化け物だ!
長ーい一日
遠くで銃声が鳴った。
パンッ――
乾いた音が街に響く。
私は思わず肩をすくめた。
「……なんだよ今の」
さっきまでいた世界では、銃声なんて映画の中でしか聞かなかった。
だがこの街では、誰も気にしていない。
通りを歩く人間は、面倒くさそうにちらっと見ただけだった。
不安になり、ポケットの指輪を握る。
祖父の家で拾った、あの渦の形の銀色の指輪。
さっき頭の中に響いた声が、どうしても気になる。
「第532世界って……なんなんだよ」
そのときだった。
「おい、兄ちゃん」
後ろから声がする。
振り向くと、さっきのホームレスの男が歩いてきた。
ボロボロの服のまま、こちらをじっと見ている。
「……あんた」
「は、はい?」
男は目を細め、私を見つめた。
「よそ者だな」
図星だった。
言葉に詰まる私を見て、男は小さくため息をついた。
「顔見りゃ分かる」
男は周囲をちらっと見回す。
「さっき絡まれてただろ」
「……見てたんですか?」
「ここじゃ珍しくねぇ」
肩をすくめる男。
「この街はな、弱いやつから全部奪われる」
背筋が凍る。
「金、食い物、服、靴……なんでもだ」
私が周囲を見渡すと、確かに街は異様だった。
荒んだ人間の目。崩れかけた建物。
まるで別世界のようだ。
男は声をひそめ、私に近づく。
「もう一つ、覚えとけ」
指を立て、言葉を続けた。
「昼間は、人間が突然化け物になる」
「……化け物?」
「そう。ある日突然な。腕が長くなったり、背中が曲がったり……倒すと黒い石になって消える」
男は灰色の空を見上げた。
「夜は……不思議と、化け物にはならねえ」
「夜は安全ってことですか?」
男は苦笑した。
「んなわけあるか」
そして街の奥を指さす。
「夜でも、人間同士が一番危ねえ」
言葉の意味が、まだよく分からない。
そのときだった。
遠くから怒鳴り声。
「うわあああ!!」
悲鳴だ。
通りの向こう、人が走っている。
そしてその後ろから……何かが追いかけてきた。
最初は人間に見えた。
だが違った。
腕が異様に長く、背中が曲がっている。
顔も……人間じゃない。
「な……」
言葉が出ない私の横で、ホームレスの男が舌打ちした。
「ちっ……」
そして叫ぶ。
「逃げろ!!」
赤い目が、まっすぐこちらを見ていた。




