桐花の想い
大変遅くなりました! 今年初の投稿となります、どうか今年もこの小説もどきをよろしくお願いします!
倉田が数人の先生に連れていかれてからしばらくして、司会を務めていた教師が戻ってきた
「お待たせしました。二人目の候補者の仲野 桐花さんと支持者の原中 玉樹君。前にどうぞ」
教師に言われ、桐花と玉樹の二人は前に出る
「んじゃ、オレから行くぜ」
「うん、行ってらっしゃい玉樹君」
桐花に言われて頷くと、玉樹は生徒達の方を向いた
「あー、どうも。桐花の支持者の原中 玉樹っす。よろしく頼むぜ」
大勢の生徒達の前だと言うのに普段と変わらない様子の玉樹を見て桐花が苦笑した
「んじゃ、今から桐花のアピールをしていこうと思うが……もう一人の候補者はさっきのでかなりイメージダウンしちまったし、桐花が勝つのはほぼ確実になったよな」
玉樹の言う通り、さっきの倉田の様子を見て彼の容姿に惹かれていた女子達でさえ彼に失望しただろう。
つまり、桐花の勝利はもう決まったも同然なのだ
「ってことは、桐花はまた生徒会長になるってわけだ。つまり――」
少し言葉を切ってから、玉樹は言った
「――またお前らの面倒事をいくらでも押し付けられる相手が出来るって事だ」
玉樹はそう言うと生徒達を睨み付けた
「そうだろ? てめえらはこいつに色んな事を押し付けてきたもんな?」
「た、玉樹君……」
「黙ってろ桐花。オレが喋り終えるまでな」
慌てて止めようと思った桐花だったが、玉樹を信じて、静観することにした
「ちょっと! 色んな事を押し付けたって何よ!?」
「そうだそうだ! いきなり何なんだよ!」
玉樹の言葉を聞いた生徒達は、一斉に彼に文句を言う。しかし、玉樹は彼らを睨み付けたままだった
「そうよ! 私達は何も会長に押し付けたりしてないわ!」
「……おい、お前」
と、その時文句を言っていた一人の女子生徒に、玉樹が言った
「何も押し付けてねえだぁ? じゃあこの間のカツアゲ騒動を何とかするように桐花に頼み込んだのはどこの誰なんだよ」
「っ! そ、それは……」
女子生徒は顔を逸らす。なぜなら……
「お前なんだろ? 桐花に『生徒会長なんだからカツアゲを止めてくれ』って頼んだのは」
「う……」
そう、彼女こそ桐花がカツアゲ事件に関わるきっかけとなった張本人なのだ。
普段から桐花と仲が良かった彼女は、友達がカツアゲの被害に遭ったのを理由に桐花に頼み込んだのだ。カツアゲを止めて欲しい、と
「先生に相談しなかったのはカツアゲしてた連中に後で自分が相談したってバレるのが怖かったからなんだろ? その点、桐花なら優しいし、口も固いから自分の名前が漏れる事もないもんな」
「………」
その沈黙は、認めたも同然だった。桐花もそんな彼女の様子を見て、辛そうに表情を歪めた
「他の連中だって同じだ。桐花に何も押し付けてないって本当に言えんのか?」
体育館は、すっかり静まり返っていた
「先生方もそうだぜ。桐花の事を面倒事を押し付けやすい生徒会長だと思ってたんじゃねえのか?」
「そ、そんな事は!」
「無いって言い切れんのかよ? じゃあ問題を起こした桐花にそのまま生徒会長を続けるように言ったのは何でだ? ちゃんとした理由を言ってみろよ」
「うっ……」
教師達も、内心では思っていたのだ。
桐花は……素直に言うことをよく聞き、どんな面倒事だろうと押し付ける事が出来る『良い生徒会長』だと
「どんな面倒事も笑顔で引き受けてくれる皆から慕われてる生徒会長って言えば聞こえは良いけどよ……それって実際はこいつに色んな責任を全部背負わせてるって事だよな?」
玉樹の言葉に反論する者は、既に一人もいなかった
「――生徒会長だから全部一人で背負わなきゃいけねえのか? 一人で何もかもやらなきゃいけねえのか? そんなのおかしいだろうがっ!!」
ついに玉樹は声を荒げた
「何で桐花が……一人の女の子が全部背負わなきゃならねえんだ! 色んな事を押し付けられなきゃいけねえんだ! おかしいじゃねえかよぉ!」
「玉樹君……」
桐花の目の前には、体育館に集まる者全てに向かって叫ぶ……小さくも大きな玉樹の後ろ姿があった
