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選挙前日

《菜由華&森姫》



菜由華side


 突然だけど、皆は気配を消すって事出来るかな? 前を歩いている人に気づかれないように後をつけるのってなかなか難しいよね。


 え? いきなりどうしたって? それはね……


「……菜由華ちゃん、今気づかれそうだった……よ?」


「ご、ごめんなさい……」


 正に今! 私は対立者である倉田君の尾行活動をしてるんだよ! もう何時間も!

 私も最初の内はなかなか楽しかったよ。隠れながら進むゲームもたくさんやったことあるからね。現実でこのスキルを使う時が来た! って感じでね……。

 でも、当然だけどゲームと現実は違うわけで……


「ねぇ森姫ちゃん……いつまで尾行すれば良いのかなぁ?」


「……とりあえず夕方まで」


「そんなに……?」


 朝から尾行を始めてもう昼になっちゃったよ。

 しかも、尾行対象の倉田君は何をしてるかと言うと


「森姫ちゃん、あの女の子で何人目だっけ?」


「……三人目。朝の間に二人とデートしてるから」


 何と、倉田君は色んな女の子とデートしてるんだよ! しかも時間をずらして! どうやら、彼の女癖の悪さは相変わらずのようだね


「……ちなみに、今言ってる台詞も三回目……だね」


「ああ……あの『僕が愛してるのは君だけだよ』って台詞ね。どの口が言うんだか」


 はぁ……何が悲しくてあんな最低男の尾行なんか……


「菜由華ちゃん。……会長の為に、頑張ろう?」


「森姫ちゃん……うん、そうだね!」


 そうだ。これも桐花ちゃんの為なんだ。倉田君なんかに生徒会長の座を渡す訳にはいかないからね


「動いた……行こう、菜由華ちゃん」


「了解!」


 よし! 気合い入れて行こう!


「……シュークリームと牛乳があるけど……食べる?」


「普通こういう時はあんパンと牛乳じゃないの!?」











《桐花&玉樹》



桐花side


 明日の選挙に向けて、どんなアピールをするか考えていた私と玉樹君だったけど、瑠美ちゃんからの連絡を聞いて優里さんの家に向かう事になった。

 そして、その連絡っていうのが……


「前の会長さん、見つかったんだな」


「うん、須海会長に会うの久し振りだなぁ」


 何だか懐かしいなぁ、まだ会長が卒業してから一年も経ってないのに……


「……会長に話さないとね。私が副会長のカツアゲを手助けしたこと」


 会長、何て言うかな……? 怒るかな……それとも、ガッカリして何も言ってくれないかも……


「前の会長さんに言うの、怖いか?」


 玉樹君が私の顔を覗き込みながら聞いてくる


「ちょっとだけね。でも、言わない訳にはいかないよ」


「ああ、そうだな。全部打ち明けちまった方が良いと思うぜ」


「うん、そうするよ」


 私は覚悟を決めて、優里さんの家の前までやって来た……んだけど……


「お、大きいお屋敷だね……」


「そういえば桐花は紅真先輩の家に来んのは初めてだったな」


 こ、こんなお屋敷にお邪魔するなんて生まれて初めてだよ……


「ほら、いつまでも固まってんなよ。早く行こうぜ」


「う、うん」


 私は玉樹君の後に続いて、優里さんのお屋敷に足を踏み入れた












 お屋敷の入口に立っていた男の人に事情を説明すると、優里さん達は入ってすぐの客間に集まっているとの話だったので、そこに通してもらった


「この部屋だよね?」


「ああ、そうだぜ」


 ドアを開ける前に、念のため玉樹君に確認する。間違えて違う部屋に入ったら不味いからね


「ふぅ~……よし」


 私は深呼吸を一つしてから、ドアをノックした


『どうぞ、入って良いわよ』


 中から優里さんの声が聞こえた。私は失礼します、と言って中に入った。


 中には優里さんに加えて、陽多さん達の姿もあった。そして、ドアの近くのソファに座っているのは……


「よっ、桐花。元気にしてた?」


「須海会長! お久し振りです!」


 私の一つ前の生徒会長、波岸 須海さんの姿があった


「おいおい、もうあたしは会長じゃないよー?」


「あっ! す、すみません……何かこの呼び方で慣れちゃってたから……」


「あははっ、まぁ良いけどさ。あんたがそう呼びたいならね」


 笑いながら私に言ってくれる須海会長。

 ……うん、全然変わってないや。ホッとしたよ


「で、桐花? あたしに何か話があるんだって?」


「……はい」


 ここからが本題だ。須海会長に全てを話して、アドバイスを貰わないと


「……随分真面目な話みたいだね。良いよ、言ってみなよ」


 私の雰囲気を感じ取ったのか、須海会長の顔付きが真剣なものに変わる


「会長……私は……」


 そして、私は全てを話した。私が選んだ副会長が、カツアゲ事件を起こした事。そのカツアゲを私がバレないようにした事、そのせいで停学になって今生徒会長の座を奪われそうになっている事……全部話した。


