番外編 皆のクリスマス
約一ヶ月も更新をサボってしまい申し訳ありませんでした!
今回はクリスマスの番外編となります、ではどうぞ
《鈍感な二人》
クリスマス。この日、付き合っているカップルの多くはデートに出て二人の時間を楽しむ事が多い。
しかし、それはあくまでも付き合っているカップル――つまり、お互いに好意を自覚している者しか出来ない事だ。
だから、例えば両想いなのにそれに気付かずに片想いだと思っている者はというと……
「はぁ……」
ため息を吐きながら、歩くしかないのである
「紗季……今頃何やってるのかな?」
そう言って、再びため息を吐くのは絶賛片想い中の海風 空である。
彼は今一人で町を歩いていた。その理由は単純で、片想いの相手である種宮 紗季とデート……もとい、一緒に出掛けようと思ったからである。
しかし、そう思って家を出たのは良いものの、誘う勇気がなかなか出てこないのだ。
そして今、空は
「クリスマスに紗季と一緒に……そ、それってデートって事だよな……い、いや違う! 俺はただ夜のクリスマスパーティまでの時間を潰したいだけで……って別に紗季とデートするのが嫌って訳じゃなくて……!」
……ご覧の有り様である。一人で何かをぶつぶつと呟きながら歩く彼は、周りからおかしな目で見られているのも気づいていなかった。
しかし、おかしな目で見られているのは彼だけではなかった。前から同じように何やら独り言を言いながら歩いてくる少女がいた
「クリスマスなら……今日なら空君をデートに誘うのもアリだよね……! で、でも出来るの!? 私に空君をデートに誘うなんて大胆な事が本当に出来るの!? うう……でもチャンスは今日だけなのに……」
この台詞からも分かると思うが……前から歩いてきたのはさっきから空が誘いに行くかどうか悩んでいる相手の種宮 紗季である。
そして、二人は目の前に自分の想い人がいるとは夢にも思わないまま、同時に呟いた
「「はぁ……どうしようかな……ん?」」
二人は顔を上げて、ようやくお互いの存在に気がついた
「さ、紗季!? どうしたのこんな所で!?」
「そ、そ、空君こそ! どうしたのかな!? 一人で出歩くなんて珍しいね!」
「い、いや俺は……散歩してたんだよ! うん!」
「そ、そうなんだ……じ、実は私もそうなんだよ! 散歩してたの!」
「ふ、ふーん……そうなんだ」
二人は物凄く動揺しながら会話する。端から見れば二人とも嘘を言っているのが丸わかりなのだが、突然の事態に動揺している二人はそんなことに気づく余裕もなかった
(そ、そうだ!)
空は何かを思い付くと、紗季に言った
「え、えっと紗季?」
「な、何かな?」
「良かったらだけどさ……一緒に歩かない?」
「え!? 良いの?」
「うん、まぁ一人よりも二人の方が楽しいかなぁと思ってね。だ、駄目かな?」
「ううん! 私もその方が楽しいと思うし! 一緒に行こう、空君」
「うん!」
この時、二人は全く同じ事を考えていた
((結果オーライだね……!!))
