二人のお嬢様 (親友)
とある日の、放課後。燐佳はいつもの様に学校の門から出る
「お疲れ様でした」
「ええ」
短いやり取りをして、燐佳はこれまたいつもの様に運転手が開けてくれているドアから迎えの車に乗り込む。
燐佳が乗るのを確認すると、運転手は運転席に座り、車を発進させる。
それからは、いつもならば車内は静まり返り、栗水家のお屋敷に着くまで一言も言葉を発する事はない。
だが、今日はいつもとは違った
「ふぅ……やれやれ、あの庶民上がりには困ったものだわ……ねぇ、ちょっと話を聞いてくださるかしら?」
「えっ? は、はい。良いですけど……」
突然声をかけられ、動揺する運転手。少し前の燐佳ならばその態度を見て気分を悪くしていたかもしれない
「ありがとう。実は、最近私に絡んでくる身の程知らずがいてね……」
その後は、燐佳が一方的に話しまくった。その内容は全て優里に関する話題だった
「それでね、その娘は私を全く怖がらないのよ。おまけに堂々と暴言をぶつけてくることもあるし……この間なんて仕方ないから話し相手になれって言われたのよ! 私を誰だと思ってるのかしら」
「ほう、それはまた珍しい令嬢がいたものですね……」
「私の話し相手になるんだから最低限の礼儀作法は覚えてもらおうと思って教えてあげてるんだけど、これがまた大変なのよねぇ。庶民上がりには難しいのかもしれないけど、なかなか上達しないのよ。全くもう……本当に困った娘だわ」
「なるほど……」
ため息を吐く燐佳。しかし、運転手は気づいていた。ため息を吐きながらも、その口元に笑みを浮かべている事に。
そして、燐佳の言葉に運転手が相槌を打っている内に栗水家のお屋敷に到着した
「あら、もう着いたのね」
「はい、到着いたしました」
運転手は車から出ると、燐佳の座っている席の横のドアを開ける
「御苦労様」
「はい」
普段ならそれだけで会話は終わるのだが、燐佳は続けてこう言った
「話を聞いてくれてありがとね」
そう言って微笑む燐佳に、運転手も笑みを返す
「いつでもお聞きしますよ」
「ふふっ、ありがとう」
いつもの冷たい令嬢ではない。この日を境に、燐佳は少し変わった
――燐佳が優里に令嬢としての基本的な礼儀作法を教えてから、数ヶ月が経過した
「……食事の作法はこれで問題ないかしら?」
優里がそう言って、目の前でじっと自分を見つめる燐佳に聞いた
「そうね……ええ、多少の乱れはありますけど、まぁ合格点はあげられますわ」
燐佳が言うと、優里は笑顔になった
「やったぁ! 栗水さんが認めてくれたっ!!」
「……言葉遣いの方はまだまだだけどね」
「うっ……き、気を付けるわ」
以前の言葉遣いは簡単には抜けないようで、優里は慌てて口調を戻す
「まぁ、良いですわ。貴女を私の話し相手として認めて差し上げます」
「やっとね……ここまで長かったよ……じゃない、長かったわ」
元々、話し相手になってほしいと言ったのは自分自身だけど、まさかこんなに時間がかかるとはあの時の優里は思ってもみなかった
「それで? 私を話し相手に指名したのだから当然何か面白い話題を持ってきたのでしょうね?」
「え? 無いわよ?」
「それでは話が始まらないじゃないですか! 話のない話し相手っている意味ないじゃない!」
「ええ~? そう言われても……」
優里は必死に話題を探す。そして、出てきたのは
「じゃあ栗水さんの話を聞かせてくれるかしら?」
「私の?」
「ええ、色々と聞いてみたい事があるのよ」
「へぇ……この栗水 燐佳に聞いてみたい事とは何かしら? きっと凄く重大な話なんでしょうね」
「いえ、そこまで重大な話じゃないけど……栗水さんってちょっと前までは女の子を後ろに何人か連れてなかったかしら?」
「女の子? ……ああ……」
燐佳は物凄く苦々しい表情になる
「あれって栗水さんの友達じゃないの?」
「違いますわよ。あれは私に取り入ろうとしてる連中よ」
「そうだったの。私、てっきり栗水さんは女の子を大量に従えるのが好きなのかなぁと」
「そんな趣味はありません!」
ごめんなさい、と優里が頭を下げる。燐佳はそれを見てふんっ、と鼻を鳴らしてそっぽを向いた
「でも、最近は私と一緒にいることが多いわよね。その女の子達はどうしたの?」
「さぁ? 最近はあまり話しかけてこなくなったから分かりませんわ。まぁどうでも良いですけど」
「冷たいわねぇ……」
「あんな下心丸出しの連中の事なんて気にしてられませんもの」
冷たい声でそう言う燐佳を見て、優里は苦笑する
「あはは……それにしても急に話しかけてこなくなるなんて……何かあったのかしら?」
「果てしなくどうでも良いことですわ。もうこの話は止めましょう、つまらないわ」
燐佳が本当につまらなさそうに言うので優里は新しい話題を考えることにする
