春の恋
公園に人影はなく、とても静かだった。
空に沈みかけた冬の夕日は、気圧の関係か、少し欠けて見え、それもまた綺麗だけど、欠けているのが心を切なくさせた。
その夕日が車から降りた私達の影を映し出していた。
私は、二つに並ぶそれを目で見つめていた。
「亮介と私。」
いつまでもこの影を見る事ができたなら…永遠と呼ぶのかな?
車から降りてから、私達に会話はなく、ずっと黙ってベンチに座っていた。
私達の間に流れるのは、川の音と、近くの道路を走る車の音だけだった。
黙ったまま苦手な煙草を吸い込む亮介と、今の状況を何とかしたくてあれこれ考えるが、何も出来ず、じっと待つ私。やっとの思いで話し掛けた。
「寒いね。」
「…うん。」
亮介の答えは、ただ返事をしているようだったけれど、私は会話を続けた。
「何考えているの?」
「…色々。」
「色々ね〜。分かった!お腹空いたから何処で食べようかとか?」
場を盛り上げようと、おどけてみたその時に、亮介が真剣な顔をして私と視線を合わせた。
「…春喜。」
そう亮介が私の名前を言い、私に緊張が走った。
「なぁに?」
亮介は、一息深呼吸をし、ゆっくり話しを始めた。
「ずっと考えていたんだけど、…俺、…。」
亮介が話しをしているにも関わらず、突然言葉が飛び出した。
「ヤダ!。」
聞いてしまったら、見たくない現実を直視しなければいけないような気がして、思いより先に言葉がでてしまった。
「春喜、…まだ何も言ってないよ。ちゃんと聞いて。」
優しく言う亮介。
「嫌なの。わからないけど聞きたくない。」
感情が高ぶり目には涙が溢れていた。どうしてもコントロールが聞かなかった。
無言で見つめあい、白い息が口から出ていくのがわかる。本当なら、きちんと亮介の思いを聞いてあげたい。理屈で理解しても、訳のわからない不安と感情で、できなかった。
「春喜…。」
「春喜…ごめんね。」
亮介は悪くないけど、これから話そうとする事が、私を傷つけるとわかっているから…だから…ごめんねがでたら本当に覚悟を決めたのだろうな。
「春喜」
「…うん。」
やっとの思いで返事をした。
「春喜、俺は、ずっとやってみたい事があった。」
「…知ってる。」
「自分の力で何とかしたくて、夢を叶えるために働きながらお金を貯めてきた。」
「…知ってる。」
「今やっと準備が整ったんだ。覚悟も決めた。だから……ここから出ていくよ。」
亮介の夢をしっかり持つところに惹かれたのに、大好きな分、余計に苦しかった。
亮介はそれ以上の話しをしなかった。
私も話しをしなかった。
夕日もしっかり沈み、二人の並んだ影は見えなくなっていた。