物物交換
次の日の朝
村の広場に近づくと、いつもよりずっと騒がしい声が聞こえてきた。
「おおい! こっちだ、荷を降ろせ!」
「箱はこっちに並べろ!」
「肉は日陰に置け、腐るぞ!」
広場には、見慣れない人間が大勢集まっていた。馬車が何台も並び、荷物を降ろしている。数えてみると、二十人ほどの商人や護衛がいるようだった。
「……いやあ、すごいな」
昨日リナが言っていた、二か月に一度やってくる商人たちはどうやら今朝、村に到着したらしい。
商人たちは次々に布を広げ、簡単な露店を作り始めていた。木箱をひっくり返して台にしたり、布をかぶせて商品を並べたりしている。
広場は一気に活気に満ちていた。
普段は静かな村なのに、今日はまるで小さな市場のようだ。村人たちも集まり始め、商品を興味深そうに見て回っている。
私は人の流れに混ざりながら、露店の商品を見て回った。
服、革の靴、小さなナイフ、石鹸、保存用の塩。
干し肉や乾燥野菜の袋も並んでいる。
「これ、干し肉と交換できるか?」
「ああ、それなら野菜三袋だな」
耳に入ってくる会話を聞いていると、ほとんどが物々交換だった。
こんな辺境では、金を持っていても使う場所が少ない。
だから村人たちは、野菜や干し肉と交換して品物を手に入れているらしい。
「……なるほど」
私は少し離れた露店の前で立ち止まった。
そこには年齢四十くらいの男が立っている。背は高く、少し日に焼けた顔をしていた。商人らしく、目つきが鋭い。
私はバッグから、高級そうなハンカチを取り出した。
「すみません。少し聞きたいんですが」
男はちらりとこちらを見る。
「ん? 見かけない顔だな。あんた旅人か?」
「ええ。これなんですが、売れますか?」
私はハンカチを差し出した。
男はそれを手に取り、布を指でつまんで質を確かめる。光に透かし、縫い目までじっと見る。
「……ほう」
小さく声を漏らした。
「ずいぶんいい布だな。こんな辺境で見るもんじゃねえ」
私は続けて、小瓶を取り出す。
「あと、これもあります」
瓶のふたを少し開ける。
ふわっと香りが広がった。
男の眉がぴくりと動く。
「……胡椒か?」
「はい」
男は少し笑った。
「こりゃ驚いたな。胡椒なんて、この辺じゃ貴族くらいしか持ってないぞ」
彼は腕を組み、しばらく考え込んだ。
男は胡椒の瓶を軽く振った。
「胡椒は高いぞ。十グラムで金貨一枚くらいだな」
私は思わず目を見開いた。
(そんなにするのか……)
男は次にハンカチを広げる。
「それで、この布だが……」
しばらく考えたあと、にやりと笑った。
「貴族に売れば、もっと高くなるかもしれねえしな」
そして指を五本立てた。
「金貨五枚でどうだ?」
私は少し驚く。
「……そんなに?」
「いい布だからな。こっちは商売だ。俺も利益は取るが、悪い話じゃないはずだ」
男は手を差し出した。
私はその手を見ながら、心の中で思う。
(元の世界じゃ、五百円くらいのハンカチだよな……。それが五万円くらいで売れた感じか?……)
思わず口元が少しゆるんだ。
「俺の名前はアレック。ライト商会の商人だ」
私は軽く頭を下げる。
「ユウです」
アレックは笑いながら言った。
「もし大都市アレンに来ることがあったら、ライト商会を訪ねてくれ」
ハンカチを丁寧に畳みながら、彼は続ける。
「そのときは、ひいきにしてやる」
そして軽く肩をすくめた。
「まぁ、またこの村にも来る。二か月後にだがな」
私は広場の賑わいを見渡しながら、小さくうなずいた。




