酒場
今後の展開どうしよ、流れに身を任せるしかない!
下の階から聞こえてきた声に、私は思わず足を止めた。
廊下の向こう、階段を男たちがぞろぞろ降りていく。
笑い声と、酒瓶のぶつかる音。
一階は酒場になっているらしい。
「……様子だけ」
小さく呟いて、私は静かに階段を降りた。
一階には古い木のテーブルがいくつも並び、ハンターらしい男たちが酒を飲んでいた。
壁には血のついた槍や斧が無造作に立てかけられている。
酒の匂いと鉄の匂いが混ざり、息をするだけで緊張感が伝わってくる。
私は隅の席に座る。
できるだけ目立たない場所だ。
ハンターたちは気にせず騒いでいる。
「今日のやつ、デカかったな」
「いやマジで。一人だったら死んでたわ」
「三人でも危なかったろ」
「まあな」
男がテーブルの上に袋を置いた。
中から黒い石がいくつか転がり出る。
鈍い光。
「お、出たのか」
「中粒二つ、小粒三つ」
「悪くねえじゃん」
「今日はツイてたな」
黒石。さっき外で見たあれだ。
別の男が石を指でつまみ、にやりと笑った。
「これでいくらだ?」
「中粒なら銀貨1.2枚くらいか」
「マジか」
「小粒は銅貨6枚とかそんなもん」
「まあ酒代にはなるな」
私は静かに席を立ったまま、彼らの会話を聞く。
その横で、別のテーブルからも話が聞こえてきた。
「クロノ町はまだマシだろ」
「そうか?」
「ウェイン行ってみろよ、街中で化け物が出たぞ」
「え、どうだった?」
「二日で三十体だ」
「は?」
「中間層でも出たらしい」
「冗談だろ……」
男の一人が肩をすくめる。
「冗談じゃねぇ。にしても、最近は転移者も増えてきてるって聞くぜ」
「まぁ、数日で死ぬだろうな」
「武器も金もねぇしな」
「まあ運がよけりゃ生き残るだろ」
「まぁ、まともに魔物と化け物を倒せたらな」
袋を揺らして、男が笑った。
「命と引き換えだけどな」
「違いねぇ」
そのとき、私はふと思った。
この世界では、生きることそのものが仕事で、金の価値も、危険も、すべて日常なのだ。
笑いながら石を数える男たちの姿は、どこか滑稽で、でも背筋が寒くなるほどリアルだった。
少し息を整え、私は静かに席を立った。
「……やれることからやらなきゃ」
ポケットの指輪を握りしめる。
帰還まで、あと六日。
通りの向こうで、また銃声が鳴った。
こいつ、何も食べずにそのまま寝たのか?




