fire 4
「んぬぅ…畜生。…いてぇ」
額から伝わるズキズキとした痛みで眼をさました。
俺は瓦礫が積もる路地の上に気を失って倒れていたようだ。
頭に被っていたPASGTヘルメット(防弾性能付戦闘用ヘルメット)は右前面から側面にかけて大きく破損しており、衝撃の激しさを物語っている。
「む。死んでない…?」
確か、20mもの高さから落下したはずなのだが、身体は少し痛む程度で大きな怪我は見受けられない。
「まぁなんにせよ、ラッキーだったってことかな」
そうなればぐずぐずしているわけにはいかない。
相手の狙撃兵も撃ち落としたとは言え、まだ戦闘継続中だ。自分がどれぐらい気を失っていたのかは分からないが、時間制限を超えた場合と試合が終了した場合にはMAPから強制的に転送されるフラッグ戦において、まだ転送されずにMAPにとどまっていると言うことは戦闘中なのだろう。
「こちらファルコン。敵狙撃兵と相討ちにはなったが、無力化に成功。現状はどうなっている?」
「…………」
カレンに通信を取って見るが、反応はない。
TS(チーム全員への通信)で先程と同じ内容を繰り返すが、反応はまったくない。
「くそっ。マイクまでイカれちまったのか?」
右前方に銃身とスコープが破壊されたバラバラなチェイタックM200の姿が見える。
それを拾い集め、とりあえず物陰に隠れる。
周囲の安全を確認し、応急処置を試みた。
「むむう。これは…無理だな。」
スコープだけなら廃棄して新しいのを買えば良いのだが、銃の根幹でもある銃身が破損しているので、タウンに戻ってガンスミスに修理を依頼しなければいけない。
「さて。そうと決まればとりあえず自陣に戻るとするか」
アーマについた砂埃をはらい、立ち上がる。
自陣がある方角は南。
距離にすれば約1kmと言った所。
まだ居るか分からないが、敵にも警戒しながら進むとなると30分程度でつくだろう。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
―1時間後―
「まだ着かないのかよ!!」
俺はまだ歩いていた。
40分を過ぎた所から警戒進行も馬鹿らしくなり、歩きやすい道の真ん中をてくてくと歩いている。
回りの景色も延々と廃墟の街並みのみ。
さすがにイライラとしてくる。
ある映画で主人公が1人誰もいない街に残され、寂しさのあまりキチガイみたいな言動を行う、と言うものがあったが、今ならその気持ちが分かる気がする。
たった1時間程で何を馬鹿なと言われるかもしれないが、これは本当にキツイ。
独り言でも良いから声を発していないと街に呑み込まれてしまいそうになる。
「そういや、あの映画って結局どうなったんだっけかな。」
確か、人がいなくなったのは何かのウィルスが蔓延して、それから逃げるために都市から人がいなくなってしまう、だったような。
ウィルスに感染するとゾンビみたいな化け物になってしまって――
嫌な事を思い出した。
エンディングは主人公が化け物に追い詰められて、爆弾を起動。自爆するんだった…。
ここが例えゲームの中だとしても爆死でグチャグチャにはなりたくない。
現にクレイモアに引っ掛かり、大量の鉄球を身体に浴び穴だらけになって死んでいった奴を見たことがあるが、あれは…うん。かなり痛そうだった。
このゲームでは実際に死ぬ程の痛みがあるわけではなく、銃で撃たれても、胸を軽く叩かれた程度の感じはなるのだが、リアルな銃声とそれにより起こる体の欠損はゲームに慣れるまで、かなり気持ちが悪くなる。
しかし、腕が千切れたり骨が折れたりする痛みは、熟練者に取ってはむず痒い程度になるのだが…
「あれ?俺、かなり頭が痛かったよな?打撲ぐらいなら、あんなに痛いはずがないのに…。」
不思議に思い額を撫でてみるが、やはりそこにあるのは大きなコブとリアルな痛み。
大会だけ、運営が痛感バランスを変更したのだろうか?
額を擦りながら考えていると、遠くの方に人らしき影が見えた。
「おーい!俺だー。ファルコンだー!」
まだだいぶ遠く、豆粒のようにしか見えないのだが、延々と同じ風景を見続け、一人で歩くことに飽き飽きした俺は大声をかけながらその人影に向かって全速力で走った。
その声が聞こえていないのか、まったく反応せずにピクリとも動かない事に疑問を感じつつも、人がいたことによる安堵感からか両手を振りながらバカみたいにどたばたと走る。
近づくにつれて、シルエットが大きくなり…
その人影がパーツを破損している事に気がついた。
身体には無数のウジがたまり、酷い腐敗臭を発するそれは。
首から上の、人体に必要なものが無くなっていた。
6/23 fire4前編→fire4に変更
6/25 誤字修正