 須海会長は、私の話を何も言わずに聞いていた


「……これが、今の私の現状です」


「なるほどね、話は分かったよ」


 そう言うと、須海会長は私を見つめながら聞いてきた


「桐花。あんた、カツアゲを手伝った事、反省してるの?」


「勿論です。もう二度とあんな事はしません」


「そうかい。で、生徒会長を続ける気はあるの? そんな事をしておいて?」


 須海会長が私を睨みながら言う。

 ……カツアゲとか苛めが大嫌いな会長だもの、私のした事を許してくれないかもしれない。

 でも……


「はい、続けます。もうあんな事にならないように……心を入れ換えて、生徒が安心できるような学校を作る為に」


 私は、須海会長から目を逸らさずに言った


「私は……生徒会長を続けたい」


 須海会長は再び私の顔をジッと見つめる。


 少しの沈黙が流れた。でも、それは突然破られた


「……ふっ、合格だよ。桐花」


「え……?」


 須海会長の表情は、さっきまでのものと違い、優しい表情になっていた


「悪い事をした時にはさ、反省したのにいつまでもその事を引きずる、これは一番最悪なんだ。絶対に進歩しないからね」


「えっと……じゃあさっきの質問は……」


「ごめんよ、意地悪な質問をして。でも、あんたは合格だよ。あんたは悪い事を反省した上で、生徒の事を考える生徒会長であろうとし続けている。うん、これなら安心して力を貸してあげられるよ」


 そう言うと、須海会長は私に優しく微笑んでくれた


「会長……ありがとうございます!」


「あはは! ま、卒業したあたしに出来ることなんて限られてると思うけど、何でも言ってよ」


 すると、私達の会話を邪魔しないように後ろに立っていた玉樹君がひょっこり出てきた


「とりあえず、事情説明はこれで大丈夫っすかね? 波岸先輩」


「お! 原中も来てたの! あんた相変わらずちっこいね~!」


「ちっこいって言わないでくださいよ!」


 あはは、玉樹君が須海会長に抗議してる。玉樹君は怒るかもしれないけど、端から見たら懸命に背伸びしてる可愛い男の子に見えちゃうね


「波岸は原中とも面識あったのか?」


 玉樹君と同じく空気を読んで黙ってくれていた陽多さんが須海会長に聞く


「まぁね。こいつちょくちょく桐花に胸触らせてくれーって生徒会室に来てたりしてたからね」


「原中君は全然変わってないって事だね……」


 香奈さんが苦笑しながら言う。

 そういえばあの頃は玉樹君が胸を触らせてって言っても断固拒否してたっけ。でも今なら……はっ! 私、何考えてんの!


「確かに変わってないね~、身長とかもね」


「身長の話はもうすんな! それより本題に入りたいんすけど!」


「おっと、そうだったね。ごめんごめん」


 玉樹君とのやり取りも一段落したようなので、私は話を切り出した


「須海会長、私は明日の選挙に負けるわけにはいかないんです」


「うん」


「ですから……選挙での私のアピールを考えないといけないんですけど、なかなか思いつかなくて」


「なるほど、それであたしにアドバイスを貰いたいって事?」


 流石だ、話が早い


「はい、会長の意見を聞きたいんです。どうかお願いします」


「って言ってもねぇ……あんたの気持ちを皆に伝えれば良いんじゃないの?」


「でも……それだけじゃ今回の相手はどんな手段を使ってくるか分からないから……」


「あのね、桐花」


 須海会長は私の言葉を遮って話し出した


「自分の気持ちを正直に伝えるって言うのはそれだけで大変な事なんだよ。もしあんたが変に作戦を立てて、上っ面の言葉だけで生徒の信頼を得るようなアピールをしたら、もう本当のあんたを見てくれる人なんていなくなっちゃうよ?」


「本当の私……」


「桐花、あんた生徒会長だからって力入りすぎてたんだよ。だから、カツアゲを手伝うなんて馬鹿な事をしちゃったんだ」


「それは……私が全部悪くて……」


「確かにあんたにも原因はあった。でも、あんただけが悪かった訳じゃないんだよ」


「え?」


 どういう事? だって、カツアゲを手伝ったのは私の心が弱かったから……


「……あんたは、生徒会長である前に一人の女の子なんだよ。そんなあんたがどうして色んな責任を一人で背負わなくちゃいけなくなったのか……原中、あんたは分かってるんじゃない?」


 須海会長が聞くと、玉樹君は頷いた


「はい、分かってます。だから、明日の選挙で全部ぶちまけようと思ってます」


「そうかい、桐花の支援者はあんただったね。うん、それで良いと思うよ」


 何だか二人で納得しあってるけど……話が全然分かんないよ


「なら桐花。あんたは明日の選挙のアピールはぶっつけ本番で行こう! 直前の原中のアピールを聞いて、思ったことをそのまま皆に伝えるんだよ」


「えええっ!?」


 う、嘘ぉ!? 選挙のアピールを事前に考えないで挑むなんて聞いたことないよ!?


