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冬の素敵な贈り物

作者: 冬空奏

初めましての方は初めまして、そうでない方はこんにちは。冬空です

えっと、クリスマスということですので、クリスマスの短編です。

そして、私の短編といえば、やっぱり恋愛。

ということで、今年も書かせていただきました。

それでは、どうぞ


冬。

それは、外の白さに心の奪われてしまう季節である。

しかし、そんな冬とはあまりカンケーなく、今回も物語は進んでいくのである。


「いってらっしゃーい!」


そんな元気のいい声が、一般の民家から聞こえる。

その表札には、「坂崎」と書いてある。

今回は、この坂崎家で始まる物語である…。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

初めまして。

僕はこの家の長男、坂崎 悠太と申します。

うちの家族は4人家族で、父と母と僕と妹です。

そして、今日から日帰りで、父母は旅行へ出かけるそうです。

という事は、家には僕と妹しか居なくなるわけです。

ついさっき両親は行ったようです。

妹が、大きな声で見送りをしていましたから。

ここで問題が発生してしまいます。

妹は何故か、無性に発情しております。

というか、何かを期待するような目で僕を見てきます。

やめるんだ。僕が一体何をしたというんだ……。


「おにーちゃん、今日から二人っきりだね!」

「そ、そうだね……」


妙に楽しそうなんだが……。

一体、この先自分は無事なのだろうか?

あ、ちなみに妹の名前は美音って言います。

あの字で、みおっていう読み方なんです。

中学1年生の妹なんです。

いや、僕にとっては別段かわいい妹ですよ。

この妹と二人で、しばらく生活をするようです。

……大変になりそうですね。

ま、嫌な人と生活するんじゃないので、いいのかもしれませんが。



12月22日


「おにーちゃん、これから何するの?」

「ん?僕は新聞を読むんだけど……」

「うぅ、つまんないなぁ……」


そう言って、美音は玄関のすぐ右にある部屋へ入る。

とりあえず部屋に入るまでは、見送ったが、すぐに目は新聞に移る。

いつも通り、ついさっき豆から沸かしたコーヒーを口に運びながら、新聞を読む。

新聞に「凶悪連続殺人犯、またもや逃走!」というタイトルが、大きく映し出されていた。

どうやら、殺人事件を犯した犯人が4度目の逃走をしたということのようだ。

……あまり興味はない。


(……なんか忘れてるような。あっ!!)

(美音の入っていった部屋、僕の部屋だ!!)


そのことに気づいた僕は、急いで自分の部屋へ戻る。

予感的中。

見事に推理があたっていたらしく、美音が僕のぬいぐるみで遊んでいた。

……高1にもなって、ぬいぐるみが好きな僕を許してほしい。


「おにーちゃんこういうの好きなんだ。結構かわいいねっ」

「うっ……、確かにそういうぬいぐるみは好きだよ……」


美音が手に持っていたのは、ブイモンの人形だった。

ちっちゃめの人形なのだが、僕の一番お気に入りの人形である。

だってほら、かわいいじゃん……。

かわいいのが大好きなんです……。うぅ……。

僕の部屋は、僕がかわいいなぁって思ったものだらけである。

だから、月に2000円お小遣いを貰っているのだが、その使い道がほとんどかわいいもの集めである。

そのおかげで、リサイクルショップや人形屋の店員さんに顔を覚えられてしまった。

別に悪いとは言わないけど。


「まぁいいや、おにーちゃん自身もかわいいし」

「うぅ、抱きつかないで……どうしていいかわかんない……」


美音に抱きつかれて、耳まで真っ赤になってることが僕自身もよく分かる。

美音の方は楽しんでいるのか、笑顔で抱きついている。

僕は、自分の顔を手で隠しながら喋っている。

ちなみに、美音が僕に抱きつくと、大体僕のお腹くらいの位置に美音の腕がくる。

身長差は約30cmである。(僕が175で、美音が145)

