別れの挨拶
夕方、もう一度広場に行ってみると、昨日と同じように行商人たちの露店が並んでいた。ただ、今日はどこか慌ただしい。荷物をまとめ始めている者も多い。
「それはもうしまえ! 明日の朝には出るぞ!」
そんな声が聞こえてくる。
私は近くにいた村人に小声で聞いた。
「もう帰るんですか?」
「ああ。商人たちは明日の朝、大都市アレンに戻るらしい」
私はその言葉を聞いて、少し考え込んだ。
(この村であと三日待ってから帰還してもいい……けど)
村は平和だ。危険も少ない。だが、それ以上に大きなものがある場所ではない。
(でも、大都市アレンなら――)
もっと情報があるかもしれない。
この世界の仕組みや、金の使い道、珍しい物。
それに、商人が言っていた胡椒の値段を考えると、都市の方が活動しやすそうだ。
(……行ってみるか)
そう決めて、私はアレックのところへ向かった。
「アレックさん、少し聞いてもいいですか?」
「ん? どうした」
私は少し迷ったあと、口を開いた。
「俺も……アレンまでついて行っていいでしょうか?」
アレックは一瞬こちらを見て、それから肩をすくめた。
「別にいいぞ。ただしな、自分の身は自分で守れ。空いてる荷台なら乗るくらいは構わん」
「ありがとうございます」
私は深く頭を下げた。
宿に戻ると、リナがカウンターで布を畳んでいた。
「おや、ユウさん。どうしたの?」
「明日、商人たちと一緒にアレンに行こうと思います」
リナは少し驚いた顔をしたあと、優しく笑った。
「そう……行くのね」
そのとき、後ろから小さな声が聞こえた。
「え……?」
振り向くと、リナの息子・ルカが立っていた。十歳くらいの少年だ。
「もう行っちゃうの?」
少し寂しそうな声。私はしゃがんで目線を合わせる。
「うん。でも、またこの村に来るかもしれない」
ルカは黙ったまま、少しうつむく。
私はバッグの中を探った。
そして、小さな袋を取り出す。
「これ、あげる」
手のひらに乗せたのは、いくつかの飴だった。
透明な包みの中で、色とりどりに光っている。
ルカの目が一瞬で輝いた。
「わあ……!」
この世界では見たことがないお菓子なのだろう。
「甘いお菓子だよ。ゆっくり食べて」
ルカは大事そうに飴を握りしめた。
「ありがとう、ユウさん!」
リナは少し驚きながら笑った。
「本当にいろいろと面白いものを持ってるわね」
私は苦笑する。
「明日の朝、出発します」
「えぇ、気をつけてね」
宿を出ると、夕方の光が村を包んでいた。
明日、私はこの村を離れ、大都市アレンへ向かう。
うぅ、頭いたい




