どうして……?
今回の話は、物凄くシリアス……というより、暗いです。
最早ラブコメじゃないですね、これ
瑠美side
花ちゃんの生徒会長の座を狙う男、倉田 真の情報を知るために、職員室に来たのは良かったけど……衝撃の事実を知っちゃったわね……。
まさか、相手の支持者が……
「クロ……? 何であいつが……?」
そう、一週間前にオレンジと一緒に私の家に来た男子生徒。クロこと、黒川 歩夢の名前があったのだ
「ちょっとタマ! あんたは何か知らないの!?」
クロと前から一緒にいることが多かったタマに聞いてみる。でも、タマも困惑しているようだった
「知らねえよ! オレだって初耳だっつーの……!」
タマも何も知らなかったようだ。
じゃあオレンジはどうだろう?
「ねぇオレンジ……オレンジ?」
さっきまでそこに立っていたオレンジの姿が、いつの間にか消えていた
「蜜柑ちゃん!? どこに行ったんだろう!?」
「……もしかして、黒川君に話を聞きに行ったのかも」
姫が冷静に推測した
(クロ……何で倉田の支持者に……?)
今の私に、その答えを導き出す事は出来そうになかった
No side
息を切らしながら、蜜柑は走っていた。
おそらく、彼のいるであろう自分の教室に向かって
「はぁ……はぁ……! まだいると思うんですけど……!」
蜜柑は、教室にたどり着いた。中に入ると、そこには……
「あれ? どうしたの蜜柑ちゃん? そんなに息切らして」
いつもと変わらない様子の、黒川 歩夢の姿があった
「もしかして忘れ物とか? ぼくも捜すの手伝おうか?」
「……歩夢君」
歩夢の言葉を遮り、蜜柑は彼を見つめた
「どうして倉田君の味方をしてるんですか?」
すると、彼は少し笑いながら答えた
「ああ、知ったんだね。ぼくが彼の支持者だって事を」
「ええ、それで何か理由でもあるんじゃないかと思って……」
「理由? 別にそんなのないよ」
「え?」
歩夢は、笑みを崩さずに話を続ける
「強いて上げるなら、ぼく自身の為かな」
「どういう意味ですか?」
「倉田君が言ってくれたんだ。彼が生徒会長になったら、卒業まで何でも自由に出来るようにしてくれるって」
「自由?」
「そう、倉田君は生徒会長になったら何でも出来るって言ってたよ。気に入らない生徒を消したり、バレずにカツアゲをしたり……とかね」
「なっ!?」
蜜柑が驚くのも気にせず、歩夢は話を止めない
「良いと思わない? 嫌いな奴を潰すのも自由だし、おまけにお金も手に入る……最高じゃないか」
「それじゃあこの間のカツアゲ事件と同じじゃないですか! また皆が傷つく事になるんですよ!」
「そうだね。それで?」
「え……?」
蜜柑は、歩夢が何を言っているのか分からなかった。
……いや、分かりたくなかった
「別にぼくには関係ないよ。自分が一番大事に決まってるだろ? 普通に考えてさ」
「っ!!」
蜜柑は、自分の頭のどこかが切れる音がした
「歩夢君はそんな人じゃないでしょっ!? 貴方はもっと優しい人だったじゃないですか!!」
「優しい? ぼくが?」
歩夢は一瞬キョトンとしたが、その後に、冷たい笑みを浮かべた
「まだ出会って一週間の他人をよくそこまで高評価出来るね。まだお互いにほとんど何も知らないのにさ」
「貴方が本心をほとんど言わないのは知ってます。ですから今のも……」
「本心じゃない……って? 都合の良い解釈だね。ぼくが本心を言わないとしたらさ……今まで君に優しくしてたのも本心じゃないかもしれないだろ?」
「……え……」
信じられない、信じたくない。蜜柑の心が彼の言葉を拒絶していた
「ぼくが初めからこういう人間だったとしたら?」
