春の恋
桜の木に蕾がつき、春の匂いが冬との別れを告げていた。
それは、二人に別れの時間が近づいている証だった。
あの日、亮介と、これからどうするか何度も話し合い、二人で別れを選んだのだった。
悲しいけれど、はっきりとした目的の無い私が亮介の隣にいても、支える事が出来ないと感じたからだ。
もちろん、やってみなければわからないけど、亮介と並んで歩くには、同じ目線であるけるだけの何かが必要で、亮介を愛してるから、亮介の邪魔をしたくないと決めたから。
それから私たちは、春が来るまで、言葉に出来ない寂しい気持ちと共に、今まで以上に相手を想い、普通に過ごした。
普通に過ごしていたが、どの瞬間もどの言葉もどんな音も逃さないよう、また、忘れないように必死だった。
初めて知った愛してるという感情…
それは、確かに、そこに存在し、今までのどんな時間よりクリアで大切だった。時折、止まって欲しいと願ったが、その想いも虚しく過ぎていった。
それから…
ついに…
二人が別れる日になった。
永遠の別れではなく、二人の未来のため…
そして、いつか、亮介の隣に、また行くためにしなければならないこと…
沢山あるから…
決断したものの…どうしても、悲しさが残らないと言ったら嘘になる。
それでも、亮介には自分の夢を叶える為に頑張って欲しかった。
「もう、行くね…。」亮介が言った。
「うん…。」
精一杯の笑顔で、電車に乗って行く亮介を見送りたかった。
「じゃあ、元気でね…。」
「春喜…いつか逢える事を祈ってる。そして、未来の為に頑張ろうとする君の隣にいられるように頑張るよ。」
「それは、私のセリフだって言うの!」
思わず吹き出してしまったが、その言葉が嬉しかった。
「愛してる…春喜。」
「私も。」
最後に最高の言葉を残して、亮介は旅立って行った。