あ、容姿についてはあまり話してなかったので説明しよう。

美音は茶髪で、基本的にちっちゃくてカワイイ子。ロリ。

僕は両親と美音曰く、身長は割と高いけど、童顔でかわいいらしい。

自分の事については、あまり語りたくないのである。



「……そうだ、美音は今日のお昼は何が食べたい?」

「えーとね、オムライス!」

「分かった、ちょっと買い物に行ってくるね」


そう言って悠太は片手にエコバッグを所持し、財布をその中に入れて外に出る。

リビングの方からは、「いってらっしゃーい!」と大きな声が聞こえたとか。

こうして悠太は、意外と行けるようなそぶりを見せて買い物に出かけたが、ある問題が発生した……。

悠太は無性に一人が苦手なため、一人で出かけてるときは多少涙目になってしまうのだ。

現在も、少々涙ぐんでいるようだ……。


「うぅ……えと、卵と鶏肉だったっけ?帰りにいつものとこに寄って帰ろー」


そう言って悠太はスーパーへ向かう。

無論、涙目なのは言う間でもないことである。

早く帰りたいのだろうか、品定めもあまりせずにかごの中へ入れていく。

しかし、スーパー特有の現象といえば分かるように、レジに列が出来ていた。

悠太はその場で泣き崩れそうになったそうな。


「はぁ、やっと終わったよ……さぁ、僕の至福のときだ……!」


精神が安定しているのかも分からないような声のトーンでささやく。

そして悠太の向かった先は、ぬいぐるみを扱っているお店だった。

悠太の涙も消え、笑顔になっていたとか。


「お、悠太君いらっしゃい」

「こんにちは、店長」


おなじみのように接している店長に、微笑んであいさつを返す。

そのあいさつが済んだ後は、目を輝かせて店内を見渡していた。

店長は本を読みながら、会計まで誰かが来るのを待っている。

……と言っても客は悠太だけだが。


「あ、これいいな……」


そう言って悠太は一つの人形の前に行く。

そのぬいぐるみは、茶色くて20cm位のカワイイ猫のぬいぐるみだ。

猫のぬいぐるみとしばらく見つめあい、負けてしまったのかレジに向かう。


「その猫に目をつけるとは……さすが悠太君だねぇ」

「えっと、値段は……?」

「300円だよ。いつもありがとうね」


そう店長から告げられると少し笑って、300円を机の上に出して店を後にする。

そして、悠太はあわてて携帯を開く。

一応時刻を気にしているのだろう。

もうお昼じゃないかな……。

その予想は的中し、時刻は12:10。

この後悠太は、走って家に帰ったそうな。


「ハァ……ただいま……」

「おかえりー、……息切れてるけど大丈夫?」

「だ、大丈夫大丈夫…それより遅くなってごめん……」

「いいよー、別に。それより少し休んだら?」

「大丈夫、これ以上美音に迷惑かけられないし……」


心配する美音を振り切って、悠太はキッチンの方へ向かう。

美音は少し心配しながらも、キッチンの方へ向かった。

悠太は息切れを抑え、オムライスを手際よく作っていく。

帰ってきた時刻が時刻のため、少しあせっている様だ。

美音は下を向きながら、色々考え事をしているようだ。


「出来たよー」

「ありがと、いただきまーすっ」


笑顔で悠太がオムライスを持ってくる。

美音も少し安心したのか、笑顔を返してからオムライスを食べる。


「どう、かな?」

「ん、美味しいよっ」

「よかった……」


悠太の質問に、美音は笑顔で返答する。

悠太はホッとしたのか、胸を撫で下ろした。

そして、食べてる途中、美音はあることに気づいた。


「あれ、おにーちゃんの分は?」

「ん、もうすぐ焼けると思うけど……」

「焼ける……?」


その言葉に美音は、あれ?と思ったようだ。

オムライスで焼くなんて動作はあまり使わないものだからである。

そんな美音の予感は的中し、チン!という音がキッチンの方から聞こえたのである。

「焼けたー」と言って悠太は物を取りに行く。

その物とは、きつね色をしていて、耳があり……。


「……おにーちゃん、それ」

「ん?食パンだけど」


美音があきれた顔で聞くと、悠太はパンの耳をかじりながら答えた。

悠太は何事も無かったようにパンをはむはむと食べていく。

そんなごはんじゃダメだよ……。なんてことを思う美音なのであった。


「だ、ダメだよ!おにーちゃんだけ食パンって……」

「いいのいいの、僕はおなかすいてないし」

「私、これだけでいいから。後、おにーちゃんにあげるっ」

「ありがと……ごめんね」


美音は心配混じりに、少しだけ大きな声を出して言った。

悠太はトレイの横に置いたコーヒーを飲み終えて、適当に返答をする。

そして、美音はやっぱりダメだと感じ、悠太に半分オムライスをあげることにしたようだ。

悠太は悪いことをしたかの様に下を向いて謝罪と感謝をする。


「ごちそうさまー」

「あ、おにーちゃん。お皿は私が洗うよ?」

「ほんと?……ありがと」


悠太がシンクまでお皿を持っていったとき、美音に言われたようだ。

悠太は少し笑って、美音にお礼を言った。

美音も悠太に笑い返す。

そして美音は、皿洗いの作業に移る。

凍傷にでもなるかのような冷たい水に手を当て、スポンジを水でぬらす。

それからスポンジに食器用洗剤をしみこませ、さっきのお皿を洗う。

皿洗いは比較的家事の中では早く終わるものなので、おおよそ2分で終わったようだ。


「うぅ、冷たいよぉ……」

「手、大丈夫……?じゃないよね。あっためてあげる……」

「ふぇ!?」


普段から恥ずかしがり屋の悠太が、美音の両手を自分の両手で包み込むように、ぎゅっ、と握る。

美音は突然の出来事に少し驚いているようだ。

それと同時に、顔も真っ赤になっていたとか……。


「おにーちゃんの手、あったかい……」

「……これで、温かくなった?」

「うん……。だけど、もうちょっとだけこのままで居させて……」


手を握っている悠太の方に、少しだけ頭を向ける。

ストーブや暖房とは違ったぬくもりだ。

この時の美音は、不思議なぬくもりに心を寄せていたとか。