「嘘……ですよね?」
「今更嘘を言う理由がどこにあるのさ」
「だって……だって歩夢君は……」
「あのさ、蜜柑ちゃん。君が何も知らないだけなんだよ。ぼくはもともとこういう人間なんだよ」
「そんなの嘘だよ!!」
ついに、敬語口調が無くなった蜜柑は、全力で叫んだ
「嘘じゃないって。これが本当のぼくだよ」
「私達は友達でしょ! 嘘はもう止めてよ! 本音をぶつけ合える友達になりたいって、前にも言ったじゃない!」
「そうだね、友達だね。一週間の付き合いの友達……というか知り合いって言った方が正しいかな」
目尻に涙が溜まり始めた蜜柑に、歩夢は冷たく言い放つ
「そんな知り合いにも本音を見せてあげたでしょ? ぼくは初めから自分が良ければそれで良い、そういう人間だってさ。分かった? ぼくの知り合いさん?」
最早、言い返す言葉も見つからない。そんな蜜柑が、彼に言える言葉はもう……
「……なんて……」
「ん? よく聞こえないんだけど?」
「歩夢君なんて!! 歩夢君なんて大嫌いっ!!」
蜜柑は泣きながら教室を飛び出して行った
それを、最後まで冷たい笑みを浮かべたまま見送った歩夢に、一人の男が近寄ってきた
「よう、黒川」
「ああ、倉田君」
桐花達の前で振る舞っていた姿とは全く違う様子で、倉田 真が姿を見せた
「お前も酷いやつだな~、さっき出てった娘、友達じゃねえのかよ?」
「ただの知り合いだよ。別にどうでも良いさ」
「勿体ねえなぁ、結構可愛かったのによ」
「はは、そんなこと言ってる倉田君は、もう彼女が何人もいるんでしょ?」
歩夢に聞かれ、倉田はニヤリと笑う
「まぁな。今日また告られちまってよ、これでもう何人目の彼女だか分かんなくなっちまったぜ」
「モテるよね、倉田君。ぼくとは大違いだね」
「そうかぁ? さっきの娘は脈ありだと思ったけどな。折角だから、使える所まで使えば良かったのによ」
「冗談じゃないよ。ぼくは君みたいに器用じゃないからね」
「くく、そうかい」
「じゃあ倉田君、仲野 桐花を潰す作戦を考えようか」
「そうだな。あ~あ、早く選挙終わんねえかな~。優等生の振りをするのも疲れるぜ」
そう言いながら、二人は教室を出ていった。
その近くで、身を潜めていた小柄な童顔の少年――原中 玉樹は出ていく二人を見ながら呟いた
「歩夢……あの野郎……」
蜜柑side
教室を飛び出した私は、ただひたすら走っていた。
何も考えたくないまま、走るだけ。今の私は、そんな状態だった。
途中、瑠美ちゃん達とすれ違った気がしたけど、私は気にも止めずに走り続けた。
走って、走って、最後は自分の家の前に帰ってきていた。
私は、ようやく走るのをやめて、家の扉を開いた
「お、帰ってきたか。お帰り、蜜柑」
多分、先に帰っていたのであろうお兄ちゃんが私に話しかけてきた。
でも
「………」
「おい? どうした?」
私は何も答えずに、自分の部屋に入った。
そして、一人になった私は……
「……ううっ……えうぅ……」
ただ、泣くことしか出来なかった。
信じたくなかった。昨日まで仲良くしていた友達に、一緒にいるととても楽しいと思っていた友達に、あんな言葉を言われた事が
『今まで君に優しくしてたのも本心じゃないかもしれないだろ?』
「どうして……?」
『君が何も知らないだけなんだよ。ぼくはもともとこういう人間なんだよ』
「何で……なの……?」
『ぼくは初めから自分が良ければそれで良い、そういう人間だってさ。分かった? ぼくの知り合いさん?』
「ぅ……ひぐっ……えうぅっ……」
私は……彼の事を何も分かっていなかったの……?
部屋には、自分の泣き声だけが響いていた




