一人じゃ無理
瑠美side
皆と別れた私は、一人で職員室に向かった。
前会長の波岸 須海先輩の情報を手に入れる為だ
「……という訳なんです。卒業した先輩達がどこの高校に行ったかとか分かりませんか?」
「んー……そうねぇ」
目の前で考える仕草を見せるのは私達の担任の先生だ。この人とは一年生の時も担任になったこともあって結構長い付き合いである
「まぁ情報が無い訳じゃないんだけどね~」
「本当ですか!?」
やった! なら早く前会長の入学した高校を……
「この中にあると思うのよね……去年の生徒の記録」
「この中って……ええっ!?」
先生が見せたのは、ゴチャゴチャに積まれた紙の山だった!
「ちょっ! 何ですかこれ!?」
「ん? 今までの生徒の記録だけど?」
「それは分かります! 何でこんな散らかり放題になってるんですかっ!」
「私、片付けるの苦手なのよね~」
「ちゃんとしてくださいよ……」
私ですら部屋の掃除くらいはするというのにこの人は……
「片付けくらい普段からやってくださいよ先生!」
「はーい……」
ああもう! 何で生徒の私が先生に説教してるのよ! 普通逆でしょうが。
もう……この紙の山の中から前会長の情報を探し出さないといけないなんて……かといって、昨日まで停学中だった私や花ちゃんの為に他の先生が親切にしてくれるとは考えにくいし……
「……探すしかないわね、この中から」
「頑張ってね~、暁さん」
本当なら近くで私を応援してる先生も手伝わせたいけど、余計ゴチャゴチャにしそうだからそれは止めておく
「よっし! やるか!」
と、私は意気込んで紙の山に手を伸ばした。
……が、それから一時間経過すると
「こんな山の中から探せるわけ無いでしょうがああああ!!」
発狂状態の私が出来上がっていた。
もう嫌っ! 誰か助けて!
No side
静まり返った部屋、中からは物音一つしない。
いつもなら、部屋の持ち主が友達と電話をする声がしたりするはずなのに、今はそんな声は全くしなかった。
そんな静かな部屋の前に立っているのは……
「やっぱり反応ないな」
「辰也、蜜柑は帰ってからずっとこの調子なのか?」
「ああ、物音一つ無しだ。中にいるのは間違いないんだけどな」
部屋の持ち主――市川 蜜柑の兄、市川 辰也と古村 唯花の二人だった
「いつもなら昼飯になれば飛んでくるんだけどな……」
「心配だな。友達に裏切られたのだろう? ショックは大きいだろう」
「ああ、でもな唯花。だからってこのままじゃ何も解決しねえんだ」
「……そうだな。私も同感だ」
二人はお互いに頷くと、蜜柑の部屋のドアをノックした
「蜜柑、話良いか?」
辰也が聞くが、反応はない
「今、辛いだろ。友達だと思ってたやつに酷い事を言われたんだ、辛くない筈ないよな」
返事はないが、構わずに続ける
「でもな蜜柑。それで引き籠れば良いって訳じゃないだろ。一回裏切られたからって全部諦めるのか? 他の……お前を待っててくれる皆との縁も捨てちまうのかよ?」
「………」
「蜜柑、俺はお前の今の気持ちは分からない。でも、お前がこのまま閉じ籠ってたらいけないって事は分かるぜ。皆の為にも……お前自身の為にもな」
と、辰也が言い終わると唯花が話し始めた
「蜜柑、諦めたら駄目だ。お前は友達の為にいつも一生懸命だ。そのお前の行動が間違っている筈がないんだ。裏切られたとしても、まだ信じるんだ。一度友達だと思ったやつとの絆は、そう簡単に消えたりしないさ」
一体、中にいる蜜柑はどんな表情で話を聞いているのだろうか? その答えは、本人にしか分からないだろう。
――だが
「たとえ出会って日が浅い相手でも、縁という物は絶対にあるんだ。簡単には切り離せないんだよ」
二人の言葉は……蜜柑の心にしっかりと響いていた
「ま、今すぐに出てこいとは言わないさ。でも一応伝えとくぞ、瑠美達は今、生徒会長さんの為に頑張ってるって言ってたぞ」
「ああ、蜜柑が戻ってくるのをずっと待ってるとも言っていた」
「お前の事を信じて待ってる親友がいる……この事、忘れるなよ?」
早くいつもの蜜柑に戻ってほしい、そう思いながら、二人は彼女の部屋に背を向け、離れることにする。
――その時だった。
突然、部屋のドアが開いたのだ。
二人が慌てて振り返ると、そこには……
「蜜柑……」
いつもと違い、ツインテールをほどいた状態の蜜柑が俯いたまま部屋から出てきた。
そのまま、蜜柑は二人の前まで歩いてきた。
そして
「……いた……」
「ん? どうした?」
「お腹……すいた……」
部屋から出てきて第一声が、それだった
その後、蜜柑に昼食を食べさせる事になったのだが、彼女の食べっぷりは凄いものだった。
最初に用意していた昼食の3倍近くの量を平らげた、と言えばその凄さは伝わるだろう
「ふぅ……ごちそうさまでした」
全て食べ終わり、礼儀正しく手を合わせる。
そして、蜜柑は立ち上がった
「お兄ちゃん、瑠美ちゃん達は今も頑張ってるんだよね?」
「あ、ああ。生徒会長の選挙があるらしくて、それに向けて頑張るって言ってたぞ」
「分かった。連絡してみるね」
「蜜柑、大丈夫なのか?」
部屋に行こうとする蜜柑に唯花が心配そうに聞く
「大丈夫です、二人の言葉のお陰ですよ。私は……友達を信じます」
蜜柑はそう言って、部屋に向かっていった
残った辰也と唯花は、その後ろ姿を見送った
「ふふ、どうやら説得は成功したようだな」
「だな。まだ本調子とはいかないかもしれねえが、あいつなら大丈夫だ、絶対にな」
「しかし……」
唯花は表情を曇らせながら言う
「蜜柑を裏切った友達とは一体何者なのだ。あんなに友達思いな娘を裏切るなんて……」
「……ま、その問題は、俺達がとやかく言うことじゃないさ」
辰也は、以前会った少年の顔を思い出しながら言うのだった
(私はもう諦めません。友達の為に、全力で頑張ります。たとえ……歩夢君が敵でも)
そう決意した蜜柑は、携帯を手に取り、瑠美に電話をかける。
瑠美は、すぐに電話に出た
『もしもしオレンジ?』
「はい、私ですよ」
『大丈夫? クロの事、かなりショックだったと思うけど……』
「大丈夫です。私は瑠美ちゃん達と一緒に戦います。彼と敵対することになっても」
『……そっか。ありがとね』
瑠美は、優しい声でそう言った
『なら頼みがあるわ! オレンジ! 今すぐ学校に来て!』
優しい声はあっという間に無くなり、焦ったような声が聞こえてくる
「頼みですか?」
『そう! とにかく早く学校来てほしいの!』
「わ、分かりました!」
蜜柑は慌てて電話を切り、部屋を飛び出そうと……
(って! こんな髪型のまま出られません!)
自分の寝癖のような髪型を、急いでいつものツインテールに整える
「これで良いですね」
そのまま、蜜柑は家を飛び出した。
桐花を助けるという思いと……もう一つの思いを抱えながら、彼女は学校に向かって走り出した