「えへへ……ありがと……」

「……」


美音は湯たんぽでもあるかのように悠太の手を顔に当て、安堵したように笑った。

悠太は少し恥ずかしいのか、ずっと違う方向を向いて黙っている。

そして、美音はずっと悠太の手を触っていたようで時刻は14:00を回っていた。


「はぅ……おにーちゃん、ごめんね!」

「いいよ。可愛い美音の為だし」

「おにーちゃん何て言ったのー?」

「何でもない。何も言ってないよ」


小声でつぶやいたのが美音に少しだけ聞こえたようだ。

悠太はそれを隠すように、言ってないの一点張りである。

きっと美音には聞こえていたのだろうけど。

いざこざがあっても兄妹は仲が良いようだ。

そんな時だった。

突然、雪が降ってきたようだった。


「おにーちゃん、雪が降ってきたよ」

「ほんとだ……そうだ、美音はほしい物とかある?」

「ほしい物……?そうだねー……おにーちゃんとどこかに行きたいなっ」

「そっか……ありがと」


少し笑って悠太は言った。

美音は少しだけ疑問を抱いたが、そんな疑問はすぐに消え去った。

なぜなら今がとっても幸せだから……。

そんなことを気にしてもしょうがないようなひと時だからである。

そして、美音が悠太の方を向くとたまたま目が合い、二人でくすっと笑った。


「おにーちゃん」

「どうしたの?」

「この時がずっと続いていればいいのにね……」


美音は窓から景色を見ながら少し笑っていった。

すると、悠太も少しだけ笑ってそれに返答した。


「そうだね。こんな時間がいつまでも続いてれば幸せだね」


二人で窓の外の景色に心を奪われて、そのまま夕方までそれを見ていた。

あまり何もしない1日ではあったが、それもそれで幸せな気がする。

こうして二人の1日は過ぎていった……。


「おにーちゃん」

「ん、何?」

「一緒に寝ていいかな……?」

「……どうぞ」


美音が少しだけ顔を赤らめて悠太に言う。

悠太は布団を開けて美音を中に入れる。

そして、部屋の電気を消灯させた……。


12月23日


僕の目は電話の着信音で覚めた。

美音はまだ起きていないようだ。

電話を受け取ったところ、親からの着信のようだ。


「はい、もしもし……」

「悠太ー、悪いけど帰るの4日程遅くなりそうなのー……」

「……何で遅くなるの?」

「台風が丁度直撃して……」

「ん、了解」


そう言って悠太は電話を切った。

まずい……。

このままでは、計画を実行させることが出来ない……。

美音の欲しいモノを親に告げて、それで喜ばせるという計画だったのだ。

しかし、こうなってしまったら何も出来ない……。

何とかして美音を喜ばせてあげないと……。

そうだ!バイトをしよう。

勿論、美音にバレないように。

そして、そんなことを考えながらとってきたチラシを読んでいたら、美音が起きたようだ。


「おにーちゃん、おはよー」

「おはよう」


美音の眠そうなあいさつに、バイト募集のチラシを急いでしまって悠太があいさつをする。

美音はそんな悠太を少し不思議そうな目で見ていたが、あんまり気にはしなかったようだ。


「あ、そうだ。帰るの遅くなるんだって。旅行から」

「へぇ〜、じゃぁまだ二人っきりで居られるんだねっ」

「そうだねー」


目を輝かせて聞いている美音に、悠太は適当に返事を返す。

少しテンションの下がっている美音だが、悠太が何かと真剣なので、言わないことにしたようだ。


「……ちょっと散歩してくる」

「何時くらいに帰ってくるの?」

「今が9時だから……12時には帰ってくると思うよ」

「そっか、いってらっしゃい」


真剣な顔つきの悠太を、精一杯の笑みで美音は送る。

悠太が遠くへ行った途端、美音はしゅん、とした表情を浮かべて静かに家へ戻る。

せっかく二人きりなのにー……おにーちゃんのばかー……。

そんなことを思いながら顔をまくらにうずめる美音なのであった。


〜悠太〜


うぅ…とにかく、美音にばれては元も子もないので外で考えることにしたけど……。

泣きたくなるのはいつものことだけど、それ以上に寒い……。

……いや、寒さに負けてる場合じゃないか。

美音へのクリスマスプレゼントを渡すためのバイトを探さなきゃだし。

……そうだ、1週間前にバイトしたコンビニがあったはずだ。

そして、川沿いの道をおおよそ10分程歩いていくと、自転車一つ置いていない小さなコンビニがあった。

ここだ……。

そこには、繁盛していないコンビニが一軒…。

……こんなにガラガラだったっけ?

そんな疑問を抱きつつ、僕はコンビニへ入る。

このコンビニとぬいぐるみ屋だけは、涙ぐまないんだよね。


「いらっしゃいませー……って、坂崎じゃんか!久しぶり!」

「……勤務中にそんなに叫んでいいんですか?」

「いいのいいの!この時間は混んでないし、ある意味ゲストの来店だからな!」


レジに居たのは、先輩の赤崎さんだった。

赤崎先輩とは仲がよく、勤務中によく雑談をしていた。

……そのせいでよく怒られたけど。

そんな赤崎先輩は懐かしむような声で、僕の名前を叫んだ。

変わってないなぁ…。


「またここに来たっていうことはあれか。また働きたいっていうことか?」

「え、そうですけど……だめ、ですか?」

「マ、マジで!?全然いいよ!大歓迎だよ!!」


とっても調子のいい先輩である。

ま、こんな赤崎先輩は嫌いじゃないんだけど。

赤崎先輩は驚きを隠せていないようだ。

……というか赤崎先輩にすることを隠せなんてムリがあるか。


「じゃぁアレだな……ちょっと、店長と話してくる!」

「え!?み、店番は!?」

「しばらく頼んだ!その分の時給は払う!」

「えぇぇぇぇ!?」


……破天荒な先輩だ。

破天荒qというより、いい加減と言ったほうが良いかもしれない。

とりあえず突っ立っていても仕方が無いので、レジの方へ向かう。

……とりあえず、サイドメニューのから揚げでも作ろう。

多分、腕はなまっていないだろうからね。

……ちゃんと12時に帰れるのだろうか?