「カツアゲ事件の事まで背負って、一人で抱え込んだ桐花にも責任はある! だかよぉ……今まで色んな事を押し付けまくってたてめえらにも責任はあるんだよ! こいつに全部押し付けてんじゃねえぞ!」
玉樹はそこまで言うと、一つため息を吐いた
「……オレが言いたかったのはこれだけだ。後は……本人がどう思ってるかだな」
そう言うと、玉樹は桐花に視線を向けた
「じゃ、交代だぜ。行ってこい、桐花」
「………」
桐花は、玉樹と約束していた事を思い出していた
(玉樹君の言葉を聞いて……私が思った事、感じた事を……皆に伝える……)
少しの不安もあった約束だったが、今の桐花には……
「……分かった。皆に伝えてくるよ、私の想いを」
不安は……全く無かった。
玉樹が頷くのを見てから、桐花は前に出た
「皆さん、聞いてください。私が今から話すのは、生徒会長の言葉じゃありません。ただの女子中学生の……仲野 桐花の言葉です」
そう前置きすると、桐花は話し始めた
「私は今まで、生徒の皆の為に頑張ってきました。一人でどんな事でもやっていこうって、そう思ってました。辛いと思う事も、皆の事を思えば辛くありませんでした」
桐花はそこで言葉を切った。
そして……
「でも、違ったんです。私は一人で何でもやる為に生徒会長になった訳じゃない。……皆と一緒に頑張っていきたかったんです」
それはまだ生徒会長になる前に桐花が思っていた事だった。
前会長の波岸 須海が皆と協力して学校行事をこなしていく姿を見て、桐花は思ったのだ。自分もこうやって、生徒と共に頑張る生徒会長になろうと。そう思い、彼女は生徒会長になったのだ。
そう、最初はそう思っていたのだ
「皆と頑張る生徒会長になろうと思ってたのに……いつの間にか、一人で全部背負い込んで……さらにはカツアゲを手伝うような事もしてしまった私に、生徒会長を続ける資格はないと思います」
でも、と彼女は続けた
「どうか、次に生徒会長になる人は同じ過ちを繰り返さないでほしい。私みたいにならないでほしい。皆と頑張る生徒会を作ってほしい。だから……次の生徒会長が現れるまで、私が生徒会を支えます。私には無理だった……素敵な生徒会長が現れるまで……私が……」
桐花が続けようとした時だった
「――ごめんなさい!!」
「えっ……?」
桐花に向かって頭を下げたのは……カツアゲ事件の調査を桐花に押し付けた女子生徒だった
「私……会長に……桐花に頼りすぎてた……。桐花が何でも背負ってくれるからって……桐花に全部押し付けてた……本当にごめんなさい!」
「お、俺も謝らせてくれ! 会長に面倒事を押し付けたのは俺も同じだ!」
「私にも謝らせてくれ……教師でありながら、私達は君に……頼りすぎてしまった……すまなかった!」
「会長! 私……私会長にいつも甘えてた! いつも何でもやってくれると思って……ごめんなさい!」
「原中の言う通りだ! カツアゲ事件は俺達全員の責任だ! 会長に無理をさせ過ぎた……俺達だって同罪だ!」
「皆……」
女子生徒に続くように、体育館にいる皆が桐花に頭を下げた
「無理なんかじゃねえよ、桐花」
「玉樹君……」
玉樹は、桐花の肩を叩いた
「今からでもなれるぜ、素敵な生徒会長にさ」
「……うん……」
玉樹の言葉を聞いて、桐花は涙が溢れるのを止められなかった。
桐花は目元を拭うと、再び皆に呼び掛けた
「皆……今からでも……間に合うかな? 皆で頑張る生徒会長に……私、なれるかな?」
「なれるよ! 私達が変われば! 絶対に変わってみせるから!」
「もう会長だけに背負わせねえぞ! 俺達も一緒に背負うんだ!」
「次の生徒会長が現れるまで仲野会長が生徒会を支えるなら……私達はその仲野会長を支えていきます!」
桐花の言葉に、体育館にいた全員が答えてくれた。
再び視界が歪み始めた桐花の隣で、玉樹が笑いながら言った
「お前らぁ!! たった今から仲野 桐花をこのとあ中の生徒会長に任命するぜ! これから全員でこいつを支えていくんだ! 賛成するやつは拍手しやがれぇ!!」
その瞬間、体育館は大きな拍手の音に包まれた。
その拍手の全てが舞台の上で涙を流す少女に送られていた
「皆……ありがとう……!!」
――この瞬間、仲野 桐花は本当の意味で、都安流中学校の生徒会長となったのである。
皆と共に歩んでいく生徒会長に




