一日目
誰かこの状況説明してくれよ!!
「なんも恵んでくれねぇならよ」
男は気だるそうに頭をかきながら言った。
「そこ、どいてくれや」
私は慌てて道を空けた。
「す、すみません……」
ホームレスの男は、私の横を通り過ぎると壁にもたれ、まるでそこが自分の定位置のように座り込んだ。
私は再び周囲を見回す。
狭い路地。
黒ずんだコンクリートの壁。
破れたゴミ袋から漂う腐った臭い。
遠くから人の声は聞こえるが、どこか荒んでいる。
「……ここ、どこだよ」
ポケットからスマホを取り出す。
画面は点く。
だが圏外だった。
「は?」
GPSも起動してみるが、地図は読み込まれない。
「冗談だろ……」
私は路地を抜け、大通りに出た。
そこには人がいた。
だが、様子がおかしい。
服は汚れ、建物はひび割れ、店の看板は壊れかけている。
割れた窓ガラスの向こうに、かつての繁栄の面影はない。
まるで、何十年も放置された街だった。
足元の瓦礫を踏みながら、私はゆっくり歩く。
道を曲がると、前を歩く人影が見えた。
ボロボロの服を着た男だ。
ふと、男のポケットから何かが落ちた。
小さな金属音。
地面を見ると、少し汚れた銀色の指輪が転がっている。
「すみません、落としましたよ」
男がゆっくり振り返る。
近くで見ると、首には古い傷跡。目つきが鋭い。
明らかに普通の人間ではない雰囲気だ。
男は私の手の指輪を見て、顔を歪めた。
「……おい、それ、盗んだな?」
「え?」
意味が分からない。
「いや、落としたのを――」
言い終わる前に、背後から足音がした。
振り返ると、三人の男が立っていた。
いつの間にか完全に囲まれている。
「兄貴のもん盗むとはなぁ」
一人がニヤニヤしながら言った。
「いい度胸してるじゃねぇか」
「ち、違います、落ちてたのを――」
最初の男がゆっくり近づき、私の手から指輪を奪った。
確認するとポケットにしまう。
「ま、今回は見逃してやる」
男はそう言いながら、私の肩を強く押した。
「ここじゃ、おめぇみたいなやつは長生きできねぇぞ」
男たちは笑いながら去っていった。
私はその場に立ち尽くし、心臓がバクバクしている。
「……なんなんだよ」
普通の街じゃない。
そう思った瞬間、ポケットの中で何かが触れた。
手を入れて取り出す。
それは――祖父の家で拾った、あの渦の形の銀色の指輪だった。
その瞬間、頭の中にあの声が響く。
『第532世界 適応開始』
私は凍りついた。
「……適応?」
声は続けた。
『生存率 18%』
「は?」
灰色の空を見上げると、遠くで悲鳴が聞こえた。
誰かが叫んでいる。
そして――
銃声が鳴った。