……二人がお互いの想いに気づくのは、まだまだ先になりそうであった
《独り身コンビのクリスマス》
町がクリスマスムード一色で染まり、楽しそうに歩く人々が多い中に二人の少女がいた。
片方は周りを見てため息を吐き、もう片方は無表情のまま持っているシュークリームを食べながら歩いていた。
その少女達は……
「……ねぇ、森姫ちゃん。私の愚痴を聞いてくれるかな?」
「……良いよ」
見た目美少女の筈なのに彼氏がいない西原 菜由華と、恋人がシュークリームの羽塚 森姫であった
「クリスマスってさ……残酷だよね」
「……何で?」
「何で? じゃないよ! 周りを見てよ! 恋人同士で歩いてる人の数が多すぎるよ! これじゃあ独り身はどうやって町を歩けば良いのか分からないよっ!」
森姫のクールな返答に対して、菜由華は大声で叫んだ。当然、そんな彼女に周りの人々は奇異の目を向ける
「菜由華ちゃん……皆見てる……よ?」
「うう~! 独り身の私を見て笑ってるんだね! そうに違いないよ!」
「そんなことないよ……元気出して……菜由華ちゃん」
肩を落とす菜由華を森姫が懸命に励ます
「……そんなに辛いならわざわざ外に出なくても良かったんじゃない?」
「いや、夜のパーティまで暇だからね。どうにかして時間を潰したいからさ。……今更だけど、付き合わせてごめんね森姫ちゃん」
「……大丈夫だよ。わたしも……暇だったし」
ちなみに、菜由華が森姫を誘った理由は自分と同じ独り身の相手が彼女しかいなかった為である
「ありがとう森姫ちゃん……よーし! 早くゲームセンターに行こう! これ以上リア充がいちゃつく姿なんか見たくないからね!」
「……うん、分かった」
そう言って、菜由華は周りをなるべく見ないで歩き出し、その後ろを森姫がシュークリームを食べながら追いかけていった。
そして、その後にゲームセンターでもいちゃつくカップルの姿を見ることになり、菜由華がパンチングマシンに八つ当たりをすることになるのだった
《恋人には程遠い二人》
「はっくしゅんっ!! あー、寒ぃな……」
「大丈夫玉樹君? 風邪引いてない?」
「大丈夫だよ。子供じゃねえんだからそこまで心配すんなって」
大きなくしゃみをした少年、原中 玉樹に一緒にいた仲野 桐花が心配そうに声をかける。
片や童顔で身長の小さい少年、そしてもう片方は中学生にしては大人びた顔つきをして、抜群のスタイルを持つ少女。この二人が同学年だと気づく者は果たして何人いるだろうか……。
ほとんどの者は少し歳の離れた姉弟だと思うだろう。さらに酷い時には
「ねぇねぇ、君達暇かな?」
「姉妹二人でクリスマスなんて寂しいでしょ? 良かったら俺達と遊ばない?」
何と、玉樹を小学生くらいの女の子だと勘違いして姉妹だと思う者までいるのだ。
そして、そんな時には決まって……
「てめえら……誰が姉妹だぁ! つーかオレは男だぁっ!!」
玉樹が額に青筋を浮かべて怒り狂うのだ
「ええっ!? そ、そう言われれば男に見えなくもない……かな?」
「男に見えなくて悪かったなこの野郎!」
「す、すみません。私達、これでも同学年なんです」
「同学年!? 君とこのちっこい男の子が!?」
「よーし! てめえらちょっと面貸せやぁ!」
「喧嘩は駄目だよ玉樹君!」
その後、桐花は何とか玉樹を宥めて男の二人組と別れた
「ったくよ……誰が姉妹だってんだよ」
「まぁまぁ、誤解は解けたんだから良いじゃない」
その後もぶつぶつと文句を言う玉樹を桐花が宥める。
その光景は、ますます同学年には見えず、桐花の目指す恋人同士の関係には程遠いものであった
《素直になれない》
「うぅ~、寒っ」
そうボヤきながら冬の町を一人で歩く少女がいた。その少女――暁 瑠美は両手にスーパーの袋を持っていた。
その理由は今夜のクリスマスパーティの料理を作る為である。パーティの主催者に料理を作る手伝いがしたい、と彼女自身が申し出たのだ。普段の瑠美を見ている人は意外だと思うかもしれないが、彼女は家事が得意なのだ
「にしても張り切って買いすぎたかしらね……」
瑠美は両手に持っている袋を見ながらそう言った
「……って言っても、オレンジとかは一杯食べるからね~、やっぱりこれくらいあった方が良いわよね」
大量に食べても太らない親友の顔を思い浮かべながら瑠美は思った。
と、その時
「あれ? 瑠美ちゃん?」