〜美音〜


う〜……おにーちゃんが外出ばっかりだから暇だよー。

それにしても、おにーちゃんの部屋はつまらないなぁ……。

男の子なのに整理もきっちり出来てるし、掃除もちゃんとしてあるし……。

ぬいぐるみの配置もしっかりと決まっているみたいだし。

……ヘタに掃除ができないんだよね。

できるんならするんだけどなぁ。

まぁいいや、テレビでも見よう。


「10時になりました。ニュースをお伝えします」


ニュースかぁ……つまらないなぁ。

何にもやってないみたいだし、そのままニュースでも見てよう。

画面のキャスターも明らかにかつらで面白いし、見ておこうかな。


「今日8時未明、殺人事件が起きました。起こったのは、○県○○市……」


うちの市だ。

怖いなぁ、おにーちゃん聞いたら泣いてそう……。

泣き顔も可愛いんだけどね。


「続いては天気予報です。牧本さん、お願いします」

「今日の天気は、低気圧が大分接近しており、冬型の気圧配置となっておりますゆえ、雨か雪、あるいはみぞれやあられが降ってくる可能性も考えられます」

「なお、この天気は今後2週間ほど続く見込みです」


いい加減な天気予報……。

こんな天気予報だったら信じない方がいいかも。

4種類の選択をさせないで、一つか二つにしぼってよね。

……というより、すっきりしない天気って言えばいいのに。


「今日の降水確率は、△県で50%、◇県で60%、○県で70%の見込みです」


降水確率=降雪確率って考えでもいいのかな。

昨日の降水確率も60%だったし。

……おにーちゃんが、濡れて帰らないといいけど。

傘、持ってないだろうし。

もう10時半だ。

大好きなおにーちゃん、早く帰ってきてね。


〜悠太〜


ごめんなさい、嘘つきました。

から揚げが焦げたよ……うぅ。

赤崎先輩はまだ帰ってきてないし……。

早く帰ってきてほしいなぁ……。


「いらっしゃいませー」

「12番の1カートンちょうだい……って、あれ?坂崎君?」

「坂崎ですけど……あの、もしかして、松井さん?」

「やっぱり坂崎君か!1週間前だけど、随分懐かしいなぁ!」

「そうですねー、松井さんに会うのも随分久しぶりな気がします」


突然、BOBUのブラックコーヒー3缶とブラックガムを持った人がレジに現れたので少し戸惑った。

しかし、松井さんだったから良かった……。

松井さんはタクシーの運転手で、よくこのコンビニに来てくれる常連さんだ。

帽子とスーツとタバコがよく似合う紳士さん。

かっこよくて、この人を見るとつくづくイケメンってこういう人なんだなぁ……って思う。

声も低く、よく似合ったかっこいい声だ。

僕にとっての初めてのお客さん。最初は少し戸惑ってて迷惑かけちゃったなぁ……。


「代金は1250円になります」

「高いなぁ……坂崎君、もう少しだけまけてくれない?俺達の仲でしょ?」

「ダメです、ただでさえ収入少ないコンビニなんですから……」

「仕方ないなぁ……はい、1250円」

「ありがとうございます」


松井さんは笑いながら、レシートを財布の中へ入れてコンビニを出る。

あの人がつくづくいい人でよかった、と思った僕なのであった。

……あ、まんじゅう温めないとダメだな…。

おでんも具を追加しないとダメだし、追加しておこう。

しかし、関係者以外立ち入り禁止に入る気にはなれない。

そして、コンビニのレジは僕一人だし……。

……赤崎先輩が来るのを待とうかな。


「お待たせ!店長がおっけーだってよ!」

「本当ですか!?良かったぁ……」

「坂崎、安堵するのはいいんだが、金はちゃんとレジに入れような?」

「は、はい!ごめんなさい!」

「ははは!お前らしいミスだなー。さて、坂崎は何時勤務にするんだ?」

「え、えーと……」


どうしよう……。

とりあえず美音にはバレない職場を確保したのだが、何時勤務にすればバレないかな……?

美音は結構起きてるしなぁ。

……待てよ。

そういえば、いつも起きてくる時間は8時半位だった。

そして、寝るのは最近は夜の1時位だから……。

安全な時間帯なら、2時〜7時だ!


「朝の2時〜7時っていうのは空いてますか?」

「空いてるぞ!また、俺と同じ勤務時間だな!宜しく頼む!」

「はい、宜しくお願いします。赤崎先輩」


またこの人と同じ勤務時間とは、これまた都合がいい話だ。

次も割と楽しい勤務生活が出来そうだ。

赤崎先輩は悪い人じゃないし、あんまり客も来ない。

僕にとって、本当に天職かもしれない。

しかし、この時間は経験をしたことがないから怖いなぁ……。

ま、きっと大丈夫かな!


「坂崎、もう11時半だが大丈夫なのか?」

「え?ぼ、僕はおいとまさせていただきます!」

「待てよ。時給と、さっきお前が焦がしたから揚げな」

「あ、ありがとうございます!それでは!」

「じゃあなー」


そう言って僕はコンビニを後にした。

しかし、不運というのは何回も重なるものだ。

外を見てみると、何重にも重なっている雨雲が空に浮かんでいる。

無論、雨が降っている。

……最悪だ。

とりあえず、時給と携帯は上着のポケットに入れた。

僕の焦がしたから揚げは、ビニール袋の中に入れて保管しつつ、上着の中ポケットに入れる。

そしてチャックを閉めて、フードをかぶり雨の中を走っていく。

鋼鉄のような威力の強い雨に打たれながら…。


〜美音〜


もう11時半だ。

おにーちゃんはまだ帰ってきていない……。

……外が妙に騒がしいなぁ。

私がそう思って窓を開けると、激しい雨が降っていた。

おにーちゃん、傘持ってないよね……?

大丈夫なのかな……?

風邪をひかなきゃいいけど……。

とりあえず、お風呂を沸かして玄関にタオルとバスタオルを置いておこう。

これでよければいいのだけれど……。

……ごはんでも炊いておこうかな。


「うぅ、やっぱり水は冷たいし。おにーちゃんも冷たいし……」


そんなことをつぶやきながら、私はお米をとぐ。

この前テレビで見たんだけど、あんまりとぎすぎるとよくないらしい。

水につけておくと、お米が水になじんで、美味しくなるようだ。

……此処最近の私の最大の発見なのであった。


「おにーちゃん、大丈夫なのかな……?」


私はそうつぶやき、台所を後にした。

雨はよりいっそう激しさを増し、雨音も大きくなってゆく。

早く帰ってきてよ……。

私はさみしいし、心配だよ……。

おにーちゃん……。大好きなおにーちゃん……。


〜悠太〜


現在、とても強い雨に打たれつつ全速力で走っている。

……中学時代に陸上部で長距離をやってて良かったとつくづく思う今日なのでした。。

やっぱり、結構な距離を走っても息があんまり切れない。

……嘘つきました。今は大分切れてます。

長距離をしていたんですが、あんまり走るのは速くはないんです…。

おおよそ6分……。

なんとか家に到着した。

……ドアの前で少しだけでもいいから、上着の中の物を取り出して、上着をしぼっておこう。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「ただいまー……あ、タオルありがと」