「うーん……じゃあどんな話題にする?」
「次は貴女の話をして頂戴。私だけ話すのは不公平でしょう?」
「私の話?」
「ええ。そうですわね、貴女が小学生だった頃の話をしてくれるかしら」
「えっ? そんな話で良いの? ……かしら?」
「庶民の通う学校ってどんな感じなのか興味あります」
そう言われて、優里は昔の記憶を探ってみる
「そうねぇ……当たり前だけど、ここに通うような高貴な人は全くいなかったわ。礼儀作法なんかも関係ないし、学校が終わればバタバタ走って帰るような子ばっかりだったわ」
「まぁ……紅真さんも走り回ってたの?」
「恥ずかしながら……男の子の幼馴染みと一緒に帰ることが多かったから……」
「幼馴染み? どんな方ですの?」
燐佳が聞くと、優里は目を輝かせた
「うん! あのね、賢也君って言うんだけど凄く優しいの! それにかっこよくて素敵なんだよ! 最近会ってないんだよねぇ、また一緒にいられると良いんだけどなぁ」
「そ、そう。貴女はその幼馴染みが好きなのね?」
「す、好き!? な、何を言うの栗水さん! 私は別にそんな……!」
顔を真っ赤にする優里を見て、燐佳はバレバレですわね、と思いながら苦笑する
「まぁ良いですわ。それより、紅真さん?」
「な、何?」
「………」
「……あっ、ごめんなさい。ちょっと動揺して口調が乱れちゃったわ」
燐佳の無言の圧力を受けてから自分の言葉遣いが乱れていることに気づき、優里は再び口調を戻した
「まだまだ未熟ですわね。精進なさい」
「はい……」
項垂れる優里に対してため息を吐く燐佳。そんな二人は食堂ではかなり目立っていたが大抵の者は少し視線を向けてから、燐佳に目をつけられるのを怖れて視線を外す。
そう、だからこそ優里と燐佳は気づけなかった。
自分達に向けられる視線の中に、他とは違う視線が混ざっていたことを
「はぁ、今日も疲れたわ……」
放課後になり、優里はいつも通りに学校を出ようと門に向かって歩いていた。
と、その時
「紅真さん? ちょっと良いかしら」
「え?」
呼び止められ、振り返ると数人の女子生徒達が自分に視線を向けていた。
よく見ると、それは以前燐佳の後ろに着いていた取り巻きだと思っていた少女達だった
「何かしら?」
とりあえず優里は話を聞くことにする
「ちょっと付いてきてくださる? ここじゃ話しにくいので」
「はぁ……分かったわ」
言われるままに、優里は女子生徒達と共に移動する。
そして、向かった先は……
「裏庭……?」
かつて独りで昼食を食べていた場所に連れて来られ、優里は何故こんな所に? と思い女子生徒達に視線を向ける。
見ると、先程までと違い自分を憎々しげに睨む少女達の視線が向けられていた
「紅真さん。単刀直入に言わせてもらいますけど、すぐに栗水様から離れてくださらない?」
「は……?」
突然言われて、優里は呆けた声を出した
「貴女がどんな汚い方法で栗水様に擦り寄ったのか知りませんけど、貴女みたいな身分の人間が栗水様に近づいて良いわけないですわ」
「そうですわ! 立場をわきまえなさいこの庶民上がり!」
「目障りなのよ!」
女子生徒の言葉に、他の少女達も同調する。
優里は混乱しながらも、何とか言葉を発する
「ちょ……ちょっと待ってよ……じゃない。ちょっと待って頂戴。私、別に栗水さんに擦り寄ったりなんか……というか汚い方法って何の話よ?」
「とぼけるんじゃないわよ! 汚い方法を使わずに貴女みたいな庶民上がりが栗水様の近くに行けるわけないじゃない! それとも、貴女は自分の力で栗水様の御友人になったって言うの!?」
「友人……私と栗水さんが……?」
それはどうなんだろうと優里は考えてしまう。確かに、この学校で唯一まともに話が出来るのは燐佳だけだ。礼儀作法を教えてくれたのも彼女だ
しかし、友達なのかと聞かれて即答は出来なかった。いや、優里がそう思っていても燐佳がそう思ってるかは……
(……思ってるわけ……ないよね)
身分の差が天と地ほど離れている自分の事を、栗水企業の令嬢が友達と思っている訳がない。
やはり、自分は燐佳と一緒にいる資格なんてないのだろう……優里はそんなことを内心で考えてしまう
「ふん、その態度を見る限り、やはり貴女は栗水様の御友人などではないみたいですわね」
「私は……」
「なら良いですわね! 今後一切貴女は栗水様に近付かないようにしなさい!」
「えっ……!?」
女子生徒に言われて、優里はかつての自分を……燐佳に会う前の自分を思い出す。
ため息ばかり吐いていた、つまらない毎日。
独りで裏庭に行き、孤独な時間を過ごす日々。
礼儀作法が分からずに、周りから笑われていた辛い学校生活。
これらが、変わったのは一体いつからだっただろうか……?
