春の恋
帰りの車の中に、重い空気がながれ、フルボリュームのはずの音楽もぼんやりと聞こえていた。
上手く息ができない。
泣きたくないと、我慢しても、涙がとまらず、唇は噛み過ぎていたかった。
亮介に気を使う余裕がなく、土壇場での自分の器の小ささを思いしり、さらに嫌になった。
なんだか、夢の中にいるみたい。
人事のような気がする。
亮介が何か話しているようだけど、聞こえない。
聞きたく無い。
隣にいる亮介の体温を、今は感じる事ができる。だけど、亮介と離れるという事は、隣にいる亮介を感じられなくなり、当たり前だった物が無くなるっていう事だ。
私の幸せ…亮介の幸せ…。
同じ目線で見ていたような私達だけど、描く世界が違い過ぎて、亮介がわからない。
わからないのが淋しい…。悲しい…。自分が悔しい。
夜の暗闇が、私の気分をより暗くさせ、心に明かりを感じられずにいた。
車が自転車を置いてある駅につくと、亮介に名前の無いMDを渡された。
「…春喜…出来れば君に一番に聞いて欲しい。」
私は、頷きさえも出来なかった。しかし、亮介は続けて言った。
「今日は、ありがとう。それから、傷つけてゴメン。」
じっと黙り込む私。
「じゃあ…気をつけて。…」
私が家の方向に向かったのを確認すると、亮介が車を発車させた。
家につき、部屋に入る。
暗いく、寒い部屋。亮介との二人で写っている写真をみて、戻りたいと願った。
幸せそうに笑っている自分の顔を眺めた。
学校にいる間は、ずっと続くと思っていた二人の時間。
亮介の時間と私の時間が重なって、同じ時を過ごせる幸せ。
それだけが幸せじゃないって知っていたけど…。
理解をする事ができなかった。