「おかえり、雨は大丈夫だったの?」

「びっちゃびちゃだよ……うぅ」


玄関には、髪までべっちゃべちゃに濡れた悠太が居た。

涙も分からないくらい濡れていて、雨の中必死だったことが良く分かる……。


「おにーちゃん、お風呂沸いてるけど……入る?」

「……じゃぁ悪いけどそうする」


美音の問いかけに、申し訳なさそうな顔をして悠太は言った。

美音はやっぱり少しだけ不安になる。


「……あの、おにーちゃん?」

「ん、何……?」

「脱ぐのは洗面所行ってからにしたらどうかな……?」

「!……ご、ごめん」


美音は顔を赤らめて、悠太にそう告げる。

悠太もその時に気づいたらしく、顔を紅潮させて謝る。

美音は「いいけど……」と言って悠太から顔を逸らす。

そんな美音を一度だけ見て、洗面所に急いで向かった悠太なのであった……。


〜悠太〜


はい、見事に大失敗を犯しました。

現在、僕は湯船の中。

……お風呂につかると考え事をしてしまうのは僕だけじゃない、はず。

ついさっき洗面所で開けたびちょびちょの時給の袋に入っていたのは、600円だった。

時給300円……全然いける値段だ。

うん、しっかりと働いて美音にプレゼントをあげよう。

……何をあげるか考えてなかったな。

聞いたといえば聞いたけど、プレゼントのしようがないからね…。

……そうだ、今年は寒くなるらしいし手袋とマフラーをあげよう。

それだけじゃ寂しいから、何か人形を買ってあげよう。

それで、それらを枕元に置いておこう。

……熱くなってきたし出ようかな。



「おにーちゃん、ご飯できてるよー」

「ありがと。……迷惑かけてごめんね」

「んーん、気にしないで。おにーちゃんの為だから迷惑なんてないよっ」


下を向いて反省している悠太に、笑って美音は言った。

そして美音は、催促をするように「いこいこ」と言ってしょんぼりとしている悠太の背中を押す。

悠太は無理やり美音に押されて、こけそうになりながらもリビングへ行く。


「ほへー……美味しそう」

「一杯食べてね、おにーちゃんっ」


ぽけーっと食卓を見る悠太の顔を覗き込み、笑顔で美音は言った。

まるで新婚の夫婦のような雰囲気に包まれている二人。

とても幸せそうで、誰にも二人を邪魔することはできないような雰囲気だったとか。


「あ、そうだ……これ」

「わぁっ、そのから揚げどうしたの?」

「……ちょっとね」

「ふーん。まぁいいやっ」


悠太が突然出したから揚げ(焦げてるの)に疑問を抱いた美音だったが、別に疑う気もなかったようだ。

悠太の真剣な顔つきが変わることはあまり無かったが、美音にとっては楽しい食卓だったようだ。

それでも、そんな悠太に不信感を少し抱く美音なのであった。


「ごちそうさま……僕が食器を片付けるから、美音はゆっくりしてていいよ」

「ありがと、おにーちゃんっ」


笑ってお礼を言う美音に、悠太は笑い返す。

そして悠太は、食器をシンクの中に入れて、水で少しだけ洗ってから、スポンジで洗う。

…此処はごく普通の一般的家庭の皿洗いの場面のため、カットさせていただく。


「……おにーちゃん、手が真っ白だよ?」

「ん、これくらい平気だよ……」


そう言って美音の心配をよそに、悠太は真っ白になった手をそのままにして、テレビを見ている。

美音は心配そうに、悠太の方をじっと見ている。

悠太はじっと真剣な顔でテレビを見ている。


「おにーちゃん、何処行くの?」

「自分の部屋」


いきなり席を立った悠太に、美音は問いかける。

悠太はそっけなく返事を返し、そのまま自分の部屋へ向かう。

美音は悲しそうなまなざしを悠太の背中に向けるが、悠太はそのまま部屋に入っていった。


「むぅ、おにーちゃんのばかぁ……」


そう言って美音は机に突っ伏せて、そのまま寝ていたようだ。

どんな夢を見ていたのかは、ご想像に任せるとしよう。


「どうしよう……」


そう言って悠太は机にひじをのせ、頭を抱える。

無論、自分の部屋なので何をしていても大丈夫だ。

どうやら悠太は、やっぱり美音のクリスマスプレゼントについて悩んでいるようだ。


「1500円で、後2日……だからたまる値段は3600円になるのかな?」

「……それで、僕の全財産は現在2000円かぁ」


悠太は抱えていた手を置き、そのまま時給の計算をする。

計算している途中にシャーペンの芯が指に刺さったが、悠太は嗚咽一つあげずにそのまま計算をしていたようだ。

ちなみに、悠太の手は傷だらけで、他にも多数傷がある。

人差し指には、有刺鉄線でつけてしまった傷がある。

そして、手の甲にもこすってしまった後などがある。


「……明日、どんな店があるかだけ見てみようかな」


その言葉を最後に、悠太は眠りに落ちてしまったようだ。

悠太が起きた頃には、夕方18時だったとか……。

美音も寝てたようだ。……というより、まだ寝ボケているようだ。


「美音、今日の夜は何が食べたい?」

「ぁ、おにーちゃんおはよ……私は何でもいいよ」

「そっか、じゃぁどこか外出しよっか。雨も止んだみたいだし」


寝ていた美音の背中をゆすり、美音に今日の夜ご飯の要求を聞く悠太。

美音はとても眠たそうに、言葉を発していた。


「じゃぁ、いこっか」

「うん」


悠太にそう言われて、美音はふらふらの足つきのまま外へ出る。

そんな美音を心配そうに見ながら悠太も外へ出る。

外はクリスマス用のイルミネーションで照らされていて、ほんのり明るい感じである。

街路樹にも、クリスマスのイルミネーションが飾られている。


「綺麗だねー、おにーちゃん」

「そうだねー。ロマンチックだね……」


悠太は少しだけ笑って、美音の言葉に返答をする。

美音はそんな悠太を見て、くすりと笑う。


「おにーちゃ……うぁっ!」

「美音っ、大丈夫!?」


美音が何かを言いかけたとき、足が絡まったのか、つまずいてしまったようだ。

悠太はすぐに美音の側に行き、言葉をかける。

普段の冷静さは無いような感じだったとか。


「だ、大丈夫だよ……」

「良かった。美音に何かあると思っただけで、僕は……」

「わわ、おにーちゃんこそ大丈夫なの?」


美音の声を聞き、安堵した悠太。

しかし、今度は悠太が平静を保つことができなかったらしく、少しだけ涙を流す。

そんな悠太を見て、美音も多少心配になり声をかける。

悠太は「大丈夫大丈夫」と言って、笑っていたとか。

そんな会話をしながら、坂崎兄妹は店についたようだ。

ちなみに、代金については親から渡されていた物だとか。


「ねぇ、おにーちゃん……」

「何?」


注文をした後、美音が悠太に尋ねる。

悠太は少しだけ笑って聞く。


「手、どうしたの……?」

「ちょっとした怪我だよ?」

「……傷だらけだよ?」

「大丈夫、別に支障は無いから」


悠太の手を見て、心配そうに聞く美音。

悠太は笑って答える。

それでも、やっぱり美音の心配はつのるばかりのようだ。