「え? あ、ショウじゃない」
瑠美の幼馴染みである成河 将生が声をかけてきた
「買い物帰り?」
「そうよ。あんたも呼ばれてるんでしょ? 今夜のクリスマスパーティ」
「ああ、そういうことか。瑠美ちゃん料理上手だもんね」
「私の周りの男子でショウくらいよ、それを知ってるのって」
瑠美はそう言って苦笑する。将生もそんな瑠美に笑顔を向けながら言う
「あはは、確かに瑠美ちゃんが料理上手なんてなかなか気づかれないよね」
「失礼ね、私だって女の子なのよ」
「そうだね。じゃあここは男の僕が瑠美ちゃんの荷物を持ってあげないとね」
「え……べ、別に良いわよ。私、力あるし……」
「良いから良いから。ほら、こっち持つよ」
そう言って、瑠美の持っていた袋を将生が持った
「結構重いね。入ってるのって全部料理の材料なの?」
「そうよ、重いでしょ? 無理しなくて良いわよショウ」
「大丈夫だよ。それにこんなに重いって分かったら瑠美ちゃん一人に持たせられないよ。女の子なんだから」
「……あっそ、それならそっちの荷物は任せるわよ」
「うん、了解」
笑顔で答える将生に、瑠美はそっぽを向きながら小さな声で言った
「……ありがと、ショウ」
その時の瑠美は、いつにも増して女の子の表情をしていた
《パーティの準備中に》
紅真家の中のとある大広間。そこが今夜のクリスマスパーティの会場となる。
その部屋では、主催者である紅真 優里と、優里の彼氏である木崎 賢也がパーティの準備をしていた
「悪いわね賢也君。準備手伝ってもらっちゃって」
「いや、良いさ。お前一人じゃ大変だろうしな。でも何で誰にも手伝ってくれって声かけなかったんだ?」
「そんなの決まってるじゃない。今日はクリスマスなのよ? 皆それぞれ一緒に過ごしたい相手がいるだろうし、邪魔しちゃ悪いじゃない」
まぁ料理の手伝いを自分から申し出てくれた瑠美ちゃんは例外だけどね、と優里は続けた。ちなみに、一緒に過ごしたい相手がいないせいで現在ゲームセンターでストレス発散中の少女が約1名いることに優里は気づいていない
「なるほどな。なら俺はやっぱりお前の手伝いに来て正解だな」
「あら、どうして?」
「決まってるだろ。俺が今日一緒に過ごしたい相手っていったらお前しかいないからな」
「ふふ……それは私も同じよ、賢也君」
そう言って、二人で楽しそうに笑いあう
「さて、と。じゃあちょっと休憩にしましょうか」
「そうだな、ずっと飾り付けの準備とかしてて疲れたしな」
二人は別の部屋に移動して、休憩することにした。
紅茶を飲みながら休んでいると、賢也がふと気になった事を優里に聞いた
「そういえばおじさんはどうしたんだ? 今日はいないのか?」
「父さんは会社のパーティに行ってるわよ」
「へぇ、お前は行かなかったのか?」
「ええ、というより父さんに言われたのよ。友達とのパーティを優先した方が良いって」
紅真社長は相変わらずだな、と賢也が苦笑する
「ま、私も皆とのパーティの方が楽しくて良いけどね」
「そうか。じゃあ飾り付け頑張らないとな」
「そうね、クリスマスツリーを100個くらい飾りましょうか」
「そんなにいらねえよ!」
「あら、折角ツリーに願い事を書いた短冊を貼ろうと思ったのに」
「七夕かよ! てか100個のツリーに願い事貼るって欲張りすぎだろ!」
「ふふっ、冗談よ冗談。とにかく飾り付け頑張りましょうか」
「さっき俺も言ったけどな、それ」
いつもの様に軽口を叩きあいながら、二人はパーティの準備を再開した
《デート……?》
(クリスマスか……イチャイチャしてる人が多いなぁ)
黒川 歩夢は周りを見ながらそう思った
(紅真さんの家でやるクリスマスパーティまで時間があるし、暇を潰せれば良いと思ったけど……デートしてるカップルを見てると何か心に傷が出来そうだよ!)
うまく行っているカップルと、好きな相手に想いを伝える事すら出来ない自分……比べるだけで歩夢は惨めになってきた
(帰ろっかな……今日はパーティまでひたすら引き込もってよう、うんそれが良いね、そうしよう)
そう決めた歩夢は、すぐに家に帰ろうと歩き始めた……その時
「あっ! 歩夢君!」
想い人の声が聞こえ、歩夢の動きが停止した
「蜜柑ちゃん?」
「はい、こんな所で会うなんて奇遇ですね」
(まさか蜜柑ちゃんに出会えるなんて……! 良かった、まだ帰らなくて!)
