですの? 四天王って」


「ああ、それは……」


 と、その時


『理桜さーん! いませんかー!?』


 廊下から声がした。理桜はそれを聞いて苦い顔になる


「理桜、呼ばれてますわよ?」


「はい……あの娘、最近入った使用人なんですけど、まだ色々と未熟で……ちょっと行ってきますね」


「ええ、行ってらっしゃい」


 ベッドから起き上がり、服の皺を直すと理桜は燐佳に頭を下げてから部屋を出ていった


『理桜さーん!?』


『はい、ここにいますよ。どうかしましたか?』


『理桜さん! 実はちょっと分からないことがあって……』


『そうですか。……後、大声を出すのはやめなさい。栗水家の使用人として相応しい態度を取るように。良いですね?』


『は、はい。すみません……』


『分かれば良いです。それで、分からない事とは……』


 遠ざかっていく声。先程まで主人の部屋のベッドでだらけていたとは思えない理桜の声を聞いて燐佳は苦笑する。彼女の切り替えの早さは自分も見習いたい


「それにしても、そんなに治安の悪い場所だったなんてね……皆さん、何事もなければ良いのですけど」


 燐佳は、今日知り合った友達全員が平和に過ごせる事を祈った。


 ――それが、叶わぬ願いだと知るのは、それから少し後の事である

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