悠太はそんな美音を気遣っているのか、笑って答えている。

そんな会話を続けながら、食事をして、代金を払い帰ったようだ。


「美音、もう11時だから寝なきゃだめだよ?」

「おにーちゃん、今日も一緒に寝ていい……?」

「……別にいいよ」

「ありがと」


悠太との交渉の結果、悠太の隣で寝れることになったようだ。

ぐっすりと眠る悠太を見て、少しだけ心が安らいだのか、美音はすぐに寝ることが出来たとか。

しかし、悠太はこの後すぐに起きて、コンビニへ向かわなければならない。

残念ながら、親もさすがにプレゼントの用意はしていないから、プレゼントを買う為の資金をためなければいけない。

……ある意味、過酷なものである。


〜悠太〜


……本当にちゃんと起きれて良かった。

とにかく、僕は寒い中コンビニまで行かなければ。

じゃないと、給料差し引かれる……。


「お!ちゃんと来たな!」

「サボる訳にはいかないので」


赤崎先輩が大きな声で出迎えてくれた。

本当にこの人はレジに似合ってると思う。

僕の声は、赤崎先輩より数段小さいのでつくづくそう思う。


「……別に客こねぇから話しててもいいぞ?」

「そう、ですね……」


レジ開始から1時間。

まだ客が一人も来ていない。

時間帯のせいなのか、はたまた人気が無いのだろうか。

……このコンビニでは何回かバイトしているが、いまだに謎である。


「そういや、何でまたバイトしようと思ったんだ?」

「はい、クリスマスプレゼントのために……」

「ほぅほぅ、誰にあげるんだ?恋人かぁ〜?」

「恋人は居ません。妹にあげるんです」


赤崎先輩の質問に、さらっと答える。

この後に「もう少し面白みというものを……」とか言われたが、特に気に留めていない。

赤崎先輩も、妹が居るのは知っていたようなので特に突っ込んではこなかった。


「お、もう勤務時間終了だぞ?誰も来なかったが……」

「本当ですか。それではおいとまさせていただきます」

「うぃ、給料な。気をつけて帰れよ!」


コンビニ内から手を振ってくれている赤崎先輩。

威勢が少し良すぎるが、個人的にはいい人だと思う。

そんなことを考えながら歩いていると、すぐに家にたどり着いた。

……給料のみ隠しておこう。

後、上着をちゃんと直さないと。


12月24日


「おはよー、おにーちゃん……」

「ん、おはよう」


いつもと変わらぬあいさつがされる。

特に変わった様子のない坂崎家。

こういう雰囲気は、いいと思う。


「……ちょっと、出かけてくる」

「いってらっしゃい……12時には帰ってきてね」

「ん、分かった」


そう言って、悠太はいつもの上着を着て出かける。

美音もいつもどおり、心配そうに悠太を見送る。

きわめていつもどおりな一日である。


〜悠太〜


うちの近くの店は割と開店が早い。

6時頃から雑貨屋はあいているようだ。

……ついさっき、チラシで見ました。

とにかく、今のうちに品を見て決めなくてはならない。

……昼食も決めなくてはならない。


「いらっしゃいませー」


……あのコンビニとは違うなぁ。

ちゃんとお客さんは居るし、それなりにはやっているようだし。

あら、マフラーとか売ってる。

デザインも可愛いし。

値段も1300円と買える値段だ。

……マフラーだけじゃなんだかさびしいな。

そうだ、手袋買おう。

防寒具は欲しい一品だよね。

手袋のデザインも可愛いじゃないか。

……逆に僕が欲しいよ。


「お買い上げなさいますか?」

「……結構ですっ!」


さて、見事に店員さんに追い出されました。

あの言葉は個人的には反則の気がしてなりません。

……とにかく、買う物は決まったしいいかな。

でも、防寒具だけ貰っても嬉しくないなぁ……。

あ、ぬいぐるみ買おう。


「いらっしゃい」

「おはようございます、店長」


やっぱり可愛いぬいぐるみが多いなぁ。

……どれにしようかな。

このぬいぐるみ屋も6時頃からやってるらしいし。

なんだか都合がいいなぁ。


「店長、一番可愛いのはどのぬいぐるみですか?」

「そうだねぇ、うさぎのぬいぐるみとかどうかな?」

「わー、かわいい……」


真っ白な体に、ガーネットのような色をした瞳。

そして、愛らしい長い耳。

なんだか、とってもかわいいぬいぐるみ。

……でも、何だか違う気がするんだなぁ。


「他にはねぇ、こんな男の子のぬいぐるみとかもあるよー」

「いいなー、かわいいなぁ……」


黒色の髪に、かわいい童顔。

そして、大き目の眼。

何かのアニメのキャラなのだろうか。

……これいいなぁ。

これにしようかな、ウサギも良かったけど。

明日、買おうかな。


「ありがとうございます、店長」

「あり、買わないの?」

「明日、買わせていただきます」


そう言って、僕はぬいぐるみ屋を後にした。

店長は、多少キョトンとした顔だったけど。

……とにかく、スーパーで買い物してから帰ろう。



「ただいま」

「おかえり、今日は早かったね」


悠太が帰った玄関先では、美音が居た。

美音は笑顔で、悠太を出迎える。


「美音、明日は雪が降るんだって」

「へぇ、ホワイトクリスマスだね!」


悠太は笑って美音にそう伝える。

美音は眼をキラキラさせて、悠太の方を見る。

そんな美音を見て悠太は、少しだけ笑う。

……美音を、もっと喜ばせてあげたいな。

そんなことを思いながら、悠太は台所へ向かう。


「おにーちゃん」

「ん、何?」

「私ね、その……」


美音が突然顔を赤らめるので、少しだけ戸惑う悠太。

悠太はそんな美音を、戸惑いながらも優しく見守る。


「おにーちゃんのことが好き」

「……ありがと」


顔を真っ赤にして、美音は悠太に告げた。

悠太は突然すぎる出来事に、少しだけ唖然とする。

それでも、すぐに笑って美音を抱きしめる。


「僕も、美音のことが好きだよ。大好き」

「えへへ……」


美音の耳元で、悠太がささやく。

そう言われた美音は、トマトのような赤色に顔を赤らめる。

悠太も少しだけ、動揺しているようだったとか。

そんな風に、今日の昼も終わったのだとか。


「うわぁ……美音、もう夜だよ」

「ふぇ、早いね……」


なんだかんだしているうちに、時刻は夜10時を指す。

いつもどおり、美音は悠太の布団にもぐりこむ。

そんな美音をからかうかのように、悠太は美音を抱きしめる。

短い日にちで、大分悠太の意識改革もあったようだ。

抱きしめられた美音は、また顔を赤らめていたとか。


〜美音(夢の中)〜


ここはどこだろう。

……雪が降り積もっていて、あたり一面銀世界だ。

今も雪が降っているようで、白い粒が舞い落ちている。

しかし、私はこんなところを一度も見たことがない。

針葉樹の向こうに誰か人が立っている。

……背の高めの男の人だ。

あれ、おにー……ちゃん?