笑顔で駆け寄ってきた少女――市川 蜜柑を見て、歩夢は内心でガッツポーズした
「もしかして、歩夢君も暇潰しですか?」
「まぁね。蜜柑ちゃんもそうなの?」
「はい、夜まで時間がありますから、外を歩いてみようかと思いまして」
二人とも考えている事は一緒だった。すると、蜜柑が聞いてきた
「折角ですから歩夢君と一緒にいて良いですか?」
「えっ? うん、蜜柑ちゃんが嫌じゃなければ良いけど」
「嫌なわけないじゃないですか! じゃあ行きましょう、歩夢君」
(わっ! ちょ、ちょっと!?)
蜜柑はそう言うと、歩夢の手を握ってきた。唐突な展開に歩夢は動揺する。勿論顔には出さなかったが
「ど、どうしたの? 急に手を握ってきて……」
「寒かったんです」
「いや、だからって手を握っても……」
「寒かったんです」
「そんなに寒いならどこか店の中にでも……」
「寒かったんです!」
「……分かったよ」
何度聞いても寒かったとしか言わない蜜柑に歩夢がついに折れた
(うーん、何でこんなに必死にぼくと手を繋ぎたがるんだ? 本当に寒かったのかな? うーん……ていうかこの状況ってぼくと蜜柑ちゃんがデートしてるみたいだ!)
意識すると急に緊張してきた歩夢は、隣で蜜柑が顔を赤くしている事に気づかなかった
「ほ、ほら! 行きますよ歩夢君!」
「あ、う、うん」
その後も二人で町を歩いて回ったが、繋いだ手を離す事はなかった
《クリスマスでも変わらない二人》
クリスマスというだけあって、町の様子も普段とは違っていた。店の飾り付けも気合いが入っていたし、あちこちからクリスマスの歌が聞こえてくる。
しかし、そんな中でもいつもと変わらない二人がいた
「クリスマスだね、陽多君」
「ああ、にしても寒いな……」
幼馴染みカップルの組谷 陽多と楓実 香奈である。クリスマスということでデートに繰り出した……のは良いが、予定を全く立てずに出掛けてしまった為に、デートというより散歩になってしまっている
「まぁ冬だしね、寒いのは仕方ないよ」
「こんなに寒いと露出の多い服を着てる女の子はいないだろうなぁ」
「陽多君? ナニカイッタ?」
「何でもないです!」
……本当に変わらない二人であった
「はぁ……それにしても、ちゃんとデートの予定は立てるべきだったね」
「まぁな。でもたまにはこうやって歩くだけってのも良いんじゃねえか?」
「ふふ、それもそうだね。私は陽多君と一緒なら幸せだから」
何だかんだ言って、二人はデートではないただの散歩でも楽しんでいるのだ
「クリスマスに好きな人と一緒にいられるのって幸せな事だよね」
「これでコンパスを持ってなければ完璧なんだけどなぁ」
「今日は持ってないよ?」
「だよな、やっぱり持ってる……って!? マジでか!?」
「あはは、今日だけね」
笑顔で答える香奈。どうやら彼女にもいつもと違う所があったようだ。
と、その時だった
「あ、雪が降ってきたよ!」
「道理で寒いわけだぜ……」
「ふふ、ロマンチックだね」
空から降り始めた雪は、クリスマスの雰囲気にぴったりであった。
……そう、最初の内は
「や、やべぇぞ香奈! 雪が強くなってきたぜ!」
「ま、前が見えないよ! 陽多君どこー!?」
「こっちだ! 早く避難するぞ!」
あっという間に穏やかな雪は激しくなり、二人は慌てて手を繋いだ
「このまま優里の家に避難しちまおうぜ!」
「そ、そうだね。パーティまでもう少しだしね!」
そう言って、二人は必死に紅真家まで向かっていった。
結局、パーティの参加者の中で陽多と香奈が一番最後に到着することになるのだった
はい! というわけであえてクリスマスパーティを書かずにパーティまでの皆の様子を書いてみました。うーん……それにしてもリア充が多いなぁ……。
ちなみに、皆のクリスマスパーティがどうなったかはご想像にお任せします! まぁ……やりたい放題楽しんだのは間違いないと思いますけどね……。




