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Bullet-time  作者: ある
7/12

fire 5

膝を抱え、真っ暗な暗闇の中で1人ガタガタと震えている。



時間にして3時間前。



頭部を切り取られ、全裸の身体を板に磔にされていたその男を見るなり、俺は吐いた。


首の切り口からは、どす黒い血液が凝固したものと黄色い脂肪、そして白い骨が見え、身体中には多数の切り傷。指は全て切断されており、局部は切り取られていた。



悲惨な姿を晒す元は人間であったモノを見て吐いた事も1つの原因ではあったが、原因はそれだけではない。


N.R.O内では確かに多少の流血や人体のパーツの破損はあったのだが、死亡すれば身体はポリゴンとなって消えるし、破損したパーツも時間が立てば消えた。


しかし、あの死体は殺害されてから多少の時間はあった筈なのに、消えることはなくリアルとしてそこに存在している。



そこから導きだされる答えは、この世界がプログラムによって造り出されたものとは異なり、リアルな現実の世界であると言うことだった。



それに気づいてしまった俺は、その死体から少し離れた所にある廃ビルの一室に持っていたトラップをしこたましかけ、閉じ籠ったまま今に至っている。






膝を抱えていた右手を離し軽く振ってみる。


普段なら沢山の数字やコマンドが詰め込まれたメニューバーを出すときに使う動作。しかし、今は何も出ることは無い。先程から何度も試してみているので結果は分かりきっているのだが、藁をもすがるつもりで振ってしまう。そしてそのたびにどうしようもない絶望感を味わってしまうのだ。


かつん


不意に外から音が聞こえた。

それに反応し、びくりと身体がはねる。


この世界に自分達と同じような動物がいるのであれば、ネズミかもしれないし野犬かもしれない。


しかし、もし人間だったら?


頭にあの死体がよぎる。


死体があって、それは明らかに人為的に作られたもの。だとすれば、それを作った人間がこの付近にいると考えても何もおかしくはない。


こんな廃ビルに好き好んで侵入してくる人などいるわけがない。

何かの目的があって侵入してきているのだ。


そしてもしもそうならば、自分も"あれ"と同じようになってしまうかもしれない。


一旦考え始めると、どんどん思考がマイナスな想像を紡ぎだす。


「くそっ。やられてたまるかっての」


腰のホルスターからベレッタM92とコンバットナイフを抜き、扉の近くに忍び寄る。


ビルの入り口と扉を挟んですぐ隣の廊下には多種多様なトラップを仕掛けてはいるが、逃げ場のないこの部屋に引きこもっていたのではどちらにせよじり貧になる。


暗視ゴーグルがないのでいささか視界は悪いが、ずっと暗闇の中にあった目は暗闇でも戦闘を行える程には慣れてきていた。






ドアノブに手をかけ静かに扉を開き、左右を確認する。

月明かりにうっすらと照らされる廊下には暗闇と静寂以外の何物も存在していない。



左右クリアリング。




それだけで気が抜けそうになるのを堪える。ここを見るだけでは安全を確保したとは言えない。

緊張による精神的な疲労と体力的な疲労が重なって、今すぐにでも倒れこみそうになる身体に鞭を入れ、ビル全体の見回りを行うために廊下に設置してあったトラップを解除する。


全てを解除し終わると、最上階から一室一室チェックして回ることにした。


クリア


クリア


ゲーム内で行っていた癖か、1つの部屋を確認するたびにそう呟く。



殆どの部屋のチェックが終わり、一階の一番奥、最後の部屋に近づいた。





「―――。――――――。」


僅かな話し声。

一気に身体が緊張で固まる。


誰かがこの中にいる。


ベレッタを持ち直し、スライドを引いてチャンバーに弾を送り込む。


そして、身体の前に構えたまま扉に前蹴り、扉を突き破った。




「うごくな!」





部屋の中にいたのは少年と少女。


いきなり扉を蹴破り飛び込んできた俺に呆気に取られていたようだが、すぐに気を取り直したのか、少年の方が両手を広げ俺と少女の間に立ち塞がってきた。


怯えてしまい声を出すことが出来ないのか、一文字に結んだ口と涙に滲んだ目でこちらを睨み付けてくる。


「お、お前は誰だ?ここで何をやっている?」


そんな少年の表情に怯みながらも、問い掛ける。

が、返事はない。



ただじっとこちらを睨み付けてくるだけ。


と、少年の後から掠れた小さい声が聞こえた。



「どなた…ですか…?」


少女の声だ。


久しぶりの他人の声と、返事が返ってきたことに少しホッとする。


「俺は鷹尾。鷹尾誠哉たかお せいや。君の名前は?」


「タカオさん、ですね…。私はケイナと言います。貴方のお住まいに勝手に入ってしまってごめんなさい。私はどうなっても構いません。だから…お願いします。この子だけは殺さないで…。」


15歳ぐらいだろうか。ボロボロの服を纏い、その服からはろくに食事を取っていないのか、細枝のような手足がのぞいている。


幼い顔つきには似合わない真っ直ぐで真剣な目は、俺の目を強く睨みつけている。


こんな目で見られことは今までの人生で一度でもあっただろうか。


「いや、殺すとか殺さないとかは全く考えてないから。というか、ここ…俺の住まいってわけでもないし。こっちこそ驚かせて悪かった。ごめんな。」

構えていたベレッタをホルスターに戻す。



「でも、君たちはこんなところで何をやっているんだ?てか、ここは一体どこで、あの…っつ 死体は一体な――」



がつん


後頭部に衝撃が走り、目の奥で火花が飛び散り、灼熱のような熱さと痛みに耐えきれず頭から地面に倒れこむ。


刈り取られていく意識の中、先程の少女が発した悲鳴と男の怒声が聞こえ、俺は意識を失った。



6/23 fire4後編→fire5に変更

6/25 誤字修正

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