「せ、せめて玉樹君が何を話すか知りたいんですけど!」


「いーや、今聞いちゃ意味が無いのさ。皆に気持ちを伝える直前に聞いてこそ意味があるんだからね」


「うう……玉樹君はそれで良いの……?」


 玉樹君を見ると、彼も真面目な表情で答えた


「桐花がどうしても不安だって言うならやめても良いけどよ……オレは波岸先輩の作戦が良いと思う。倉田に勝つ為にも……お前自身の為にもな」


「私の為に……?」


「だから桐花。オレを信じてくれねえか?」


 玉樹君は私を真っ直ぐに見つめながら聞いてきた。

 ……ズルいよ。そんな風に聞かれたら……


「……分かったよ。玉樹君を信じる」


 信じるしか……ないじゃない


「よしっ! これで決まりだね! 明日は頑張りなよ桐花!」


「俺達も観に行きたいけど……流石に選挙中に学校に忍び込むのはヤバイからな。離れて応援してるよ」


「桐花ちゃん、負けないでね。私達も応援してるからね」


 先輩達が私に応援の言葉を送ってくれる。

 ……うん、もう一人で背負い込む必要なんてない、私にはこんなに沢山の仲間がいてくれる。

 だから……


「桐花、明日は絶対勝つぜ」


「うん! 頑張ろう、玉樹君!」


 私は……頑張れる!













《相手側》



 時間はあっという間に流れ、選挙前日の夜がやって来た。

 そんな時間に、黒川 歩夢と倉田 真の二人は前と同じく、電話で話をしていた


『で? 黒川よぉ、今日はお前の指示通りにうちの学校の女で俺が付き合ってる中でも特に可愛い娘四人とデートしてきたけど、何か意味あったのか?』


「勿論。明日の作戦に必要な事だよ。それで聞きたいんだけど、その四人の中で一番今日のデートを楽しんでたのは誰だったかな?」


『あん? どういう事だ?』


 倉田の問いに、歩夢は少し笑いながら答えた


「簡単な話だよ。一番君との時間を楽しんだ娘に、明日の選挙で仲野 桐花のアピールを妨害するように頼むんだよ」


『妨害?』


「うん、彼女の言うことなんか信用できないって言ってもらうだけで良いんだよ。もともと、女子達のほとんどは倉田君が生徒会長になることに賛成してるみたいだからね」


 イケメンはこういう時に凄くありがたいよね、と歩夢は笑う


「だから、残るは彼女の容姿に惹かれてる男子をこっち側に引き込めば良いのさ。その為に、君の言うことを聞いてくれる可愛い女の子を利用するんだよ」


『なるほどなぁ、同じように容姿の良い女が仲野 桐花を信用できないって言っちまえば……』


「そう、それを聞いて仲野会長の信用を失った男子達が倉田君を支持してくれるかもしれないって事だよ」


『ははっ! 完璧じゃねえか!』


 桐花に勝つ作戦を理解した倉田は、気分よく笑いだした


「うん、これで明日は確実に勝てるよ」


『ははっ、明日が楽しみだぜ!』


「あはは、本当にね」


 倉田と歩夢の笑い声が、夜の部屋に響き渡った












《瑠美&蜜柑》



蜜柑side


『……って感じね。どうやら倉田の奴、今日は四人の女の子とデートしてたらしいわよ』


「四人もですか……」


 今日、倉田君を尾行してくれた菜由華ちゃんと森姫ちゃんの報告によると、倉田君は相当女癖が悪いようですね。電話で教えてくれた瑠美ちゃんの中でも彼の評価がガクッと下がったようです


(どうして歩夢君はそんな人と……)


 ……いけない、敵の心配なんてしてる場合じゃないのに


『オレンジ、大丈夫?』


「っ! はい、大丈夫です。続けてください」


 私の変化を感じ取ったのでしょう瑠美ちゃんに心配されてしまいました。

 今は、歩夢君の事を考えても仕方ありません。瑠美ちゃんの話に集中しないと


『……そう。それでね、花ちゃん達の方は作戦を考えたって言ってたわ』


「どんな作戦なんですか?」


『んー……何か、とにかく玉樹君を信じる! って花ちゃんは言ってたわよ』


 信じる……ですか


『まぁ詳しくは聞いてないけど、あの二人が納得してるなら私は何も言わないわ。それこそ、あの二人を信じてるからね』


「そうですか……」


『……オレンジ、明日の選挙はあんたにとって凄く辛い戦いよね。でも、あえて言うわ』


 すると、瑠美ちゃんは言いました


『……勝つわよ。絶対に』


「……はい、頑張りましょう、瑠美ちゃん」


 そうだ、明日は絶対に勝つんだ。


 桐花ちゃんの為にも……自分自身の為にも……絶対に

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