「美音、ばいばい」


おにーちゃん、どうしたの?

ねぇ、何で私から離れていくの?

おにーちゃん、どうしてなの?

どれだけ追っても追いつかない……。

帰ってきてよ、おにーちゃん……。

おにーちゃん……。

大好きなおにーちゃん……。


〜悠太〜


「ういっす!今日も頑張ろうな!」

「はい、了解です」


赤崎先輩の威勢いい声。

家から出る前、美音はうなされてたけど大丈夫かな?


「あ、そうだ!坂崎、これも妹さんに渡したらどうだ?」


そう言って、赤崎先輩からクリスマスカードを貰った。

どうやら、メッセージを書けるもののようだ。

赤崎先輩から、ボールペンと色ペンを貰った。


「ありがとうございます。絶対に、読まないで下さいね」

「分かってるよ。読まない、読まない」


……いい人でよかった。

とにかく、クリスマスカードを書いて、僕はペンを先輩に返した。

これで、美音が喜んでくれるといいなぁ。


「ういっす。14番の1箱ちょーだいっ」

「はい、500円になります」


たまたま来てくれたお客さんは、松井さんだった。

いつも、タバコを買っていく人だ。


「いやー、ホワイトクリスマスだねぇ。雪で真っ白!「いとをかし」ってもんよ!」

「え、そうなんですか?」


早速、買ったタバコを吸いながら松井さんは僕にそういった。

注意しても聞きそうじゃないし、お客さんは来ないと思うので、何も言っていない。

今日はホワイトクリスマスのようだ。

外の掃除から帰ってきた赤崎先輩もそう言っていた。


「ま、坂崎君も恋人とか居るだろうし、頑張ってね」


そう言って、松井さんは僕の肩に手を置いて店内を出る。

赤崎先輩は「あれ、誰?」とか言ってたけど、あんまり気に留めはしなかった。


「あの……今日は、6時半位に終わっていいですか?」

「……仕方ないな、今日だけだかんな?」

「ありがとうございます」

「あ、そうだ!あの例の殺人犯がこの町に居るらしいって噂があるから気をつけろよー……って、もう行っちまったか」


なんとか、赤崎先輩の許しを貰った。

うし、お店に行ってプレゼント買おうかな。

……なんでだろう、この時間帯だからか人が少ない。


「すみません、クリスマス用に包装してもらえますか……?」

「はい、了解しました」


店員さんってのは、何を言われても平気で答えるなぁ。

……見習わなきゃだめだなぁ。


「ありがとうございました」


さて、次はぬいぐるみ屋だ。

……さぁ、いこっかな。


「いらっしゃい」

「昨日言ってたぬいぐるみありますか?」

「あるよ、これかな?」


そう言って、店長は男の子のぬいぐるみを出してくれた。

やっぱり、ぬいぐるみってのはいいなぁ。


「プレゼントみたいにしてくれますか?」

「かまわないよ。これでいいかな?」


店長もプレゼントの箱にぬいぐるみを入れて、包装してくれた。

これで、一式そろったので店長に礼を言って、店をでる。

美音が喜んでくれたらいいな。

美音の笑顔を見れれば、僕は幸せだな。

喜んでくれなかったらどうしよう……。

ちょっぴり怖いなぁ……。

少し、日も上がってきたようだ。

でも、雪は降り続いている。

白い大地に足を入れると、ざくざく、という音がする。

その音が向こう側からも聞こえた。

……誰だろ、こんな時間に通行人なんて珍しい。

速めの、ざくざく、という音が聞こえる。

ジョギングでもしてるのかな……?

でも、それにしては、やけに急いでいるような感じだ。

なんだか、様子がおかしい…?

そう悠太が思った矢先だった。





白い大地に、真っ赤な斑点模様が出来た。

……その通行人は、すぐにその場を去っていった。

そう、その通行人は殺人犯だったのだ。

悠太の体に、ぐさりと刺された後ができた。

どうやら、包丁で刺されたようだ。

その傷口を手で押さえ、そのまま歩き続ける。

少しだけよろめいているが、悠太はそんなことを気にしていないようだ。

僕は、なんとしてもこのプレゼントを届けなくてはならないっ!

妹のために……。

美音のために……。

大好きな美音のために……っ!

その思いを胸に、僕はひたすら歩く。

目の前がゆれていようが、僕は家まで歩く。

……足にも力が入らなくなってきた。

呼吸をするのも辛く、苦しい。

それでも悠太は歯を食いしばり、力を振り絞って歩く。

いつも頼りない僕だけど、力の無くてひ弱な僕だけど……、絶対に届ける!

その意思を貫き通し、家までたどり着いた。

しかし、ドアを開ける体力などない。

最後の力を振り絞り、郵便受けにプレゼントを入れる。

その後、僕の視界は真っ暗になった。

もう、僕には何も見えなくなってしまった。


〜美音〜


ずっと、一緒に居たはずの、おにーちゃんがいない……。

リビングも台所も探したのだが、見当たらない。

とにかく、外で新聞を取りに行こう。

そして、私は外に出た。

そこに私の探している人が居た。

……おにーちゃんが寝転んでいた。


「おにーちゃん、何でこんなところで寝てるの?」


そう言って、私はおにーちゃんの体を立たせようとする。

おにーちゃんの体から、真っ赤な液体があふれていた。

私は、とっさにおにーちゃんをそのままにした。


「……おにーちゃん、寝てるんだよね」

「そうだよね……、寝てるだけなんだよね?」

「こんなの嘘だよね!こんなはずないもんね……!」


嘘だ。

こんなの嘘だ!