『あら? こんな所で何をしていますの?』
彼女は、いきなり自分に話しかけてきた
『何ですのその態度は!』
最初は顔を合わせれば口喧嘩ばかりしていた
『良いですわ。ただし……貴女にはもっと令嬢らしくなってもらいますわ!』
しかし、彼女と出会ってから自分は確実に変わった。
そんな彼女と会えなくなる。今後一切、会えなくなる?
「……嫌だ……!」
「は? 何か言いましたか?」
気が付いたら、優里は大声を出していた
「嫌だ! 栗水さんに……私の友達に会えなくなるなんて……! 絶対に嫌だっ!!」
「っ! こ、この庶民上がりがっ! 栗水様が貴女の友達だなんてありえませんわ!」
「そんなの貴女の決めることじゃないでしょ!? 私は栗水さんを……燐佳ちゃんを友達だと思ってるもん!」
「この……! 恐れ多くも栗水様に対してそのような事を言うなんて……! もう許せませんわ!」
顔を怒りで真っ赤にした女子生徒は、優里の顔をひっ叩こうと手を上げた
「きゃっ……!」
優里はそれを見て、目を強く瞑った。
そして、優里に向けてその手は降り下ろされる
「あらあら、これは何の騒ぎですの?」
――その声が聞こえた瞬間、その場の雰囲気が一変した。
強気に出ていた女子生徒達がビクッと震え、優里は目を見開いた。
信じられないと思いながら、声の主に視線を向ける
「……燐佳……ちゃん?」
「へぇ、庶民上がりが私を下の名前で呼ぶとはねぇ。随分偉くなったじゃないの」
いつも通りの強気な口調と笑みを浮かべて、栗水 燐佳はそこに現れた
「く、栗水様!? 何故ここに!?」
動揺した女子生徒の声を無視して、燐佳は優里の所に向かう
「……退いてくださる?」
「ひっ……は、はい」
優里に手を上げようとしていた女子生徒を笑顔で退かせると、燐佳は優里の前に立つ
「……燐佳ちゃん」
「まるで化け物でも見たような顔ね」
「だ、だって……どうして燐佳ちゃんがこんな所に……」
「どうして? 愚問ですわね。私がここに来た理由なんてちょっと考えれば分かることでしょう?」
「私の為に来たって言うの……? 燐佳ちゃんってそんなに優しかったっけ?」
「失礼な物言いですわね。私だって人並みの優しさくらい兼ね備えてますわよ。まぁ確かに赤の他人だったらここまではしないでしょうけどね」
「えっ……?」
「まだ分からないのかしら? 全く……」
その時、燐佳は優里に向けて、初めて優しく微笑んだ
「貴女は、この私の……友達じゃない。助けるのは当たり前ですわよ」
「っ……!!」
「まぁ少し捜すのに苦労しましたけどね……ってちょっと!?」
その言葉を聞いた瞬間。優里は燐佳に抱きついた
「あ、貴女何を……」
「燐佳ちゃん……燐佳ちゃん! 怖かったよぉ!!」
「ちょ、ちょっと……そんなに泣かなくてももう大丈夫ですわよ」
「だって……だってぇ……」
「もう……困った娘ね」
そう言いながら、燐佳は優里の頭を優しく撫でる。
しばらくすると、ゆっくりと優里を離す
「ちょっと待っていなさい」
そう微笑んで、燐佳は振り向いた。そこには……
「く、栗水様」
固まっていた女子生徒の一人が口を開いた
「……で? 貴女達は何をしてたのかしら?」
「え、えっと……」
燐佳は笑顔だった。しかし、その笑顔は優里に向けていたものとは違い、目は笑っていなかった
「説明してくださる? 私の友達を泣かせたんですもの……それはそれは重大な理由があるんですわよねぇ?」
「ひぃっ!?」
燐佳が怒っていることを察した少女達は小さく悲鳴を上げた。
しかし、先程手を上げようとしていた女子生徒だけは反論した
「く、栗水様の為ですわ! そこの庶民上がりが近くにいては大変でしょうから、二度と近付かないようにしようと……!」
「へぇ、そうなの。で、私はいつそんなことを頼んだのかしら?」
「え……?」
