嘘吐き 前編
少し前 歩夢side
ぼくは、蜜柑ちゃんに手を握られたまま、体育館に向かっていた。
その間も、蜜柑ちゃんはぼくに笑顔で『大丈夫です』と言い続けてくれた
(……どうして君達を裏切ったぼくにこんなに優しくするんだ、君は)
そもそも、ぼくの考えでは最終的に蜜柑ちゃんに嫌われるはずだった。嘘吐きなぼくが彼女と一緒にいることは彼女にとって悪影響でしかないからだ。
その決心は、あの時したはずだった。
一週間前の日曜日、蜜柑ちゃん達と遊びに出掛けた日だ。
その帰り道、ぼくは蜜柑ちゃんに言われた
「貴方は本音をほとんど喋りませんね」
正直、ぼくは浮かれていたんだと思う。蜜柑ちゃんという高嶺の花である美少女と仲良くなれて。
彼女と隣の席になれて、久し振りに緊張した。内心で動揺するなんてかなり久し振りだった。
だから……彼女ともっと仲良くなりたいと思ってしまった
「良いんです。歩夢君がとても優しい事も知ってますから」
(優しい……だって?)
今まで浮かれていた頭が一瞬で冷えていく。
そうか、ぼくはまたやってしまったんだな。優しい人間だと、この娘に思い込ませてしまったんだ。ぼくが優しいだって? そんなことはあり得ない。
だってぼくは……自分の為に人を騙して裏切った最低な人間なんだから
(……駄目だ。蜜柑ちゃんがぼくとこれ以上関わったら、彼女は悪影響を受ける)
そうだ。ぼくはこの日、蜜柑ちゃんと縁を切ることに決めたんだ
それから数日後、ぼくは倉田君に近付くことにした。彼が生徒会長を狙っている噂を聞いて、好機だと思ったからだ。幸い、倉田君は協力すると言ったらあっさりぼくを信頼してくれた。
優等生の振りをするように言ったら言う通りにしてくれたのを見て、彼がぼくを完全に信用してると確信した
ぼくの頭の中では、既に仲野 桐花が生徒会長として復帰し、ぼくは蜜柑ちゃん達から絶交される所まで作戦が出来上がっていた。後は考えた通りに動けば良いだけだった。
そして、その日はやって来た。停学していた仲野会長が学校に復帰する日だ。
朝、ぼくは隣の席に座った蜜柑ちゃんに仲野会長について相談された
「じゃあしばらくは桐花ちゃんが生徒会長のままでいられるんですね」
蜜柑ちゃんの質問に、ぼくは答えた
「いや、それはどうか分からないよ」
「え?」
「実は、その生徒会長の座を狙う人がいてね……」
ぼくは、ここで蜜柑ちゃんに倉田君が生徒会長の座を狙っている事を教えた
「そうなんですか……大丈夫ですかね、桐花ちゃん……」
「そうだね……心配なら彼女の力になってあげたら良いんじゃないかな?」
「そうですね。私も何か手伝えるかもしれませんから」
蜜柑ちゃんの純粋な笑顔に、ぼくは作り笑いで答えた。
……これで、蜜柑ちゃんがこの騒動に参加する事は決まった。
その後、朝のHRの後の休み時間、ぼくは倉田君に会いにいった
「倉田君、仲野 桐花には会ったの?」
「ああ、さっき会ってきた。選挙が明後日だって事も伝えたぜ」
選挙が明後日だと急に知らされたんだ、仲野会長は焦ってるだろうね。おそらく、小さな情報でも良いから欲しがるはずだ。そこを利用するんだ
「ねぇ倉田君。一つ提案があるんだけど」
「何だよ?」
「倉田君の支持者がぼくだって相手側に教えようと思うんだ」
「ほう、何か意味があんのか?」
「仲野 桐花に協力すると思う連中の中にぼくの知り合いが何人かいてね。ぼくが敵だと知れば必ず動揺すると思うからさ、相手への牽制にはなるんじゃないかな」
「なるほどなぁ、良いぜ。お前の作戦は間違いねえしな」
「はは、それはどうも」
普通は仲野会長の関係者にぼくの知り合いがいるって言ったら少しくらいぼくに警戒心を抱いても良いと思うんだけどね。全く、倉田君は本当に扱いやすくて助かるよ。
とにかく、これで蜜柑ちゃんはぼくが倉田君の味方をしてる事を知るだろう。あの娘の事だ、ぼくに直接確認しに来るかもしれない。今日は教室に待機してようか。
放課後、ぼくは一人で教室に残っていた
(……さて、そろそろかな)
ぼくがそんな事を思っていた時だった。……廊下を走ってくる音が聞こえた。
教室の扉が、勢いよく開けられた。ぼくが視線を向けると、そこには……
「あれ? どうしたの蜜柑ちゃん?」
「……歩夢君」
――ぼくを真っ直ぐに見つめる、蜜柑ちゃんの姿がそこにあった
次回で生徒会長選挙編は終わる予定です