こんなハズがない!

嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!!

絶対に嘘だ!!

こんなのは夢だ!

夢のはずだ。

そう思い、私は頬をつねった。

……痛い。

ただ、痛いだけだ。


「ひぐっ、ばかぁ……。おにーちゃんのばかぁぁぁぁあぁぁああぁぁぁ!!」

「いつまでも、好きでいたかったのに……。ずっと、一緒に居たかったのに……うぅっ」


私はその場で泣き崩れた。

馬鹿……おにーちゃんの馬鹿ぁぁぁ……。

私がどれだけ叫んでも、おにーちゃんは起きることはない。

……私は、現実をできるかぎり受け止めた。

もう、おにーちゃんはきっと眼を覚ますことはない。

旅立ってしまったんだ。

私は、涙を拭いて郵便受けを開けた。

中には、新聞のほかに包装された物がたくさん出てきた。


「あれ、なんだろコレ……?カードまで……」


そこにあったカードを覗いてみると、「メリークリスマス」と書いてあった。

カラーペンも使ってある。

そして、そのカードの後ろには「by 悠太」と小さく書いてある。

おにーちゃん、書いてくれたんだ……。

じゃぁ、この包装品も……?

そう思い私は包装品を見てみる。

クリスマス仕様の包装。

少しだけ赤いものがついている……。

……おにーちゃんだ。

少しだけ乱雑なように思ったが、此処で包装されてるものを開けることにした。

マフラーと手袋とぬいぐるみ。

おにーちゃんからの最後のプレゼント……。


「このぬいぐるみ……何だか、おにーちゃんに似てる……」


少し長めの黒髪、幼い感じの顔つき……。

身長は同じとは言えないけれど、おにーちゃんっぽい……。

私はそのぬいぐるみを、ぎゅっと抱きしめた。

雪が降り、その振っている雪が幻想的に積もったところで。

玄関から出た一時は、いてつくような寒さだった。

しかし、今はもうそんなことを感じない……。

抱きしめたぬいぐるみから、わずかだけど温かさを感じたから……。

おにーちゃんが、私を抱きしめてくれているような感じがしたから……。


「ずっとずっと、大好きだよ……。おにーちゃん」


泣きながら、私はぬいぐるみにささやいてみた。

何か変わる気がして……。

おにーちゃんにもう一度会える気がして……。

錯覚かもしれないが、私にはぬいぐるみが…。

いや、おにーちゃんが笑ったような気がした…。

いつものように、少しだけだけど…笑ったような気がした…。

私の脳裏におにーちゃんの笑顔がよみがえる。

馬鹿なおにーちゃんの顔が。

優しすぎて、お人よしで、少しクールで、強がりで、馬鹿なおにーちゃんの顔が。

馬鹿だけど、私の大好きなおにーちゃんの顔が。

私は大好きだった。

ただただ純粋に、私はおにーちゃんのことが好きだった。

だけど、私のせいでおにーちゃんは眠ったままになってしまった。

本当に馬鹿なのは、私なのかもしれない。

私も馬鹿だったんだね……。

おにーちゃんと同じだね……。

おにーちゃんと……。

おにー、ちゃんと……。


「ひぐっ……おにー、ちゃん……」


涙でかすれてしまう私の声。

その涙声は、か弱くて、泣くもんかと思っている強がりで馬鹿な私の声。

おにーちゃんの性格に良く似た涙声。

……涙でかすれてても、私にはこの言葉だけは言える。


「おにーちゃん、大好き……」


どんなに辛くても、涙声でかすれいても。

この言葉だけは、私はいつでもいえる。

……でも、もう言える相手は居ないのか。

残念だよね。

本当に、残念だよね……。

でも、私は何度でも言う。

その言葉なら、私は何度でも言える。

声が枯れるまで言えるもの。

……それしかいえないなんて、馬鹿な私。

本当に馬鹿な私……。


「おにーちゃん、プレゼントありがとう。大好きだよ」


そう言った私は、力なくおにーちゃんの近くに倒れた。

立とうとしても力が入らない。

……そっか、寒さで体力が奪われたんだ。

おにーちゃん。

私は、何があってもおにーちゃんの妹。

そして、おにーちゃんはずっと私のおにーちゃんだからね……。

雪で半分隠れてしまったおにーちゃんの体。

私もきっと、こうなっているに違いない。

まだ私の手には力が入る……。

それが分かった私は、前に置いた手袋をはめた。

あったかい……。

でも、おにーちゃんが暖めてくれたときほどではないかな。

ごめんね、マフラーをする余裕は今の私には無いよ。

おにーちゃん、本当にごめんね……。

そう思いながら、ぬいぐるみを私の片手でしっかりと抱く。

もう一つの手で、おにーちゃんの手をしっかりと握る。

おにーちゃん……。

私、起きたばっかりだから眠いよ……。

おにーちゃんと、また一緒に寝るね……?

おにーちゃんなら、おっけーしてくれるよね……?

私さ、おにーちゃんの横ならすぐ寝れるもん。

もう寝てもいいよね……?


「おやすみ……。大好きなおにーちゃん……」


そう言って、私は目を閉じた。

そして、目を閉じた後に夢を見た。

今日見た夢の続きだ。

私は追いかけ続ける。

私の前に居るおにーちゃんを。

そして、おにーちゃんは立ち止まった。

立ち止まったまま、私のほうに体ごと向けてくれた。

私は走って、おにーちゃんに抱きつく。

おにーちゃんも、いつものように少しだけ笑って、私の頭を撫でてくれた。


「大好きだよ、おにーちゃん……」


私はおにーちゃんに抱きついてそう言った。

おにーちゃんは、しっかりと私の言葉と私を受け止めてくれた。

いつものように、優しく。

いつも少し、おくびょうではあるけど。

強がりで馬鹿だけど……。

そんなおにーちゃんが、私は大好きだよ……。


THE END

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