「嫌ですわ。私、貴女達に頼み事をしたことも忘れちゃったのね。ねぇ、教えてくださる? 貴女達は私がそうしてくれと頼んだから行動したのでしょう?」
「そ、それは……」
「まさか……自分達の勝手な考えだけで動いた訳では無いですよね?」
「か、勝手な考えではありません! 私達は栗水様の為に……」
女子生徒の必死な反論を聞いて、燐佳はこれ見よがしに大きなため息を吐いた
「全く……私の話も聞かずに動いたらそれは十分勝手な考えですわよ。貴女達はこの庶民上がり以下……いえ、庶民以下のお馬鹿さんですわね」
「なっ……!! 失礼よ!」
燐佳の物言いに我慢できなくなったのか、女子生徒は再び顔を真っ赤にして怒り出した
「ふうん、プライドだけは無駄に高いみたいね。まぁプライドだけ高くても知能が低ければお猿さんと変わりませんけどね」
「言わせておけば! 栗水企業の娘だからって、貴女自身は何もしてない温室育ちじゃない!」
「……へぇ?」
女子生徒の言葉にピクリと眉を動かす燐佳。
これは不味いと思った他の生徒達が女子生徒を止めようとしたが既に遅かった
「今の言葉……私への……栗水 燐佳への宣戦布告と受け取ってよろしいかしら?」
「はっ……い、いや……」
燐佳の冷たい声で我に返った女子生徒が顔を青くする
「一応言っておきますけど、私も何もせずにぬくぬくと育ってきた訳ではありませんわよ。栗水企業の令嬢として相応しいレベルの教養は受けてきましたからね。……それとも、貴女は私が積み重ねてきた事を全て否定するのかしら?」
「ち、ちがっ」
「良いですわ。貴女の名前は把握していますし、私と敵対するのが望みならすぐに叶えてあげますわ」
「ひ……ぃっ……!! ご、ごめん……なさいぃ……!」
燐佳の冷たい視線に、女子生徒は泣きながらその場で土下座した
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!」
ここが裏庭で、顔が土と泥で汚れるのも気にせずに土下座する女子生徒。そんな彼女に一層冷たい視線を向けると
「……ふん、興が醒めましたわ。貴女達、さっさと私の前から消えなさい。また私とこの娘の関係を詮索しようとしたら……今度は容赦しませんから」
「は、はいぃ!」
少女達は頭を下げてから逃げるように裏庭から去っていく。最後に土下座していた女子生徒が顔を拭くこともせずに立ち去っていった
「全く、面倒臭い連中でしたわ」
「燐佳ちゃん……あんな事したらまた怖がられる理由が増えちゃうんじゃ……」
「構いませんわ。怖がられるのは慣れてますから」
「でも……」
燐佳はそう言うが、優里は自分のせいで燐佳に良くない噂が立つのでは、と思い申し訳なく思った。
そんな優里を見て、燐佳はため息を吐く
「はぁ……私が大丈夫だと言っているのよ。貴女が気にする必要はないですわ」
「燐佳ちゃん……」
「それに……私と貴女は友達でしょう? 助け合うのは当たり前だわ。……そうでしょう? 優里ちゃん」
「あっ……」
燐佳に初めて下の名前で呼ばれた。友達だと、認めてもらえた
「私達は友達……ううん、違うよ燐佳ちゃん」
ただの友達なら、ここまではしてくれない。相手の事を全力で考え、相手の為に全力で行動する。そう、この関係は……
「私達は……『親友』だよ!」
「親友……?」
「あっ、親友って言うのはね……」
「い、意味くらい知ってますわ! 友達よりももっと仲の良い関係の事でしょう?」
「そうそう! 私達は親友だよね!」
「友達を飛び越えて親友とはね……ふふっ、貴女は本当に面白い娘ね」
「あっ! 燐佳ちゃんが褒めてくれた!」
「その口調……はぁ、まぁ今日は多目に見ますわ」
そして、燐佳はいつもの強気な笑みを優里に向ける
「光栄に思いなさい。この栗水 燐佳の……初めての親友になれたことを」
その言葉に、優里も純粋な笑みを返す
「ふふ、改めてよろしくね、燐佳ちゃん」
優里は手を差し出す。燐佳はその手を握る。
しばらくそうしてから、お互いに吹き出した
「……ふふっ、ねぇ優里ちゃん、いつまでこうしてれば良いのかしら?」
「あはは、分かんない」
「何ですのそれはっ!」
「あはははははっ!!」
こうして、二人のお嬢様は親友と呼べる関係になった。
それからと言うもの、二人は一緒に行動する時間が大幅に増えた
「優里ちゃんの礼儀作法や口調も安定してきたわねぇ。最初の頃が嘘みたいですわ」
「ふふ、燐佳ちゃんに認められたならもう安心かしらね」
「……そう言えば、そろそろうちの学校でパーティーがあるんですよね。そこまで言うならパーティーの礼儀作法も問題なく……」
「教えて頂戴! 今すぐ!」
「はいはい、分かりましたわ」
やがて、お互いに少しずつ変わっていった
「燐佳ちゃん、最近態度が柔らかくなってきたわよね」
「そう? 私は前からこんな感じだったと思いますけど」
「そんなわけないわよ。前はちょっと会話したら口喧嘩になるほど高圧的だったのに」
「そうでしたっけ? もしかしたら、どこぞの庶民上がりの親友にほだされてしまったのかもしれませんわね」
「わ、私の影響なのかしら」
「ふふっ、どうかしら。でも、確かに最近は昔より甘くなったかもしれないわ」
「自分でも自覚してるんじゃない」
「まぁね。最近、私の世話係にも甘くなってきてるのよねぇ」
小さな変化は積み重なり、大きな変化となっていく
「優里ちゃん、最近は例の幼馴染みの話をしなくなりましたわね」
「……そうね」
「……どうかしたの?」
「いえ……身分の違いって厄介よね、本当に……」
「……いずれ、分かり合える日は来ますわよ。絶対に」
「ありがとう。私もそろそろ……初恋にお別れを告げないと駄目かしらね」
「お別れを告げるのは告白をしてフラれてからにしなさい。貴女自信の為にも……相手の為にもね」
「……ええ、分かったわ」
二人のお嬢様は……初めて出会った時から大きく変化していたのだった。
そして、卒業してからお互いに出会う事がなかった彼女達は、久し振りの再会を果たすことになるのだった。
陽多side
「……と、まぁこんな所かしらね」
少し長い昔話を終えた優里は一息吐いた。
二人が出会ってから仲良くなった話……想像していたよりも長く、深い話だった
「良い話だね……二人の絆はその時から続いてるんだ」
「素敵なお話……。燐佳ちゃん、カッコいいね」
香奈と紗季が尊敬の眼差しで燐佳を見つめる。本人はそんな視線を向けられて苦笑している、昔の自分の話を聞かれるのはちょっと恥ずかしいみたいだ
「二人がすっごく仲良しなのはこういう理由があったんだね!」
「そうだな。お互いに出会ってなかったら今の優里と燐佳はいなかったわけだしな」
空の感想に俺も同意する。そして、賢也は感慨深そうに言葉を漏らす
「なるほどな……今のお嬢様としての優里がいるのも……そして、俺が告白するまで待っていてくれるように言ってくれたのも燐佳だったのか。……俺にとっても、恩人と言える相手だな」
「ふふっ、恩人だなんて大袈裟ですわ。優里ちゃんと賢也さんがお付き合い出来るようになったのは、お互いに想い合っていたからでしょう?」
「そ、それはそうだが……」
「も、もう! そんな恥ずかしい質問はやめて頂戴!」
燐佳は二人の反応を見て楽しそうに笑う。でも、恩人と言われて満更でもないみたいだな、何だか嬉しそうだ。
……おっと、昔話をしてる間に目的地に着いたみたいだな
「よし、着いたぜ。皆、上がってくれよ」
「あら、ここは? 誰かのお家かしら?」
その通りだ、ここは……
「うん。ここは私と陽多君の家だよ。遠慮なく上がって大丈夫だから、入って入って」
そう。俺と香奈の家なのだから。
さぁ、最後のサプライズの始まりだぜ




